0408:明日の勇者 ◆14iGaWqIZs
真っ暗な世界、一筋の光すらも差さぬ世界、黒く塗りつぶされた世界。
言葉で表すならば陳腐だが視力に頼る人間にとって恐怖に囲まれた世界――――失明した者ならなおさらだ。
殺人鬼と化した
津村斗貴子の鷹爪は少年の光を容赦なく奪い去った。
光の代償は自分のために作られた剣一振り、あまりに過酷なトレード。
ギィィ
背後で扉を開く音が聞こえた。
思わずダイは身構える。さっきは無我夢中で応戦したが今は難しい。暗闇の恐怖を知ってしまっている。
(誰だ…公主さんを殺した奴か?…それともさっきの女性が戻ってきたのか…!?)
剣を握る手に力がこもる。血と共に流れる汗、恐怖に押し潰れそうな少年がそこにいた。
ミシ ミシ ミシ
濡れた足音が緊張感をより高める。
緊張、発汗、硬直、恐怖、悪寒etc……
「……ダイ」
呻くようなダミ声がダイの緊張を一瞬で溶かした。現れたのは両津だったのだ。
張り詰めた糸が切れ、ダイはつい膝を折った。
香川県のダム施設内宿直室、血臭立ち込める部屋に二人の生者と一人の死者がいた。
死者――――
竜吉公主にはカーテンを剥がしてかけてある。
本当は墓を作ってやりたかったが、状況が状況だけにこれくらいしかできなかった。
「ウム、アグゥゥ! グッ、火炙りの刑は何度も体験したがやっぱり慣れるモンじゃないな」
メラでダイの剣を熱し傷口を焼いて塞ぐ。乱暴な応急処置だが雨後だし感染が怖い。さらに断続的な痛みはどうしようもなかった。
「一応右手は持っておいて。
ポップならもっと強力な回復魔法を使えるからそれまでは」
「なんのこれしき……それよりお前の目の方が心配だ。」
明らかにもっと重症なのにダイを気遣う両津。本当は倒れそうだが根性でもたせた。
(年長者が後進に心配させるわけにはいかんからな……ガマンだ、ガマン……クソッ斗貴子めッッ!)
初めて出会った時、
津村斗貴子はゲームに乗っているようには見えなかった。
それがどうだ、僅かな間に彼女は殺戮者へと変貌した。猫を被っていたということか。
あの時の会話に何かヒントがあるのだろうか? それとも別の何かがあったのか?
分からない、何もかもが謎のままだ。いや、今は放っておこう。それよりダイの目だ。
「彼女が最後に使ったのは多分、ルーラに似た魔法の一種だと思う。場所を指定してはいなかったから……」
「使用者自身もどこに飛ぶか分からない可能性がある、か。注意せねばな」
正午を過ぎて、死者たちの血と涙を具現化したような雨は止み始めた。
互いの手当てを終えた両津、ダイは宿直室で意外なモノを発見した。
ダイの師匠、勇者アバンが記した著作、『アバンの書』。
処刑器具にしか思えない『首さすまた』。
二つとも本来の世界ではそうそう持つことかできないアイテムだったが、二人にとっては荷が重すぎた。
アバンの書は専門知識の無い両津では文章は読めても読解はできず、ダイは失明している。
右手を切断されている状態では両手前提の首さすまたは論外だ。
結局
ポップとの合流待ちということでアバンの書と首さすまたはダイ、
本来の武器を得たのでクライストは両津のサブの武器として渡した。
宿直室を出ようとした両津はダイを振り返った。
竜吉公主の亡骸へ向かい項垂れているように見える。
「行こうダイ、辛いだろうが何時までもここにいても仕方が無い」
「うん……じゃあ公主さん、オレ必ずバーンたちを倒す。それまでは…ッッ!?」
突然正体不明の波動が伝わり、空気が変わった。両津も感じたのか、痛み押し殺してハーディスを抜き扉の近くに待機する。
ダイも両津の呼びかけに応じて彼の背後に回った。
10秒、20秒、30秒……たっぷり5分はその状態が続いた。
外からは風の音以外は聞こえてこない。耐えかねた両津がハーディスからクライストに持ち替え、刃を即席の手鏡にして覗いてみる。
「……な!?」
「両さん、一体何が……」
「……お前超常現象ってやつを信じるか?」
「待つのではなく自らが起こす奇跡、という意味では信じるけど、何で唐突に?」
「それが起きてるんだ。幻覚、じゃないよな……」
ダム管理施設前宿直室でそれは起きた。見覚えのあるそれは今亡き仲間
ターちゃんに支給されたもの。
現在は本来の持ち主である星矢が所有する聖衣の収納箱、天馬が装飾されたパンドラボックスが鎮座していたのだった。
装飾された天馬の瞳が光ったように見えた。
音も無く分解された賽のように開かれていくパンドラボックス。予想通り中身はペガサスの聖衣、だがその輝きは色あせていた。
天馬を模した金属の置物、それを分解し自らの身体に装着していく星矢を二人は見ている。
二人は先程の会話を反芻する。
“超常現象ってやつを信じるか?”
“自らが起こす奇跡、という意味では信じるけど”――――
「……つまり星矢の聖衣があるってこと? まさか星矢は……」
「信じたくはないだろうがおそらく……」
ここにペガサスの聖衣がある理由、少々強引だが星矢もしくは聖衣の遺志がここまで運んだのだろうか? もしそうならば……
「オレを……聖衣のところまで連れて行って」
両津は理解した。聖衣を運んだのが星矢の遺志ならば、これを装着する者はダイしかいない。
手を引いてダイを聖衣の側まで誘導する。盲目のダイは手探りで、慎重に分解し装着していった。
具足、ベルト、手甲、肩当て。最後に兜を被りペガサスの聖衣を全て装着した途端、重量感が襲いかかってきた。
かつてレオナに連れて行ってもらった武器屋で板金鎧を試着したのに近いか、ズッシリとした重みを感じる。
(星矢はいつも……こんな重量を負っていたのか?)
思わずよろめき片膝をつくが気力で立ち上がる。
「星矢は小宇宙を燃やすっていってたけど……それが闘気と同じものならば!!」
両目の光と引き換えに取り戻したダイの剣を握りしめ闘志を燃やす。
憤怒、悲哀、絶望etc…否、そんなものは全て気合でブッ飛ばす!!
肯定するは愛、勇気、希望、友情、正義、そして誰も奪えない心の翼、すなわち夢!
剣が吠えた――――空気すらも震わせて。
小年が輝いた――――小さな身体を感じさせずに。
そして聖衣は――――神話の時代の眩しさを取り戻した。装着者の右手に竜の紋章を一瞬、浮かび上がらせて。
力を使いすぎたのだろうかダイは再びよろめいたが何とか踏みとどまる。
もう聖衣から重量は感じられない、むしろ身体の一部のように感じる……のも一瞬だった。
輝きを取り戻した聖衣はダイの身体を次々に離れて、開かれたパンドラボックスへと向かいペガサスの模型に変形する。
そして開かれた時と同じく、音も無く元の立方体に閉じられた。
「星矢の遺志はともかく、やはり聖衣はオレを完全に認めてはいないのか……」
そういえば星矢は言っていた。
小宇宙を手に入れても小宇宙を高めなくては纏えない、小宇宙を高めても行動が正しくなくては装着を拒否する。
心正しきアテナの聖闘士以外は装着できないのだと。
「ダイ、あまり気にするな。星矢がお前を認め託したんだ、きっと纏えるさ」
「もちろん諦めないさ。オレは必ず聖衣を使いこなして見せる! 俺を信じ託してくれた星矢のためにも」
気を取り直し最後に二人はもう一度
竜吉公主に黙祷を捧げる。
両津はガラにも無く片膝をついてみせた。それは痛みに耐えかねて膝を折ったのを誤魔化すためだがもう限界だ。
薄れぎみの意識で見たは外のパンドラボックス。相変わらず沈黙しこちらを見つめているようだ。
「……パンドラボックス、か」
両津が傷を押さえながら誰に向かってでもなくふと呟いた。
神話の時代、神々は独占していた火を盗み人間に与えたプロメテウスを拘禁するも、人間達は自分達の恩人の危機に立ち上がり彼を救出した。
怒った神々は災いの壺を人造人間パンドラに持たせ、人間界に送り込み壺を開けさせるように仕向ける。
壺が開けられると世界中に悪意と疫病と災害が広がり人々は途方にくれた。その時である。壺に残ったモノの声を聞いたのは。
『ここから出してください。私は“希望”です』
【香川県/ダム施設内・宿直室/二日目/午後】
【両津勘吉@こち亀】
[状態]:右手掌離断、胸部から腹部にかけて裂傷(傷は塞がっているが痛みは持続)、出血多量、体力消耗大、額に軽い傷、気絶寸前
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT、クライスト@BLACK CAT
[道具]:右手、盤古幡@封神演技、支給品一式、食料二日分プラス二食分
[思考] 1:瀬戸大橋手前の民家で他のメンバーと合流。サクラとも合流したい。
2:仲間を増やす。
3:沖縄へと向かう。
4:主催者を倒す。
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:失明、全身に裂傷、体力消耗中程度、MP大量消費
[装備]:ダイの剣@ダイの大冒険 、首さすまた@地獄先生ぬ~べ~
[道具]:アバンの書@ダイの大冒険、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢、支給品一式、食料二日分プラス二食分
[思考] 1:ポップを探す。
2:目の治療をする。
3:沖縄へと向かう。
4:主催者を倒す。
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最終更新:2024年07月27日 09:12