0289:踊る少年少女 ◆ZnBI2EKkq.




「・・・・・・よかった・・・」
一言一句を聞き漏らすまいと強張らせていた身が軽い。
まもりは夕闇の濃くなった山間の―――まばらに民家が並ぶ寂しい場所にいた。
陽が翳り、自分の影が薄まっていく。

(セナ・・・無事だった・・・!)

安堵するのも、つかの間である。
今回の犠牲者は27人。前回の倍近い数に昇り、熾烈も極まった状況にまもりは身震いした。

(怖い・・・)
こうしている間にもどこかで見知らぬ強敵が徘徊し、セナに襲いかかろうとしている。
(セナ・・・セナ・・・)

彼は無事なのか?どこでどうしているんだろう。
心細く震えていないだろうか?どれだけ思考を重ねても会えない限り、彼の現状はわからない。

先ほど見た不吉な夢は何かの暗示だろうか。いや、そんなはずはない。絶対に!
振り払っても影のように纏わりつく不安に、まもりは苛立っていた。
どれだけ人を殺そうと彼が無事でいなければ、まるっきり無意味だから。

(会いたいよ、セナ・・・)

彼を守るためなら命を捨てる、悪魔になろうと構わないと、強く心に決めたはずなのに。
放送を聞いた途端にまた心細くなる自分がいる。
(弱気になっちゃダメ!まだ敵はたくさん残ってるんだから・・・!夜が来る前に作戦を考えなきゃ)

まもりは先ほどの男(子供?)から奪った武器を考える。
装飾銃に高性能時限爆弾。アノアロの杖。

(奪ったり、奪われたり、ね。どう使おうかしら。
 いくらなんでも、この銃は重すぎるわ。弾も入っていないし、カプセルに戻しておこう。
 アノアロの杖に時限爆弾か・・・杖は使えそうだけど、爆弾は・・・)

例えばニュースでよく流れるテロなんかでは人の多い銀行や広場、ショッピングモールに仕掛けられる。
とはいえ、人の集合する場所など、このゲームでは望めない。
徒党を組む者たちがいたとしても他者からの攻撃や禁止エリアを避けるため、絶えず移動を繰り返していることだろう。
ならば集団を見つけて、なんとか入り込み、誰かのデイパックかポケットにでも忍び込ませてみてはどうだろうか。
『場所』がダメなら『人』に直接仕掛けるしかない。上手くいくだろうか?

(でも、どうやって集団に入り込むにしても今までとは勝手が違うわ。
 多人数を相手にどこまで騙し通せるかしら)
絶対にボロは出せない。死者の数が半数を超えた今となっては警戒も厳しくなっているはず。
失敗すれば、武器を奪われリンチの末に殺されるだろう。逃げられる確率は低い。
無駄死にが一番嫌だ。死を免れない状況なら、できるだけ多人数を巻き添えにしたい。
でないとセナが家に帰れなくなってしまう。

(・・・なんにせよ、この杖を使いこなす練習が先ね。爆弾はチャンスを待つしかないわ)

まもりは辺りを警戒しながら、適当な小屋に身を潜めた。



一方、その頃。



「L・O・V・E・お・つ・う!!」
「声が小ざぁいィ!! もっど大ぎぐゥゥ!!」
「L! O! V! E! お! つ! う!!はい!」








           L O V E   ラ ブ リ ー お つ う
           L O V E   ラ ブ リ ー お つ う

                        お前それでも人間かぁ~~           
                        お前の母ちゃん何人だァァ!!


                             バ キ ィ ッ



「ナンバー2ゥゥゥ!!声が聞ごえんぞォォ!!腑抜げだ音出じでんじゃねえェェ!」
怒鳴り散らすは小柄な眼鏡の少年。和装、ハート印のハチマキ(手製)を額に巻いている。
「痛ってえ~~!!何すんだお前ェ!歌詞なんかわからねーよっ!」
答えるのは不満丸出しの表情をした青年。背は高く長髪、スポーツマンらしい服装である。
「返事は『ハイ』だ!!わがっだが!?わがっだらもう一度俺の後に続げェェ!!」
眼鏡の少年は両腕を振り上げ、リピートアフターミーと叫んだ。


                               ゴ ォ ン ッ

長髪少年の回し蹴りが眼鏡少年の後頭部にヒットする。
「い゛ったあああっ!お前ソレ、隊長に向かって蹴りはないんじゃないの!?
 しかも神聖なデビュー曲の途中でさぁ!」
「うるっせーよ!!さっきから同じ曲ばっかり・・・じゃなくてェェ、さっきから言おう言おうと思ってたけどよォ!
 こんな時に歌なんか歌うな!!危険なんだよっ!!」
「君は空手をやっていた割にコブシがきいてないな」
「全然上手くねーよ!お前こそ声枯らしてまで歌ってんじゃねえよ!ジャ○アンの母ちゃんそっくりじゃねえか!」
「むッ、NO.2静かに・・・」
ツッコミを制し、新八は若島津に黙るよう指示を出した。

なにやら、周りが焦げ臭い。
歌まで歌っていて今の今まで気付かなかったというのも妙な話だが、
アレは歌うというより歌詞を絶叫しているという表現の方が正しく、
嗅覚より肺の方に神経を集中させていたため起こってしまった珍事である。
そんな前置きは別にどうでもいい、とにかく彼らは異変に気付いた。

火事か?新手の攻撃?若島津は警戒し、迎撃体勢(つまり逃亡に適した姿勢)をとった。
だって災害に正拳や突きは通用しない。辺りの空気は色を帯び、灰と有毒ガスの嫌な臭いが2人を包む。
とにかく開けた場所に逃げようと若島津は新八の腕を掴む。
しかし突如、新八は若島津の手を振り払い、あさっての方角に向けて素っ頓狂な声を上げた。

まさか、ついにイカレ・・・

「後ろォ!NO.2、後ろォ!!」

新八の指差す方に若島津が振り向くと、近くの木造の小屋が黒煙を吐き出していた。
その入り口から1人の少女が咳き込みながら転がり出てくる。

少女は声に気付き、こちらを見る。ところが若島津と目が合った途端、身を翻して逃げた。

「ご・・・誤解だーー!!俺たちは怪しい者じゃない!!(ちょっと歌ってただけじゃないか)」

若島津の叫びに耳も貸さず、少女の足は止まらない。

そんな、全力で逃げなくても・・・少女の態度に多少のショックを受けつつも、
サッカーで鍛えた抜群の瞬発力で、あっという間に若島津は少女のすぐ隣まで接近した。
しかし一体全体どこを掴んだらいいのやら。
相手が男なら話は簡単、足を引っ掛けスッ転ばせて「ゴメン」の一言で済ませればいい。
若島津はたった数mを走る短い時間に大いに迷う。
ボロボロの制服から伸びた華奢な――――白く細い手足は、強く握れば折れてしまいそうだ。
若島津は仕方なく少女が失速するのを待つことにする。

一方、煙を吸ってしまい気分が悪くなったまもりは、突然の敵の出現に戸惑っていた。
敵―――のはずである。セナ意外は皆敵だ。なのに、彼は心配そうに見るばかりで手を出してこない。
(何、この人、敵意がないの?だったら・・・)

中途半端に両手を構えた状態で並走し若島津は説得する。
「俺たちは君の敵じゃない!何もしないから止まってくれ!」
「コホッ、コホッケホッ・・」
「ご、ごめん、でも本当に何もしないから・・・」

まもりは痛む喉を押さえる。苦しい、でも、杖を使うなら相手が油断している今しかない。
(焼く・・・!)
アノアロの杖を握り締め、至近距離にいる若島津に向けて突き出した。
その瞬間、杖は予期せぬ方向にぐいと引っ張られ、
放射された火炎は若島津の腹の横を轟音を立てて素通りした。
「!?」
「な、何だンゴッ!!」
同時に、新八隊長のツッコミかかと落としが若島津の脳天に直撃した。

「ごの大馬鹿者ォ!!婦女子を怖がらせるとは恥を知れい!貴様それでも親衛隊かァ!」
(無実だ・・・)と心の中で突っ込みを入れながら地に伏す若島津。
新八はまもりの手から奪った杖を返し、

「君も、脅えなくていいから。ごんなもの仕舞いなさい」

と、濁声で言った。



「・・・・・・で、君あぞの杖で火を起ごぞうといで失敗じた、ろ。災難らったね」
「い、いえ・・・私が迂闊だったんです」
「志村、お前もう喋らない方がいいんじゃないか?」
その後、ボヤをくい止めるために消火活動を行った親衛隊。
先陣を切った隊長は煙を吸い込んで虫の息である。

そして休憩を兼ねて民家に入り、現在に到った。
畳敷きの和室の中央に瀕死の隊長が仰向けに寝転がり、それを挟んで若島津とまもりが座っている。

「驚かせちまって悪かったな。俺は若島津。こっちは志村・・・隊長だ」
「私は姉崎まもりです。こちらこそ本当にごめんなさい」
「済だごどべす。気じじだい゛でぐだじい(済んだ事です。気にしないで下さい)」
「でも・・・」
新八は寝転んだまま親衛隊必須アイテムの『通』と書かれたハチマキを懐から取り出した。
袴を破って作った手製のものらしい。
「ごべおぎびじ(これを君に)」
「え?・・・あ、ありがとうございます・・・」
「馬鹿ァァ!そんなもん渡すなよ!って、君もしなくていいからっ!こんなん入らなくていいって!」

閑話休題。

まもりが杖の実験に失敗したのは事実である。
説明書を読み、大きさからアウトドア用の大型ライターのような物だろうと解釈したまもりは、
火力を確かめるべく近くの小屋で拾った廃材の一つに向けて発射してみた。
ところが発射された火炎は思いの外威力が強く、そして運の悪い事に廃材には燃えやすい薬品が染みこんでいた。
燃え上がる火を消すために慌ててペットボトルの水をかけたが逆効果。
粗末な小屋に瞬く間に有害な煙が充満し、命からがら飛び出したというわけだ。そこは正直に話した。
杖の機能を見られた以上、隠しても仕方がないし、相手方の情報を引き出すにはある程度自分を曝した方がやりやすい。

なにより、まもりには気になる事があった。

(この志村って人、京都で冴子さんが殺し損ねた男の子よね・・・ちゃんと生き残ってたんだわ)
眼鏡が曇り、顔は腫れて煤で真っ黒。まもりから杖を奪った一瞬の勇姿は幻のごとく。
よく見れば全身所々に怪我を負い、大分疲れている様子である。
(冴子さんにやられたのかしら、それとも、別の敵?大阪にいた子供?京都の紳士さん?帽子の子はどこに・・・?)
「どーじらど?ぼぐどがおじらじがづい゛でるろ」
じっと見つめるまもりの視線に気付き、新八は起きようとする。
「いえ、あまりにも酷い顔の傷だったから・・・一体どこで襲われたんですか?」
「ぐぼぼばばぼ(いや、話すと長くなるんだけどね。そこの空手男がさぁ)」
「志村ァ!話は俺がするから、お前はうがいと休憩してこい!」

たしかに自分が誤解から新八を何度も殴打したのは事実だ。
ゲームに対する憤りを、仲間の死に対しての怒りを、激情のままに少年にぶつけてしまった。
そのことは充分悔いているし、殴った数だけ(むしろ倍の)ツッコミを受けた。
女性を死なせてしまった件にしても正当防衛であるし、新八が責められる云われはない。
しかし、それは今この場で少女に言うことだろうか。

一見して平静を装っているが、緊張で動作はぎこちなく、常にこちらの表情を窺っている。
見知らぬ男2人に対し過度に脅えているのが手に取る様にわかった。
まだ話すのは控えた方がいい。それに新八を静かな所で休ませないと、いちいちツッコミをいれて(本人の)休息にならない。

若島津は風邪をひいたカバのような唸りで抗議する新八に水と毛布を押し付けて、部屋の外に追い出した。
観念するまで、襖を押さえ足音が遠ざかるのを確認すると若島津は改めて、まもりと向き合った。

「正直に言うとアイツを殴ったのは俺だ。ちょっと誤解があってな、ケンカになった」
「・・・ケンカ、ですか」
「さすがにやりすぎたと反省はしてるよ。言っとくが俺も殴られたんだぜ?」
若島津は欠けた前歯を指差して笑う。
しかし、少女は笑うどころかいきなり2人きりの状況になったことで体の緊張を一層強めた。
女の子の扱いは難しい。若島津はケンカの原因を突っ込まれても困るから話題を変えた。

「君の方こそ怪我は大丈夫か?」
「え?」
青年が自分のこめかみを指差している。
(ああ、冴子さんに殴られたんだっけ・・・)
「大丈夫です。たいした傷じゃありません・・・(どうしようかな、どうやって殺そう)」
まもりは突然青年と2人きりの状況に落ちた。でも、どうすることもできない。
アノアロの杖の能力は見られてしまったし、青年との体格差を覆し素手で戦うのは無理がある。
杖はカプセルの中にある。志村という少年の眼力に押されて片付けてしまった。
(たった2人きり相手に爆弾は勿体ないわ。これは切り札。まだ使えない。
 この人たち、何か武器は持っているかしら)
手持ちの武器では殺せない。もっと、もっと情報を聞き出さなければ。
「大丈夫じゃないだろ、服なんかボロボロじゃないか」

身体を焼かれかけたというのに、すっかり同情している。とんでもないお人好しだ。
「あ、これは・・・ごめんなさい、自分の身体にまで気が回らなくて」
無我夢中で行動するうちに衣服のあちこちに付着した血や埃。傷。
いつの間にか怪しまれても言い訳の仕様がない格好になっていたが着替えなどない。
洗わなきゃと思う反面、まったくと言っていいほど自分に対する警戒をしないこの青年と少年には呆れていた。
自分が殺さずともいずれ他の参加者に殺されるのではないかとまもりは思う。

「・・・大変だったんだな、女1人で。俺も志村も仲間亡くしたばっかでさ、
 さっきの歌もなんつーか、弔いだーっ!てアイツは言ってたけど。
 まあ、声出して動いてたほうが沈まないで行動できるしな。
 でもいい加減、休息が必要だったところだ。君のおかげで、上手く休めたよ」
若島津は羽織っていたジャージを脱ぎ、まもりの小さな背にかけた。
まもりは思わず若島津の顔を見る。照れくさそうに「それ、やるよ」と笑った。
――――貰えない。まもりはそう言おうとしたが、顔が歪んでしまうのを恐れて、目を逸らした。
自分は殺意のないお人好しばかりと出会う。
いっそ冴子さんのように憎しみに囚われた人間ばかりだったら良心も痛まないのに。

若島津は特に気分を悪くした様子もなく話を続けた。
まもりは食糧事情に支給品、出身地や仲間の情報を聞く。
同時に、自分の情報も行動に障らない程度に小出ししていく。
そして、話題は『脱出』に移った。

「俺たちと行動しないか?琵琶湖に行けば、この糞ゲームから脱出できるかもしれないんだ」

まもりの心臓が、大きく、跳ねた。

「本当かどうかはわからない。胡散臭い話だと俺は思う。
 でも万が一ってこともあるし、集まった人たちで協力すれば助かる可能性は広がると思う」

若島津は新八から聞いた藍染の脱出計画を語りだした――――



【三重県、山中/1日目・夜】

【新! 寺門お通ちゃん親衛隊】
【志村新八@銀魂】
 [状態]:重度の疲労、全身所々に擦過傷、特に右腕が酷く、人差し指・中指・薬指が骨折
     顔面にダメージ、歯数本破損、キレた、うがいして別室で休息中
 [装備]:拾った棒切れ
 [道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)、毒牙の鎖@ダイの大冒険
 [思考]:1、越前と琵琶湖で合流する。
     2、藍染の「脱出手段」に疑問を抱きながらも、それを他の参加者に伝え戦闘を止めさせる。
       (新八本人は、主催者打倒まで脱出する気はない)
     3、まもりを守る。
     4、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
     5、主催者につっこむ(主催者の打倒)。

【若島津健@キャプテン翼】
[状態]:中度の疲労、拳に軽傷、顔面にダメージ、前歯破損、寺門お通ちゃん親衛隊ナンバー2
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料一日分消費)、ベアークロー(片方)@キン肉マン
[思考]:1.まもりに藍染の話をする。琵琶湖に連れて行く。
    2.翼と合流。
    3.主催者の打倒。

【姉崎まもり@アイシールド21】
 [状態]:殴打による頭痛、腹痛、右腕関節に痛み(痛みは大分引いてきている)、以前よりも強い決意
 [装備]:
 [道具]:高性能時限爆弾、 装飾銃ハーディス@BLACK CAT、アノアロの杖@キン肉マン
     荷物一式×3、食料四人分(それぞれ食料、水は二日分消費)
 [思考]:1、若島津の話を聞く。『脱出』に心が惹かれている?
     2、セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)。
     3、セナ以外の全員を殺害し、最後に自害。


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0255: 姉崎まもり 0323:つぐない
0244:サムライスピリッツ、燃ゆ 若島津健 0323:つぐない
0244:サムライスピリッツ、燃ゆ 志村新八 0323:つぐない

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最終更新:2024年05月03日 01:25