0323:つぐない ◆B042tUwMgE




 今日、初めて人を殺した。
 本当は殺したくなかった。
 でも殺さざるをえなかった。
 だって、参加者名簿にセナの名前があったから。
 私はあの子に死んで欲しくない。
 だから、私はあの子を守る道を取った。
 セナ以外の全員を殺す。
 完璧な防衛方法だ。
 でも、本当にそんなことが出来るのだろうか?
 なんの力も持たない非力な私に、セナ以外の全員を抹殺することなんて。
 もちろん最初は不可能だと思った。
 それでも、やれば出来るものだった。
 一人目を殺した時――私はやれるんだ、セナを守れるんだという自信を手に入れた。
 だから、大阪で出会った銀髪の少年に武器を奪われた時には大層絶望した。
 それまで私が三人もの人間を殺すことが出来た力が、一瞬にして全部喪失してしまった。
 私は新たな力を求めた。
 するとどうだろうか。
 私の前に、神様は新たな力をよこしてくれた。
 それは以前のものに比べると随分使い勝手が悪かったが、どれも強力なものには違いなかった。
 私は歓喜し、嬉しさのあまり四回目の殺害におよんでしまった――あの子のことは、あえてそう解釈しよう。
 そして、私は新たな出会いを果たした。
 ――するべきことは、決まっている。
 なのに、彼らはまた私を迷わせるような言葉を吐いた。
 脱出。
 このゲームから抜け出せる。
 セナも、私も。
 二人、一緒に。
 私は悩んだ。
 彼らはその具体的な脱出方法というものを知らないらしいが、脱出を提案してきた藍染惣右介という人はやけに自信満々だったそうだ。
 信用できるだろうか。
 私はその藍染という人のことを何一つ知らないし、彼がどんな手を使って脱出するのか想像も出来ない。
 琵琶湖に大人数を集める。
 その先に待っているのは本当に脱出だろうか?
 ひょっとしたら、罠ではないか。
 脱出に縋るような弱者を大量に集めて、虐殺しようとしているのでは。
 その考えに至って、私はある一つの手を考えた。
 私のデイパックに潜んでいる、高性能時限爆弾。
 これを活用するのはどうだろうか。
 まず実際に琵琶湖で藍染と会ってみて、本当に脱出ができるようなら脱出する。
 もし無理のようなら……その場にいるであろう大量の参加者を巻き込み、爆弾を使う。
 これならどちらに転んでも大丈夫。
 問題はもし罠だとした場合、爆発に巻き込まれない範囲までセナを逃がすことが出来るかだけど……
 あ、セナ。
 そうだ。
 この計画には、セナの存在が絶対だ。
 もし本当に脱出できるのだとしたら、絶対にセナも一緒でなければならない。
 そこまで考えてから、私は新たな問題に気づいた。
 セナを探さなければならない。
 そして、セナと合流しなければならない。
 ……私が?
 悪夢だった。
 私に、セナと顔を合わせろと?
 もちろん私だってセナには会いたい。
 セナだって、今頃私を探し回っているかもしれない。
 でも、今の私を見て、セナはどんな顔をするだろうか。
 今の私は、もうセナの知っている姉崎まもりじゃない。
 人を四人――無力な子供から、知人まで殺した凶悪犯だ。
 そんな私を見て、セナはどんな顔をするか。
 考えたくない。
 考えられない。
 私は気が狂ってしまいそうだった。
 時々、若島津さんが私を気にかけてくれた。
 またこのパターンだ。
 初めは優しく接して交友を築いても、結局は私が殺してしまう。
 なら最初から殺してしまえばいい。
 下手に仲良くなる前に、未練が残らぬうちに。
 でも、今の私の手持ちでは、そんな簡単にはいかなかった。
 それに脱出の件も残っている。
 私は極力この人たちに甘えないように注意を払いながら、行動を共にした。

 琵琶湖に辿り着いた。
 藍染という人が語る、脱出志望者の集合地点。
 しかしそこには誰も居らず、ただ飲み込まれそうになるくらい黒光りした湖が、私の視線を奪っていた。
 当の藍染という人はまだ来ていないのか、それともどこかに潜んでいるのか。
 私は細心の注意を払いながらも、巨大な水面に月を反転する琵琶湖を凝視していた。
 琵琶湖の水深って、どのくらいだろう。
 ひょっとしてこの二人、カナヅチなんてことはないかな。
 私は琵琶湖の美しさに触れてまで、人間を殺す方法を考えていた。
 うん、私は正常だ。
 やがて、私たちは湖畔に位置する小屋で休息を取ることにした。
 志村さんの友達の越前って子もまだ来ていないみたいだし、なにより二人とも疲労が蓄積している。
 夜も遅いし、そろそろ一休みしてもいい頃だろう。
 でも、私は休むわけにはいかない。
 どうしよう、どうやって殺そう。
 でも、もし脱出が本当にできるんだとしたら。
 希望という名の可能性が私の行動を拒む。
 藍染という人は、できるだけ多くの参加者が集まることを望んでいる。
 ここで二人を殺してしまったら、脱出の計画に支障が出てしまうのではないか。
 それに、私はセナに会うわけにはいかない。
 だとしたら、どうやってセナを連れてこよう。
 どうやって、琵琶湖に行けば脱出できるかもしれないと伝えよう。
 どうすれば……

 しばらく考えて、私は思いついた。
 思いついてすぐさま、行動に移すことにした。
「越前君まだ来てないのかなぁ……もう夜も暗いし、道に迷っていなければいいけど」
 志村さんは、もう一人の仲間の行方を案じている。
 私に注意はいっていない。
「しっかし今日は疲れたなぁ。あー早くこんなとこオサラバしてぇ」
 ここまで志村さんを担いで来たせいだろう、若島津さんは誰よりも疲れ果てていた。
 私に注意はいっていない。
 今なら、やれる。
 今なら、逃げ出せる。
 私は咄嗟に駆け出し、小屋の扉を開いた。
 その拍子に吹き込んできた風に反応してか、二人が同時に振り向く。
「――――」
 何か呼びかけているような気がした。
 もちろん私にだろう。
 でも、私は振り向かなかった。
 小屋から抜け出し、夜へと溶け込んで行く。
 二人から離れ、再び殺戮の世界へと舞い戻る――

 ~~~~~

 やっと骨休めができると思った。
 と思ったのに、いきなり予測外のことが起きた。
「っ!? おい、どこ行くんだよ!?」
 姉崎まもりが、小屋を出て行ってしまったのだ。
 何も告げずに、駆け足で。
 トイレ……じゃないよな。
 俺が呼び止めても姉崎は止まろうとしなかった。
 なんの目的があってか知らないが、こんな真夜中に一人で行動するのは危ない。
「ックソ、どうしたってんだよ!? 志村、おまえはここにいろ! 俺が連れ戻してくる!」
「へ!? あ、ああ、分かった」
 俺はまだ体調が万全ではない志村を残し、小屋を飛び出した。
 俺だってもう走りたくなんてなかったが、さすがに動かずにはいられなかった。
 あー! ったく、こっちはさっさと休みたいってのに!
 あの女はいったい何を考えているのか。
 世話が焼けると思いながらも、俺の脚はなんだかんだで速かった。

 ~~~~~

 姉崎さんが突然出て行ってしまった。
 なんだろう、トイレかな?
 すぐに追いかけようとしたけど身体が思うように動かず、若島津ことナンバー2が率先して追いかけて行ってくれた。
 やるじゃないかナンバー2。
 隊長の身体を気遣い自ら前へ出るなんて。
 お通ちゃんへのラブはまだまだだけど、あいつは将来性あるよ。
 それにしても越前君、本当にどうしちゃったんだろう。
 別れたのが昼頃だから、もうとっくに着いててもおかしくないんだけど。
 他の小屋にいるのかな。
 それともまさか……いやいやそんなまさか。
 頭の中に押し寄せた悪いイメージを振り払っていると、ふとテーブルにメモ書きのようなものが置かれていることに気づいた。
 なんだろうと手に取ってみると、そこにはヘタクソな字でこう書かれていた。

 /
 これはちゅうこくのてがみです
 このびわこにきたひとにはふこうがおとずれます
 あいぜんというひとがびわこにひとをあつめているのです
 あいぜんはあくにんでひとをころしたりものをうばったりします
 これはうそではありません ほんとうです
 ぼくのともだちのいしざきさんはあいぜんとであったためしにました
 このてがみをみたひとはなかまやであったひとたちにつたえてください
 /

 ……………………

 ええええええええええええええええェェェェェェェェェ!?
 ウソ、ちょ、これ、ウソォォォォォ!!?

 ~~~~~

 彼が私を探している。
 どちらの彼だろう。
 私は暗闇に隠れ、目を細めて顔を確認する。
 ……若島津さんだ。
 私にジャージを貸してくれた、優しい人。
 話によれば、あの人もヒル魔くんたちのようにスポーツをしているらしい。
 確かサッカー選手だったかな。
 きっと有望な選手なんだろうな。
 行動力はあるし、優しいし、男の人としても魅力的だと思う。
「動かないで」
 できればもっと違った出会い方をしたかった。
 こんな殺人劇の舞台ではなく、普通の日常で。
「……な!? なんの真似だよ、姉崎!?」
 私が背後から銃を突きつけると、彼は案の定驚いた顔をしていた。
 そりゃそうか。
 何しろ今まではおとなしい非力な女の子を演出していたのだ。
 そんな娘にいきなり銃を突きつけられれば、驚くのも当然か。
「振り向かないで、私の話を聞いて。そうすれば、今は殺さないでいてあげる」
「…………」
 私がそう言うと、若島津さんは押し黙ってしまった。
 よかった。
 ここで強攻策にでも出られたら、たまったものじゃない。
 私が彼に向けている銃、ハーディスは、私が扱うには強すぎる代物だ。
 反動を考えれば、私のひ弱な肩くらい簡単に外れてしまうかもしれない。
 まあでも、この距離なら確実に相手の命は奪えるだろうけど。

「いい? あなたに一つ、やって欲しいことがあるの」
「…………」
 若島津さんは私の言いつけどおり無言を保っていた。
 本当に利口で助かる。
「あなたに、小早川セナという参加者を探して欲しい」
「…………」
「そして、その子も一緒に脱出させてあげて」
「…………」
「もし、万が一脱出が嘘だった場合……あなたは命懸けでセナを守って」
「…………」
「絶対に死なせちゃ駄目。自分の命を捨ててでも、セナを守って」
「…………」
「それともう一つ。私のことは、一切セナには内緒。名前も出しちゃ駄目」
「…………」
「もし、この中の約束を一つでも破った場合……」
「…………」
「私が、あなたを殺しに行く」
「…………」
「どこにいようとも、必ず追いかけて殺しに行く」
「…………」
「逃げたって無駄。私が、必ずあなたを殺す」
「…………」
「……分かったなら、約束して」

 ……ふぅ。
 一人で淡々と喋っちゃったけど、ちゃんと私がして欲しいこと伝わったかな。
「……銃、下ろせよ」
「駄目」
 若島津さんが発言した。
 ……ひょっとして分かってもらえてない?
 もし若島津さんが分かってくれないなら、仕方ないけど……
「おまえは、どうするんだよ」
 若島津さんが訊いてきた。
「私……?」
「そうだよ、おまえ。おまえは脱出しないのか? そのセナって奴も、一緒に探したほうが早いだろ?」
「私は……駄目」
「なんで」
「私は、人殺しだから」
「ッ!?」
 若島津さんが目を見開いた。
 相当驚いているようだ。
「私は……既に四人もの参加者を殺した。立派な人殺し」
「…………」
「こんな私が、今さらセナに会えるわけないじゃない。ううん、会っちゃいけない。会っちゃ……」
 本当は、会いたい。
 でも、会いたくない。
 セナに、人殺しの姉崎まもりなんて見せたくない。
「本当は会いたいんだろ?」
 会いたくない。
「会いたいって言えよ。涙流しながら言ったって、説得力ねーんだよ」
 うるさい。
 会いたいに決まっている。
 だから涙も出る。
 こんな嘘つきたくない。
 でも、会えないんだから仕方がない。
 ……ああ、そうか。
 この時、私は気づいた。
 これは、私が犯した罪に対する罰なんだ。
 四人もの人を殺して、その人に関わる全ての人に悲しみを与えて。
 今さら自分だけが幸せになれるもんか。
 私は、脱出もできなければ生き残ることも出来やしない。
「私は、セナを助けて」
 それが、私がやらなければいけないこと。
「私は、このゲームで死ぬ」
 それが、
「……償いだから」
「…………」
 若島津さんは、無言で聞いてくれた。
 助かる。
「…………じゃーね。約束、ちゃんと守ってね」
 私は銃を向けながら、ゆっくりと後ずさる。
 最後まで、若島津さんは振り向こうとしなかった。
「あなた達が無事に脱出できることを祈ってる」
 嘘じゃなかった。
 こんな私が言うのもなんだけど、二人には生きて欲しい。
「……セナを、よろしくね」

 ~~~~~

 ……なんだったんだよ、今のは。
 姉崎が去ったあと、俺はしばらくその場で呆けていた。
 姉崎が人殺し?
 セナを探して守れ?
 このゲームで死ぬ?
 償い?
 ワケわかんねぇよ。
 あいつはなんでそんなに重苦しいもん背負ってんだよ。
 セナってのはそうまでして生かしたい奴なのか?
 俺にはわかんねぇよ。
 わかんねぇけど。

「……あんな悲しそうな顔した奴、放って置けるかよ」
 俺は走った。
 疲れとかそんなもん、全部無視して。
 あの悲痛な女の目を覚まさせるために。
 どんな理由があれ、人殺しなんて許せるか。
 しかも人を殺したから自分も死ぬなんて、バカじゃねーの?
 姉崎、おまえバカだよ。
 俺はおまえの思い通りにゃならねーぞ。
 セナって奴も、おまえも、絶対一緒に脱出させる。
 そんでもって、おまえに一言言ってやる。

「……バカやろう」
 こちとら疲れてるんだよ、チクショー。




【滋賀県 琵琶湖畔の小屋/真夜中】

【新! 寺門お通ちゃん親衛隊】
【志村新八@銀魂】
 [状態]:重度の疲労、全身所々に擦過傷、特に右腕が酷く、人差し指・中指・薬指が骨折
     顔面にダメージ、歯数本破損、キレた
 [装備]:拾った棒切れ
 [道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
     毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
 [思考]:1、星矢の残したメモの内容に激しく動揺。
     2、越前・若島津が来るまで待機。
     3、藍染の「脱出手段」に疑問を抱きながらもそれを他の参加者に伝え戦闘を止めさせる。
       (新八本人は、主催者打倒まで脱出する気はない)
     4、まもりを守る。
     5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
     6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。


【滋賀県 琵琶湖畔/真夜中】
【若島津健@キャプテン翼】
 [状態]:重度の疲労、拳に軽傷、顔面にダメージ、前歯破損、寺門お通ちゃん親衛隊ナンバー2
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式(食料一日分消費)、ベアークロー(片方)@キン肉マン
 [思考]:1、まもりを探し、連れ帰る。
     2、セナを探す(まもりの約束に従うかは未定)。
     3、翼と合流。
     4、主催者の打倒。

【姉崎まもり@アイシールド21】
 [状態]:殴打による頭痛、腹痛、右腕関節に痛み(痛みは大分引いてきている)
     以前よりも強い決意
 [装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
 [道具]:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン
     荷物一式×3、食料四人分(それぞれ食料、水は二日分消費)
 [思考]:1、殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない。
     2、若島津とセナが無事脱出してくれることを祈る。
     3、セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)。
     4、セナ以外の全員を殺害し、最後に自害。


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0289:踊る少年少女 姉崎まもり 0342:静かな湖畔の森の影から
0289:踊る少年少女 若島津健 0342:静かな湖畔の森の影から
0289:踊る少年少女 志村新八 0341:暴走列島~原点回帰~

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最終更新:2024年06月15日 14:49