0298:死神交響曲第十一番『戦求者』





死神の脚が、砂地を駆ける。
死神の脚が、ビルの横を駆ける。
死神の脚が、コンクリートの地面を駆ける。

――未だ生を謳歌しているという幸運に恵まれた者たちよ――

死神の脚は、森を駆けている最中に停止した。

「一護が死にやがっただと――!?」
三回目の放送で告げられた名の中には、更木剣八のよく知る者の名があった。
黒崎一護。かつて、瀞霊廷に旅禍として侵入してきた死神代行の少年。
剣八はそこで一度、一護と剣を交えたことがある。
剣を交えたと言っても、先程のキン肉マンとの『試合』などではなく、生死を懸けた『死合い』のこと。
生きるか死ぬか、殺すか殺されるかの極限状態に置かれた中での戦闘は、実に心地のいいものだった。
更木剣八が経験した死合いは数あれど、あそこまで興奮した死合いは中々ない。
さらに殺されはしなかったものの、一護は剣八に土を付けたこともあるほどの強者なのだ。

――いずれ、再戦するつもりだった――

一護がルキアを救い出した後、尸魂界(ソウルソサエティ)に留まっていた数日間も、剣八は一護を付け狙っていた。
瀞霊廷内で一護を見つけては剣を抜き、追いやり、逃げられる。今を思えば間抜けな数日間。
しかし、結局再戦は阻まれ続けて一護は現世へと帰っていってしまった。
なぜ、あの時再戦を果たせなかったのか。
一護が拒み続けたから?
藍染の騒動でごたごたしていたから?
どちらも理由としては当てはまるだろう。
戦いは、相手も死ぬ気でこなければおもしろくない。
そして尚且つ、万全の状態でなくてはおもしろくない。
だから、あの時は機を窺っていたのだ。そう解釈してみよう。

――だが、一護は死んだ――

思えば、この世界で出会った志々雄もそうだ。
相手が万全の状態――自分の得物を手に入れるまでを待っていたら、機を逃してしまった。
志々雄はまだ生きているが、次に会うのはいつのことか。
再会することなく、死んでしまうようなこともあるかもしれない。一護のように。
「俺は……」
更木剣八は戦いに飢えている。
そのはずなのに、いつも戦いのチャンスを掴めないでいる。
考えてみれば、殺し合いのゲームという絶好のこの場でも、未だに満足のいく戦いはできていない。
単に運がないだけなのか。なぜ好敵手に恵まれないのか。
キン肉マンと別れた今でも、まだ他の参加者には出会えていない。
気づけば参加者の数も、既に当初の半数近く。
それだけ強者との戦いのチャンスを逃した。

「胸糞ワリィ……」

近くには、怒りをぶちまけられるような奴もいない。
ただただ自分の運のなさに、嫌気がさしてくる。

ふいに、手にしていたムラサメブレードに目をやる。
それは死神更木剣八が所有する“名無しの斬魄刀”とは違うが、武器としては十分に高性能なものだ。
しかしこの武器に足りないものが、一つだけ。

血の臭い、である。
この武器が本来誰の所有物で、どんな人間を斬ってきたかなどは知らない。
ひょっとしたら、剣八の持つ“名無しの斬魄刀”よりも多くの者の血を吸ってきたのかもしれない。
だが、剣八が倒してきた数々の強敵達の血が染み付いていないことだけは確かだった。
例えば、かつての十一番隊隊長。
例えば、黒崎一護。
激戦の記憶はあるものの、この刀にはその記憶がない。
ただそれは特に重要でもなく、どうでもいいことでもある。
血など、これから吸わせればいい。
問題なのは、未だにそれができていないということなのだ。

ムラサメブレードから目線を外し、ふと目の前を見る。
大木が聳えていた。ここは森なので、なんてことのない当たり前の光景なのであるが。
少し想像してみよう。
もしも、この大木が殺意を持っていたら。
ありえない話だが、もしそうなったらこの大木は剣八にとって敵ということになる。

「――ケッ!」

大木を敵と想定して、剣八は徐に刀を振るってみる。
大木は、簡単に上下両断された。
崩れ落ちる架空の敵からは、血も吹かなければ断末魔の叫びもあがらない。
当たり前だ。大木はあくまで大木。
殺意など持ち合わせておらず、どう足掻いても敵には昇華できない。

「……つまらねぇ」

――なんでこの場に敵がいねぇ?
――俺は殺し合いをさせられてるんじゃねぇのか?
――だったらなんで俺に殺させねぇ?
――なんで俺の前に敵が現れねぇ?
――胸糞ワリィ……胸糞ワリィったらありゃしねーよ。

荒れていた。
ここが剣八のいる世界なら、いつも肩に付いている小柄な副隊長や、丸坊主や小奇麗な部下達が諭してくれるのだろうが。
あいにくここには誰もいない。敵も味方も、誰もかも。

「――誰か俺と戦いやがれッ!!!」

誰でもいい。
虚とつるんでいたいけ好かない死神でも、名門貴族ヤローの妹でも、誰でも。
この際弱者でもいい。弱者は弱者なりに、死に抗ってくれるだろう。

 誰か――俺を満たしてみろ。

静寂の支配する森で、哀れな死神の嘆きの声が轟いた。

放送終了後、剣八はさらに歩みを速め、中国地方を爆走し続けた。
たった一つの悲願、好敵手を求めて。
『試合』ではなく『死合い』としての好敵手を。

戦いを求める死神の脚は、加速。
戦いを求める死神の眼は、望遠。
戦いを求める死神の心は、激荒。

動きを見せるものを見つけたら、それが猫だろうが恐竜だろうがすぐさま飛びつかん勢いだった。
この殺し合いのゲーム。
一人でいれば誰でも人恋しくなるのが当然というもの。
戦いを望まない者にとっては、『一人』は恐怖に他ならない。
それは剣八も例外ではない。
彼は他の参加者となんら変わりなく――人恋しい――という感情を抱いていた。
もっとも、対面したいのは『味方』ではなく『敵』だったが。

いた。
周囲に磯の香がする。夢中で走っていて気がつかなかったが、剣八はいつの間にか海岸線沿いに出ていたようだ。
そして前方、遠くには陸と陸とを結ぶ通路、橋が見える。
橋には、人影が見える。一人か二人か。
遠すぎて体格や見た目の性別は分からない。だが人型なのは間違いない。
それだけで、剣八の求める敵としての資格は十分だった。

「……居やがった!」

唐突に、標的発見。
確認したのは一瞬で、剣八は再び脚の動きを加速させる。
確かに人が存在している、前方の橋を目指して。
距離はかなりあるが、橋を越えるのが目的なら、万が一見失ってもその先をくまなく探せばなんとかなる。
そこにいるのは強者か弱者か。ゲームに乗っているのかいないのか。キン肉マンのように生温い奴ではないだろうか。
それら考えられる心配は一切カット。
今の剣八には、走る、追いつく、戦うの思考しかない。
剣八が発見した人物が何者で、正確には何人居て、橋を渡ってどこに向かおうとしているのか。
そんなことは全てどうでもいいのだ。
死神が求めるのは一に『戦い』であり、二に『勝利』なのである。
命知らずな戦闘狂は、最初から生への安っぽい執着など持ち合わせていなかった。

疾走する彼が今考えていることを、お見せしよう――



――戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!
俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と戦え!俺と―――




【架空伝聞:第十一番隊副隊長より】

 剣ちゃんはいつだってああなんです。

 いっちーと戦うときもああでした。

 おかしくなんてありません。

 あれが剣ちゃんなんです。

 だから、どうかだれか――





     剣ちゃんと、戦ってあげてください。








【岡山/夜】
【更木剣八@BLEACH】
 [状態]:軽度の疲労、股関節・両肩の軽い炎症、全身に軽度の裂傷
 [装備]:ムラサメブレード@BASTARD!! -暗黒の破壊神-
 [道具]:荷物一式、サッカーボール@キャプテン翼
 [思考]:1、橋を通過中の何者か(ヒル魔、ナルト)を追う。
     2、誰かと戦いたい。
     3、志々雄、キン肉マンらと決着をつける。
     4、キン肉マンの仲間になる気はない。


【岡山/下津井瀬戸大橋・通過中/夜】
【蛭魔妖一@アイシールド21】
 [状態]:右肩骨折、疲労はほぼ回復
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式
 [思考]:1.香川で姉崎まもりを捜索し合流
     2.ナルトを警戒
     3.22時までに岡山市街地に戻る

【うずまきナルト@NARUTO】
 [状態]:九尾の意思、やや疲労
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式(食料と水を消費済み)
     ゴールドフェザー&シルバーフェザー(各5本ずつ)@ダイの大冒険
     フォーク5本、ソーイングセット、ロープ、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
 [思考] 1、四国から感じた強大な妖気の源(鵺野)と接触し、可能なら利用。不可能なら殺害後捕食。
    2、サクラを探し、可能なら利用。不可能なら殺害。
    3、術者に能力制限を解かせる。
    4、蛭魔妖一に自分を信用させる。
    5、優勝後、主催者を殺害する。

[備考] (ナルトの精神は九尾の部屋で眠っています。
    肉体的に瀕死、またはナルトが外部から精神的に最大級の衝撃を受けると一時的に九尾と人格が入れ替わります)

※玉藻の封印は、玉藻の死亡と、九尾のチャクラの一部によって解除されたという見解です。
 そのため、今のナルト(九尾)はナルトのチャクラ+九尾のチャクラ15%程度のチャクラが上限です。
 ただし、九尾のチャクラも使いこなせます。
 あと、九尾は基本的にナルトの口調で喋ります。



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293:狐の婿入り(惨い理) 蛭魔妖一 304:死神交響曲第十一番第二楽章『狂戦士』
293:狐の婿入り(惨い理) うずまきナルト 304:死神交響曲第十一番第二楽章『狂戦士』
270:追走~剣八とキン肉マン~ 更木剣八 304:死神交響曲第十一番第二楽章『狂戦士』

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最終更新:2024年05月28日 23:44