0273:交錯する想い、光……そして闇





琵琶湖の湖畔にある小屋にて星矢と麗子は口論していた。
四国へ行き太公望に会うという麗子を引きとめようと、星矢は必死に説得しようとしていたのだ。
星矢が麗子について行ければ少しは安心なのだが、麗子は星矢には越前に付いていてほしいと頼んだことから話が拗れ、現在に至る。
越前はその様子を焦れったそうに眺めていたが、一つ溜息をつくとドアを開け外へ出た。
「あ、リョーマちゃん、待って!」
「もう待てないスよ。こうしている間にも時間は過ぎてくんスから。
 俺は一人で大丈夫。それじゃ」
そういって自転車に乗って去っていってしまった。
「くそ、勝手な奴!」
「もう、仕方ないわね。何とか無事を祈るしかないか……」
今ならまだ星矢の足なら追いつけるのだが、星矢は越前よりも麗子の安全を優先したかったので、そのことは黙っていた。
「じゃあ私たちも四国へ出発しましょうか」
「俺たちがいない間ここに来てしまった人はどうするんです?」
もう麗子の行動は止められないと思っていたが、星矢は悪足掻きしてみる。
「そうね……琵琶湖まで来たのなら湖畔にあるこの小屋にもきっと気が付く筈だわ。
 そういう人たちの為に置手紙を残しておきましょう」
無難な選択である。
麗子を気遣った星矢は手紙が自分が書くと言い、麗子も特に反対しなかった。
そして置手紙は完成し、二人は小屋を後にして四国へと向かう。
この時、麗子は星矢の書いた手紙を確認するべきだったかも知れない。
しかし麗子は知人が二人も死んだことによる心労と、これからどうするかを考えることに没頭して、そこまで気が回らなかった。
星矢は幼少の頃にギリシアへと送られ、それから6年間ずっとそこで暮らしていた。
そのため漢字が使えず、日本の文化にも疎かった。信じてもらえるようなるべく丁寧な言葉を使った。
その結果……
/
これはちゅうこくのてがみです
このびわこにきたひとにはふこうがおとずれます
あいぜんというひとがびわこにひとをあつめているのです
あいぜんはあくにんでひとをころしたりものをうばったりします
これはうそではありません ほんとうです
ぼくのともだちのいしざきさんはあいぜんとであったためしにました
このてがみをみたひとはなかまやであったひとたちにつたえてください
/
……まるで不幸の手紙のようであったという。


一方、大阪から名古屋を目指し進んでいた妲己、遊戯、カズキの三人は、滋賀、三重との県境付近の小さな山に差し掛かっていた。
迂回するほど高い山ではなかったのでそのまま進むことにする。
そしてしばらく登ると、山頂でログハウスを発見した。
ログハウスは二階建てになっていて庭にはガーデンテーブルが置かれ、チェアも二脚あった。
「へぇ、居心地のよさそうな家だなぁ」
「そうねぇん、でも誰かが中にいるかも知れないわぁん」
遊戯の上げた感嘆の声に妲己が不安を被せる。
そこにカズキが名乗りを上げた。
「よし。それじゃ俺が中を調べてきます!」
「一人で大丈夫ぅん?」
「じゃあ僕も行くよ。妲己さんを危ない目には遭わせられないから」
「頼もしいわん、遊戯ちゃん。それじゃわらわはここで待ってるから気をつけてねん」
仲間を思って遊戯もログハウス探索に手を上げ、妲己は庭で待つことになった。
人一倍鼻の利く妲己はログハウスの中に誰もいないことは既に分かってはいたが、そのことについては沈黙を護った。

その理由は――

妲己は二人がログハウスの中に入るのを確認するとおもむろに振り返った。


キルアはラーメンマンと分かれた後、東へと向かっていた。
そしてその途中、大阪府の県境付近で妲己たちを発見したのだ。
キルアは絶を使い、彼女達を観察することにする。
マーダーであったなら容赦なく武器を奪い、無力化するつもりであった。
(もう、相手が何でも躊躇はしねぇ。ゴンの為に、他の参加者の為にマーダーは潰す)
大蛇丸相手に退いたことを斎藤に指摘されてからずっと、キルアの頭の中にはそのことがあった。
強い相手と見るやすぐに勝つ気をなくしてしまう自分。
しかしそれはイルミの針を抜いたことで克服しているはずだ。
ゴンの脅威となるような奴は無力化させる。殺しはしないが眠ってもらうことにはなるだろう。
そんな決意を胸にキルアは木の上から枝葉に身を隠し、妲己たちの観察を続ける。
(あの薄紅色ってーかどピンクの髪の女……肌に張り付いたレオタードのような衣装といい、
 もしかして太公望の言ってた妲己って奴じゃないのか?)
藍染を倒した後の情報交換でキルアはその名を太公望から聞いていた。
利己的かつ残酷な性格で、自身の為ならどのような非情な行動も辞さないという。

『彼奴は仙界でも比類ない強力な妖怪仙人でのう。奸智に長け、人を誘惑し操ることに秀でている。
 傾世元禳がないとはいえ、その誘惑の術は侮ることはできぬであろう。
 彼奴ならばまず脱出を考えるとは思うが、もしもそれが不可能と判断したならば……
 いかなる手段を用いてでも最後の一人となるに違いない。そして妲己の力ならばそれは不可能事ではなかろうよ。
 それほどに彼奴は恐ろしい……知略も力ものう』

キルアは太公望の言葉を思い出す。
(そんな危険な奴なら尚更ほっとくわけにはいかない。だがどうする?
 あれは仲間もいるようだし、少なくともゲームに乗っているようには見えない。
 何も知らない振りして接触して情報を探ってみるか?)
見ているとその仲間は女を残してログハウスの中に入っていく。おそらく中を調べに行ったのだろう。
(接触するなら今がチャンスか? どうする!?)

その時、女はおもむろにこちらの方を振り返った。

(ヤバ!)

慌てて木の陰へと自身を滑り込ませる。
(絶を使っていたのに気付かれた? いや、偶然……?)
数秒で鼓動を落ち着け、おそるおそるもう一度女の方を覗いてみる。
(いない!?)
そう、既にログハウスの前には女の姿は影も形もなかった。
慌てて木の陰から周囲を見回す。サワサワと枝葉が風にそよぐ。
(オレが身を隠してから再び覗くまでに約5.8秒。その一瞬で奴は姿を隠した。
 マズイ、完全にオレの存在に気付かれてる。ここは離脱がベスト……)

「あはん、可愛い坊やねぇん。何を探しているのかしらん?」

(何ぃーーーー!?)
なんとその女はキルアのいる枝よりも上部の枝に腰掛けてこちらを見つめていた。
その妖艶な微笑みにキルアの脳は過去最大級の警鐘を鳴らす。
(オレがこの女から目を離してから声を掛けられるまで約9.1秒。ここからログハウスまで約29.7m。
 その間にオレに気付かれずにそこに移動したっていうのか!?)
「わらわは見せるのは好きだけど、勝手に見られるのは好きではないのぉん。
 わらわたちを監視していた理由、教えてもらえるかしらぁん」
「……何で、オレがいるってわかったの?」
相手は敵意を見せていない。しかし、にもかかわらずキルアの頭の中の警鐘は鳴り止むことはなかった。
女はクスクスと笑うと鼻の頭を人差し指で触れた。
「匂い、よん。わらわは匂いに敏感なのぉん。
 フィトンチッドに紛れて人の汗と血の臭気が流れてきたから吃驚したわぁん。
 さぁ、それであなたはだぁれ?」
「……オレはキルア。今までずっと一人でさ。仲間にして貰いたかったんだけど、あんたたちが殺人者かも知れないって思って……
 しばらく様子見てたんだ。でもそうじゃないっぽくて安心したよ」
キルアも笑って頭を掻く。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ、こいつは危険だ。ここは何とかして切り抜けないと……)
「あらん、そうだったのぉん。ならわらわは大歓迎よぉん、わらわの仲間もきっと喜ぶわん♪
 わらわは蘇妲己。今ログハウスを調べている可愛い男の子が二人、仲間にいるわん。さぁ」
そう言うと妲己は飛び降りて、無造作にキルアに背を向けてログハウスへと歩き始めた。
キルアもそれに続いて飛び降りる。

(やっぱり、妲己だった。今アイツは無防備だ。そしてログハウスに仲間がいる。
 ここから反対方向に全力で逃げ出せばおそらく奴は追ってこない。ここは……)
その時、キルアの脳裏に斎藤の言葉が甦る。

『貴様は臆病者だ』

『ゴンとやらが心配なのにもかかわらず大蛇丸には手を出さなかった。
 それは勿論自分の身に危険が及ぶ可能性が高いから。
 しかも俺達に何らかの奥の手があるとも考えていたのに、尋問をそれよりも優先させた。
 そこから貴様が実力の違いだけで大蛇丸を通過したのではなく、奴の威圧感に圧されたことが予想される。
 要するに奴から尻尾を巻いて逃げたわけだ、貴様は』

『自分の仲間が襲われていると考えたら居ても立ってもいられない、そんなお人好しばかりと出会ったが、
 貴様はそうじゃない。見えないところのお友達より、この場の自分と安全のほうが大切な人間だ。
 このことから貴様の臆病さがよく分かる』

( 違 う ! )

キルアは大きく頭を振る。

大蛇丸から逃げたのはイルミの針に呪縛されていたせいだ!
 コイツを野放しにすればゴンが危険なことも良くわかってる! だったらオレが取る行動は一つ!)

命を懸けてでもコイツをこの場で仕留める! コイツは妖怪。人間とは相容れない別の生物だ!

キルアはザックからベンズナイフを取り出すと無防備に背を晒して歩く妲己に向けて斬りかかった。
しかしその一撃は一瞬で宙に飛び上がった妲己を捕らえきれずに空を切る。
「あらぁん、せっかくお友達になれると思っていたのに……残念だわぁん」
妲己もまた打神鞭を取り出した。


「遊戯は2階を調べてくれ。オレは一階を調べてみる」
「うん、わかったよカズキくん」
二手に別れてログハウスの探索を開始した武藤ズだったが、カズキはこのログハウスに人がいないだろうことにはもう感づいていた。
だからこそ遊戯を一人にすることができたのだ。
人がいなくても何か役立つ物が残ってるかもしれない。だったら二手に別れて効率よく探した方がいいというのがカズキの判断だった。
部屋を一つ一つ調べていくが、武器になりそうな物や水、食料などを見つけることはできなかった。
厨房にまで何もなく、カズキはがっくりと肩を落とした。
この分では2階を調べている遊戯の成果も期待できないだろう。
遊戯を呼んで妲己のところに戻ろうかと、窓から彼女の姿を確認しようとした。
(妲己さんがいない?)
窓を開け身を乗り出す。するとどこからか連続して金属音が響いてきた。
(戦ってる? 助けなきゃ!)
窓枠に足を掛け、ふと遊戯に知らせるかどうか迷う。
しかしもし妲己が殺人者に襲われているなら遊戯はここにいた方が安全だ。
カズキは迷いを振り切って、妲己を救いに窓から外へと飛び出した。


(くそ、コイツ戦う気がないのか!)
キルアは常人には捕らえきれない速さでナイフを振るうが、
妲己は余裕の表情を崩さずにその全てを回避し、あるいは打神鞭で受け止めていた。
しかし妲己は先ほどから防御一辺倒で全く攻撃に転じようとしない。
キルアは思う。妲己は強いが体術そのものに関してはそう自分と大差はない。
相手が余裕を見せているうちにカウンターで爆砕符を貼り付けるか、ベンズナイフの毒で勝負を付けるのがキルアの戦略だった。
しかし鉄壁の防御を崩さない妲己には未だ傷一つ付けられないでいる。
(チ、時間を稼いで仲間が来るのを待つつもりか?)
仲間に来られれば自分の形勢は一気に不利になる。キルアは焦り始めていた。
魔弾銃は間合いを取らないと使えない上に、普通に撃っても妲己に当てられるとは思い難い。
長剣クライストは自分の身長では最も扱いにくい武器だ。
ベンズナイフと爆砕符。そして自身の念能力のみが今使える全ての武器だった。
(くそ、どうすればコイツを崩せる? 考えろ!)


(あらあら、思ったよりも強いのねぇん。本当もったいないわぁん、カズキちゃんたちより役に立つと思うのに。
 やっぱり太公望ちゃんあたりからわらわのことを聞いていたのかしらん。)
妲己も笑みは浮かべているものの決して余裕があるわけではなかった。
キルアの激しい攻撃に防御に徹することで何とか無傷を保っていたが、それがこれからも続く保証はない。
(この子の攻撃は急所を狙うのではなく、わらわの手や足にかすり傷さえ付ければいいという感じねぇん。
 つまりあのナイフには毒が塗られている可能性が濃厚。絶対に受けるわけにはいかないわん)
そんじょそこらの毒ならば無力化する自信が妲己にはあったが、
妙に力を制限されているこの世界であまり自分の力を過信するわけにはいかない。
妲己は待っていた。時間を稼ぎながら状況に変化が訪れるのを。そしてその時は近い。
(この分ならあまり力を使わなくても済みそうねぇん)
妲己は薄く笑った。
今まで風を撃たなかったのは力を温存するためである。
幾度目かのナイフを打神鞭で受け止めたとき、妲己は大げさな動きで後ろへと自ら飛んだ。
「きゃあん、やられちゃったわぁんっ」
「んな?」
これにはキルアが驚いた。妲己は倒れ、無防備な姿を晒している。
罠か、と身構えた瞬間、キルアはこちらに近付いてくる気配に気が付いた。
(マズイ、気付くのが遅れた!)
「妲己さん!」
木陰からカズキが現れ、ドラゴンキラーを振りかぶってキルアへと打ちかかった。

ギィンッ

それをベンズナイフで受け止め、キルアは瞬時に間合いを取る。
「妲己さん、大丈夫ですか!?」
「ええ、何とか大丈夫よぉん……ありがとうカズキちゃん」
「あいつは?」
「仲間になりたいって言うからカズキちゃんたちの所に連れて行こうとしたら、いきなり斬りかかってきたのぉん。
 怖かったわぁん……あの子、このゲームに乗っちゃったのねぇん……」
カズキはグッと歯を喰いしばるとキルアを睨んだ。
(もうブラボーのような思いは……妲己さんや斗貴子さんはオレが護る!)
「ゲームに乗っているなら容赦はしない! とッ捕まえてふん縛ってやる!!」

咆哮とともにカズキはキルアへと攻撃を仕掛けた。
先ほどの妲己との攻防とは逆に今度はキルアのほうが防御一辺倒になる。
カズキが手強いのではない。キルアは戸惑っていたのだ。
(なんだコイツ? 妲己の仲間だから強いのかと思ったけど……
 一般人にしてはやるほうだけど、これならまだあの沖田とか斎藤って奴らのほうがマシだ)
拍子抜けしたがこれならまだ充分勝算はある。この男も妲己に騙されているだけのようだから殺す必要はない。
キルアはカズキの攻撃を掻い潜り、懐に入るとカズキの鳩尾に掌底を打った。

「イズツシ!」

バチィッ!
まるでスタンガンのようにカズキの身体に電流が奔る。
「くぁあ……」
カズキは全身の筋肉を収斂させ……成す術なく倒れていく。
(電撃……スタンガン? 駄目だ、ここで倒れたら妲己さんが……)
目に映る地面はスローモーションで近付いてくる。
(せめて核鉄があれば……武装錬金が使えれば……)
自分の心臓にはある。しかしこの世界では自分の核鉄を使って武装錬金を行うことはできなかった。
(駄目だ! そんなこと言ってる場合じゃない! 戦うんだ!
 立ち上がって妲己さんを、斗貴子さんを護る為に!)

ドクン、と鼓動が鳴った気がした。

ドサッと音を立ててカズキの身体が地面へと落ちる。
キルアはもうカズキには目もくれずに妲己の方へと身構えていた。



「本当に何にもないね……これじゃ一階も似たようなものだろうなぁ」
(ああ、でもまだあそこのサロンは調べてないだろう、行こうぜ相棒)
「うん」
ログハウスの二階を調べていた遊戯は、全く成果を上げられず落胆していた。
「せめて僕にも使えるような武器があったらなぁ」
たいした期待も込めずにサロンの扉を開く。
花瓶、カーテン、ティーポット。やはり武器や役立ちそうなものは置いていない。
「テーブルの足でも折って棍棒にしてみようかな」
(止めたほうがいいな、生兵法は怪我の元だ。自分に出来ることをしっかりと考えることが大事だぜ、相棒)
「……うん、あれ?」
部屋の中央に置かれている円卓にトランプが置かれているのを見つけた。
「これ役に立つかな?」
(ああ、目印にもなるし合図や暗号なんかにも利用できるかもな。持っておいて損はないだろうぜ)
「そうだね、じゃあ持って行こう」
遊戯はトランプをポケットに入れると、妲己の元に戻るべく階段に向かった。

――それに……闇のゲームにも使えるかもな……

その裏の遊戯の呟きは遊戯に聞こえることはなかった。



妲己の思惑は、キルアとカズキが打ち合っている間に打風刃でキルアをピンポイント攻撃することだった。
カズキの力ではキルアに抗しきれないのは解っていたが、しばらく打ち合えばキルアの隙を突けると思っていた。
しかし、カズキはキルアの電撃によってあっさりと崩れ落ちる。
(あらあら、キルアちゃんがあんな技を持っていたのは驚いたけど、カズキちゃんも随分と情けないわねぇん。
 やっぱり武装錬金のない錬金の戦士というものは期待できないのねぇん……仕方ないわぁん)
妲己は打神鞭を構え、力を込める。多少の消耗は覚悟して、全ての力を持ってキルアを屠ることに決めたのだ。
風が、渦巻き始め……そして止んだ。
(あらぁん?)
妲己は打神鞭を下げた。
カズキが再び立ち上がったのに気付いたのだ。しかしその姿は――


(電撃を見せたのは不味かったか? いや、格上相手に出し惜しみしてもしょうがねぇ!
 ここは全力でいく!)

ナルカミ―落雷―で妲己の動きを止め、爆砕符で勝負を決める。
キルアは瞬時に戦術を組み立て、いざ飛び出そうとしたその時!

ドシュウゥウウッ!!!

キルアの全身から蒸気のようにオーラが溢れ出し、吸い取られていく。
「な、何だよコレ!?」
物凄い勢いで消耗していくのに驚愕するキルア。
(な、何だ? オーラを吸い取る能力者?)
振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。

淡く光る蛍火の髪、熱を帯びた赤銅の肌、先ほどまでのカズキとは全く違うカズキ。

黒い核鉄を命にしたことで人間とは全く別の存在へと武藤カズキが変化した姿。
最初にこの姿に変化した者の名をとってヴィクター化と呼ばれる状態であった。
この状態に変化したカズキはヴィクターIIIと呼ばれる。
強い意志の力と共にカズキはキルアを睨んだ。
「この力は……使いたくなかった。でも、こんな力まで制限されていて良かった。
 そのおかげで妲己さんにまでエネルギードレインが及んでない」
本来のエネルギードレインは一般的な学校の校舎全体に及ぶほどの広い効果範囲を持つ。
しかしこの世界ではカズキの周囲7~8m程までに抑え込まれていた。
「う、うおおおおおお」
「エネルギードレインを君一人に集中する。死にはしないけどしばらくは身動きも取れなくなる……」

「こいつ、人間じゃ……ない!?」

急激に身体から力が抜けていき、がっくりとキルアは膝を突く。
ふと妲己を見ると、薄っすらと笑みを浮かべて楽しそうにキルアを見つめていた。
(カズキちゃんがこんな隠し玉を持っていたなんて……黙っているなんて水臭いわぁん。
 でもこれで面白くなってきたわねぇん♪)
その妲己の冷たい瞳を見てキルアは確信する。
(ヤバイ、コイツに殺す気がなくてもこんな所で倒れたら妲己に殺される!)

この期に及んで四の五言っていられない。

 殺 ら な け れ ば 殺 ら れ る !

「悪いけどオレまだ死ぬわけにはいかないんだよねっ!」
キルアはオーラが空になる前に勝負を仕掛けた。
ナイフを鞘に収めると肉体操作で爪を伸ばし、硬化させた貫手でカズキの心臓を貫く!
電撃のダメージから回復しきれていなかったカズキはかろうじてキルアの腕を掴むが、
攻撃を止めることまでは出来なかった。
「ぐあぁっ!!」
カズキの胸に沈み込んだキルアの手は、心臓ではなく何か金属製の板片を掴み取る。
(心臓がない! コイツやっぱり人間じゃない!!)
それがキルアの最後の躊躇を払拭させた。
渾身の力を込めて金属片を引き摺りだす。

「ガッ、ハ……」

小さく喀血し、彼の命そのものである黒い核鉄を奪われたカズキは崩れ落ちる。


――キミと 私は 一心同体だ ―― …

(斗貴子さん……ゴメン、約束、守れな……)


倒れる勢いに任せてカズキは最後の力を振り絞りキルアにしがみつく。

(……妲己、さ……今のうち……逃げ……)

 ―――――――――


「く、そ……! 離れろ!」
エネルギードレインによって大半のオーラを吸収されていたキルアは力が思うように入らず、
しがみ付いてきたカズキを振りほどくのに数瞬の時間を要する。
そして妲己にとってその数瞬は絶好の攻撃の機会だった。
「うう、立派だったわぁん、カズキちゃん。その死は無駄にはしないから安心してお休みなさぁい!」

「疾ッ!!」

妲己の振るう打神鞭から風の刃が撃ち出される。
完全回避不可能なタイミングで迫る風の刃を、キルアは咄嗟に左手を翳して受け止めた。

ボギッ、メキッ ボリボキ……

残り少ないオーラを全て左手に収束させる「硬」を使って受け止めたものの、
打風刃の威力を打ち消すには及ばず、キルアの指から肘、肩までの骨が連鎖的に砕ける。
そしてその威力に足が踏ん張りきれず、その場から10mほども飛ばされてしまった。

「ぎぃッ……」

激痛と叫び声を必死に堪えてキルアは起き上がる。
妲己は追い討ちをかけようとこちらに向かって駆け寄ってきていた。
(く、このままここにいても殺されるだけだ。ゴンを護るためにはオレはまだ死ねないんだ!
 悔しいけど逃げるしかない!)
キルアは足元の石ころを拾うと片手で器用に爆砕符を巻きつけ、それを妲己に向かって投げつけた。
爆砕符は貼り付けてから時間経過で起爆するが、衝撃を受けた際はその瞬間に起爆する。
これで妲己が倒せるなどとは思っていないが、何とか逃げる時間は稼げるはずだ、とキルアは判断する。
しかし妲己は向かってくる石礫に気付くと、傍にあった「モノ」を拾い上げ、投げつけた。

それは……カズキの死体。

空中で石礫と接触した瞬間、爆発が起きる。
カズキの身体は砕け散り、爆発の衝撃から妲己を護った。
妲己は風を操作して爆風からも身を護り、一瞬の溜めの後もう一度打神鞭を振るう。

「疾ッ!」

風のリング、打風輪が爆煙の間を縫ってキルアへと襲い掛かった。

「ち、くしょぉお!」

 ザ ン ッ

打風輪はキルアの右腕を二の腕から切断し、その地に落とす。
キルアは倒れ、懐から黒い核鉄が零れ落ちた。
しかしキルアは正真正銘最期の力を振り絞って立ち上がると、今度こそ一目散に逃げ出す。
「逃さないわぁん!」
「妲己さん!」
追撃しようとした妲己だが、横合いから掛けられた声に動きを止め振り向いた。
声を掛けた相手は……
「……遊戯ちゃん」

そこには信じられないといった表情で妲己を見つめる遊戯が立っていた。


キルアは走る。
生き延びる為に、生き延びてゴンを護る為に。
オーラを殆ど消耗してしまい体が鉛のように重い。
だがまだ足は動く。身体は前に進む。キルアは後ろも振り返らずにただ走る。
右腕から血が滴るが、左腕も使い物にならないため止血もできない。
魔弾銃のベホイミを使おうにも銃を撃つこともできない。
意識が朦朧とし、今にも倒れて気絶してしまいそうだが強靭な意志の力で彼は走る。

誰かを見つけて助けてもらうしかない。今の自分の状態では信用できるか等とは言っていられない。
(友達なんだ……やっとできたオレの友達なんだ! 護りたいんだ!!)
その為に生き延びるのだ。
そして森を抜けた所で、彼は一人の少年を見つけた。
森から飛び出し、最後の力を振り絞ってキルアは少年へと迫る。
キルアは口を開いたが、それは声にならずただ空気が漏れ出るだけだった。


「ちぇ、ついてないなぁ……」
越前リョーマはそう悪態を吐き、チェーンの外れた自転車を修理している。
滋賀県と大阪府の境でチェーンが外れてしまったのだ。
越前は少し焦燥を感じながら上手く嵌らないチェーンにイライラしていた。
「結構時間食ってるし、早く直さないと」
いつ襲われるとも限らないし、と一人ごちようとした所で、

森から「何か」が越前に向かって飛び出してきた!

「うわ!」

森から飛び出してきたのは自分と同じくらいの少年。
しかしその鬼のような形相で大きく口を開き、自分に向かって駆けて来るその様は、
越前に襲い掛かってきていると錯覚させるには充分だった。
反射的に立ち上がり、傍に置いてあったラケットを掴み、越前は渾身の力を込めて……

ラケットを振るった。

ゴギン

ラケットは偶然にも正確にキルアの首筋に入り、頚椎を打ちつけた。
湿った音を響かせて頚椎がズレる。それは脊髄神経を擦り千切り、キルアの全身を麻痺させた。
激痛が脳を焼き尽くし、キルアの身体の中で何かが決定的に切れる。
そしてキルアの意識は暗い闇の中へと引っ張られていった。


――おい……ちょっと待ってよ……マジかよ……

    オレはゴンをまもらなくちゃいけないんだよ……頼むよ……オレは……

暗い暗い黒の世界の底へとキルアは急速に沈んでいく。

―― 待ってくれよ……オレ……ゴンを…………光……が見える……ゴン、なのか……?

                     ゴン……オレも…… 一緒に ―――


早鐘を打つ鼓動を止めようと心臓の辺りを押さえ、越前は動かなくなった少年の死体を見下ろしていた。

(なんだ……これ?
 この子、本当にオレに襲い掛かってきたの?)

呆然と、衝撃で亀裂の入ったラケットを手にしたままキルアの死体を見つめる。

(腕がない……この子、襲ってきたんじゃなくてホントは助けを求めてたんじゃないの?)

「……オレ、なんてことを……」
どうすればいいのか分からず越前はただ呆然とその場に立ち尽くしていた。





【滋賀県 琵琶湖畔の小屋→四国へ/午後】
【星矢@聖闘士星矢】
 [状態]健康  
 [装備]なし
 [道具]食料8分の1消費した支給品一式
 [思考]1:麗子と共に四国へ行き、太公望達と合流。藍染の計画を阻止
    2:藍染、ハーデス達を倒す。

【秋本・カトリーヌ・麗子@こち亀】
 [状態]部長、中川の死による精神的ショック(中)
 [装備]サブマシンガン
 [道具]食料8分の1消費した支給品一式
 [思考]1:四国へ行き、太公望達と合流
    2:藍染の計画を阻止
    3:主催者の打倒。


【滋賀県と京都府の境(三重寄り)/午後~夕方】
【越前リョーマ@テニスの王子様】
 [状態]少々の疲労、空腹
 [装備]亀裂の入ったテニスラケット@テニスの王子様、チェーンの外れた両さんの自転車@こち亀、線路で拾った石×4
 [道具]荷物一式(半日分の水を消費)
    サービスエリアで失敬した小物(手ぬぐい、マキ○ン、古いロープ
    爪きり、ペンケース、ペンライト、変なTシャツ )
 [思考]1:茫然自失
    2:大阪へ向かい新八を探す
    3:情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
    4:仲間(乾、跡部)との合流。


【滋賀、三重の境にある小山/午後~夕方】
【蘇妲己@封神演義】
 [状態]健康
 [装備]打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
 [道具]荷物一式(一食分消費)、黒の章&霊界テレビ@幽遊白書
 [思考]1:キルアの追跡を諦め、遊戯と話す
    2:仲間と武器を集める
    3:本性発覚を防ぎたいが、バレたとしても可能なら説得して協力を求める
    4:ゲームを脱出。可能なら仲間も脱出させるが不可能なら見捨てる

【武藤遊戯@遊戯王】
 [状態]健康
 [装備]トランプ
 [道具]荷物一式(一食分消費)
 [思考]1:妲己に事の次第を問いただす
    2:ゲームを脱出するため仲間を探す(斗貴子・杏子を優先)
    3:ゲームから脱出し元の世界へ帰る
 [闇遊戯の思考]:妲己の警戒を続けるが、妲己が善人ならばと希望を抱いている。また『闇のゲーム』執行を考えている

キルアの道具とカズキの道具はその場に放置されています。

(爆砕符×2@NARUTO、魔弾銃@ダイの大冒険、中期型ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER
 クライスト@BLACK CAT、魔弾銃専用の弾丸@ダイの大冒険:空の魔弾×1 ヒャダルコ×2 ベホイミ×1
 焦げた首輪、荷物一式(食料1/8消費))
(黒い核鉄III@武装錬金、ドラゴンキラー@ダイの大冒険、荷物一式(一食分消費))


【武藤カズキ@武装練金 死亡確認】
【キルア=ゾルディック@HUNTER×HUNTER 死亡確認】
【残り83名】


時系列順で読む


投下順で読む


227:関西クエスト 星矢 317:頼れる存在
227:関西クエスト 秋本・カトリーヌ・麗子 317:頼れる存在
227:関西クエスト 越前リョーマ 283:暴走列島~独走~
257:キルアとラーメンマンと飛刀と キルア=ゾルディック 死亡
251:武藤復活! 武藤カズキ 死亡
251:武藤復活! 蘇妲己 277:闇のゲーム! 妲己vs遊戯
251:武藤復活! 武藤遊戯 277:闇のゲーム! 妲己vs遊戯

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最終更新:2024年04月05日 22:42