0295:混沌体験//~序章~  ◆Oz/IrSKs9w





――男はただ黙ってずっと傍らに佇んでいた。

三度目の放送が終わってすでにかなりの時間が経ってる。

しかしその男は――ブローノ・ブチャラティは静かに目を伏せたまま壁に背を預けて佇んでいた――


「…ブチャラティ…」
「………」
「…あいつはな…馬鹿なんだよ」
「………」
「超絶馬鹿だ。それにいつも周りの事も何一つ考えちゃいねえ迷惑野郎だ」
「………」
「…俺も馬鹿だが…あいつは比じゃねぇ。救いようがねえ」
「………」

男はただ無言で夜風を受ける。
相手の言葉の一つ一つを肯定も否定もする事なく…

「…ブチャラティ。こんなざまの俺なんかほっといて…なんでさっさと行っちまわなかったんだ…」
「………」
「お前も馬鹿だ。馬鹿野郎だ…!」
「………」
「……馬鹿野郎だ…どいつもこいつもッ!」

――罵倒し続けるその男、桑原和真はブチャラティを睨みつけて声を荒げる。
もはや誰を…何を罵倒していいのかも頭では整理できていない。
あの放送が流されてから今までずっと…いや、今の時点でもそれは同じく。
桑原が思考能力を完全に遮断させられてしまっている、その空白の頭から初めて絞り出した言葉は、死したる者・そばにいる者両者を罵倒する物だった。

「…なんで先に逝きやがるッ!なんで周りの事考えねえッ!
てめぇにゃあ…悲しませちまうモンが多すぎる事も知らねえのかよ!大バカ野郎ッッ!!!」

歯が折れてしまうかと思われるほどの歯ぎしりを鳴らしながら、ブチャラティにその叫びを向ける。

「………」

男の様子は依然変わらず。
視線を返すこともなく、ただ静かに“それ”を受け止め…受け入れる。

「バカ野郎……てめぇにゃあ…貸しも借りも山ほどあるんだってのに…!!」
「………」
「俺とのケンカも……勝ち逃げのまんまじゃねえか…」
「…敗者だな」
「……あ…?」

帰ってきたその返事にピクと眉を上げてその男――ブチャラティの顔を強く睨む。
ブチャラティはゆっくりと瞳を開き、じっと顔を向け続ける桑原の方に感情を特に込めるでもない静かな視線を返す。

「そいつは負けた。お前の…カズマの失ったその大切な者はまぎれもない“敗者”だ」
「…なん…だと?」
「“敗者”とは…目的を果たせずに死した者。運命に抗えず、それを解き放てなかった者の事ッ!」
「ブチャラティ…てめえ…ふざけた事ぬかしやがると…ぶっ殺すぞ…っ!」
「ふざけた事?そうだ、ふざけた事だ。だが“敗ける”とはそういう事なんだ」

それは死者への――大切な仲間への冒涜の言葉。
桑原にとってそれは今、最も耐えがたい言葉であり…
己を侮辱される以上の怒りをその面に露骨に現してブチャラティの元へと詰め寄る。

「許さねえ…!それ以上あいつを馬鹿にしやがったら…今この場で…っ!」
「……乗り越えればいい。その“敗者”が成す事が出来なかった事をカズマが受け継ぎ、遺志を継ぐ。そして生き延びる。
それを成し遂げられれば、君もその者も“勝者”となる…!」
「…!?」

ブチャラティの胸元を掴んでいた手が僅かに緩む。
桑原の怒りと悲しみに染まる空白の心に淀みが生じる。

「あの主催者たちの思惑の外へと到達することが勝利だ。ならばその者の“魂”を君がそこへ連れて行けッ!」
「たましい…だと?」
「俺はハルコの勇気有る魂を勝利へと導くために動く。たとえオレがそれを成し遂げられなくとも……」
「……」
「魂を受け継ぐ者が『そこ』へ到達すれば、それが“勝利”だッ!!」
「…!」

ブチャラティの覚悟を表明したとも言えるその言葉は、桑原の胸を鋭いナイフのように強く刺す。

「…ブチャ…ラティ、てめえは…」
「……!!?待てカズマ、静かに…!」
「んな…!?」

複雑な表情と何かを言いたげな目でブチャラティを見つめる桑原の頭を突如押さえつけて共に身を隠す。

「誰かが……いや、複数か?近付いてくる…!」
「なに…?」

息を潜めて後方へと注意を促すブチャラティ。
沈黙が続く中、桑原の額から汗が一筋流れ落ちる――

「……(二人か。学ランの男と強面の変なオッサンか)」
「…カズマ、君はこのまま隠れていろ。オレが接触してみよう」
「…ち、勝手にしろ…!」

ブチャラティから視線を逸らしてぶっきらぼうに返す桑原。
そんな彼の様子を一瞥した後、身を隠したまま桑原から離れ、横へと慎重に移動していく。



「……そこの二人!オレの質問に答えろ」
「ぬう!?誰だ!!」
「…!!?」

突如前方から聞こえてきた姿無き男の声に足を止め、周囲を警戒する雷電と承太郎の二人。

「……(やれやれ…いきなり襲ってこねーって事は、ゲームには乗ってない奴か?…いや、そうとも限らないか)」

相手の次の言葉を待つ二人は互いに一瞬目を合わせた後、声の出元と思われる前方の『工事中』を示す大きめの立て看板へと視線を移す。

「…一つ目の質問だ。お前たちはゲームに乗っているのか?」
「……(JOJO殿、相手はゲームに乗っていない可能性が高いようだが…?)」
「……(待ちな雷電、まずは相手の出方を窺う。俺に任せな)」
「…答えは“乗っていない”だ。てめーはどうなんだ?」
「………二つ目の質問だ」
「……(やれやれ…うさんくせー奴だ)」

双方とも様子見の姿勢を崩さない。
承太郎はいつでもスタンドを発動できるように、360゜周囲に警戒を強めたまま看板を見つめ続ける。

「…首輪を解体出来る可能性を持つような『科学者』や『能力者』の知り合いはいるか?お前たちのどちらかがそうであるなら話は早いが」
「……答えは“いない”だ…(解体?俺の星の白金"スタープラチナ"の精密な動きなら出来ない事はないかもしれねーが、
100%爆発は免れないだろうしな。まだ手の内は明かせねえ)」
「……なら最後の質問だ。お前たちは今何を指針にして動いている?」
「……人探しだ」

雷電は亡きシカマルを、承太郎はDIOを(翼には悪いがサッカーメンバーを探す気は無い)。
さらには仲間にできそうな人物も探している。
そこは真実を答えた承太郎。

「…今度はこっちから質問だ。てめーはゲームに乗っているのか?」
「………」
「………?やれやれ…自分は答えないつもりか?」

謎の相手から返事が一向に帰ってこないまま、承太郎が突然無防備にも看板の方へと歩みを進め始める。

「JOJO殿!?待たれよ!!」

突然のその行動に驚き、制止の声を上げる雷電だが承太郎の足は止まらない。

「……(ブチャラティ…どういうつもりだ?相手はゲームに乗ってない奴らなんだろ…?)」

隠れて様子を窺っているままの桑原もブチャラティの意図が読めず、ただ黙って成り行きを見守る。

「そこで止まれ。オレに近付く事を許可した覚えは無いが?」
「許可?そんな物必要ねーぜ。俺が許可した」

ブチャラティの言葉に臆する事も無く、ズカズカと躊躇無く歩み寄る承太郎。
もちろん本人は無警戒ではない。
はたからは無防備にしか見えないが、
もし小さなハエが飛んで近寄ろうとも、それを一瞬で把握してスタンドで摘み取れるほどの注意力を発しながらの接近である。

「……てめーにゲームに乗る気がねえってんなら…ちゃんと姿を現しな!」

ズサッ!と最後の一歩を踏み込んで看板の横に身を乗り出す承太郎。

ド ン !!

「な…?いないッ!!?」

そこに声の主の姿は無かった。
周りには何も身を隠しながら移動できるようなスペースは無い。
承太郎たちが存在に気付く前ならともかく、会話をしながらその場所をずっと注視していた今の段階では移動は100%不可能。
しかし現に相手の姿はまるで幽霊のようにそこから消えていた…!

「雷電!奴を見たか!?いなくなっているッ!!」
「………」
「……?雷電ッ!」

承太郎は意見を求めるために雷電に向けて声を荒げる。
しかし…

ド ン !!

「な…に!!?」

本来すぐ後方に居たはずの雷電の姿が忽然と消えていた…!

「雷電!どうした!?どこに居る!?」
「…彼なら、少し離れてもらったよ。あんたと二人で話がしたくてな…」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…

「てめーは…!?」

承太郎の背にいつの間にかピタリと背を合わせたまま穏やかな声で話しかけるブチャラティ。

「…何が目的だ?」
「彼の事なら心配しなくていい。怪我一つしていないからな」
「……(なんだこいつは…!?いや。このやり口、違和感、おそらく間違いない…こいつは…スタンド使いッ!!!)」




「く……一体何が!?JOJO殿!!?」

一方の雷電。
突然足元の地面が失われたかのような浮遊感に襲われ落下し、気がつけば一瞬の内に暗闇の中に居た。

「ここはどこだ!?…声が反響している…下水道か…?」

僅かに聞こえてくる水の流れる音と、狭いトンネルに居るような声の響き方から、この暗闇に包まれた場所がそうである事に気付く。

「少しすれば目が慣れるか。とにかく出口を探さねば!」

周りが暗く見えない中も、壁を頼りに恐る恐る進み始める――




「…さて。あんたに質問が一つ増えた…」
「………」

依然二人は背を合わせたまま、この異様な状況での会話が続く。
ブチャラティはまるで友人に話しかけるようなゆったりとした口調で…
承太郎は冷静を保とうとはしているが、尋常でないこの状況下に冷や汗を浮かべた緊迫の顔つきで。

「ブチャラティッ!!てめえ…どういうつもりだっ!!!」
「!!?」

そこへ突然の横やりが入る。更なる予想外の状況に承太郎は…

「オラアッ!!!」

ブンッ!!

今がチャンスとばかりにスタープラチナの拳を背後に躊躇無く打ち込むが、しかしそれは空を切る。

「そうか…あんた“も”スタンド使いか…」
「やはりてめえもか…!」

すでにブチャラティは間合いを離しており、スティッキィ・フィンガーズを自分の隣に発現している。

「ブチャラティ!」
「カズマ…これは俺の“目的”のための行動だ。そのためなら、手段は選ばない…ッ!」
「てめえ…!!」
「……(奴の仲間か?)」

いきなり姿を現してその男をブチャラティと呼び、多少の困惑の色を浮かべた眼差しで怒号を浴びせる新たな乱入者、桑原。

「目的、だと?」
「そうだ。だから質問をするッ!何故『第二の質問』で嘘をついた!?」
「何…!?」

スタンドは右手で、本人は左手で左右対称に同時に承太郎を真っ直ぐに指さして強く問う。
ガラの右腕はすでに埋葬したため本人の右腕は今も無いままだが、スタンドは言わば精神力の具現化。
強い“覚悟”を胸に根付かせて力強い精神力を得た現在、スタンドは五体満足の姿で発現されていた。

「お前は第二の質問の時だけ『汗』をかいた!よってそれは嘘!そう俺は見たッ!」
「…!」
「ならば真実を話させる!たとえ…どんな手段を使おうともだ!」
「てめえ…ふざけんなブチャラティ!」
「……(嘘が見抜かれた…か。やれやれ、ややこしい事になってきたぜ)」

もはや激突必至。
ブチャラティを制止しようと桑原も二人の元へと足早に歩み寄る。

「おいあんた!ブチャラティの野郎は俺が何とかする!あんたはあのオッサンを!」
「いや…雷電はあんたに任せていいか?」
「ああ!?何言ってやがる!こいつは…」
「こいつは、どうやら俺を逃がしてくれそうにないんでな。こいつよりは話が通じそうなあんたに任せるぜ…」
「そんな訳にいくかよ!こいつのやるこたぁ俺の責任だ!俺が…!」
「どくんだカズマッ!!スティッキィ・フィンガァーズッッ!!!」

二人の意見が合わぬまま、猶予を与える間もなく間合いを詰めてスタンドを繰り出し承太郎に向けて拳を放つブチャラティ!

「……って訳みたいだ。理解したか?」
「「!!!?」」

スタンドの拳は承太郎に当たる事無く空を切るが…
承太郎は腕を桑原の肩に回した姿で、ブチャラティの背後後方にワープしたかのように移動していた。

「これは…!!?(まさか…ボスと同種のスタンド能力なのか!?)」
「あんた…いってー何したんだよ…!?」
「…さあな」

驚きを隠せない二人を尻目に、承太郎はあくまでクールにそう言い放つ。

「安心しな。こいつは『殺さずに』『ほどほどに』ぶちのめす」
「ほ、ほどほどにって何だよ!?…ちっ!あのオッサンの事も俺のせいでもあるんだからな…畜生!
おいブチャラティッ!逃げんじゃねえぞ!こいつにボコボコにされた後に俺もお前をボコボコにしてやるからなッ!!」
「………」

承太郎の不殺発言を聞き、その不思議な力を垣間見て『こいつならおそらくブチャラティを止められるし、一泡吹かせられる』と直感し…
もはや自分が入り込む隙間は無いほどの緊迫感を放つ二人の様子に、渋々といった感じに桑原はその場を離れる。

(あのオッサンの周りにはなんも無かった!見えはしなかったが、あいつは多分オッサンを地面の下に落としたんだ!
…ブチャラティはぜってぇ問答無用で地中に引きずり込んで殺すような奴じゃねえ!なら『地下鉄』だか『下水』だかの地下があるはずだ!)

自分なりの推理をしつつ、息を乱して走りながら桑原は考え続ける。

(あの馬鹿にゃあ一発…いや百発ぶち込んでやらにゃあ気がすまねぇ!ぜってぇぶん殴ってやる!!畜生ぉっ!!畜生……!!!)

一しずく、二しずく…頬を伝う涙しずく。
重なる馬鹿二人の姿。
それは…もう殴りたくても殴ることが永遠に叶わない、あの男の分までも…

「畜生!浦飯ッ!!ブチャラティッ!!ちっくしょおおおッッ!!!!」

響きわたる大きな悲壮――




「…さて…じゃあ始めようか」
「………」
「本当ならすでにお前を戦闘不能にするチャンスはいくらでもあった。しかしそれはしなかった…何故か分かるか?“日本人(Giapponese)”?」
「…興味ないな」

二人の距離は約10歩分。
穏やかな夜風が二人の間を吹き抜ける。

「…それが最低限の“礼儀”だからだ。礼儀を重んじる職業柄…無抵抗者への不意打ちは礼儀に反する」
「ずいぶん身勝手な礼儀のようだがな」
「フ…」

僅かに微笑む二人。

しばらくしてピタリと夜風が止む。
合図としてはそれで十分。

本来ならば出会うはずの無かった二人。
混沌の運命に引かれ合い、対峙してしまったのが戦いを逃れられない定めだったのか…
運命に翻弄された二人の戦いが今、始まる――





【栃木県/夜】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:やや疲労、肩・胸部に打撲、左腕骨折(以上応急処置済み)
[装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(食料二食分・水少量消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢、らっきょ(二つ消費)@とっても!ラッキーマン
[思考]1:ブチャラティをぶちのめす
   2:シカマルの亡骸・悟空・仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)・ダイを捜す
   3:主催者を倒す

【雷電@魁!!男塾】
[状態]:健康
[装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@BLEACH(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
[道具]:荷物一式
[思考]1:下水道から脱出して承太郎と合流する
   2:シカマルの亡骸を捜す
   3:知り合いとの合流

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:右腕喪失、全身に無数の裂傷(応急処置済み)
[道具]:荷物一式、スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]1:承太郎から真実を引き出す
   2:首輪解除手段を探す
   3:主催者を倒す

【桑原和真@幽遊白書】
[状態]やや疲労
[装備]斬魄刀@BLEACH
[道具]荷物一式
[思考]1:雷電を急いで探しだしてブチャラティたちの元へすぐ帰る
   2:ブチャラティを監視
   3:ピッコロを倒す仲間を集める(飛影を優先)
   4:ゲームの脱出


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292:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険~炎の瞳~ 空条承太郎 313:混沌体験//~空条承太郎はクールな仲間が欲しい~
292:魁!!キャプテン翼の奇妙な冒険~炎の瞳~ 雷電 318:集う男達
269:眠れる奴隷達 桑原 318:集う男達
269:眠れる奴隷達 ブチャラティ 313:混沌体験//~空条承太郎はクールな仲間が欲しい~

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最終更新:2024年05月29日 10:14