0315:弱肉強食/DIOが私を呼んでいる





 その街には、明かりが灯っていた。
 居酒屋、コンビニ、ファミレス、ゲームセンター、数多の看板がライトアップされている。
 赤や青や黄色、色だけでいえばなんとも賑やかな市街に思えるが、現実のそこには賑わいなど皆無。
 なにせ、人がいない。仕事帰りのサラリーマンや、遊び通す若者。居てもよさそうな人間がまったく居ない。
 時刻が夜――というのは理由にはならないだろう。どんな時間帯だろうと、人にはそれぞれの活動時間というものが存在する。
 それは職業や人種、体質や交友関係など色々な要素で変わってくるが――彼の場合はどうだろう?

 人気のない夜の街を徘徊していたのは、マミーという名の一人の少年。
 具体的な場所は分からない。ここが何県で、どんな名前の街なのかも。
 だが、ここが「殺し合いの舞台」だということだけは理解している。
 人が人を殺し、人が人に殺される。それが当たり前の世界。マミー自身は、殺しも殺されもしていなかったが。
 ……これからは、どうだろう?
 殺られる前に殺る。これだけは心に決めていたはずだ。殺すことはあっても殺されることは絶対にない。それがマミーの今後だ。

『――マミークン』

 誰がどう思おうが、知ったことか。
 敵が来れば倒す……違う、殺す。
 殺す……? 殺せば死ぬ……あいつのように、人が。

「………………」

 無言で、あてもなく歩き続ける少年の心は、複雑だった。

「前を見て歩かないと危ないぞ?」
「――あ?」
 マミーに声を掛けたのは、人間――この場合その者が本当に"ヒト"かどうかは問題ではない――初対面ながら、殺す殺されるの関係を持った生物。
「なにしろ夜道は暗い。いくら街灯が灯っているとはいえ、目の慣れぬ内では不便だろう? 例えば、こういう状況の場合などに」
「……」
 マミーに会話をする意思はなかった。が、それでも声を掛けてきた男は喋り続ける。マミーに向かって。
「見たところまだ若いようだが、どうやって今まで生き延びてきたんだ? 興味があるのだが、よければ話してくれないかな? ん?」
「……るせぇ」
 まどろっこしい。マミーが男に対して抱いた印象は、それだけだった。
 男の目的は自分を殺すこと。それなのにこんな意味のない会話を持ちかけてくるなど、まどろっこしいと言う以外になにか適切な言葉があるだろうか。
 同じような意味の、もっと難しい言葉があるかもしれないが、少なくともマミーはそんなものは知らない。というよりも、どうでもいい。
 重要なのは、男が「殺る気」だということ。人を小ばかにしたような言動と、不敵な笑み。武器こそ確認できないが、ほぼ間違いない。
 ならば、こちらは「殺られる前に殺る」だけだ。そのためにはこちらも「殺る気」になる必要がある。

(…………今さらそんな確認はいらねー)

 既に決めたことだ。ここは殺し合いの舞台で、殺すか殺されるかで、生きるか死ぬか。
 ――弱肉強食。そんなもの、今までマミーが暮らしてきた世界となんら変わりないではないか。

「ッおらぁ!」
 気に入らない奴は、いつだって己の拳で黙らせてきた。

「――――!!?」
 しかし、それはそいつが弱者だったから。

(…………いねぇ!?)
 マミーよりも高位に位置する――強者の場合。それが今。

「いいパンチだ。だがもっと殺傷能力の高い武器は持っていないのか? 拳だけで全員を殺して回ることなど不可能だと思うぞ」
 マミーが男に向けて放った拳は、敵を捉えることなく空を切った。
 これは「殺る気」の問題ではない。簡単には覆せない、実力の問題。
(こいつ……一体いつの間に!?)
 男は、マミーの後方で笑みを浮かべていた。マミーの拳を避け、反撃をするでもなく、ただ笑っている。
「それと……どこか拳の軌道が曲がっているぞ。何か心理的に辛いことでもあったんじゃないか? 例えば」
 男は何者なのか。殺すか殺されるかのこの状況で、マミーは突然そんなことを考え始めた。
 ひょっとしたら、この時点で既に興味を持ち始めていたのかもしれない。
「――知り合いが死んだ……いや、殺されたか」
「…………!!!」
 マミーが拳を振るう。荒々しく、乱暴に。威力もキレもあったものじゃない、怒りに任せたチンピラのパンチを。
 しかし、そんなものがこの男に通用するはずもなく。男が持つ"能力"を使うまでもなく、マミーは圧倒されていた。
 それでも、男は決して攻撃は行わない。ひたすらにマミーの攻撃をかわし、微笑み、話しかける。 
「無駄の多い攻撃だな。感情というものは、攻撃を行う際では邪魔にしかならない。それが悲しみのような負の感情の場合、尚更だ」
「……いちいちうるせぇんだよっ!!」
 マミーは執拗に拳を繰り出すが、
「なんなら、私が攻撃の仕方というものを教えてやろうか?」
「!」
 その腕は、いとも容易く男の手に掴み取られた。
 ――殺られる!
 弱気というものを知らないマミーでも、この一瞬ばかりは死を覚悟した。
 恐怖はしなかったが、代わりに脳内に流れ込んできたのは、ある少女の死に様。
 この殺し合いの舞台で死んでいった……弱者の姿だった。
(俺は…………!)
 マミーは、強者だった。元の世界では。
 だがこの世界ではどうだ。昼間出会った泥棒と紳士、傷だらけの巨漢、少女を殺した人物、そして目の前の男。
 彼らと同じ世界に存在していても、マミーは強者に分類されているのだろうか。
 弱肉強食の意味は、"強き者が生き弱き者が死ぬ"ということ。
(俺は…………強い"はず"だ!)
 最後まで、マミーは自分の強さを信じた。

「…………夜ももう遅い。良ければ寝床を紹介しよう」
「は?」
 死を覚悟した……はすだったが、世界はまだマミーを生かしていた。
「寝床……だと?」
「そうだ。夜といえば誰しもが身を休める時間。それでなくてもこの世界では常に緊張を張り巡らせなければならない。
 安全に休息が出来る場所というのは必須だろう?」
 生きるか死ぬか、それしかない殺し合いの現実を悟ったマミーには、信じられないような提案だった。
 この言葉の真意はなんだ? 既に力の上下関係はハッキリした。なのになぜ自分は殺されない――?
 混乱するマミーを尻目に、男は笑いながら歩き続ける。完全に背を向けて状態で、無防備な隙を見せながら。
「おもしれぇ……」
 マミーは、これを男の挑発ととった。わざと隙を見せ、自分をコケにしているのだと。
 だから、乗ってやった。男の真意がどこにあろうとも、行き着く先は生と死。それは揺ぎ無い――だからあいつも死んだ――はずだ。
 男の後ろをマミーが歩く。機を窺いながら、強者になり得る時を待ち望む。





 数時間歩き、男は山の中の廃屋へとやって来た。
 先程まで居た街よりも、さらに人気のないそこは、おおよそ身を休める場所としては相応しくない。
 男は何を企んでいるのか、マミーは必死に考える。男の真意を掴み取ることに遅れれば、死が近づく。
(……俺は絶対に死なねぇぞ……)
 マミーは強者であり、弱者ではない。高らかに勝鬨を上げることはあっても、惨めに苦汁を飲むことは決してない。
 そうでなければ、いけない。
 張り詰めた緊張を解かないマミーは、男が薄汚れた小屋に入っても睨みを利かせ続ける。
 そして、男が一声。
「そこに布団と毛布がある。君はそこで寝るといい」
 男は、目的地に着いて未だなお殺し合いの姿勢を見せなかった。
「ここで俺に休めだと……はっ、やなこった」
 元よりマミーは身を休めることなど考えてはいない。
 マミーが考えているのは、男の行動の真意、殺されない術、殺す術、この三つだけ。

 敵を目の前にして寝るなど、弱者以下の馬鹿のすることだ。マミーは決して男の言葉には乗らない。
「心配する必要はない。私もこの部屋の隅で休息を取る。分かるか、この意味が?」
 一瞬考えるが、マミーには理解できなかった。遠回しに親睦を深めたいとでも言っているのだろうか。
 しかし、出てきた言葉はこの世界の理に適っている内容だった。
「お互いが、寝首をかける位置にいるということだ」
「……なんだと?」
 小屋の中は人二人くらいでも窮屈に思えるような狭さ。一瞬でも隙を見せれば、逃れる場所など存在しない。
 そこで、二人の男が寝る。ここで注意しなければならないのは、二人とも殺し合いの真っ最中だということ。そして、二人とも死ぬ気はない。
 これらの状況から、彼らが取る行動は一つ。それは、安易に睡眠をとることではない。
「それともう一つ。君にこれを渡しておこう」
 そう言って男が差し出したのは、一枚の手裏剣。マミーは訝しげにそれを睨みながら、黙って受け取る。
「それには"刃"がついている。人の皮膚に近づければ傷がつき、血を体外に放出させることが可能な道具だ」
 当たり前の説明にも、マミーは耳を背けなかった。男が喋る一文字一文字、そこにどんな意味が隠されているのかを掴み取ろうと。
「それを人体のどこに近づけるか……首、眼、額、口内、血管、どこが一番有効か、よく考えて身を休めるといい。
 なに、深く考えることはない。このつまらない世界での一興、ゲームだとでも思ってもらえればいい」
 男は、決して"殺し合い"という言葉を口には出さなかった。最後まで自分にその気はないと思わせたいのだろうか?
「そして寝る前にもう一つ、良ければ名前を聞かせてもらえないか?」
「マミーだ」
 迷うことなく、マミーは自分の名前を即答した。
 ここで臆病風に吹かれて名前を明かさないなど、マミーという男の度胸では考えられない。
「そうか。ではマミー、君はしばらくゆっくり休むといい。ちなみに私の名前は……」
「いらねぇよ。どうせ名前で呼び合うことなんてねぇんだからな」
 どうせ、朝までにはどちらかの名前がなくなる――そう思っていたのは、マミーだけなのだろうか。
「ククク……それもそう、なのかな? まあいい。とにかく、背後には気をつけて休息を取ることだ。お互いに、な」
 男は、それ以上喋らなかった。マミーも同様に、互いが背を向けて休息をとる。
 もっともそれは形だけ。二人とも、本心はまったく別のことを考えていた。

(私以外の吸血鬼に波紋使い……私の方では接触することが出来なかったが、思わぬ収穫はあった)

 形だけの睡眠をとりながら、男は考える。

(一日目も終了に近づき、参加者の人数は最早半数ほど。その参加者の何人かは、徒党を組んでいるものも多いだろう)

 波紋使い……正義超人……道着や麦わらの男など、厄介な参加者もまだ多い。

(これらを一掃するのに一番有効な手は、"数"だ。実力があるかどうかは問題ではない。
 大切なのは使えるか使えないか。人を殺せる精神を持っているかいないか)

 男は背を向けたまま、眠っているように見えるマミーに目を向ける。

(その点では、彼は優秀だ。彼が背負う"悲しみ"がなんなのかは知らぬが、今の彼の精神は限りなく不安定。
 今はまだ緊張を続けているが、崩壊の日は近い)

 その時こそが、男の待ち望む時。

(フフフ……喜ぶがいいマミー。君は選ばれたのだよ、この"DIO"に!)

 傷ついた少年の精神は、最早その男の手の平の上にあった。
 そこで踊り続けるか、はたまた必死に暴れ回るかは、少年次第。






 一方、DIOと行動を共にしていたはずのウォーズマンは、ある一人の女性と接触していた。
「――キュウケツキ! キュウケツキ!」
 DIOの捜し求めている存在――吸血鬼と波紋使い。
 数時間前、DIOはその二つの存在を確かめるべく、山小屋を出た。
 その際ウォーズマンには西を重点的に捜索するよう指示しておき、DIO本人は東で捜索を展開していた。
 西にウォーズマンを放ったのは、吸血鬼や波紋使いが休息を取っているとするならば、まだそこに留まっている可能性が高いから。
 もちろん既に移動しているという場合もある。だからこそ、DIOは二手に分かれたのだ。
 そして、ウォーズマンは見つけた。発見したのは――吸血鬼の方。
「そんな……この人、人間じゃないの!?」
 不気味な笑顔を浮かべる黒ずくめの襲撃者に、吸血鬼となった東城綾は困惑していた。
 西野つかさを優勝させるため、他の参加者を皆殺しにすると誓った矢先、早速現れた獲物。
 しかし、綾の持つ殺傷手段である"吸血"は、ロボット超人であるウォーズマンにはまったく通用しなかった。
 血が吸えなければ、綾の能力は無に等しい。少なくとも、無情な氷の精神を展開したファイティングコンピュータに対抗する術はない。
 だが、ウォーズマンの目的では綾の殺害ではない。
「キュウケツキ! ツレテク――"DIO"ノトコロ!」
 笑いながら叫んだその名に、綾は耳を疑った。
「――DIO?」
 聞き覚えがある名前だった。

 ―――"DIO"の他にも"仮面"を被った人間が、このゲームに参加しているとは思わなかったわ―――

 たしか、西野つかさと行動を共にしていた女性が口にしていた名前。綾と同じ境遇に置かれている、男性の名前だった。
(この人は……DIOの仲間?)
「コイ! DIOノトコロニ!」
(この人についていけば……DIOに会える?)
 DIOという人物が、どんな人間なのかどうかは分からない。しかし、興味はあった。
 DIOも吸血鬼なのだろうか? このゲームには乗っているのだろうか?
 ひょっとしたら、自分の知らない吸血鬼の秘密を知っているのではないか?
 綾のDIOに対する興味は、徐々に膨れ上がっていく。
「…………いいわ。ついて行ってあげる。私をDIOのところに連れて行って、ロボットさん」
「――マカセロ! DIO、ヨロコブ!」
 綾が出した結論は、DIOとの接触。
 ウォーズマンや波紋使いの女性など、自分の力が通用しない参加者もいると知った以上、利用できるものは全て利用しなければ。
(生き残るのは西野さん、あっちの世界で真中君と再会するのは……私)
 狂気の吸血鬼は、愛しき男のことを忘れたりはしない。
 恋敵と想い人を会わせないため――綾はこの殺し合いの舞台を立ち回らなければならない。


 ―――"DIO"が私を呼んでいる―――





【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/真夜中】

【マミー@世紀末リーダー伝たけし!】
 [状態]:健康
 [装備]:フリーザ軍戦闘スーツ@DRAGON BALL、手裏剣@NARUTO
 [道具]:荷物一式(食料と水、一食分消費)
 [思考]:1 寝るフリしながら、隙を見てDIOを殺す。自分自身は絶対に隙を見せない。
     2 現実を悟る。誰が相手でも殺られる前に殺る。
     3 とりあえずヨーコを殺したヤツは優先で殺す・・・?(複雑)
     4 消えない傷が心に出来た。

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]:体力90%
 [装備]:忍具セット(手裏剣×8)@NARUTO
 [道具]:荷物一式(食料の果物を少し消費)
 [思考]:1.マミーの精神を掌握、利用する。
     2.ウォーズマンの帰りを待つ。
     3.吸血鬼と波紋使いとの接触。
     4.悪のカリスマ。ウォーズマンを利用する。
     5.(・・・・・・・・。)


【岐阜県/真夜中】
【ウォーズマン@キン肉マン】
 [状態]:精神不安定、体力微消耗
 [装備]:燃焼砲@ONE PIECE
 [道具]:荷物一式(マァムのもの)
 [思考]1.次の放送までには、綾をDIOの元に連れて行く。
    2.可能ならば波紋使いも見つけ出し、DIOの元に連れて行く
    3.DIOに対する恐怖/氷の精神
    4.DIOに従う。

【東城綾@いちご100%】
 [状態]:吸血鬼化、右腕なし、波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、最高にハイな気分
 [装備]:特になし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1.ウォーズマンについて行き、DIOと接触する。
     2.西野以外の全ての参加者の殺害。
     3.DIOに興味。
     4.真中くんと二人で………
※綾は血を吸うこと以外の吸血鬼の能力をまだ知りません。

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290:DIOの世界~予兆~ DIO 334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年
290:DIOの世界~予兆~ ウォーズマン 334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年
281:砂の器 マミー 334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年
286:一方的に届いた思い、一方的に始まる悲劇 東条綾 334:吸血鬼と吸血姫、そして怯える少年

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最終更新:2024年06月17日 13:07