0345:鵺野鳴介、復活ッッ
静かだ・・・・
何も存在しない、真っ暗な空間。音も大地の感触も無い、ただ自分だけははっきりと見え認識できる世界。
(ここが死後の世界とやらだろうか・・・・では彼らもここにいるのだろうか・・・・?)
鵺野鳴介はぼんやりと考える。
この気違いじみたゲームで彼は愛する妻を、生徒を、強敵(とも)を失った。
そして自分はこのよく分からない空間に一人ぼっちで存在している。
(
ゆきめ、郷子、玉藻・・・・許してくれ)
涙が出てきた。その場に居合わせなかったとはいえ、親しかった人物に何の手助けをしてやる事もできず、死なせてしまった自分の無力さを呪って泣いた。
(少なくとも玉藻と別れなければ・・・・あいつは・・・・あいつは死なずにすんだかもしれないのに・・・・)
溢れる涙を拭おうと左手を顔にやるが触れられない。我に帰ると左手が消滅しているのに気がついた。
『ようやく気がついたウガか、0能者』
声のする方向を見るとそこには鬼がいた。昔話の通りに天を突く巨体で、身につけているのは腰巻一丁の姿で仁王立ちしている。
(覇鬼!? 何故お前がここに!?)
『それはこっちのセリフだウガ。キサマいつまでこんな所でめそめそしているつもりだウガ?』
(待ってくれ、そもそもここは何処なんだ? 今までおまえとは全く会話できなかったのに何故今になって話せる!?)
『ここは夢の中だウガ。どうやらあの野郎共が強過ぎる力を抑えているようだウガ。
俺にできるのはこうしてキサマが寝ている間を選んで接触する事くらいだウガ』
(そうだったのか・・・・)
この世界では能力の制限がかかっているらしいとは聞いていたが、覇鬼にもそれが及んでいたと考えもしなかった。
『落ち込んでるヒマは無いウガ。キサマにはやらねばならん事があるだろうが』
(やることなんて、今の俺にやるべき事なことなど・・・・ッ!?)
突然覇鬼は鵺野の襟首を攫み上げた。巨体に攫み上げられ足が宙に浮く。
『失望させるな0能者!! 仮にキサマは妹に、眠鬼に認められた男ウガ!!
こんな処で倒れアイツを悲しませるマネは許さんウガ!!』
怒り狂う覇鬼は何度も見てきたが、今回のような激しさは初めてだった。
不意に体中に衝撃が走った。覇鬼に地面に叩きつけられたようだ。何も無い空間に叩きつけられるのは妙であるが。
(お、お前に何が分かる!? 今までダンマリ決め込んでいたお前に何が分かる!?)
すぐに立ち上がり覇鬼の腹部辺りを乱打する鵺野。鬼の手も使えず、只の人間の拳では覇鬼には肩叩きにもならない。
やがて無駄な打撃を止めた。崩れ落ち腰巻にしがみつき鵺野はすすり泣く。その様子を見て覇鬼は口元を歪めた。
『フン、まだ怒りをぶつける元気はあるようだウガ。もう少し様子を見てやってもいいだろうウガ』
しがみつく鵺野を振り払い覇鬼は踵を返す。そして滑るように空間と消えていく。
『もし力を欲するなら封印を解け。今一度力を貸すウガ』
(待ってくれ! この俺に一体何をしろと言うんだ!)
『甘えるな0能者! そのくらい自分で考えろ! まぁ精々精進するウガ』
(待ってくれ覇鬼! 覇鬼――――!!!)
全力で鬼の後ろ姿を追いかけるが差は広がる一方だ。そして――――は暗黒へと消え去った。
「覇鬼! 待って・・・・ハッ!」
波の音が聞こえる。どうやら瀬戸大橋の橋桁にいるらしい。周りは既に漆黒に塗り替えられ今は深夜である。
「覇鬼・・・・お前は俺に喝を入れてくれたんだな・・・・ありがとよ」
長年付き合ってきた鬼に感謝し、左手を確認すると紙片が握られている。
内容は深刻だった。我を忘れた自分は両津に気絶させられ、その間に大変な事になったらしい。
事の発端を作った乾は責任を感じ殺戮者に一人で挑むつもりだ。
「・・・・クッ! このままでは公主さんと乾が危ない、早く・・・・!?」
行かなければならない、だがそうも言ってられないようだ。
瀬戸大橋を本土側から渡ってくる者の気配を感じた。向こうもこっちに気がついたらしく、歩みを止めた。
(どうする? 交渉するか? それともここで戦うか・・・・?)
「なんと・・・・ヒル魔殿が!? 間に合わなかったか・・・・」
瀬戸大橋を大半を渡ったところで第四目の放送、淡々と発表される死者の中に蛭魔妖一の名を確認して剣心は落胆した。
今頃はセナは自分と同じ、いや付き合いが長い分深く悲しんでいるだろう。
それにしても主催者たちの悪辣ぶりには反吐が出る。死者一人の蘇生という“ご褒美”をチラつかせ殺し合いを激化させるとは。
(今まで頑なにゲームを拒否していた者でも友の蘇生にすがりつき、手を染めるかもしれぬ。そして拙者も・・・・)
今でこそ“志々雄の所業と同じ事”と切り捨てられるが、万が一完全に抜刀斎なってしまったら・・・・! 剣心は僅かに身震いする。
心の中で死者への黙祷を捧げると剣心は考える。蛭魔の死が確認された以上、ここで引き返すべきだろうか。
ナルトの名は呼ばれなかったが少なくとも四国には殺戮者が存在している。彼も無事とは限らない。
このままナルトの捜索と蛭魔の敵を討つべく四国へのり込むか? 目を閉じて時間にして約10秒思考する。
(きっかり一時間、ナルト殿を捜索する。可能ならヒル魔殿の亡骸を回収する!)
時間を限って四国へ乗り出す事を選択した。
とりあえず走った。たいした時間もかからず四国の地を踏む寸前、それを感じた。
(・・・・只ならぬ気配。かなり近い。橋の下でござるか・・・・?)
折れた刀は既に廃棄していたので、武器になりそうな物は刀の鞘しか所有していないが、ハッタリくらいにはなりそうだ。
で、どうするか? ゲームに乗っている輩なら最悪回れ右する選択肢もある。自分の脚力なら逃走は可能だろう。
だが相手に戦う気が無いなら、こちらも交戦の意思は無い事を伝えなければ、今後余計な誤解を生むかもしれない。
迷っている内に下から何か投げられてきた。確認すると石を紙で包んだ物である。紙にこう書いてあった。
“こちらに戦う意思は無い。願わくば交渉したい。返答されたし”
ホッと胸を撫で下ろし、剣心も返事を書き石を包んで橋の下に落とす。
しばらくして闇の中から男が一人現れた。構えは取らず自然体である。
「手紙にも書いた通り交戦の意思は無い。俺は鵺野鳴介、手を貸してほしい」
「拙者は緋村剣心と申す。こちらにも戦う意思は無いでござる。とりあえず四国の状況を教えてくださらぬか。」
【香川県/瀬戸大橋付近/深夜】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神中度の不安定
【装備】刀の鞘@るろうに剣心
【道具】荷物一式
【思考】1、姉崎まもりを護る(神谷薫を殺害した存在を屠る)
2、小早川瀬那を護る(襲撃者は屠る)
3、力なき弱き人々を護る(殺人者は屠る)
4、人は斬らない(敵は屠る)
5、抜刀斎になったことでかなり自己嫌悪
6、早急に瀬那の元へ帰還
(括弧内は、抜刀斎としての思考ですが、今はそれほど強制力はありません)
備考:折れた日本刀の片割れは廃棄
【鵺野鳴介@地獄先生ぬ~べ~】
【状態】やや疲労
【装備】御鬼輪@地獄先生ぬ~べ~
【道具】支給品一式(水を7分の1消費)
【思考】乾、竜吉公主を助けに行く
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最終更新:2024年06月23日 17:13