0307:掃除屋達の挽歌
日が落ち、薄暗くなった茨城県の診療所の中で二人の男の言い争いの声が響く。
一方の男がもう一人の男を糾弾しているのだが、その言葉に表れているのは怒りではなく、心配。
「お前は相変わらず無茶ばっかしやがって!腕が千切れたのもこれで二度目だろうが!」
「あーもう、うるせえってスヴェン。いーじゃねえか済んじまったことなんだしさー」
相棒の無茶に呆れつつ、その行為を批判しているのは
スヴェン・ボルフィード。
その言葉を野良猫のようにいなし、飄々としているのは
トレイン・ハートネット。
殺し合いの舞台で奇跡的に相棒に出会えたことにお互い喜び合った後、トレインの片腕がないことに対するスヴェンお得意の説教が始まったのだ。
聞けば、腕は先程出会った筋肉ダルマとの戦闘で失ったもので、回避しようがなかったらしいが――
それにしても片腕を失って平然としているのはおかしい。もっと痛がるとか苦しむとかあるだろうが。
「なんでそんなお気楽なんだ!?お前は両利きだが、片腕じゃまともに戦えねえじゃねえか!」
「そこが問題なんだよなー。どーしたモンかな、今回はドクターもいないしなー」
いくらクロノナンバーズで一番の銃の名手とはいえ、片腕だけで戦いを続ける程このゲームは甘くない。それは十分思い知った。
元の世界で腕を失ったときは、ドクターという道使いがすぐにくっつけてくれたが、今はそんな便利キャラはいない。
そんな状況だというのに未だ緊張感が足りないトレインに、スヴェンは説教を続けることを諦める。
御気楽者を諌めることよりも大切だと思ったのか、スヴェンは当面の問題を考え出した。
「武器がウルスラグナしかないのが問題だな、アタッシュウエポンケースは壊れちまったし・・・」
そう、今自分達が持っていて、尚且つ使える武器はウルスラグナだけだ。
自分の愛用していたアタッシュウエポンケースは先程の戦闘で壊れてしまった。
そのウルスラグナにしても、バズーカという気軽に使いにくい武器の上、残弾数一発。
ハンマーとしても使えるが、うまく使いこなすには相当の膂力が必要となる。
杏子の持っている短刀も一応武器にカテゴライズされるが、敵と渡り合うことは出来ないだろう。
つまり、かなりの危機的状況。二人のレディーを護るには、戦力不足も甚だしい。
頭を抱えて思案する根っからの苦労人を、御気楽猫は笑顔で慰める。
「そうカッカすんなって、イヴもリンスも無事みたいだしな」
その言葉によって、不安に満たされたスヴェンの心にほんの少しの安らぎが生まれる。
まだ、色々と自分達に協力してくれた性根はお人好しの泥棒も――
自分が護るべき少女、イヴの名前も第三放送では呼ばれていなかった。
それがわかったときは心の底から安心した。何せ今回の死者は24人。
飛躍的に増大した死者に仲間が含まれていなかったのは喜ぶべきことだった。
しかし、今度の放送でも無事だとは限らない。このゲームには危険すぎる参加者も潜んでいるのだ。
自分達が戦いを繰り広げた大男もその一人。正直、誰も死ななかったのは奇跡に近い。
また奴と会ったとき、今度こそ仕止めなければならない。あんな殺人者を野放しにしておくことなど掃除屋の名折れ。
そのことについては自分よりも相棒のほうが真剣だったようで、飄々とした態度を一変させ、怒りに満ちた声で言い放つ。
「・・・あいつだけは、絶対に倒す。それが、幽助に対するせめてもの手向けだからな」
放送で呼ばれた名前――
浦飯幽助。探偵である少年は、どのような最期を遂げたのだろうか。
あの大男が殺したのは間違いない。ならば生き残った自分達がその恨みを晴らすのは当然のこと。
大切な人を守るため――仲間の仇を討つため――戦い続けよう。それが、自分達の務めなのだから。
ラオウとの戦闘の後、傷の手当てをするために医療施設を探して南西に向かっていたトレイン達は、古ぼけた診療所を発見した。
薬などはほとんどなくなっていたが、それでも一般家屋よりは設備が整っているということで一時の拠点としたのだ。
トレインとスヴェンは応急処置をした後、食料を食べながらこれからの方針を話し合っていた。
武器も少なく、負傷も酷い。状況は決していいとは言えないが、それでも決して諦めるわけにはいかない。
自分達だけならともかく、今は二人の女性の命も背負っているのだから。
杏子は殺されかかったショックからだろうか戦闘後に気絶してしまい、今はベッドで寝ている。
こんな少女が死にそうな目に遭ったのだ、気絶するのは当然。むしろそうさせてしまった自分の無力さに腹が立つ。
容態を見守ることしか出来ない自分に苛立ちながら、看病をしているロビンに話しかけた。
「ロビン、杏子の様子はどうだ?」
杏子と共に立ちはだかり、自分達を守ってくれたロビンはこの診療所に着くまでの間、ほとんど言葉を発しなかった。
スヴェンとしては聞きたいことは山ほどあったのだが、女性から無理矢理聞きだすことは礼儀に反する。
自分から話してくれるまで待つことにしよう。トレインはその辺りは全く興味はないらしい、相変わらずデリカシーのない奴だ。
「ええ、今は眠ってるみたい」
ロビンは、ベッドの上で横になっている杏子を見る。
この中で最も脆弱な身体でありながら、勇気を振り絞って強大な敵の前に立ちはだかった少女。
おそらく仲間の死を告げたであろう放送の後でも、決意の光をその眼に込めた、強い少女。
仲間を欲し、仲間を恐れる自分なんかよりもよっぽど強い――
やはり、別れよう。
私は――この少女と共にいる資格などないのだから。
眠っている間に去るのは礼儀知らずかもしれないが、構わない。どうせ、別れの言葉なんて思いつかない。
最後に眠れる少女の顔を眺め、部屋を出ようとすると案の定――
「ロビン、外へ行くのか?もう夜だ、よしたほうがいい。女性の一人歩きは危険だ」
お人好しの紳士さんが呼び止める。
この人の人の良さはもう異常のレベルに達している。これまで何も聞いてこないのがいい証拠だ。こんな私にここまで――
罪悪感を覚えつつ、厄介だとも思う。紳士さんのことだからきっとついてくるだろう。どうしようどうしよう、そうだ――
「トイレよ。ここの診療所にはトイレがないから」
女性に対するデリカシーを逆手にとる。こう言ってしまえば無理についてくるとは言わないだろう。
「そ、それは失礼。ならせめてトイレの前まで送って・・・」
それでも食い下がってきた。敬服に値する紳士っぷりである。
しかしここで折れるわけにもいかないので更に追い討ちをかける。
「あら、女性が用を足すのについてくる気?そんなんじゃ紳士失格よ」
「いや、しかし・・・」
「あなたも傷が酷いんでしょう?今はゆっくり休んで。心配しなくても自分の身は自分で守れるわ」
私の身は私が守る。降魔の剣と千年ロッドが壊れた今、いつ裏切るともしれない仲間など必要ない。
私のことを気にかけてくれるのは嬉しいけど、それよりもこの少女を守って欲しい。
「じゃあ私がついていきます」
そう、この少女を――――え?
杏子がいつのまにか目を覚ましていた。
「私なら同じ女性だし、ケガもしてないわ。問題ないでしょう?」
などと言っているが、そんな問題ではない。誰かがついてくることが問題だというのに。
だけどこの少女は素人、何とでもごまかせるか――
少なくともプロの紳士さんがついてくるよりはマシかしら?
「・・・ええ、わかったわ」
私は少女の同行を了承することにした。一人にするのは危ないけど、ここからあまり離れなければ問題ないわ――
「ちょ、ちょっと待った!それならせめて護身用の武器を・・・」
当然のように紳士さんが口を挟んでくる。どこまでも心配性だ。
「スヴェン~、ウルスラグナなんか持ったら逆に重くて邪魔なだけだと思うぜ~」
また漫才が始まった、本当に仲が良い。思わず笑ってしまう。
「クスッ、心配性ね紳士さん。ちょっとすぐそこの民家のトイレを借りるだけよ」
ああ、この殺し合いのゲームの中でこんなにも心穏やかな時間を過ごせるなんて思わなかった。
できればずっとこのままでいたい――けれど、それはできない。できる筈がない。
紳士さんはようやく引き止めることを諦め、それでも心配なようで外で待っているという。
それは私にとっても好都合だ。私はここに戻る気はないが、この少女だけは保護してもらわないと。
その彼女はというと、紳士さんの相棒と何やら話し合っていた。
どうやらナイフの使い方を教えて貰っているようで、熱心に相棒さんの講義に耳を傾けている。
微笑ましい光景だ、掃除屋さん達には彼女を守って欲しいと心から願う――
心配そうなスヴェンに見送られ、二人は診療所から外に出た。
目指す民家は少し離れた場所にあり、そこまで少し歩くことになる。
「・・・泥棒さん」
その間に少女が話しかけてきた。まだ呼び名は泥棒さん。
真実だからそう呼ばれることに文句はないのだが、やはり気が抜けるので名前を教えておくことにする。
自分の名前を告げる――何故だろう、名前を告げ終わった後、こんなにも晴れ晴れとした気持ちになったのは。
そうボンヤリと疑問を抱いていると、少女の声が耳に入ってくる。
「・・・ロビンの仲間は無事だったの?」
仲間?ああそうか、そういえば船の同行者が参加していたっけ。
けれど、彼らも決して信頼できる『仲間』ではない。
海軍が総力をあげて襲ってきたら、私なんか見捨てるに違いない。昔、私を匿ってくれた村人や海賊のように――
所詮、皆自分が可愛いのだ。批判はしない、自分もそうだから。
普段どんなに優しい人でも、金がかかったり危険が迫ったりすると『仲間』なんてすぐに捨ててしまう。
だから彼らは『仲間』ではない。
「ええ、船長に長鼻くん、知り合いは二人とも無事だったわ・・・あなたも、酷なようだけど今は自分が生き残ることに集中したほうがいいわ」
態度から薄々判っていたけれど、少女は知り合いを亡くしたようだ。
だけど、それにいつまでも拘っていても生き残るのは不可能。
『遠くの知人より近くの他人』だ。知り合いのことは忘れて、あの掃除屋さん達と協力していくのがこの子の為。
「・・・うん、それはわかってる。わかってるけど・・・」
だけど、少女は忘れない。『仲間』のことを。
「・・・うぅ・・・遊戯ぃ・・・」
嗚咽が漏れる。私は、そんな少女にかける言葉を持っていない。私は、何も持っていない――
診療所から少し離れた一軒の民家に入る。トイレのドアを開けつつ、ロビンは言った。
「そのあたりの部屋で待ってて、すぐに済むわ」
もちろん嘘だ。私がなかなか出てこないことを不審に思った少女がトイレのドアを開けても、そこには誰もいない。
別れの言葉をメモ帳に書く。これを見れば自分の意志でいなくなったことは一目瞭然、無理に探そうとはしないだろう。
メモをトイレに置き、トイレの窓を開けて外に出る。
音を立てないように裏庭に着地し、息を殺す。
そのまま柵を乗り越え森の中に入り、走り出そうとしたとき、
「やっぱり・・・一人になる気だったんだね」
杏子が、いた。
私はこの少女を嘗めていた。この少女は本当に強い決意を持っている――
「・・・お見通しだったみたいね。回り込まれるとは迂闊だったわ」
精一杯強がってみせる。心臓はバクバクしており焦燥も極まっているのだけれど、表面だけは取り繕っておかないと。
「ねぇ・・・どうして?どうして仲間から離れようとするの?」
そんな私に少女は尋ねかける。仲間は最も信じられるものだとでも言うように。
よっぽど良い友達に恵まれたのだろう。あなたは、まだ人間を知らない。まだ、私を知らない。
私がしたことは泥棒だけではない。私を知れば、あなただって私を捨てる。
「・・・私には、仲間を作る権利なんて、ないのよ」
ロビンはゆっくりと歩きながら独白を続ける。
「だって、そうでしょう?私はあなたたちにたくさん酷いことをしたんですもの」
だから、私は受け入れられない。
「あなたからはアイテムを奪ったし」
まず一つ。目の前の少女から物品を強奪した。
「それに紳士さんにはもっと酷いことをしたわ」
そして二つ目。最低な罪を、私は犯した。
「紳士さんは優しいから詳しくは聞いてこないけど・・・私は紳士さんを操ったのよ」
後悔はしていない。けれど操られた本人にしてみれば、これ程最悪なことはない。
「操って戦わせようとした。いえ、殺し合わせようとしたんだわ」
殺し合わせた、本人の意思を無視して。それが最低の罪。
紳士さんが死ななかったのは偶然に過ぎない。実際に『彼』のように死ぬ可能性もあったのだ。
ああ――何という皮肉だろう。この場所は『彼』が最期を迎えた場所ではないか。
ロビンが歩いていく先、そこには
勝利マンの死体があった。
ロビンはそっと死体の傍にかがみこみ、その腕からミクロバンドを外す。
「この腕輪はね、小さくなることが出来るの。そうしてこの腕輪を使わせて奇襲させて・・・」
攻撃させた、あの大男に。
「結果、勝利マンは死んだわ」
このザマだ。こればかりは今でも後悔している。せめて敵の実力をもう少し敏感に察知していれば――勝利マンは死ななかった。
「決して裏切らない仲間?御笑い種だわ。そんなものは本当の仲間じゃない」
自嘲気味に笑う。私が『本当の仲間』を語る?それこそ御笑い種だ。
「そんなものは・・・傀儡人形と、それを操る哀れな道化だわ」
道化。これ程私に似合う言葉はないのではないか。不幸を呼ぶ呪われた道化――自分にピッタリだ。
「そんな道化に、仲間を作る権利なんか・・・あるわけないじゃない」
「そんなわけない!」
杏子が叫んだ。力強い叫びだった。
――何故、この子はこんな道化にここまで必死になれるのだろう。
「そんなわけないよ!だってあの時、トレイン君達があの大男に殺されそうになった時、
ロビンは一緒になって立ち塞がってくれたじゃない!自分が死ぬかもしれないのに!」
違う。あれは違う、思い返せば何故あんな行為をしたのか自分でもわからない。
仲間でもない人の為に命を懸けるなんて――
『…気に入らないのよ、私も。これ以上勝手に奪われるのは』
思考がフラッシュバックする。奪われる?何を?誰を?一体私は何を思って――
「本当の仲間じゃなきゃあんなこと出来ないよ!だからあの時、ロビンも私達の仲間になったんだよ!」
本当の仲間?私が?
何故。否定しなければ。道化。裏切り。罪。降魔の剣。勝利マン。紳士さん。少女。泥棒。仲間――
ダメだ、思考が纏まらない。落ち着かなければ。
未だグチャグチャな頭で、それでも言葉を紡ごうとして口を開く。
「・・・私は」
しかし、ロビンの答えを杏子が聞くことはなかった。
銃声が、響き渡る。
女性の身体がゆっくりと倒れる。
その胸に赤い、赤い穴を開けて。
血を撒き散らし、地面に落ちる。
その目に既に、まばたきはなく。
彼女の呼吸音は、止まっていた。
「これでまた一人・・・軽いものだな」
そこにはジャギのショットガンを構えた
桃白白。
ゲームに乗った、非情の殺し屋。
「心配するな。お前もすぐに同じ所に送ってやる」
無力な獲物を嘲笑うようにもう一人の女性に照準を定める。
トリガーを引けばまた死体が増える。これで六人目、六十億か。悪くないペースだ。
手に入る報酬額に笑みがこぼれる。その時、突然ショットガンがはたき落とされた。
はたき落としたのは、自分の背中から生えた、三本の手。
「”三輪咲き”」
無力だと侮っていた女性が牙を剥く。
桃白白は知らなかった、女性が自分と同じ暗殺者であるということを。その女性をとてつもなく怒らせてしまったことを。
そして彼女の能力、『ハナハナの実』の恐ろしさを。
背中から生えた手は更に両腕、首を拘束する。
「死になさい」
そのまま首をヘシ折るべく力が入る。
「うおおおおおおお!?」
桃白白はとっさにカプセル化しておいた脇差を出現させる。
それは背中に生えた手に刺さり、手が反射で一瞬ひるむ。
その隙を逃さず桃白白は全力で手を振り払うと、全速力で逃げ出した。
女から離れれば手は消えるだろうという推測からの逃亡だったが、
果たして推測は当たっていたようで、女の視界から消えることで背中の手は消えてしまった。
――何だ?何だあれは!
桃白白は女の奇怪な能力に戦慄する。
格闘家の防御というものは、敵の攻撃をどのように避けるか、受けるか、捌くかが焦点である。
そしてそのどれもが見切りを必要としている。
よって相手の動作がなく、いきなり来る攻撃には対処できないのだ。
孫悟空など一部の規格外を除けば、の話だが。
まして桃白白は今現在貧血気味、力づくで振りほどくことなど出来るはずもない。
食料も食べるには食べたが、すぐに血液に変わるわけではない。
血だ、血が足りない。体調が万全ならあんな女――
桃白白は逃げる、今は逃げる。その眼から暗殺者の誇りは全く失われていなかった。
絶対に逃がさない。
死ぬべきはこの少女ではなく、私だった。この少女が殺されなければならない理由は何もなかった。
こんなに強い意志を持った人間が、こんなに簡単に死ぬことは許せない。殺した奴を討てば、少しは慰めになるだろうか?
いや、考えるな。私に出来ることはもうそれしかない。
襲撃者を追おうとしたが、その前に杏子の死体に黙祷する。胸に大穴が穿たれた無惨な死体。
せめて、苦しまなかったら良かったのだけれど。心からそう願う。
私を、こんな私を仲間と呼んでくれたあなたには感謝してる――だから、あなたの仇は絶対にとるわ。
トドメは杏子のナイフで刺すことにする。自己満足だということは解っているけれど。
――名前を告げた時、気分がすっきりした理由がようやく解ったような気がした。
私は、多分杏子と仲間になりたかったんだ。
頭ではいろいろ理屈付けて否定していたけれど、心の底ではこの強い少女に憧れていた――
だから『泥棒さん』ではなく『ロビン』と呼ばれることを無意識のうちに望んでいたのだろう。
ああ、私は本当に馬鹿だ。今頃こんなことに気付くなんて。
だけど、彼女はもう死んでしまった。自分が傍を離れようとしたせいだ。
やっぱり自分は仲間をつくる資格などないのだろう。私は、呪われた女なのだから。
紳士さんを思い出す。お人好しで、心配性で、私のことを気にかけてくれた人。だけど――
「紳士さん・・・ごめんなさい、やっぱり私はあなたの仲間になる資格はないわ」
そう、私は――――たった一人。
銃声を聞きつけたスヴェン達は、慌ててロビンと杏子を探した。
しかし、向かった先の民家の中に二人の姿はなく、銃声が発せられた位置を特定し、駆けつけた頃には全てが終わっていた。
地面に落ちていたのは硝煙をあげるショットガンと、二人分の人影。一つは奇怪な衣装をした男の死体だったが、もう一つは――
胸に大穴を開けた、物言わぬ杏子の死体。
「杏・・・子? チクショオッ!どこのどいつだぁっ!」
トレインが叫ぶ。
傷の手当てをしてくれた優しい少女、仲間の死に強がりながらも涙を堪えられなかった仲間想いな少女。
守れなかった。この少女だけは守ろうと思った――けれど、守れなかった。
昔助けられなかった女性の姿が少女の死体に重なる。自分がその場に居合わせなかったせいでクリードの凶刃の前に散った女性。
一体自分は何をやっているんだ。もう失わないと決めたはずだったのに――
「く・・・そ・・・やはりあの時俺が無理矢理ついていけば・・・」
同じくスヴェンも悔恨の念に打ちのめされていた。
これは明らかに自分のミスだ。女性を二人だけにするなど――紳士失格、自分が情けない。
杏子の身体の上に乗せてあったメモを見る。ロビンからの、置き手紙。
『敵を追う これは私の責任 さようなら紳士さん』
――あのバカッ!一人で背負い込みやがって!
自分のせいで杏子が死んだと思って一人でカタをつける気だ。
『敵』。こいつが杏子を殺した犯人だろう。得物は、ここに落ちているショットガンか。
ロビンは戦いの素人ではないようだが、それでも女性を一人で戦わせるような真似はできない。もう、ミスは繰り返したくない。
せめて彼女は守りきらないと――胸を張ってイヴに会えそうにないな。
一人の女性の死によって怒りに震える黒猫と、一人の女性の身を案じる紳士は、この場所で起こった出来事の当事者達を追って走り出した。
後に残されるのは、殺人者の凶弾に撃ち抜かれた杏子の死体。
無数の岩に全身をメッタ撃ちにされ、ボロボロの肉の塊になった海馬。
女の子を守ろうとして無惨に殴り殺された城之内。
闇のゲームで妖狐に魂を喰われた遊戯。
数々の苦難を共に乗り越えた最高の仲間達は、遂にこの殺人ゲームで互いに出会うことはなかった。
バラバラになった千年パズルのように離れ離れにされた彼らは、結束の力を発揮することは出来なかったのだ。
遠く離れた列車の中、デイパックの中で千年パズルのピースが擦れ合い――カラリと悲しげな音を立てた。
【茨城県と栃木県の県境付近/一日目・夜】
【スヴェン・ボルフィード@BLACK CAT】
[状態]:肋骨数本を骨折、胸部から腹部にかけて打撲(全て応急処置済み)
[装備]:ジャギのショットガン(残弾18)@北斗の拳
[道具]:荷物一式(支給品不明)(食料一食分消費)
[思考]1:ロビンを追う
2:イヴ・リンスと合流
【トレイン・ハートネット@BLACK CAT】
[状態]:左腕・左半身に打撲、右腕肘から先を切断、行動に支障あり (全て応急処置済み)
[装備]:ディオスクロイ@BLACK CAT(バズーカ砲、残弾1)
[道具]:荷物一式 (食料一食分消費)
[思考]1:杏子を殺した犯人を追う
2:ラオウを倒す
3:主催者を倒す
【ニコ・ロビン@ONE PIECE】
[状態]:右腕に刀傷
[装備]:千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
[道具]:荷物一式(二人分)、ミクロバンド@DRAGON BALL
[思考]:1:桃白白を追い、殺す
2:アイテム・食料の収集
3:死にたくない
【桃白白@DRAGON BALL】
[状態]:気の消費は中程度、血が足りない、傷は白銀の癒し手により塞がった(安静にしてないと開く)
[装備]:脇差し
[道具]:支給品一式(食料二人分、二食分消費)
[思考]:1 ロビンから逃げる
2 参加者や孫悟空を殺して優勝し、主催者から褒美をもらう
【真崎杏子 死亡確認】
【残り69人】
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最終更新:2024年06月19日 00:23