0328:正論と願望、対立する思い





 時刻は、午後十一時を回る。
 約束の時間を、一時間も越えてしまった。
 なのに、待ち人は現れない。
「……ヒル魔さん」
 午後十時に再び集合する。それがヒル魔との約束だった。
 あちらは香川へ。こちらは兵庫へ。
 姉崎まもりやその他の参加者と合流を果たすため、意を決しての別行動だった。
 しかし今、それが裏目に出ようとしている。
「もう、約束の時間を一時間もオーバーしてる」
「彼らになにかがあった……と考えるのが妥当でござろうな」
 頭では悪い予感しか考えられない。
 あのヒル魔に限って、自分の提案した約束を破るなどということはありえない。
 それは、同じチームメイトであるセナが一番よく知っている。
「……もう待てないよ! 緋村さん、やっぱり探しに行ったほうが……!」
「そうでござるな。ここで手を拱いている今も、彼らは危機に直面しているかも知れぬでござる」
 別れた仲間の身を案じていたのは、セナの同行者である剣心も同じだった。
 ヒル魔、ナルト組と別れたのはほんの数時間前。だが、この世界ではそのほんの数時間で何が起こるか分からない。
 時間は無駄に出来ないと、自らも四国行きを決意するセナと剣心だったが、

「――私は賛同しかねます」

 その場にいた第三者が、彼らにストップをかけた。

「確かに、あなた方の心配はもっともだ。
 最悪の事態に陥っているかどうかはともかく、彼らが何かしらのトラブルに直面しているのは間違いないでしょう」
 淡々とした口調で、しかしながらも説得力のある言葉でセナ達の足止めをするのは、兵庫で見つけた収穫。
 残念ながら姉崎まもりではなかったが、その者は味方としてはこれ以上とない能力を秘めた人物――
 世界最高の頭脳を持つと言われた、Lだった。

 彼らが接触を得たのは、ほんの一時間前。片や探し人の捜索、片や九州入りを目的とした双者の出会いは、幸運な偶然だった。
 セナ達にとっての幸運は、Lが脱出を望んでいるとのこと。しかも、そのためのプランもいくつか検討中らしい。
 さすがは世界最高の頭脳と賞賛すべきだろう。
 Lにとっての幸運は、セナと剣心、両者とも九州からやって来たということ。
 これにより自身の持つGIカード、『同行』の使用が可能となった。
 しかも彼らにはまだ二人の仲間がいるという。彼らが仲間になったメリットは大きい。
(これでいつでも九州に行くことが可能となった。まずは彼らの仲間と合流し、下地を整えなければ)
 しかし、そうそう幸運な出来事ばかり起こるものではない。
 この一時間で一応の信頼は得たつもりだが、まだ見ぬ二人の仲間がゲームに乗っていないとも限らない。
 善人の皮を被ったステルスマーダー……話によると残りの仲間は、一人がセナと同じ高校生。一人が忍者の少年だという。
 忍者という肩書きに激しく疑心感を覚えたLだったが、このゲームで出会った紳士的な月のことを思えば、そうとも言ってられなかった。
 それに、この緋村剣心という人物。話によれば、彼は明治時代から来たというではないか。
 趙公明のような明らかな異世界人の他に、過去世界からの参加者もいるというのには驚いた。
 彼らを完全な仲間として迎え入れるには、まだ情報が足りない。
 そう判断したLは、まだ自分の胸の内を全て打ち明けてはいなかった。
 『交信』ともう一つのGIカードのことはもちろん、もう一つ、Lはとんでもない爆弾を抱えている。
 デスノート。切れ端とはいえ、これは確実に論争の火種となる……
 いや、仮にも人が殺せるノートだ。問題が起これば、論争などでは済まないだろう。
 さらに、鹿児島へ向かう目的も内緒のままだった。盗聴を恐れたのもあるが、この意図を告げるには、時期尚早と判断したからだ。
 情報を打ち明けるのは、確実な信用を得てから。
 ムーンフェイスという協力者を失い一人となったLは、物事を慎重に進めようとしていた。
「最悪の事態を想定するなら、四国にはなんらかのトラブル要素があるといっていい。だからこそ、ヒル魔君という方も帰ってこない」
 二人の神経を逆撫でしないよう、既に殺されたのかもしれないという思いは口に出さなかった。
「こう言ってはなんですが、戦闘能力が皆無と言っていい我々三人が彼らの後を追うというのは非常に危険です。
 緋村さんの剣術の腕前は聞きましたが、さすがに鞘だけでは限界があるでしょう」
「じゃ、じゃあどうするんですか!?」
「このまま放送まで待ちます。そしてもし万が一……彼らの名前が呼ばれるようなことがあれば、私たちはここを離れた方がいいでしょう」
 心配が募り、いてもたってもいられないセナに、Lは冷酷な口調で告げた。
「本気でござるか? 今も助けを欲しているかもしれない彼らを見捨てろと?」
「見捨てろと言っているわけではありません。自分達の安全を優先すべきと判断したのです」
 もし本当に、四国で最悪の事態が起こっているというのであれば。
 Lの言うとおり、自分達の力ではどうにも出来ないかもしれない。
 しかし、だからといって。
「…………くっ!」
 一瞬、自分だけでも四国に向かおうと思った剣心だったが、それもできない。
 セナを守る。これは、心に決めたことだ。一時の采配で過ちを犯すわけにいかない。
 心と心が鬩ぎ合う。どちらの思いを優先させればいいのか、分からない。
「放送を確認し、彼らが健在であると証明されれば我々も四国に向かいましょう。
 お二人を心配する気持ちは分かりますが、ここは堪えてください」
「…………そんなの、薄情だよッ!」
 残酷な決断を下すLに、セナは自分の感情を抑えきれなかった。
 セナが他人に対して怒りをぶつけたのを、初めて見たような気がする。どこか弱々しかったが、芯の通った声だ。
 セナはおそらく、自らの危険も顧みず彼らを探しに行きたいはずだ。
 自分とは違い、既に決めているのだ。剣心は一瞬、セナに不思議な劣等感を覚えた。
(……信頼を得る、か。今さらだが、なかなかに難しい)
 人類全てが利口に出来ているわけではない。だからこそ、衝突が生まれる。分かってはいたが、Lは歯がゆさを覚えた。
 こういうことなら、夜神月のほうが向いているかもしれない。
 彼は大学でも人気者だったし、自然に人間関係の輪を作れる能力がある。それに比べ自分は、まず第一に結果を見てしまう。
 そして結果を求める際、邪魔となる感情は一切除外してしまうのが悪い癖だろうか。
 仕方がない。どう考えても、この状況で四国に向かうのは危険なのだ。そこにどんな人間的感情があろうとも、問題は覆らない。
 互いの信念をぶつけ、対立するセナとL。剣心はどっちつかずの態度で、どうすればいいか決めかねていた。
 そんな時である。
 突如として、大音量の大人の泣き声が聞こえてきたのは。


 ~~~~~


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんなんで死んでんじゃラーメンマンのバカヤロー!」

 それは、警戒とか罠とかとはまったく無縁のものだった。
 泣きたいから泣く。悲しいから叫ぶ。巨体に似合わない、純粋な子供のような行動を取っている。
 だから、異様に声をかけづらかった。
 一緒に血まみれの死体があったせいもあるが、泣き声の主があまりに大量の涙を流していたため、若干引いてしまったのだ。
 率先して声をかけたのは、Lだった。参加者の死を素直に悲しんでいるところから、危険ではないと判断したのだろうか。
 確かに、セナと剣心の目から見ても、こんな大泣きがマーダーとは考えられない。
 大音量の嘆きにLのか細い声はなかなか気づいてもらえなかったが、泣き声の主の背後に立つとやっと気づいてもらえた。
 その顔は涙で濡れ、鼻からも水が出ていた。顔面がぐしょぐしょの状態になっている。
 とりあえず、Lは自分の名を名乗った。すると彼も名乗り返し、

「わたしは、グスンッ、第58代キン肉グスンッ、大王グスンッ、キン肉スグル、人はわたしをグスンッ、キン肉マンとグスンッ、呼ぶ」
 解読するのに数秒かかった。


 ~~~~~


 キン肉マンと名乗る男との出会いにより、状況は一変した。
 この岡山県海岸線沿いの町に倒れ死んでいた、彼の仲間が遺したと思しきメッセージのためである。

  『四国にいる太公望と協力し、趙公明と志々雄を倒せ』

 血文字で地面に書かれたそのメッセージ。キン肉マンへ、とは書いてなかったが、
 彼の仲間――正義超人というらしい――に宛てられているのは間違いなかった。
 趙公明と志々雄を倒せ。おそらくは、これを達成できないまま息絶え、仲間に思いを託したのだろう。
 さらに、これはダイイングメッセージとも読み取れる。
 もしかしなくても、この死者、ラーメンマンを殺したのは趙公明か志々雄のどちらかだ。
ラーメンマン……おまえほどの超人がやられるなんて……
 クソー! やったのは趙公明とかいうヤツか!? それとも志々雄……なにぃー!? 志々雄じゃとぉぉ!?」
 すぐには気づけなかったが、志々雄といえばあの更木剣八に同行していた包帯男ではないか。
 しかも、たけしを連れ去って逃亡中の身だ。

「キン肉マン殿。おぬし、志々雄真実を知っているのでござるか?」
「あいつとは九州で会った。更木剣八という男との試合中、わたしの仲間のたけすぃが誘拐されたんだ」
 聞けば、キン肉マンはその連れ去られたたけしを追っている最中だという。
 しかも、セナと剣心はキン肉マンよりも早い時間、同じ二人に襲われた経験がある。
 加えて、志々雄は剣心と同じ時代を生きた人間であるということが判明した。
 変な偶然だったが、ラーメンマン死亡に関する情報はこの一つの出会いで必要以上に齎された。
 これはLの見立てだが、死体を見るに殺されてからそれほど時間は経っていないということ。
 時間の流れから見ても、本州に向かった志々雄が偶発的に遭遇したラーメンマンを殺した可能性が高いということ。
 志々雄真実という男が、国盗りを目論むほどの悪党であるということ。さらには、
趙公明が犯人という確率はまずゼロです。なぜなら、私は夕方頃、愛知県で彼に襲われましたから」
 Lのこの証言により、志々雄の有罪はほぼ立証された。
 では、ラーメンマンはなぜ趙公明を倒せなどと書き記したのか。
趙公明は、非常に好戦的な輩です。運が悪ければ、私も死んでいてもおかしくなかった。
 おそらく、ラーメンマンは一度趙公明と戦ったのでしょう。そして敗れた。その傷が祟って死んでしまったという可能性もあります」
 Lの考察は、恐ろしいほどに的を射ていた。
 趙公明に志々雄。ラーメンマンが倒せなかった悪。このメッセージは、友にその願いを託したかった証拠に違いない。
「たぶん、志々雄からわたしのことを直接聞いたのかもしれんのぉ。バッファローマンといいラーメンマンといい、バカばっかじゃ」
 今なら分かる。
 あの時、キン肉マンを呼んでいたのは牛丼などではなかったのだ。
 友の魂の声。それを聞き取れるのは、固い友情で結ばれた正義超人だけだ。
「まったく……どいつもこいつも簡単に死にやがって…………」
 泣いていた。
 みっともなく泣き叫ぶことはしなかったが、先程よりも悲痛な涙が、キン肉マンの頬を塗らしているのが見えた。
「キン肉マンさん……」
 この人も、仲間の死に直面している。
 セナは他人事のように思えなかった。数時間後には、自分もキン肉マンと同じ思いをしているかもしれない。
 そう思うと、
(苦しい……)
 押し寄せる心配という重圧に、セナの小さな心臓は押し潰されそうだった。



 その後、剣心とLの力を借りてラーメンマンを埋葬した。
 それぞれの胸中には、いったいどんな思いが渦巻いているのか。
 悲しみは当然として、悲しみの裏に潜む感情はなんのか。
 この時には、誰も分かっていなかった。


 ~~~~~


 その後、暗いムードの中情報交換が行われた。
「それじゃあ、Lたちはこれから四国に行くのか?」
「いえ、検討中です。この際だからはっきり言いますが、今四国に行くのは非常に危険です。力を持たない私たちだけでは」
「キン肉マンさんは四国に行くんでしょう!? なら、僕も連れて行ってください」
「セナ殿!?」
 Lの言葉を遮り、セナはキン肉マンへ同行を申し出た。
 ラーメンマンのメッセージよれば、四国には太公望なる人物がいる。
 どんな人物かは知らないが、協力という言葉から察するに、信頼に値する人物なのだろう。
 ならば、キン肉マンが四国に行かない理由はない。しかし、
「いや、残念だがそれはできん」
「え……どうして……」
ラーメンマンには悪いが、わたしは四国に行っている暇はない。
 志々雄が想像以上に危険なのだと分かった以上、一刻も早くたけすぃを助け出す必要がある」
 キン肉マンの言うことももっともだった。
 志々雄がなんの目的で七歳児の誘拐に及んだのかは不明だが、いつ殺されてもおかしくない状況にあることは確かだ。
 だが、それでは、
「そんな……じゃあ、ヒル魔さんは……」
「キン肉マン、でしたら私も同行させてはくれませんか?」
 落胆するセナに、Lが追い討ちをかけるような提案をした。
「L殿!? それはどういうつもりでござるか!?」
「そうじゃ。おまえさんの仲間は四国で行方不明なんじゃろう? だったら一刻も早く行ってやるべきだ」
「ですから、先ほども言ったように我々だけでは危険なのです。
 それに、あなたは志々雄だけでなく趙公明も倒すつもりなのでしょう? あいつは……私の仲間、ムーンフェイスの仇です」
 仇、という言葉が重く感じられた。
 普段あまり感情を表に出さないLも、怒りに震えることがあるのだろうか。
 付き合いの浅い一同には分からなかったが、だからこその利点もある。
「私の最終目標は脱出です。ですが、できることならその前に……趙公明に一矢報いたい。他ならぬ、ムーンフェイスのために」
 この言葉も、Lの計画の一端に過ぎない。
 自分に人を惹き付けるカリスマが欠けていることは理解している。もはや自分の言葉ではセナの思いは動かせないだろう。
 だから、キン肉マンを利用させてもらった。話によれば、彼は志々雄がどこに潜伏しているかは知らないという。
 ならば、四国に行くよりもマーダーに遭遇する確率は低いはず。
 仮に運悪く遭遇したとしても、正義超人なるキン肉マンと行動を共にしていたほうが、生き残れる可能性は高い。
 ここまで言って、セナが心変わりをしてくれれば幸いだと思う。だが、最悪彼らが単独で四国に向かったとしても支障はない。 
 なにせ、キン肉マンも九州から来たのだから。
(……これはさすがに不謹慎でしたね)
 もちろん、これ以上犠牲は出したくない。
 だが、計画を円滑に進めるにはある程度妥協する必要がある。
 自分に人を動かせる能力があればいいのだが……残念なことに、正論だけでは罷り通らない人間が多いらしい。
(人間の感情というものは本当に難しい)
「分かったでござる。セナ殿、残念だが四国行きは諦めよう」
「――!? 緋村さんまで!?」
 Lの言葉が伝わったのか、剣心は早くも妥協してくれた。
 大局を見た判断だとLは思う。しかしセナはやはり納得してくれなかった。無理もない。知り合いの生死が気にならないはずがない。
 それでも、さすがに一人で四国に向かうなどとは言わないはずだ。この少年、芯は通っているが、気質は臆病者のように思える。
(すいません、姿も知らぬ仲間たち。今は、より確実で安全なルートを選びたいのです)
 やや強引だったが、物事はLの思惑通りに進んだ。
 と思いきや、

「四国へは……拙者が一人で向かうでござるよ」

 緋村剣心が笑顔でそう言った時、Lは眉を細めて不快な顔を作り出した。


 ~~~~~


 独りとなった剣客が、下津井瀬戸大橋を行く。
 目的地は四国・香川県。消息不明の仲間を求め、剣心は単独での捜索に躍り出たのであった。
「あと数分で放送でござるな……それまでになんとか四国入りしなければ」
 死の宣告は、足音を立てず近づいてくる。剣心がその放送で嘆くのは、まだ先の話。
 今は一刻も早く、ヒル魔とナルトを探し出す。仲間を救う。
 殺人剣を捨て、活人剣を取った剣客は、仲間の死を望まない。
 もう、誰かが死ぬのはたくさんだ。


 ~~~~~


 剣心が提案した、単独でのヒル魔捜索。
 もちろん、それを聞いて良案と判断した仲間はいなかった。
「緋村さんが一人で? 正気ですか? 今、四国は非常に危険なんですよ」
「心配無用。拙者も自分の腕前は弁えているでござる。例え鞘だけでも……十分自分の身は守れるでござる」
 逆を言えば、自衛の手段しか持たぬと言っているようなものだ。
 それこそが、剣心の言葉の意味。仲間を守る余裕はないが、自分一人ならなんとかなるという自信から来るものだった。
「で、でも! やっぱり一人じゃ危険ですよ……」
「一人だからこそ、危険も薄れるのでござるよ」
 剣心の心の内が読み取れなかったセナは、彼の言葉を受け入れることが出来なかった。
「でも、もし緋村さんもヒル魔さんみたいに戻ってこなくなったら……」
 それが、一番怖い。
 剣心とは一日行動を共にした仲だ。命も救ってもらった。できることなら、自分も助けになりたい。
 でも、なにもできないのが小早川セナの現実。
「セナ殿」
 そんなセナの思いは、誰よりも分かっている。
 守られてばかりが嫌なのだ。力を求め、自分も戦いたい。そうまでは思わなくても、少年は守られてばかりの自分を嫌っている。
 だからこそ、余計に守らなければならない。
「拙者は、必ず帰る」
 今は、この言葉を信じて待っていて欲しい。
「緋村さん……」
 今度は、ちゃんと伝わった。
 剣心がなにを思い、決断したのか。
 傍にいるだけが、守ることではない。
「緋村さん、あなたの考えはよく分かりました。しかし、やはり危険なことに変わりはない。それでも行くつもりですか?」
「申し訳ない。L殿の言い分も分からなくはないが、拙者はやはりこういう人間なのでござる」
 Lの確認を兼ねた言葉に対し、剣心は苦笑気味に答えた。やはり決意は変わらぬようである。
「……分かりました。では、万が一の時に備えてこれを渡しておきましょう」
 Lもついに折れたのか、溜息を吐いてから剣心に物を渡す。
 それは、万が一の場合を想定しての切り札。セナたちには未だ明かしていなかった、GIカードであった。
「これは?」
「私の支給品です。『初心(デパーチャー)』という魔法のカードで、
 対象を選択し使用するだけで、その対象となった参加者をスタート地点……
 おそらくは、『この日本に連れて来られて最初に立っていた地点』に移動させることができます」
 実は列車のデイパックから得たものであるということと、『同行』『交信』の存在は伏せ、それを差し出した。
「おそらく、とは腑に落ちない言い方でござるな」
「それは表記が『スタート地点』となっているからです。
 十中八九この日本に最初に降り立った場所と考えられますが、ひょっとしたら……
 あの『主催者がルール説明を行った部屋』という可能性もあります。まぁ、その可能性は限りなくゼロですが」
 一同の脳裏に、スキンヘッドの爆破シーンが再現される。
 スタート地点に舞い戻るカード。
 このスタート地点というのが具体的にどこを示すのかは分からないが、万が一主催者の目の前にでも出れば洒落にならない。
 Lの予想では、そんな都合のいいカードが支給されるはずはないと思っている。
 だとすれば、スタート地点とはこの日本のどこかのことだろう。
「スタート地点……L殿の予想が正しければ、拙者の場合は鹿児島県に移動するということでござるな」
「はい。もし万が一あなたがゲームに乗った参加者に襲われ、窮地に立たされた場合にお使いください。
 一瞬で鹿児島まで移動できるはずです。ところで、鹿児島のどの付近だったかは覚えていますか? 例えば海岸線だったとか」
「いや、普通の町でござったな。それが何か?」
「そうですか。いえ、特に意味はありません。忘れてください」
 鹿児島……もしかしたら沖縄の存在が確認できるかもと思ったが、有益な情報は聞きだせそうになかった。
「しかし、鹿児島となれば日本の最南端。L殿たちとの合流が難しくなるでござるが……」
「それでも、命を取られるよりはマシです。
 それに、もし襲ってきた相手が一人だった場合には、相手に対して使ってみるのもいいでしょう。
 名前が分からなければ使えませんがね」
「ふむ」
「それと一つ注意を。もし対象にした参加者のスタート地点が禁止エリアとなっていた場合には……どうなるかお分かりですよね?」
 考え得る『初心』の扱い方を伝授するL。このカード、融通は利かないが、自衛には向いている。
 そんな有益なものを、なぜLは手放すのか。簡単である。剣心に死んで欲しくないからだ。
 Lとて、仲間の死は望まない。計画の達成は大事だが、彼の目的は脱出による完全勝利。
 誰かを犠牲にした上での勝利など、好ましくない。
 そして、全てを聞き終えた上で、剣心は差し出されたカードを拒絶した。
「これは受け取れないでござる」
「なぜ?」
「これは、とても応用が利く代物でござる。使い方を誤らなければ、多くの参加者を生かすことが出来る。
 それを拙者一人のために使うなんて、勿体無い。これは、L殿が持っているべきでござろう」
「心配するな剣心。セナ達はわたしが必ず守り通す。じゃからこれはおまえが持っておくべきじゃ」
「キン肉マンの言うとおりです。武装が鞘だけでは、我々も安心して送り出せない」
「そうだよ緋村さん! 頼むから、これ持って行ってよ!」
 三者から『初心』の所持を求められても、剣心はそれを頑なに断った。
 しきりに「大丈夫」と口にし、笑顔ではあったが頑固な態度を示す。
 いつまでもこうしていては時間の無駄なので、半ば強引に出発してしまった。


 ~~~~~


 そして、現在に至る。
 剣心の頼れる武器は斎藤の刀の鞘のみ。
 それでも怖気づいたりはしない。
 剣心には、帰るべき場所がある。
 死ぬつもりはない。
 ヒル魔とナルトを連れ、セナたちの元へ帰る。
 守る。
 自分で立てた、誓いのために。


 ~~~~~


「では、我々はたけすぃ君を探しに行きましょうか」
 剣心を見送り、残された三人は志々雄に連れ去られたたけしの捜索に出ることにした。
「そうじゃな。早くせんと、たけすぃがどんなエライ目に遭うかわかったもんじゃないわい」
「いや、そう焦らなくても大丈夫だと思いますよ。
 ラーメンマンを殺したのが志々雄だというのはまず間違いないとして、彼が死んだのはほんの一、二時間前だと推測できます。
 昼から歩き尽くめ、さらに実力者との戦闘、そして子供連れともなれば、疲労もかなり溜まっていることでしょう。
 緋村さんの話では、彼はあなたと違って普通の人間のようですし」
「む……つまりどゆこと?」
「この近隣……おそらくは関西近辺で休息を取っている可能性が高いということです。
 既に夜も遅いですしね。人気のある民家を虱潰しに探せば、おそらくは」
 Lの推理に、キン肉マンは深く感心した。たった一つの死体と簡単な情報から、そこまで想像してしまうとは。
「なるほどのぅ……いや~、しかしLは頭がいいのぉ! わたしも心強いぞ!」
「恐縮です」
 キン肉マンはLの背中をバンバン叩き、ラーメンマンの死のショックなど忘れてしまったかのように笑い飛ばす。
 どうやらかなり気に入られたようだ。Lとしても実力のある仲間ができるのは嬉しいが、どうにも付き合いづらい人種である。
「…………」
 意気揚々と前を行く二人の後ろ、セナは一人頭上に暗雲を立ちのぼらせていた。
 やはりまだ心配が尽きぬのか、しきりに振り向き自分が通ってきた道を見返す。
「……セナ君」
「……なんですか?」
 セナから返ってきたのは、警戒しているようにも聞こえる冷たい声音だった。
 どうやら酷く嫌われたようだ。やはり信頼を築くというのは難しい。Lは人間関係に頭を悩ませながらも、言葉を発した。
「先ほどは私も言い過ぎました。知り合いの安否を確かめたいというあなたの気持ちは当たり前の感情です」
「Lさん……」
「ですが、どうか私を信用して欲しい。私はいくつか脱出のためのプランを考えているといいましたが、それには仲間の協力が不可欠です。
 だから、私は緋村さんにもセナ君にも死んで欲しくない。もちろん、ヒル魔君とナルト君の二人にも」
 これが、Lの出せる精一杯の表現方法だった。
「それは……分かってますよ」
 セナも、別段頑固な性格という訳ではない。Lの行動や言動も、全ては最終的な目標のため。それは理解している。
 ただ、自分がそこまで利口に生きられないだけなのだ。
(駄目だよね……こんなんじゃ)
 セナは、心中で静かに自分を叱咤した。
「大丈夫か、セナ? 疲れたなら、わたしが担いでやるが」
「いいえ、大丈夫です。僕、これでも体力には自信あるから」
 そう言って、セナは先頭に駆け出した。
 心配は止められない。
 それでも、前を向こう。
 ヒル魔に笑われないように。
 彼の無事を祈ろう。
 大丈夫。
 泥門デビルバッツの司令塔が、簡単に死ぬはずない。



 ――少年は願う。
 自分を守ってくれた、二人の存在。
 その無事を。
 今は先を進もう。
 だから、
 必ず後から追いかけて――





【岡山県・下津井瀬戸大橋/真夜中】
【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】身体の至る所に軽度の裂傷、胸元に傷、精神中度の不安定
【装備】刀の鞘@るろうに剣心
【道具】荷物一式
【思考】1.香川を重点的に、四国でヒル魔とナルトの捜索。
    2.二日目の午前6~7時を目安に、大阪市外にてセナ達と合流。
    3.姉崎まもりを護る(神谷薫を殺害した存在を屠る)
    4.小早川瀬那を護る(襲撃者は屠る)
    5.力なき弱き人々を護る(殺人者は屠る)
    6.人は斬らない(敵は屠る)
    7.抜刀斎になったことでかなり自己嫌悪
    (括弧内は、抜刀斎としての思考ですが、今はそれほど強制力はありません)


【岡山県/真夜中】
【小早川瀬那@アイシールド21】
 [状態]:健康
 [装備]:特になし
 [道具]:支給品一式、野営用具一式(支給品に含まれる食糧、2/3消費) 特記:ランタンを持っています
 [思考]:1、Lと共にキン肉マンの志々雄打倒に協力する。
     2、剣心、ヒル魔、ナルトと合流(二日目午前6~7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3、まもりとの合流。
     4、これ以上、誰も欠けさせない。

【キン肉スグル@キン肉マン】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式
 [思考]:1、志々雄を倒し、たけしを助け出す。
     2、剣心、ヒル魔、ナルトと合流(二日目午前6~7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3、趙公明を倒す。できれば太公望とも合流したい。
     4、剣八を追い、今度こそ仲間にする。
     5、ゴン蔵の仇を取る。
     6、仲間を探す(ウォーズ、ボンチュー、マミー、まもり)

【L(竜崎)@DEATHNOTE】
 [状態]:右肩銃創(止血済み)
 [道具]:デスノートの切れ端@DEATHNOTE、GIスペルカード(『同行』・『初心』)@HUNTER×HUNTER
     コンパス、地図、時計、水(ペットボトル一本)、名簿、筆記用具(ナッパのデイパックから抜いたもの)
 [思考]:1・キン肉マンの志々雄打倒に協力。関西方面を重点的に捜索。
     2・剣心、ヒル魔、ナルトと合流(二日目午前6~7時を目安に、大阪市街で待ち合わせ)
     3・現在の仲間達と信頼関係を築く。
     4・沖縄を目指し、途中で参加者のグループを捜索。合流し、ステルスマーダーが居れば其れを排除
     5・出来るだけ人材とアイテムを引き込む(九州に行ったことがある者優先)
     6・沖縄の存在の確認
     7・ゲームの出来るだけ早い中断
 [備考]:『デスノートの切れ端』『同行』『交信』の存在と、鹿児島を目的地にしていることは、仲間にはまだ打ち明けていません。
     仲間が集まり信頼関係が十分に築ければ、全て話すつもりです。

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327:泣き虫大王の大切なともだち キン肉スグル 339:5%の希望
299:コンタクト L 339:5%の希望
293:狐の婿入り(惨い理) 緋村剣心 345:鵺野鳴介、復活ッッ
293:狐の婿入り(惨い理) 小早川瀬那 339:5%の希望

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最終更新:2024年06月25日 22:20