0281:砂の器





桃白白の場合』

歩いていた。歩きながら放送を聞いた。だがそこまでが限界だった。桃白白は倒れ意識を失った。

次に目が覚めた時、蜜柑色の長髪の女の顔が目の前にあった。
一瞬の沈黙が流れ、反射的に桃白白は背後に飛び退いた。飛び退いて直後、自分が重症を負っていたことを思い出す。
しかし、襲ってきた痛みは予想より遥かに少ないものだった。

「ダメだよっ!じっとしてないと傷が開いちゃうよっ!!」
「なにい?」
「もう少しで死んじゃうところだったんだよ!」

治っている。塞がりかけた腹部の傷口を見て桃白白は驚く。殴られた顔の痛みもほとんどない。
改めて桃白白はまじまじと女の顔を見た。この女が自分を助けたというのか。
女は桃白白の前で荒い息をついている。周囲を覗うが他に人間の気配はない。
喜びが込み上げてくる。助けてもらったというなら『礼』をしなければなるまい。

「フッフハハハハッ。よーしこうしよう。私は殺し屋だ。礼の代わりにどいつかを殺してやろう。
貴様も運がいいぞ。私の殺し代はおまえら一般庶民が一生働いても払えぬほどの額だ。さあ言え、どいつを殺してほしい」
「――!?そんなッ。こっ、殺して欲しい人なんて居るワケないじゃないかっ!」
「・・・なら、お前が死ぬか?」
「なっ・・・」

驚いた表情のまま女の顔が凍りついた。桃白白の指が、女の眉間を貫いていたのだ。

「釣りはいらんぞくれてやる」

指を抜いて歩き出す桃白白。背後で女が倒れる音がした。



マミーの場合』

――――何だ、この気持ちは。

こんなことが前にもあった。オレのせいでバーバリアンの『儀式』の犠牲になった屋台の親父。

微かに、遠く男が走り去っていくのが見えた。服に『殺』の文字が入っている髭面の男。
ヨーコが死んだ。駆けつけた時にはすでに事切れていたのだ。

もともと瀕死の重傷を負い、道端に倒れていた男だった。それを目敏くヨーコが見つけ、例によって治療してやるかどうかで揉めた。
前の大男を治療したのもどうかと思ったが、さすがに服に『殺』の字を入れてるようなヤツを助けることには納得できなかった。
今でも後悔している。ヨーコを突き飛ばしてでも、倒れている男に止めを刺しておけばよかったと。

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「こいつを助けてもオレらが殺されるかもしれねーんだぞ!!ああっ!!」
「―――!」

切れていた。あくまでも治療すると言って聞かないヨーコに、これ以上自分を抑えることが出来なかった。
自分は今、鬼のような形相になってヨーコを睨み付けているのだろう。ヨーコは完全に怯えて言葉を失っている。

放送直後、ヨーコの様子は一変していた。例の知り合いの名前が呼ばれたという。
最初は泣き叫んで悲劇のヒロインでも気取り始めるのかとゲンナリしたが、意外と立ち直りの早い女で、
(なんでもそいつは一度死んで自力で生き返ったことがあるらしい・・・ありえねぇ)少し見直す気持ちになっていた矢先のことだった。
そんなヨーコに対してキレるのも大人気ないとも思ったが、これでも良く堪えた方だ。
本心を言えば、ヨーコをぶん殴ってでも瀕死の男に止めを刺してやりたかったくらいなのだ。

虫の鳴く声。二人の間に沈黙が流れている。先に口を開いたのはヨーコの方だった。

「・・・て、天は・・・」
「ああ!?」
「て、天は・・・自らがそうする様に、人が人を許す事を望んでいるのよ・・・」
「・・・な、なに?(ゆる、す・・・?許すだと?)」
「そ、それより今は、ボクらができる事を探して、最善を尽くす事を考えなきゃ・・・」
「・・・(な、なんだ・・・?いきなり何を云っているんだこの女は?)」
「正しい事のために最後まで諦めずに戦う者を、神様は決して捨てたりはしないわ。」
「・・・(正しいこと・・・?神だと・・・)」

ヨーコはしどろもどろになりながら懸命に話していた。
今更ながらマミーは理解した。理解するのが遅すぎたと思った。

「フン、あーわかったよ。ったく、オマエには敵わねぇよ・・・」
「わ、解ってくれたんだね!?ありがとう!」
「おう、後は勝手にしてくれ。じゃあな」
「えっ、マミークン!?どこに行くのっ!」

『とても付き合ってられない』それがマミーが出した結論だった。
それ以上何も言わずマミーは足早に歩き出した。

「あっ、待ってよ!マミークンッ!?」
「放せコラッ!」
「あっ!」

ヨーコが倒れていた。思わず突き飛ばしていたのだ。直も立ち上がろうとするヨーコに言ってやった。

「バカじゃねェの、神だかなんだかしらねぇがクソ食らえだぜ。偉そうに説教垂れやがって・・・!」
「―――!」

ヨーコの目が衝撃に開かれる。マミーは目を逸らし吐き捨てるように呟いた。

「オレぁひねくれてんだよ・・・」

そう言ってマミーは全力で走り出していた。

マミー・・・
      クン・・・

小さく、自分の名を呼ぶ声が背中に突き刺さった。




「―――マミークン・・・」

追えなかった。後ろ姿を見送りながら、ヨーコは暫し呆然としていた。
倒れた自分を見下したマミーの、信じられない程の冷たい視線が足を凍らせた。

胸の前で右手を握り締めた。ボクは、ボクは非力だ。ヨーコの心を自己嫌悪の波が襲う。
ずっと一緒にここまで来たくせに、全て一人で決め付けて、彼のことなど何もわかっていなかった。わかろうともしなかった。

(・・・ゴメンねマミークン。後で必ず、謝りに行くから。だからどこかで待ってて欲しい。この人を治したら必ず・・・)

ヨーコは立ち上がって、瀕死の男の方へ歩き出した。
男は重症だった。顔面は無残に潰れ、大小の傷を全身に負い、特に腹部の傷はもう少し発見が遅かったら手遅れになっていたかもしれない。
しゃがみこんで顔に手を触れた。
青ざめて冷たい肌。弱弱しい呼吸。点々と続く血痕。助けを求めてここまで歩いてきたのだろう。
不意に涙が込み上げてきた。
自分は間違っているのだろうか。またたくさんの人が死んだ。読み上げられた犠牲者達の中に<あの人>の名前があった。

「結局返してくれなかったね。500円、ダメだぞ・・・」

誰か教えて欲しい。
なぜボクたちはこうまでして戦わなければならないのか。
ヨーコの脳裏にカル=スや魔戦将軍たちとの戦いが蘇る。
何度も命を懸けて戦った彼らも、選んだ道が違っただけで、目指すところは一緒だった。

「慈悲深き方」
―――欺(だま)される事も
「癒しの神よ」
―――飢えて死ぬ事も
「聖し御手を」
―――憎み合う事も
「似ち示したまえ」
―――殺し合う事も
「人の血は血に」
―――もうボクは欲しくはない
「肉は肉」
―――ボクが欲しかったのはただ
「骨は骨に」
―――誰もが幸せに暮らせる優しい世界だけ。

「『白 銀 の 癒 し 手』」

癒しの光が倒れた男の体を包み込む。
右脚がほのかに熱い。膝を擦りむいていたことに、ヨーコは気が付いた。












『マミーの場合2』

日も暮れて闇の中、埋葬が終わってマミーは立ち上がった。
土の中が彼女の寝床。死のその瞬間、彼女はどんな気持ちだったのか。
今となっては知る由も無いが、現実は慈愛心に溢れていた彼女を殺し、そんなものとは程遠いひねくれ者がこうして生きていたりする。

なぜ自分はこの場所に戻って来たのか。彼女の気持ちを裏切ってしまったことを、
ほとんど殺されると分かっていながら彼女を見捨ててしまったことを、悔やんでいるから戻ってきたのではないのか。

青臭い理想論に心が動くことは無かった。ただ死が、罪悪感が自分を打ちのめしている。
全て『あの時』と同じ。また自分は繰り返してしまったというのか。

それでも『あの時』と違い、涙は出なかった。最後に決断をしたのはヨーコ自身なのだ。

(これがオマエの信じた道なんだろ。だからオレもオレの道を行くぜ・・・)

また小さく、自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
もう振り返るな。そう自分に言い聞かせ、マミーは歩き出した。





【茨城県/夜】

【マミー@世紀末リーダー伝たけし!】
 [状態]:健康
 [装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@DRAGON BALL
 [道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
 [思考]:1、現実を悟る。誰が相手でも殺られる前に殺る。
      2、とりあえずヨーコを殺したヤツは優先で殺す・・・?(複雑)
      3、消えない傷が心に出来た。

【桃白白@DRAGON BALL】
 [状態]:疲労・気の消費ともに半分ほど、血が足りない
     傷は白銀の癒し手により塞がりかけている(当分安静にしてないと開く)、放送は一応覚えている
 [道具]:支給品一式(食料二人分、一食消費)、ジャギのショットガン(残弾19)@北斗の拳、脇差し
 [思考]:1、参加者や孫悟空を殺して優勝し、主催者から褒美をもらう
     2、でもヨーコの分はサービスでいいかと思っている。


【ティア・ノート・ヨーコ@BASTARD!! -暗黒の破壊神- 死亡確認】
【残り73名】

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248:日輪の如く、巨星の如く マミー 315:弱肉強食/DIOが私を呼んでいる
248:日輪の如く、巨星の如く ティア・ノート・ヨーコ 死亡
266:狩人の意思は、非情の舞台で爆発し 桃白白 307:掃除屋達の挽歌

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最終更新:2024年05月02日 09:36