0296:白夜特急青森行き
「……どうやらわらわの貸し切りみたいねん、VIP待遇嬉しいわん!」
会話する相手などいないにも関わらず必要以上の声量で一人言を発し、一人悩ましげに身をクネクネよじらせる妲己。
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
規則的な揺れを起こしながら流れ行く夜景。
そう、妲己がいる場所は闇夜の中走行し続けている蒸気機関車の中である。
「ふう、まあ…しばらくはくつろがせて頂こうかしらねん」
フワリと上半身を回転させて優雅に椅子に腰を落とす。
向かいの座席には先ほど並べたデイパックが二つ。
「…やっぱりわらわには、放っておいても自然と向こうから幸運が幾つも勝手に転がり込んでくる…これも日頃の行いの賜物ねん(はぁと)」
妲己はクスクスと笑みをこぼしながら目の前のデイパックをじっくりと眺め、すこぶる上機嫌だった。
遡る事約一時間前。
滋賀のログハウスで三度目の放送により
太公望の生存を確認し、さてこれからどうしようかと思案しかけた時にもたらされた“機関車”の存在。
新たな仲間や太公望を探すにはやはり人の集まりやすい大都市へ向かうのが定石。そう考えていた矢先に聞かされた新たな情報である。
当初予定していた名古屋でも良かったのだが、やはりできればなるべく大きい都市の方が人が集まる可能性も高い。
カズキたちから聞いていた首都『東京』へ楽に行く手段があり、
さらには可能性は低いかもしれないが、手付かずのデイパックが手に入るかもしれないというラッキーなおまけ付き。
六時間ごとの運行と言っていたので、もしかしたら望むタイミングでは乗れないかもしれないが、
線路沿いに駅を目指していれば、もしかしたら同じように機関車目的の人物に遭遇できるかもしれないし、
最悪でも駅に着けば機関車待ちの者がいる可能性も十分に考えられる。
放送で機関車の存在を知った他の誰かと機関車内で遭遇する可能性もある。
太公望や仲間候補なら願ったり叶ったり、万が一危険人物に遭遇してしまっても飛び降りて逃げればよい。
…要するにメリットだらけなのだ。
「ウフフ……走ってる機関車に飛び乗るのは少し面倒だったけど、こうして“当たり”を引き当てたのだから大黒字ねん」
まるでサンタから貰ったプレゼントの中身を確かめようとする無邪気な子供のように、ウキウキとしながらデイパックを開く。
その中身は本人がサンタに願ったような望みの物なのか、はたまた予想外の素敵なオモチャなのか――
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「……良かった、無事だったのね。つかさ…!」
「…
リサリサ…さん…」
つかさが綾と別れてすぐ後、半ば呆然と立ち尽くしていたつかさの後ろから話しかけたのは、
マァムと別れてつかさを追っていたリサリサだった。
「あの吸血…いえ、あのあなたの友人は…?」
「………」
辺りを見回しながらつかさに歩み寄るリサリサだが、つかさは無言のまま俯いて立ち尽くすのみ。
その表情もなにやら苦渋に満ちた顔立ちである事から、
リサリサはつかさがあの吸血鬼を見失ったか…それともあの吸血鬼との間に何かがあったのかと一人思案する。
「…つかさ?あの子は…」
「…綾さんは…私…に…『生き残れ』って…」
「え…?」
俯いたままたどたどしく唇から呟かれる言葉。
「…わたし…私を……淳平君に会わせたくない…って…」
「………」
「私……私に……ッ!」
苦渋に満ちた顔のまま、ゆっくり地面に膝をつく。
小刻みにフルフルと身を震わせながら固まっているつかさの姿に、困惑のまましばし呆然と立ち尽くすも、
つかさの前でそっと身を屈めて肩に手を添える。
「…何があったのかわからないけれど、今はそうしていても仕方ないわ。
それにそんな猶予も無い。マァムが戦っているの…私たちもすぐに戻りましょう…!」
「………」
固まったままのつかさ。
肩に感じるリサリサの手の温もりは少し心地良かったが、凍てついてヒビの入った心の氷を溶かすには至らない。
「……つかさ…」
しばらくの静寂…
つかさを無理に立たせようとはしない。
肩に手を置いたまま、じっとつかさのその顔を眺め続ける。
――ポッポ~…――
「…?あれは…機関車の…?バーンの言っていた…」
遠くから聞こえた小さな聞き慣れない音。
林の向こう、距離がかなり離れているのか姿も見えず…ただ微かに線路をこするような音が西から東に向けて通り過ぎていく。
「………」
その方角をぼんやりと眺めていたリサリサ。それにも反応を見せず固まったままのつかさ。
機関車らしき音は闇夜に小さく消えていき…林に静寂が戻る。
リサリサはつかさに視線を戻し、いきなりギュ!とつかさの顔を己の胸に引き寄せて両腕で包み込む。
「…え…?」
「つかさ…あなたにはこの状況はつらい事ばかりかもしれない。けど、駄目よ」
「………」
「そんなザマでは駄目。私は……私は、あなた達を実の娘のように大切に思っているから…」
「…むす…め…?」
「息子には…息子なら、決して甘くはしないけれど。フフ…」
「…リサリサ…さん…」
初めてリサリサを見上げる。
そこにあったのは一度も見たことの無かった、とても穏やかなリサリサの…いや、“優しい母”の微笑みであった。
「行きましょう。“もう一人の娘”を放っておくわけには行かないから」
「………」
ゆっくり、ゆっくりとだがつかさが立ち上がる。
その動きを邪魔しないようにリサリサも体を離す。
「…はい…」
そのつかさのようやく少し光の戻った瞳と返事を確認すると、すでにリサリサの顔は“母”から“戦士”の物へと戻っていた。
顔にわずかに残る母の温もりにそっと指を添え、再び顔を上げて足を踏み出す。
胸の奥底に強く打ち込まれた深い悲しみと黒い言霊はとりあえず今は押さえつけたまま、見えない終着駅を目指して――
【青森行き蒸気機関車内/愛知県通過中/夜】
【蘇妲己@封神演義】
[状態]:健康、満腹
[装備]:打神鞭@封神演義、魔甲拳@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(食料・水三人分から一食消費)、荷物一式(機関車内で入手、支給品はまだ未確認)
黒い核鉄III@武装練金、ドラゴンキラー@ダイの大冒険
黒の章&霊界テレビ@幽遊白書、千年パズル(ピース状態)@遊戯王
[思考]1:東京へ向かう
2:仲間と武器を集める。太公望を探す
3:必要無い参加者・邪魔な参加者は殺す(?)
4:ゲームを脱出
【愛知県/夜】
【西野つかさ@いちご100%】
[状態]:ショック状態(やや軽減)、移動による疲労
[装備]:天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
[道具]:荷物一式、核鉄@武装練金(ナンバー不明)
[思考]1:マァムと合流
2:精神不安定(今は少し収まっている)
3:生き残る…?
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]三味線糸
[道具]荷物一式
[思考]1:マァムと合流
2:吸血鬼を根絶する
3:協力者との合流
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最終更新:2024年05月18日 10:38