0270:追走~剣八とキン肉マン~





更木剣八は、夷腕坊の上から空を眺めていた。
目に映る空は快晴。思わずここがどんなところか忘れてしまいそうな、気持ちのいい空だった。
もっとも、それを見る剣八は空になんの感情も抱いていなかったが。

夷腕坊の上で佇む更木剣八は、今一人きり。
さっきまで……と言っても、かれこれ一時間半前くらいになるだろうか。剣八と戦っていたキン肉マンの姿も、そこにはなかった。
二人の戦いを観戦していたはずの、志々雄とたけしの姿も。
それにいち早く気づいたキン肉マンは、剣八を置いてどこかへ行ってしまったのだ。
おそらくは、行方知らずとなったたけしを探しに行ったのだろう。

「いーん! たけすぃがどこにもいーん!」
と、やっとキン肉マンが戻ってきたようだ。
剣八は夷腕坊の上から降り、キン肉マンを出迎える。

「おお剣八、たけすぃ戻っておらんか!? そこら辺を探し回ってきたんじゃが、どこにも居んのじゃ!」
「アホかテメーは、おまえの連れがどこに行ったかなんて、ちょっと考えりゃあわかるだろうが」
「な、なぬぃ!? はっ! そういえばおまえの連れもおらんではないか! まさか…………誘拐か!?」
今さら志々雄の不在に気づき、うろたえるキン肉マン。
たけしはキン肉マンが先に本州へ行けと言っても、待つと言った。そんなたけしが、キン肉マンに黙って先に行ったとは考えにくい。
ならば、無理やり連れ去られた可能性が高い。

「こうしちゃおれん! 剣八、ワシらも早く行くぞ!」
「断る」
「な、なななんだとぉ!? 勝負はワシが勝ったんだから、仲間に……」
「俺は断ると言ったはずだ。テメーみたいな甘っちょろいヤツと行動してたら、好きに闘れねーからな」
剣八が望むのは、強者との戦い。
それは、キン肉マンの得意とする『試合』ではなく、互いの生死を懸けた『死合い』。
剣八にとって、生きるか死ぬかが勝敗の分かれ目であり、それこそが戦いの醍醐味なのだ。

「むう……たしかに人を殺すのを黙って見ておくわけにいかんが……」
戦いに対する考えが真逆のキン肉マンと行動しては、剣八が真に望む戦いはできない。

「志々雄とたけしはたぶん本州へ行ったんだろう。追うならテメー一人で追うんだな」
「ワシを一人にする気か!? って剣八、おまえはどうする気じゃ?」
「そうだな……」
キン肉マンと行動しない、つまり本州に渡らないとなると、残された道は二つしかない。
九州に残るか、四国に渡るか。しかし四国側に面した大分と宮崎は、すでに禁止エリアに指定されてしまっている。
ここ福岡から四国に渡るとなると、海を泳ぐか一度本州に渡るしかない。
かといって、九州に残るのもどうだろうか。時刻はゲーム開始からすでに数時間が経過した。
未だこんな日本列島の端の地域に留まっても、強者との戦いは望めそうにない。
残っていたとして、参加者が減る時期を見計らっている小物か、臆病者くらいだろう。
残された選択肢の悪さに、剣八は思わず黙りこくってしまう。

「……」
「ほ~れ見たことか! 悩んでる暇があったら、さっさとワシと一緒に本州へ向かえぇい!」
「……っち、仕方がねぇか」
剣八は妥協し、キン肉マンの言葉を受け入れた。
と、思いきや、

「だがな」
拒絶の意味を込め、剣八がキン肉マンにムラサメブレードの切っ先を向ける。
「キン肉マン、言っとくが俺はテメーにも負けたとは思ってねぇ。俺にとって『負ける』ってことは『死ぬ』ってことだからな」
「剣八……」
「テメーとはいずれ決着をつける。殺すか殺されるかの、真の決着をな。次に会ったとき……今度こそ殺す気でこなけりゃ死ぬぜ」
剣八の言葉はハッタリなどではなかった。実際、剣八はさっきのキン肉マンとの戦いでは大したダメージを受けていない。
剣八の実力は命を懸けた『死合い』でこそ真の力を発揮し、その上での死こそ、真の敗北と言える。
命を懸けてないキン肉マンの『試合』など、剣八にとっては温すぎる。

「……わかった。おぬしの言うとおり、次に闘うときは全力を尽くそう。
じゃが、やはり殺しはしない。おぬしを戦えぬまでボコボコにした上で、今度こそ無理やりにでも仲間に引き込ませてもらう」
「上等だ。やれるもんならやってみな」
再戦を約束し、今は刀を納める。
次に刀を抜くときは、本当の意味での『勝負』の時であることを願って。

「じゃあなキン肉マン。それまで死ぬんじゃねぇぞ」
「それはワシのセリフじゃい」
「へっ、言いやがる…………あばよ」
キン肉マンに別れを告げ、その場を離れる剣八。
遠ざかってゆく剣八の姿を見ながら、キン肉マンは思う。

更木剣八……面白い男じゃ。残虐超人のような殺気と冷酷さを待ちながら、正義超人のような真っ直ぐな志も持っとる)
キン肉マンが戦ってきた、数々の超人たち。その中には、敵だった者から信頼できる仲間になった者も多くいる。
剣八も、今度戦えば仲間に引き込むことができるかもしれない。
そうなってくれれば、なんとも心強い。

(……ん? そういえば、結局剣八はどこへ向かったんじゃ?)
剣八が去ってから気づいた。
彼が向かった先、彼が望む強者のいる舞台、彼が向かった方向に位置するそこは、
「あ、本州か」
キン肉マンが向かうべき場所もまた、本州。

 ………………

「お、置いていかれたぁぁぁぁぁぁ!?」

夷腕坊の傍ら、キン肉マンのまぬけな声が轟いた。



夕方に差し掛かった頃。
早くも本州、山口県に渡った剣八は、思う。
(志々雄のやろう……)
それは、戦いの約束をしながら勝手に先へ行ってしまった、志々雄のこと。
どうせ彼とは互いの得物が見つかるまでの関係。別れることはさして問題ではない。
彼が本州へ向かったというならば、必ずどこかで再会する。志々雄自身も得物を見つけ、万全の態勢で戦える状態で。
しかし、それにたけしを連れて行った理由がわからない。わざわざ戦いの邪魔になるような子供を連れ、志々雄はなにを企んでいるのか。

(まあ、そんなことはどうだっていい。キン肉マンに志々雄。どっちも次に会ったときが、本気で闘れるときってわけだ)
そのときは必ず来る。だから、無理に志々雄を追う必要はない。
それよりも、今は戦いを求める。
死神の走りは、速い――



少し遅れて、
剣八、たけし、志々雄を追うキン肉マンは、福岡県を脱出しようとしていた。
「おのれ剣八めぇ! ワシと一緒に行くのが嫌だからって、先に行きおってぇえ!!」
目的地は同じはずなのに、剣八は自分を置いて先に行ってしまった。
いち早く本州に渡り、新たな戦いを求めているのかもしれない。命を懸けた、戦いを。
もし剣八がその気なら、見過ごすわけにもいかない。かといって、たけしも放っておくわけにはいかない。

「ええい、今は悩むのはやめじゃぁ! 細い日本、真っ直ぐ進めばそのうちどっちか会う!」
優先すべきはたけしの方だが、もしそれまでに剣八に追いついたら、無理やりにでも同行させてやる!

キン肉マンが次に遭遇するのは、戦いに飢えた死神か、攫われた少年か。
九州と本州を繋ぐ鉄橋を爆走するなか、すぐ近くの海底トンネルのほうに、たけしと志々雄が通った形跡があることには気づかず――





【福岡~山口間/鉄橋/夕方】

【キン肉スグル@キン肉マン】
 [状態]:軽度の疲労
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(一食分消費)
 [思考]:1、剣八を追い、今度こそ仲間にする。
     2、たけし、志々雄を追う。
     3、ゴン蔵の仇を取る。
     4、仲間を探す(バッファ、ウォーズ、ラーメン、ボンチュー、マミー)


【山口県/夕方】

【更木剣八@BLEACH】
 [状態]:軽度の疲労、股関節・両肩の軽い炎症、全身に軽度の裂傷
 [装備]:ムラサメブレード@BASTARD!! -暗黒の破壊神-
 [道具]:荷物一式、サッカーボール@キャプテン翼
 [思考]:1、本州で新たな強者と戦う。
     2、志々雄、キン肉マン、ヒソカらと決着をつける。
     3、キン肉マンの仲間になる気はない。

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219:別離 キン肉スグル 327:泣き虫大王の大切なともだち
219:別離 更木剣八 298:死神交響曲第十一番『戦求者』

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最終更新:2024年04月19日 12:00