0402:Vain dog(in rain drop) ◆xJowo/pURw
降りしきる雨の中を走っていた。
これでも体力には相当な自信があった。
ちょっとしたスポーツ選手ぐらいになら勝てるだろうと思っていた。
だが今、実際には子供に完敗してしまっている。
「ハァ、ハァ、くそっ、見失った!」
独り四国へ向かったダイを追い、両津はここまで全力で走ってきた。
だが疲労の溜まった体では、異界の勇者を捕まえるには少々些か荷が重すぎたようだ。
瀬戸大橋を渡り香川に着いたところで、ダイの姿が全く見えなくなってしまった。
限界を訴える体を労わって、走る勢いを緩める。
とはいえ、本当なら焦る必要は無いのだ。
全てはもう、6時間以上も前に終わっている。
ダイの向かう先は知っている。
香川山中のダムの、管理施設。その中の、ある一室。
……
竜吉公主のいた部屋。
今更そこに行っても、彼女が生き返るわけではない。
それどころか、見るに堪えない、辛い現実が待っている筈だ。
それでも、ダイはあの場所に行かねばならないのだろう。
年端も行かない少年が、どうしてこんなにも過酷な運命を背負わなければいけないのか……
ゴツッ
考えながら歩いていると、何かにつまずいた。
泥にまみれたそれは、一目では分からなかったけれど、
よく見れば、それは人の足。
「ぬっ、鵺野先生!!」
それが鵺野だと気付き、慌てて遺体を抱き起こす。
泥にまみれたその体は、すぐには人だとは判らなかった。
おそらくダイも気付かずにここを走り去ったのだ。
鵺野の遺体は傷だらけだった。何者かと戦った結果敗れ、力尽きたのだろう。
彼は怒りに我を失い、誰かと争った末に息絶えたのだろうか。
それとも、彼の生徒のような、弱者を守って死んだのだろうか。
……ああ、答えは後者だ。
彼の遺体からさほど離れていない場所に、銃で頭を撃ち抜かれた少年の遺体が横たわっていた。
「くそっ!!こんな少年まで…!一体誰が!!」
未来ある少年に、生徒思いの教師。なぜ彼らが死ななければいけなかったのか。
無性に腹が立った。
誰に言うわけでもなく、燃え上がる怒りや無常観を声にしてぶちまけた。
だから、まさか返事がくるとは思ってもいなかった。
「決まっているだろう、このゲームに乗った参加者に、だ。
……私のような、な。」
後ろを振り向くと、
雨の中に、セーラー服を着た死神が立っていた。
「ど、どういう意味だ!?」
背筋を冷たい汗が流れる。
彼女は
津村斗貴子。
先ほど会ったばかりなのだが、その時とは雰囲気が違う。
いや、まるで別人のようだ。
彼女から感じられるのは、威圧感と……殺気?
本能的に、黒い装飾銃の収まったホルスターに手を伸ばす。
狼狽える自分とは対照的に、彼女は真直ぐに自分を見据えている。
そして、動いた。
「悪いが、あなたとゆっくり話している時間は無い。
早くダイ君に追いつかないといけないからな――」
彼女はそう言い終わるより前に、自分に向かって突っ込んできた。
「ま、待て!儂の話を――」
「問答無用ッ!!」
納得できないが、するしかない。彼女には会話を交わす意思は無いのだと。
彼女にあるのは、闘う意志……自分を殺すという、漆黒の意志だけだ。
咄嗟にハーディスを構え、彼女に照準を合わせる。
だが、
次の瞬間、彼女が消えた!
「遅い!」 ザンッ!
視野の外から、彼女の声と共に凶刃が飛来する。
驚異的なスピードだ!
「クソッ!」
咄嗟に、声のした方へ銃口を向ける。
しかし、流石に体が反射神経についていかない。
腕は向くのだが、肝心の銃を持った手が追いつかない。
……ん?腕に手が追いつかない?
何かがおかしい。どういうことだ?
よく見れば、腕の先にあったはずの右手が、無くなっていた。
まるでどこかに置き忘れたかのように。
「うっ、うわぁぁっ!!!」
手首から鮮血が迸る。
「そのままッ!」
雨の中を死神が踊る。
「臓物をッ!ブチ撒けろぉぉッ!!」
刃が左右に滑ると同時に、視野が紅く染まった。
ああ、これは儂の血か。
世界が回る。ああ、儂は倒れているのか。
だんだんと、目の前が暗くなる。
儂は、死ぬのか……?
視野の端で、
津村斗貴子はくるりと向きを変え、そのまま走り去っていった。
きっとダイを追うつもりなのだ。
「ダイ……お前は、死ぬな……」
しかし蚊の鳴くようなその呟きは、そのまま雨音に紛れて消えた。
* * * * * * * * * * * * *
降りしきる雨の中を走っていた。獲物を追う猟犬のように。
だが、私の獲物は兎や狐の類ではない。
幼いが、粉うこと無き獅子の子供。ともすれば己が逆に屠られる、危険な獲物だ。
それを今から狩らねばならない。
今までのように心に迷いがあれば、彼を討つどころか返り討ちに遭うのがオチだ。
迷うな。迷いを消し去れ。
迷いを塗り潰すんだ。
闘志で。殺意で。
漆黒の意志で。
黒く、暗く、冥く、
私を全部塗り潰すんだ!!
…………
彼を見つけるのにはさほど時間はかからなかった。
雨で泥濘んだ道にははっきりと彼の足跡が残っていたし、虎の子のスカウターもある。
彼は、香川県の山中にある、ダムの管理施設内に居た。
人気の無い建物内に入り、彼の居る部屋へと、気配を殺して向かう。
そのとき、建物の中から声が聞こえた。
「公主さん、なんでっ、なんでっ!!うわぁぁぁぁっ!!」
彼の声だ。
その後に、途切れ途切れに嗚咽が続く。
誰かを悼んでいるのだろうか?そういえばこの場所には薄らと血の臭いが漂っている。
もしや、彼の居る部屋に居るのだろうか。悼むべき対象が。
彼の居る部屋へと近づくにつれ、血の臭いが濃くなってゆく。予想は当たりのようだ。
「公主さん……公主さん……」
彼のすすり泣く声もはっきりと聞こえるようになる。
そして、目的の部屋に辿り着く。
扉の隙間から部屋の中を窺うと、確かに少年はその部屋の中にいた。
一体の亡骸と共に。
腕が千切れ、顔を潰された女の遺体。赤の他人であっても、それは十分に痛ましい姿だった。
ましてや彼女は彼の知己。その心情は察するに余りある。
「うう……ひっく」
悲痛な声を漏らす彼は、勇者の称号を持っているとはいえ、やはりまだ少年なのだ。
親しい人の死に悲しみ嘆くその背中は、見た目以上に小さく感じる。
こんな小さな少年を殺す……
今、よりにもよってこんな時に、彼を手に掛けるのか。
これは、
これでは……
復と無い、好機ではないか。
冷静に、状況を見極める。
場所を、地形を。空間を。時を。
自分と、相手を。
そして、ベストのタイミングを計る。
その時は、間も無く訪れた。
――ご機嫌いかがですかな、皆さん。
――今だ!
* * * * * * * * * * * * *
降りしきる雨の中を走っていた。公主さんのいたダムを目指して。
他のものには目もくれずに、ただひたすらに走っていた。マーダーが潜んでいるかもしれないのに。
いや、
本当は、公主さんや
ターちゃん達を殺したマーダーがまだ付近に留まっているとは、自分でも思っていなかった。
そいつはきっともう、次の獲物を求めてどこかへ行ってしまっているだろう。
それでも、俺は自分で行って確かめたかった。
もしかしたら。
公主さんや
ターちゃん達がまだ生きているんじゃないか、という僅かな希望が心の片隅に残っていた。
もしかしたら。
死んだ人の名前をバーンが読み上げるのだって、どこまで信用できるか分からない。
もしかしたら。
バーンが死んだと思っているだけで、実はまだ生きているのかもしれない。
もしかしたら。
バーンが嘘をついているかもしれない。
もしかしたら。
そして、ダムに辿り着く。
もしかしたら、どこかに隠れて助かっているかもしれない。
公主さんのいた部屋へと走る。
もしかしたら、怪我をした公主さんが助けを待っているかもしれない。
部屋の、ドアを開ける。
もしかしたら、ここに公主さんが――
そこに横たわっていたのは、紛れも無く、変わり果てた公主の躯だった。
「あ、あ……公主さん、なんでっ、なんでっ!!うわぁぁぁぁっ!!」
横たわる公主のもとへと駆け寄る。
その姿は、無残だった。
すらりと伸びた、白くて美しい手の片方は失われ、
思わず見惚れてしまうほど綺麗だった顔は、その顔は……
「公主さん……公主さん……」
堰を切ったように涙が溢れてきた。目の前の非情な現実から目を覆うように。
「うう……ひっく」
今はただ、泣くことしか出来なかった。
そして、このまま世界が終わってしまうのではないかと思えるほどの長い時間の後、
(実際は、短い時間だったのかもしれないけれど)
定時放送が始まった。
――ご機嫌いかがですかな、皆さん。
その時。
ザクッ
鋭い痛みに、思わず体をよじる。
「な、何!?」
「クッ、浅いかッ!」
一陣の風とともに、黒い影が室内を舞う。あれはつむじ風か、鎌鼬か。
いや、あれは実体を持った脅威……敵だ!
背中から肩、腕と、生暖かい血がつたう。
致命傷を避けられたのは、戦士としての本能のおかげだろうか。
今は悲しんではいられない。目の前の敵と戦わなければ――
ザン! 再び、影が俺に襲いかかる。
ギィン! 咄嗟に剣で攻撃を防ぐ。
しかし、凄まじいスピードで迫る斬撃のいくつかは防ぎきれず、腕や脚に浅い刀傷がはしる。
「クソッ!」 ブン!
なんとか反撃を試みるが、横に薙いだ黒剣は虚しく空を切る。
驚異的な敵のスピードが薄暗い室内と相まって、その姿を補足するのは困難だ。
ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!
四方の壁から、天井から、何かを突き立てるような音が響く。
恐らくこれは、敵の移動音だ。
どうやら敵は壁を蹴る反動を利用して、この室内を正に縦横無尽に飛び回っているんだ。
ズバッ 左肩を刃がかすめる。
ブンッ 反撃は空を切る。
どうやら敵は、ヒットアンドアウェーに徹するつもりのようだ。
隙の大きい強打は来ないが、細かい攻撃を絶え間なく繰り出してくる。
このままではジリ貧だ。堪らず敵(のいるであろう空間)に叫ぶ。
「お前は誰だ!何でこんなことをするんだ!!」
ザクッ! 返答代わりに右足を刃が抉る。
ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
そして、さらに移動が、攻撃が激しくなる。
俺が相手のスピードにいいように翻弄されていることがばれてしまったからだ。
そのことに気づき、自分の迂闊さを悔いる。
いけない。このまま手を拱いていては、いつか確実に仕留められてしまう。
兎に角、敵の動きを止めなければ。敵に攻撃を当てなければ。
ふぅ。息を吐く。
一旦、心を静める。
公主さんには悪いけれど、今は眼前の敵にだけ集中する。
動きに惑わされるな。気配を感じろ。
すっと、目を瞑る。
代わりに、全身の感覚を研ぎ澄ませる。
自分の周りに渦巻く“殺意”を感じ取れるように。
その時、迫りくる漆黒の波動が、一筋に収束した。
今だ!
「空裂斬!!」
ギィン!!
渾身の力を込めて放った一閃が、四本の刃を撥ね返した。
凶刃は彼女の体から弾け飛び、後方の壁に突き刺さる。
武器を失った彼女は、突進する勢いをうまく制御できずにバランスを崩し、俺の方に倒れこむ。
そう、襲撃者は女性だった。
先程、小屋で出会った、確か斗貴子さんという名の女性だ。
何故、彼女が俺を襲ったのかは分からない。
でも、彼女を傷付けずに事を収められて本当に良かった。
もう二度と公主さんのような悲劇を繰り返したくはなかった。
彼女の小柄で華奢な躰が、木の葉の様に舞い降りてくる。
その格好は、まるで何かを求めて手を伸ばしているように見えた。
白くて、スラリと伸びた指先。吸い込まれるような錯覚を覚える。
事実、一瞬俺は、まだ戦闘中だというのに見蕩れてしまったのだ。
俺の目に映る手が。
綺麗な爪先が。
ぴんと伸びた指先が。
俺の目の方に伸びた指が。
眼球に、飛び込んできた。
ぐしゃっ
「うっ、うわあああああぁぁぁぁっ!!」
痛みと共に、暗闇が体を飲み込む。
反射的に剣を振るが、まるでそれが当然であるかのように、手応えは無い。
そして、その反動でバランスを崩してしまい、蹌踉めいてしまう。
まともに立っていられない。
何気ない動作も、視力が完全に絶たれてしまうと満足には行えないのだ。
目を瞑るのと潰されるのではこうも違うものなのか。
地面が揺れる様に感じ、船酔いにも似た吐き気がする。激しい頭痛が内側から俺を蝕む。
――ボンチュー、
藍染惣右介、
小早川瀬那、大空翼――
断続的に続く主催者の放送が、死者を読み上げる声が頭の中に響く。気が変になりそうだ。
ガン!
何かが俺の方に飛んできた。
その棒状の何かが腕に直撃し、剣を弾き飛ばす。
「しまった……!」
剣を拾おうにも、どこに飛ばされたのか見当がつかない。
立っているのがやっとの自分には、剣を拾い上げる手立ては無いのだ。
(素手で戦うしかないか……!?)
バシッ!
再び何かが飛んできたが、今度はなんとか防御することができた。
びちゃっ
だが、その物体からは、得体の知れない液体が飛び散り、それをまともに顔に受けてしまった。
憶えのある、酸鼻な臭いが鼻を突く。
これは……血!?
じゃあ、今飛んできたものは……
「うっ、うわっ、ああっ!」
狼狽えるべきで無いのは分かっているが、冷静でいられるのにも限度がある。
口元まで垂れた鮮血が、鉄に似た味を口内に広げる。
――生き残っている皆さんの不安を煽るような真似は感心しませんねぇ……
放送の声が俺を惑わせる。
五感の全てが狂いだす。
ガッ! ガッ! ガッ!
またあの移動音が始まった。
右から、左から、上から。
あらゆる方向から聞こえる音が室内で反響し、その発生源を特定させない。
気配を探ろうにも、肉体的にも、精神的にも限界だ。
ガッ! ガッ! ガッ!
四方八方から音が響く。
ガッ! ガッ! ガガッ!
ガッ! ガガッ! ガッ! ガッ! ガガッ!
ガガッ! 「くっ、くそっ……!」 ガッ! ガガッ!
ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!
ガッ! ガガッ! ガッ! ガッ!
音源は徐々に、自分の傍まで近づいてくる。
止めを刺す気なのか。
「脳漿をッ……!」
右か?左か??どこだ!?どこから来る!??
「ブチ撒けろォッ!!!」
――上!?
* * * * * * * * * * * * *
全ては、私に有利に動いていた。
戦闘能力や潜在能力なら、明らかに向こうのほうが上だった。
だからこそ、形振り構わず、打てる手は全て打つことにした。
放送が流れ、注意力が乱れる隙を突き、
室内の薄暗がりに身を隠し、
私の姿に油断した相手に付け込み、
そして、視力を奪うに至った。
ここまででも上出来だったのだが、念には念を入れることにする。
まず、彼の武器を奪い、彼自身の状態を計る為に遠距離から攻撃を加えた。
これは、所持していた槍状の武器を投げつけることで行う。
結果は上々。彼は攻撃に対応できず、手にしていた剣を地に落とした。
次に、嗅覚・触覚面を撹乱し、更なる動揺を誘うことにする。
その為に、室内に落ちていた一本の腕を拝借して、彼に投げつけることにした。
これに対し、意外にも彼は、飛来する物に反応して、防御した。
思った以上に順応性が高い。だが、べったりと彼にかかった血飛沫は、十分に彼を混乱させたようだ。
さて、十二分に準備が整ったところで、
彼が暗闇に完全に順応してしまう前に、止めを刺すことにする。
しかし、これまでの攻防から推測するに、ひとつの不安材料が浮かぶ。
バルキリースカートの斬撃だけでは、彼に決定打を与えられないかもしれないのだ。
彼はこれまでの攻撃を紙一重で避け続けている。
万が一こちらの一撃が躱されるか防御され、
カウンターで最初の大広間で見せたような一撃を食らえば、一気に形成が逆転してしまう。
よって、次の一撃は、今までとは異なる手段を講じることにする。
取り出したのは、鞘に収まった剣。彼の剣だ。
何度も素振りしてその感触、質量を確かめたから分かる。
この重量で殴りつければ、如何に彼といえども無事では済むまい。
急所に決まれば即死、防御されても腕の骨ぐらいなら叩き折れるだろう。
そして、バランスを崩したところにバルスカによる追撃で、止めを刺す。
これが、今私が考え付く中で、もっとも成功率の高い戦法だ。
壁に弾き飛ばされたバルスカを回収し、再び装備する。
そして、最後の一撃を打ち込むべく、加速を始める。
壁を蹴り、天井を駆け、その音で撹乱し、気配を紛らわす。
彼は、明らかに私を見失っている。
(いける……!)
確信を結果に変えるべく、移動速度を速める。
「脳漿をッ……!」
狙いは一つ、彼の脳天。
その一点めがけて、速度を乗せて、振り抜く。
「ブチ撒けろォッ!!!」
瞬間、彼の右手が頭上に伸びる。
体が本能的に防御しようとしているのか。大したものだ。
だが、そんな不十分な体勢で、この力積を防ぎきれるものか。構わずに、振りぬく。
「オオオオオオォォォォッッ!!」
その時、有り得ないことが起こった。
ぱしっ
脳天めがけて振り下ろした剣が、彼の掌に吸い込まれる。
彼は、その小さい腕で、この重い剣をしっかりと受け止めたのだ。
「な……!?」
有り得ない。彼は見た目からは想像も付かないほどの怪力の持ち主なのか?
いや、これはそれよりももっと不条理な感覚だ。
そう、まるで、“剣が意識を持っていて、主を傷つけることを拒否している”ような。
若しくは、“私にとっては鉛のように重いのに、彼にとっては羽のように軽い”
この剣が、そんな矛盾した物質でできているかのようだった。
ぶうんっ 「うわあっ!」
彼が剣を私ごと、力任せに振り回す。実際彼は怪力の持ち主なのだ。
堪らず剣から手を離し、彼から間合いを取る。
「こ、これは……この剣はっ!」
彼が剣の柄に手を掛け、ゆっくりと鞘から刀身を引き抜く。
私がどんなに力を入れても鞘から抜けなかった剣が、その水色に輝く刃をあらわにしてゆく。
「この剣は……俺の剣だ!!!」
彼の、何かが変わった。
いや、『戻った』と言ったほうが相応しいか。
今まで覚束無かった足元が、今やしっかりと大地を捉え、全身からは覇気が溢れている。
そして、血に濡れて閉じた双眸は、しかし私をしっかりと捉えているように思えた。
失われた半身を取り戻したか如く、彼は私に正対し、構える。
それは日本刀を用いた抜刀術にも似ていた。
そして、獅子が私に牙を剥く。
「アバン・ストラッシュ!!」
ズドオオォォン!!
「なっ、何だと!!?」
一方の壁が、大きく二つに割れた。割れ目からは、小降りになった雨空が覗く。
あんなものをまともに食らえば、文字通り『まっぷたつ』になってしまう。
一撃目は紙一重で避けられたが、果たして私が回避したのか、それとも彼がわざと外したのか。
どちらにせよ、この狭い室内では今の攻撃を躱し続けるのは不可能だ。
(地の利を取った筈が裏目に出たか……!)
「そこかッ!」
彼が追撃を掛けるべく再び構える。
完全に気配を読まれている。
感覚も鋭敏になっているのか、それとも私の動揺が大きいからか。
今、当初とは状況が完全に変わってしまった。
このままここで彼との戦闘を続けても、勝てる見込みは限りなく低い。
……それならば。
「アバン――」
彼が振りかぶる。
私は、懐に忍ばせた『
切り札』に手をやる。
そして。
「ストラッシュ!!」
「『衝突(コリジョン)』!オン!!」
ズドオオォォン!!
…………
あれは、ある種の賭けだった。
予想通りにカードの効果が瞬時に現れていなければ、今頃私は三途の川を渡っていただろう。
だが、あの場面で戦術的撤退を選んだのは正解だった。
彼我の損害を比べても、こちらはほぼ無傷、向こうは多数の手傷に、眼球二つ。
あの剣を与えてしまったのは余計だったが、彼の実力を垣間見ることもできた。
後は、
ピッコロを探しながら、彼を倒すための対策を練ればいい。
状況は、何も悪くはなっていない――
ふと、そういえば放送で両津の名前が呼ばれなかったな、と思った。
しかし、どうせ生きていても虫の息、放っておいてもいずれ死ぬだろう。
気にすることは無い。
* * * * * * * * * * * * *
降りしきる雨の中を走っていた。
いや、自分では走っているつもりだったが、実際は歩く早さと大差ない。
それでも、がむしゃらに足を動かしていた。
「はぁっ、はぁっ……」
自ずと息が荒くなる。
しかし、こんなにも体を動かしているというのに、寒くて堪らない。
長時間雨に打たれたせいなのか、それとも大量に血を失ったせいなのか。
自分は何故、まだ生きているのか。
傷は浅くはないが、辛うじて急所からは外れていた。
斬られる瞬間、腰を抜かしたおかげで狙いが外れたのか、
それとも彼女にまだ、僅かな迷いがあったのか……
そこまで考えて、止めた。
今動かすのは、頭より体だ。一刻も早くダイと合流して、ダイに加勢してやらないと。
借り物のような体を必死に動かし、ダム施設へと向かう。
人に「ゴキブリ並み」と言わしめた体力・生命力は、伊達ではないことを見せてやる。
「待っていろよ、ダイ……
お前は死んではならんのだ……お前は、我々にとってかけがえの無い『希望』なのだから……」
【香川県/ダム施設近辺/二日目/日中】
【両津勘吉@こち亀】
[状態]:右手掌離断、胸部から腹部にかけて裂傷(応急的処置済みだが持続的に出血)、出血多量、体力消耗大、額に軽い傷
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]:両津の右手、盤古幡@封神演技、支給品一式、食料二日分プラス二食分
[思考]1:ダイを追い、斗貴子から守る。
2:ダイを連れ戻し、大鳴門橋手前の民家で星矢達と合流。サクラとも合流したい。
3:傷の手当をする。
4:仲間を増やす。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【香川県/ダム施設内・宿直室/二日目/日中】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:失明、全身に裂傷、体力消耗中程度、MP中量消費
[装備]:ダイの剣@ダイの大冒険
[道具]:支給品一式、食料二日分プラス二食分
[思考]1:傷の手当をする。
2:公主を埋葬する。
3:両津や星矢達と合流する。
4:ポップを探す。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【????/二日目/日中】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:軽度疲労、左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)、右拳が深く削れている
顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング、絶対に迷わない覚悟
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@DRAGON BALL
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、子供用の下着
[思考]1:『衝突』により出会う相手に対応する。ピッコロ以外は基本的に抹殺する。
2:クリリンを信じ、信念を貫く。跡を継ぎ、参加者を減らす。
3:ドラゴンボールを使った計画を実行。主催者が対策を打っていた場合、攻略する。
4:ドラゴンボールの情報はもう漏らさない。
5:ダイを倒す策を練る。
※アバンの書@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ~べ~、クライスト@BLACK CATはダム施設内・宿直室内に落ちています。
※津村斗貴子は、フレイザード、ピッコロ、承太郎、雷電、ルキア、ルフィ、DIO、綾、仙道、香、飛影 の内、
いずれかの元へ飛来します。到着時間は、おおよそ放送直後になります。
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最終更新:2024年07月27日 09:14