0292:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険~炎の瞳~




蔓延する血の臭い。四つの死体が放つ、生々しい悪臭。
通常なら無視することのできないそれも、一人の男の強烈過ぎる存在感のせいで気にならなかった。
「わしが男塾塾長、江田島平八である!!」

「――む!」
聞き違えようのない大声を耳にし、雷電は江田島の居場所を察知した。
塾長が名乗りを上げたということは、そこに他の誰かがいるということに相違ないはず。

「塾長!」

速めた歩みで駆けつけたそこには、雷電の読み通り見知らぬ男性が二人、江田島と対峙している姿があった。
そして二人のすぐ傍には、死体入りの血の海が広がっている。
これは一体どういう図式なのか。雷電が困惑する中、江田島が再び口を開く。

「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!」

全てを飲み込む洞穴のような大口から放たれたのは、江田島平八という男を称える上で欠かせない名言だった。


今さら説明する必要もないと思うが、大空翼は無類のサッカー大好き少年である。
年齢はもはや青年と称しても問題ないが、彼の蹴球に懸ける直向なまでの情熱は、少年の頃のものとなんら変わりない。
純粋なまでに、サッカーに貪欲で。
殺し合いのゲームに参加させられても、サッカーに飢えていて。
目の前に和服の巨漢が現れても、まずはその屈強な肉体に目が行ってしまった。
そして、彼は思うのだ。
今まで会う人物会う人物に、ついには今さっき死体にまで抱いていた、感想を。
(…………この人なら、きっといい選手になれる!)
承太郎に会った時も、悟空に会った時も、翼は真っ先にその出会いをサッカーと結びつけた。
もう、翼に死体を目の当たりにしたショックは残っていない。
代わりに翼の心を満たしたのは、未知の人物との遭遇による恐怖でもなく。
サッカーに懸ける、情熱ただ一つ。

――わしが男塾塾長、江田島平八である!!!――

目の前の巨漢は、この互いが何者かも分からない状況で、二度も自分の名前を名乗った。
その意図はなんなのか。簡単なことだ。思考がサッカー全開となっている今の翼には、すぐに理解できた。

――如何なるスポーツにおいても、『声を出す』というのは大事なことだ。それがチームワークを重要視するサッカーなら、尚更のこと。

だから、翼はそれに応えた。
臆することはない。相手はスポーツマンらしく自己紹介をしているに過ぎない。ならば自分もスポーツマンらしく接するだけだ。

「――僕の名前は、大空翼です!!!」

江田島に負けないくらい、自分が出せる精一杯の声で、翼は名乗りを上げた。


ここに到着して、江田島は探していた二人の人物を発見した。
しかしその二人は既に亡き人。再会は、血の海に沈む死体という姿で行われた。
その場には、さらに死者が二人、生者が二人。
どれも顔に見覚えがない。この二人が四体の死体を作り上げたのだろうか?
結論は出ない。だから、一番手っ取り早い方法で確認を取ることにした。
それこそが、二度に渡って名乗りを上げた真実。

翼が江田島に応えて名乗った後、雷電は江田島の後方からそっと声を掛ける。
「塾長……この二人は? 彼らの傍にある死体はまさか……」
雷電は、翼と承太郎の二人がゲームに乗った者なのではという危惧をしていた。
駆けつけたその場で江田島と睨み合い、牽制し合っている(ように見えた)状態から察するに、

「喝ッッッッッッッーーーーーーーツ!!!!」

「「「――――!!?」」」
江田島の突然の一喝により、その場にいる全員が動きを止められる。
雷電に至っては思考を無理やり中断され、近距離からの怒声に耳を震わせていた。
江田島はそんな雷電に向き直り、穏やかながらも厳格な声で言う。
「雷電よ。お前はこの二人がゲームに乗った参加者なのでは、と危惧していたのであろう」
「は? はい」
考えていたことを簡単に言い当てられ、雷電は不思議がる。それが分かっているのなら、なぜ塾長は自分の言葉を止めたのか、と。
そして江田島は、今度は仲間の――黒崎一護真中淳平の死体に顔を向ける。
「あの二人がわしが言っていた若者達じゃ。
他の二人は知らんが、この中のいずれかがあの二人と戦り合ったと見て間違いないであろう」
四体の死体は、どれもがハッキリと戦闘をしたという形跡を残していた。
「死闘大いに結構! 真の男とは、命を懸けた戦いを通して成長していくものだ」
そう、誰であろうと、それこそが男の本懐。戦いに成長を見い出し、戦って生きていく。
その結果が例えが死であろうとも、男としては立派な最後だ。
桃や富樫も、さぞ見事な散り様を見せたのであろうと心の片隅に留めながら、江田島は言葉を続ける。
「だが、あの二人が戦いを望んでいなかったこともまた事実。
もし誰かが姑息な手であの二人を殺したというのであれば、わしが二人に代わって無念を晴らすべきところだ」
江田島の言葉に出た存在として、最も怪しいのが翼と承太郎。
しかし、江田島はそれは絶対にないと固く信じていた。
「雷電よ、お前は何も感じぬか。あの翼という『男』から感じる魂を」
「魂……」
雷電は翼の眼に視線をやる。
翼の瞳に宿るもの。
それは、サッカーに懸ける情熱を具現化したかのような、熱い炎。
「こ、この者は…………!!」
雷電も、直感で感じ取っていた。この大空翼という青年が有する、『男』を。
それには、どこか男塾塾生の中で一目置かれていたあの男を思い出させるところがあった。

    “キャプテン”

 直接的な意味は、運動団体に於ける主将を意味する言葉として使われる。だがこの称号は誰もが軽々しく
 持てるものではなく、その資格を得るには幾つかの素質が求められる。第一に、人を惹き付ける人格。
 第二に、団体を統率する力。第三に、皆の団結力を高める言語能力。そして何より、皆に慕われるような
 存在感。その全てを持ち合わせて、初めてこの言葉の真の意味を託せるのである。また、航海船の船長など
 にも同様の言葉が用いられるが、これも例外なく資格を持つ条件は同じであると言われる。ちなみに、
 同意義の言葉に「リーダー」などがある。

               民明書房刊『愛・スポーツ~運動至上極論~』より

     “翼”

 その字は鳥類の生物が持つ移動手段である羽、そして「異なる」という意味合いを持つ異、この二文字から
 形成されている。「異」という文字が刻まれたそれは、ここより異なる世界の象徴とされ、一部の地域では
 翼を持つ生物、つまりは鳥類を、異世界から来た侵略者として蔑んでいた。だがその一方で別の見解を求める
 者も出てきていた。「翼は羽と違い、空だけではなくこことは全く違った世界へと飛び立てるのではないか」と。
 その後、翼は単なる大空への移動手段ではなく、いつか異世界をも越える可能性を秘めた大いなる生態パーツ
 の名称として崇められてきた。某国では、空だけではなくどこか遠い彼方まで、果てなく飛躍していってほしい
 という期待を込めて、この文字が子供の名前として扱われることが一般的になったらしい。

               民明書房刊『万国名前事典~その由来~』より

「…………むぅ、彼こそ世に聞く“キャプテン翼”!」
いつの間にか、そのノリに取り残されたのは承太郎一人きりとなっていた。



黒崎一護と真中淳平が、どんな思いで死んでいったのかは、誰にも分からない。
それでもせめて、僅かだが行動を共にした仲間として、江田島は自らの手で二人を埋葬してやることにした。
それこそが、死闘を繰り広げて散っていったのであろう男達に対して、何よりの手向けとなるから。
「僕は、十一人の仲間を集めてるんだ」
二人の埋葬を終え、江田島は翼とお互いのことを話していた。
傍らでは、雷電と承太郎が残りの二人の死体を埋葬するために穴を掘っている。
(ほう……あの主催者を相手に、あくまでも自分の誇れる志を持って立ち向かおうというのか)
普通に考えれば、サッカーで主催者を打倒するなど馬鹿げているにもほどがある。
しかし江田島は、翼の考えを否定したり嘲笑ったりはしなかった。
サッカーこそが、翼にとっての『戦い』であり『信念』だから。
「その心意気や良し! この男塾塾長江田島平八、翼に協力することを約束しよう」
「本当!?」
「男に二言はない!」
江田島は、素直に感動していたのだ。
大空翼という男の、器のでかさに。
翼は男塾の塾生に比べれば軟弱な身体をしているが、それでも男としての器は計り知れないものがある。
このゲームが終わったら、是非とも男塾を紹介したいほど逸材だ。
そう思うほどに、江田島は翼を『男』として認めていたのである。
「あ、でも……」
仲間が出来ててっきり喜ぶかと思いきや、翼は少し迷うような素振りを見せた。
「ん? どうした」
「えっと……気持ちは嬉しいんだけど、塾長は十一人の中には入れられないんだ」
「何故じゃ」
「その、塾長には……『選手』っていうより『監督』の方が向いていると思うから」
それは、なんてことのない理由。こっちの方が、江田島平八という男には適役だから。
思い切って頼み込んだ翼に、江田島は大笑いしながら応えてやった。
こうして、翼のチームに『江田島平八監督』が誕生したのである。


計四人の死体の埋葬を終え、翼たちは改めてお互いの情報を交換し合っていた。
翼と承太郎は、孫悟空という参加者を追っている最中だということ。
江田島は先程埋葬した一護と真中を、雷電は別れたまま何処かで死んでしまったシカマルを探しているということ。
それぞれの組が人探し、仲間集めを目的に動いているということを確認し、改めて協力をする運びと成った。
最も翼と江田島は既に意気投合しているようで、まるで長年連れ添った親友同士のように打ち解け合っている。
(あくまでもサッカーに対して)熱いハートを持った翼は、どこか男塾魂を持った彼らと通じるところがあったのかもしれない。
(ふぅ……ひょっとしてこのゲームに参加しているのは、こいつらみたいなアツイ連中がほとんどなのか?)
夜空を見上げながら、承太郎が思う。
気づけば夜もかなり深くなってきている。
雲ひとつない夜空に浮かぶのは、月光を照らす球体のみ。それが、逆に不気味にも感じられる。
(翼を散々探し回って……気づけばもう夜か)
その間にかなりの参加者が死んだ。
貴重な時間で俺は何をやっているんだ、と承太郎は自分を不甲斐なく思う。
『ヤツ』の情報を握る悟空を取り逃がしたこと、闇夜から連想される『ヤツ』を思えば、尚更のことだった。
(……やれやれだぜ)
ちなみに、翼の荷物は承太郎の危惧したとおり承太郎のものと入れ替わっていた。つまり、翼の荷物は悟空の手元に。
禁鞭がないこと以外は大して変わらないが、もし悟空があれを悪用するようなことがあれば……
(…………本当に、やれやれだ)


「本当に行っちゃうのかい、JOJO君?」
互いに協力することを約束した四人は、とある民家を基点に行動を再会することにした。
と言ってももう夜も深い。これからも生き続けなければならないことを考えると、今のうちに休息を取っておく必要がある。
しかし、雷電はどこぞで散ってしまったのであろうシカマルの捜索を強く願った。
あのシカマルなら、もしかしたら何か有益になるものを残しているのではないかと。
承太郎は、それに同行することにしたのだ。
「心配するな翼。もし悟空を見つけるようなことがあれば、俺が必ず連れてくる。それに……」
「チームメイトになってくれるような人がいたら、ぜひスカウトしてきてよね。
運動神経がいいのはもちろんで、個人プレーに走らない人がいいな。サッカーはみんなで楽しくやるスポーツだからね。
欲を言うならサッカーに詳しくて、僕と語り合えるような人がいたら……」
「…………わかった。心配しないで俺に任せておけ、翼」
翼はやっぱりクレイジーだ。
そう心の奥底で感じる承太郎は、実は彼に付き合うのもそろそろ疲れてきているところだった。
しかし今さら翼の気持ちを裏切る(翼のチームから抜ける)わけにもいかず、
だったらせめてこの中では一番まともそうな雷電と共にいようと思い、近隣の捜索に躍り出た――というのも理由の一部だったりする。
それに……やはり夜になると『ヤツ』の存在が気にかかる。まだ一日目の内、もし悟空が『ヤツ』と遭遇していたのだとしたら。
『ヤツ』がこの近隣にいるという可能性も十分に考えられる。
「では参ろうか、JOJO殿」
「ああ(JOJO…………殿?)」
「お土産はいいから、選手のスカウト頑張ってねー!」
手を振って見送る翼を後ろに、承太郎と雷電は夜へと消えていった。
次に仲間になるのは、もっとクールな奴であってほしいと願いながら。


夜が光を侵食していく。
あと数時間もすれば、舞台は完全に闇に支配される。
闇に支配された世界で、光を掴もうとする者は何を見るのか。





【栃木県・民家/夜】
【大空翼@キャプテン翼】
 [状態]疲労中~大、精神的にやはりやや壊れ気味
 [装備]拾った石ころ一つ
 [道具]荷物一式(水・食料一食分消費)、クロロの荷物一式、ボールペン数本 
 [思考]1:承太郎と雷電の帰りを待つ(しばらく休息)。
    2:悟空を見つけ、日向の情報を得る。そしてチームに迎える。
    3:仲間を11人集める。
    4:主催者を倒す。

【江田島平八@魁!!男塾】
[状態]:健康、監督
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、支給品不明、一護の荷物一式
[思考]:1、「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!」
      (翼と共にしばらく休息)
    2、「日本男児の生き様は色無し恋無し情けあり」


【栃木県/夜】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]疲労、肩・胸部に打撲、左腕骨折(以上応急処置済み)
 [装備]シャハルの鏡@ダイの大冒険
 [道具]荷物一式(食料二食分、水少量消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢
    らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン
 [思考]1:雷電と共にシカマルの亡骸を捜す。
    2:悟空の捜索、翼の仲間になれるような人物の捜索(できればクールな奴がいい)。
    3:バーンの情報を得るべくダイを捜す。
    4:主催者を倒す。

【雷電@魁!!男塾】
[状態]:健康
[装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
[道具]:荷物一式
[思考]:1、承太郎と共にシカマルの亡骸を捜す。
    2、知り合いとの合流。

追記:一護、真中、クロロ、幽助の死体は埋葬しました。


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0288:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険 大空翼 0311:アミバ快進撃~前兆~
0288:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険 江田島平八 0311:アミバ快進撃~前兆~
0288:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険 空条承太郎 0295:混沌体験//~序章~
0288:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険 雷電 0295:混沌体験//~序章~

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最終更新:2024年05月17日 21:04