0367:疑心が光に落とす影 ◆7euNFXayzo
時間は、僅かに遡る。
-姉崎まもりに対する見解-No.1:青銅聖闘士星矢の場合
見開かれてる、キルアの眼。くっきり開いてる、キルアの眼――それなのに、もう何も映さない、キルアの眼。
こいつのこんな姿、見たくなかった。こいつだけじゃない、誰にもこんな、酷い姿になってほしくなかった。
そんなに長い間、一緒にいた訳じゃない。むしろ本当に、僅かな間だ。たまたま出会ってすぐに別れた、そんな程度の関係。
……それでも、ショックはショックだ。
せめてもと思って眼を閉じてやりながら、オレはさっきの、滅茶苦茶驚かされた言葉を思い出していた。
『わたし、この少年に襲われました』
あの時は麗子さんがヤバそうだったから、両津さんと二人がかりで止めたけど――正直な話、オレだって麗子さんと同じ気持ちだった。
聖闘士のオレがこんな事を思うのは変なのかもしれないけど、
知り合いが人を殺しましたなんて言われて、すんなりそのまま信じられるほど、オレは薄情でもないしバカでもない……つもりだ。
けど、まもりさんの言うことが嘘だったとして、何でオレ達に嘘を言う必要がある?
オレ達は仲間なんだから、嘘をつく理由なんか何処にもないのに。
そういう事を考えると、もう、訳が分からなくなる。
オレが思ってた、キルアのイメージが間違ってたのか。
まもりさんが、何かの事情で嘘を言っているのか。
今のオレには、何にも分からない。
分からないまま、オレにはただ、キルアに土を被せてやることしか出来ない。
……やっぱりオレは、バカ、なんだろうな。
No.2:勇者ダイの場合
こんなに頭を使ったのは、
太公望との棒倒し以来だ。まだ、昨日の話だけど。
両津さんが言うには、まもりさんはこのゲームに乗り気の悪い人かもしれないらしい。
まもりさんを追いかけていた男の人の見た目は、両津さんがこの世界で出会った、
ヤムチャっていう人にそっくりで、
でも両津さんの話によると、ヤムチャさんはそう簡単に人を殺せるような人間には見えなかった。
だから、まもりさんはオレ達に嘘をついているかもしれない。両津さんの考えはそういうことだった。
その話を聞いた後だと、今回のことは、オレにも何かおかしいなって思える。
死んでしまったキルアは、星矢と麗子さんが一緒にいた人。進んで人を殺すような人間じゃない。
でもまもりさんは、キルアに襲われた。
……両津さんが言った、ヤムチャさんの話と、近いんだ。
当然、こんなことはオレの考え過ぎなのかもしれない。
元々オレは、太公望のように頭が良いわけじゃないし、たまたま気付いた偶然に、意識が向いてるだけなのかもしれない。
けど――――気になる。
もう一度、両津さんとじっくり話し合ってみよう。それから……星矢にも、この話をしてみよう。
フェミニスト、だっけ。両津さんは星矢のことを、そう言っていたけど。
まもりさんの一言に、星矢も少しは、思うところがあったはずだ。
オレだってそんな簡単に、まもりさんが人殺しだなんて思えない。でも、そんな簡単に、信じ切ることも出来ないんだから。
みんながそれは、同じのはずなんだ。みんなが――
No.4:同上――
時間は、現在へと舞い戻る。
「……墓石の一つでも、立ててやりたかったがな」
少し盛り上がっただけの土の下。そこが、キルア=ゾルディックが永遠の眠りに就く場所となった。
その死は自分達に様々な波紋を残していくこととなったが、若くして失われた命を悼むことだけは、忘れたくなかった。
それが、大人である自分に出来る、せめてもの務めだと思った。
「行くぞ。麗子、まもり」
「はい」
「…………」
両津達の穴掘りを少し離れたところで見ていたまもりと、その横で蹲っている麗子の二人へと声を掛ける。
まもりの反応は素早かった。足元に下ろしていたデイパックを即座に担いで、準備は完璧と言わんばかりである。
その一方、泣き腫らした眼で顔を上げた麗子は、緩慢な動作でどうにか立ち上がることは出来たが、
まもりと同じように傍に置いていたデイパックを拾い上げて、背負おうとしたところで軽くよろめいたりして、見ていて非常に危なっかしい。
「……歩けるか、麗子?」
「……ごめん、なさい……」
問いかけに対する返答の声も、覇気がまるで感じられなかった。心此処に在らず、とはこういう状態を言うのだろう。
越前リョーマ捜索の期限に定めた午前二時はとうに過ぎている。
これ以上の時間のロスは、四国への到着を更に遅らせてしまうだろうが――
――世話の焼けるやつだ、まったく。
デカい貸しにしてやる。
……もう、疲れた。
この世界は、狂ってる。
どれだけ人を苦しめるのか。どれだけ人を悲しませるのか。
どれだけ人を、殺せば気が済むのか。
キルアちゃんが、あんな姿で。あんな姿になって、死んでしまうなんて。
酷過ぎる。
友達のために、こんな危ない世界を駆け回ったキルアちゃんが、殺される。
こんなの、おかしいじゃない。不公平じゃない。
キルアちゃんが、死ぬくらいなら。
……私が代わりに、死ねたらよかった。
何の役にも立たない私。
みんなの足を、引っ張る私。
そうよ。
誰が見たって、もう私なんか、生きていたって仕方ない。
力もない。
知恵もない。
そんな私が生きていたって、誰も、喜ばない。
両ちゃんが、私を見ている。何か言おうとしている。
何を言われるんだろう。消えろ? 邪魔だ? 死ね?
それとも――殺してやる?
何を言われてもいい。私は言われたとおりにしよう。何を言われても――
「よーしお前ら! ここらでいっちょ休憩の時間だ!」
……え?
一体何を言っているんだろう。2時が過ぎたら四国へ行く、そう言ったのは両ちゃんなのに。
休憩の時間? 休むってこと? 私のせいで時間がないのに、どうしてそんな――
――私のせい?
「……両ちゃん、もしかして――」
「ああそうとも、あちこち歩き回ったせいで足がくたびれて仕方がない! ここらで休めんと疲労骨折を起こしてしまいそうだ!」
「両津さん、それって歳じゃないの?」
「やかましい星矢! ほら、あの家なんか良さそうだぞ! それとももう一歩も動けんか? だったらわしより不健康だな、麗子!」
「…………」
――私は……
思い出していた。
この世界で、私が何をやってきたのかを。
キルアちゃんが死んだって聞いた時、私は何度も何度も泣いた。忘れもしない、あの三回目の放送の時だ。
泣きじゃくって、何も考えられなくなって、両ちゃんが何度も呼んでくれるまで、周りのことに気付きもしなかった、あの時。
部長の時は、ショックで身体がまともに動かなかった。そのせいで、星矢ちゃんにも、キルアちゃんにも迷惑を掛けた。
何だろう。こうして一つ一つを見返すと、凄い情けない。自分の事なのに。
けれど――何処かで一度、転機があった筈だ。
くよくよするな、前を向けって、自分で自分に言い聞かせることが出来たときが、あった筈だ。
――思い出した。
圭ちゃんの時。あの時確かに、私は自分で立ち直れたんだ。
星矢ちゃんに迷惑を掛けたくない、その思いで私は頑張れたんだ。なのに――
私はどれだけ、同じ悲しみを繰り返しているんだろう?
バカみたいに泣き喚いて、その度にみんなの足を引っ張って、ようやく進むことが出来たと思っても、すぐに歩みを止めてしまって。
私のどこが大人だろう。何が警察官だろう。星矢ちゃんやダイちゃんに比べたら、私の方がどう見たって子供だ。駄々っ子だ。
何も出来ないで、誰の役にも立たないで、疲れた? 死にたい?
――冗談じゃないわ。
――リョーマちゃん。
本当は一人でも、あなたを探しに行きたい。
両ちゃんにどれだけ反対されても、あなたの元気な姿を見たい。キルアちゃんと、同じ目に遭ってほしくない。
けど、それは私の我侭になる。これ以上、私のせいでみんなの足を引っ張りたくない。
……この気持ちだって、言い換えてみれば我侭になるのかもしれない。皆のために、リョーマちゃんを見捨てる。そんな我侭に。
こんな私を、許してほしいなんて言わない。言う資格はもう、私にはない。
私があなたに言えることは、もうこれ以外にない。
「――私は普通に歩けるわよ。両ちゃんが運動不足なだけじゃないの?」
リョーマちゃん――ごめんね。
「なにぃ~!? 言ったな麗子! サンダル勤務は伊達じゃないぞ!」
「全然自慢になってないじゃない! 骨が折れるって騒いでたのはどこの誰よ?」
「さっきのは例えだ! たかが一日歩き回っただけでそう簡単に骨折するほどわしの足腰は貧弱じゃないぞ!」
「わああもう、話し始めた途端にこれなんだから!」
「ほっとけよ。しばらく見てようぜ、ダイ」
「…………」
今の私には、謝らなくちゃいけない人が沢山いる。
両ちゃん。星矢ちゃん。ダイちゃん。キルアちゃん。そして――リョーマちゃん。
――みんな、本当に、ごめんなさい。
「……無理すんなよ、麗子」
――それこそ無理よ、両ちゃん。
……やれやれ。何だかんだで不安は残るが、ひとまずは解決したみたいだな。
時計が巻かれた左手首を胸の高さまで持ち上げて、両津は時間を確認した。
2時37分。今から順調に歩いていけば、放送の少し手前には四国に着くことが出来るだろう。
しかし――
「ウホン! みっともない言い合いはこの位にしよう……そうだな、時間は今から大体一時間くらいにしておくか」
「あれ? 両ちゃん、本当に休む気だったの?」
「何を言っとるか。お前が元気になったのはいいが、ダイや星矢達のことも考えてみろ! いい加減、子供の足じゃガタが来る頃だろうが」
「生憎だけどな両津さん、聖闘士のオレはそこまでヤワな身体してないぜ」
「――あ。そ、そうだよ両津さん! オレもちょうど、少し休みたいなぁーなんて思ったりしてたんだ!」
「何だよダイ。竜の騎士ってのも案外体力ないんだな?」
「え、えーと……うん。その……うん」
(ご、ごめん! 咄嗟に言ったからその後のこと何も考えてなくって!)
(気にするな、嘘を付くのが下手なのはむしろ自慢するべきことだ。それよりも、ナイスフォローだったぞ)
申し訳なさそうな顔のダイを小声で褒めてやりながら、前を行く小さな背中へと視線を送る。
その先にいるのは、ついさっきまで両津と麗子の口喧嘩を呆気に取られた顔で眺めていた、姉崎まもりの姿。
ちら、と横目で表情を見た限りでは、彼女は突拍子もなく始まった自分達の言い争いに驚いていると、そう読み取ることしか出来なかった。
けれど、本当にそうだろうか? ヤムチャの話をした時も、キルアの話をした時も、彼女は一切の動揺も見せずに事の顛末を語ってみせた。
その全てがもし嘘偽りだとするならば、この程度の演技などお手の物だろう。油断はまだ、出来ない。
当然、まもりがゲームに乗った者であると決まったわけではない。しかし、今回の件で彼女に対する疑念が高まった事も、また事実だ。
この世界ではもう、何が起きても不思議ではないのだ。まもりのような純粋無垢に見える少女であろうと、警戒する事を怠っては、ならない。
そして――今ならば。麗子と星矢も、キルアがまもりを襲ったという、二人にとっては信じ難い言葉を聞いている、今ならば。
今ならば、この二人にも注意を促せるのではないか? まもりが本性を現す前に、何らかの対策を練る事が出来るのではないか?
四国にいる乾達の安否は、確かに気になる。けれど、彼らの元へと向かう前に、こちらが全滅してしまっては何の意味もない。
休憩の一言は、当然麗子を立ち直らせる意味も持っていたけれど、同時に自分達の安全を確保するための、策でもあるのだ。
――あの鳩の奴が見つけてきた、『情報』のことも話しておく必要があるしな……
そうだった。ある意味これが、最も重要な案件なのだった。
太公望。ダイ達と行動を共にしていた、大いなる知恵を持つ軍師だったという男。
この『情報』は、その男が自分達に齎してくれた天恵とも言える。
もしも、これが真実であるなら――自分達は本当に、脱出への糸口を掴んだかもしれないのだ。
太公望。彼は
頼れる存在だったという。自分は結局、顔を見ることも話すことさえもなかったが――
――脱出だの、裏技だの、そういう"悪"知恵だったらな。
わしとてお前に負ける気はないぞ、太公望?
「両ちゃん、何ニヤニヤしてるのよ?」
「わはははは、後で教えてやるから気にするな! わはははは!」
「もう……さっきから、変な両ちゃん」
――"種"は芽吹きつつある。
その事を、自分は広め、伝えなければならない。
そうすれば、希望の水はすぐに注がれていくだろう。
誰かの手によって。
家の中へと入ってすぐに、両津さんの指示で荷物はまとめてリビングに置いておこうということになった。
だから、今は5人が丸腰の状態で、何も置かれていないテーブルの前に座っている。
自分達の部屋に置かせないのは、まもりさんを警戒しているからか……
まもりさんも、その提案には当たり前のように従っていた。変に嫌がって注意を引くのが嫌だったのか、それとも――どうなのか。
休憩ってことになったのはいいけど、どうやってまもりさんから目を離さずに、両津さんともう一度話し合えばいいんだろう。
とりあえず、少しの間だけでも両津さんにまもりさんを見てもらって――先に、星矢に話をしようか?
そうすれば、オレと両津さんが話し合いをしている間に、まもりさんの行動を星矢が見ていることが出来る。
けど、オレに星矢を納得させられるような説明が出来るだろうか。
両津さんとオレ、話に説得力がありそうなのはどっちかって言えば、決まってる。両津さんだ。
そもそもこの休憩は、本当にまもりさんへの対策を練るためだけのものなのかな?
さっきのヘラヘラしてた両津さんは、何か、もっとこう――"希望"を見ていたような気がする。
まもりさんが人殺しだっていう、はっきりとした証拠を見つけた? ――違う。あの喜び様は、そんな感じじゃない。
この世界で、この状況で、両津さんをあそこまで浮かれた感じにさせるもの――
――"脱出"だ。
ターちゃんの鳩、太公望の情報!
そう言えばさっき、キルアの墓を作る少し前に、両津さんはオレに何か言おうとしてたっけ。
きっと、この休憩の間に、両津さんはオレ達にその話をするつもりなんだ。これはそのための休憩なんだ!
「さーて、休憩の前にわしから一つ、お前らに伝えておくべきこ……」
「わーっ、両津さん!」
早速話を始めようとする両津さんを慌てて止める。そんな大きい声で話しちゃ駄目だ!
オレが思い出したのは、太公望との棒倒しのこと。
あの時太公望は、脱出のために必要な考えを口で言わないで、棒倒しに例えていた。
それは間違いなく、太公望の考えをバーン達に悟られないようにするためだ。
太公望の考えが正しいなら、今この瞬間もバーン達は、オレ達の声を少しも逃さず聞いている、はず。
両津さんが話そうとしていることは、きっと脱出の方法と深く関わるようなこと。そんなことは絶対、奴らに勘付かれちゃいけない!
いきなり大声を出したオレを、不思議な顔で皆が眺めている。
……うわ、どうしよう。何て言ったらいいんだろう。"バーン達が聞いてるかもしれないから話しちゃ駄目だ"って?
そんなこと言ったら、余計あいつらに警戒されるに決まってるじゃないか! 聞かれるのが嫌だったら、もっと何か別の方法で――
――紙に書く、とか。
……そんなので、本当に大丈夫なのか?
考えろ。ここで判断を間違えたら、きっとオレ達は失敗する。太公望のような知恵を、少しでもオレが持たないと。
バーン達は一体どうやって、このゲームを動かしている?
魔法やアイテムをフルに使って、オレ達のやることが全部バレてるとしたら、脱出なんてきっと不可能になる。
この首輪を外そうとするところとか、何かの力でこの世界から抜け出そうとする時とか、
そんなのが全部見えているのに、放っておく奴なんか誰もいやしない。
そして、普通ならそうやって、オレ達を常に見続けているはず。
……でも、それはそいつが『普通』の奴だったらの、話だ。
ハーデス、
フリーザ。バーンと手を組んでるこの二人がどんな奴かは、オレには分からない。
けど。オレの知っているバーンは――オレ達がこんな、作り物の世界で勝手に死んでいくことだけを望むだろうか。
『強い者には敬意を払う』、あの大魔王の性格なら。
打倒主催者を狙うオレ達に、ある程度の自由を残しておくんじゃないか……?
……都合の良すぎる、発想だ。第一、バーン以外の二人の事なんか、まるで考えてない、穴だらけの予想だ。けど。
そうでも思わなくちゃ、オレ達はせっかくの希望も扱えなくなる。今目の前にある希望を、みすみす手放すことになる。
ターちゃんが、太公望がオレ達に残してくれた希望を。無駄にするわけには、いかない。
すぐ傍の僅かな可能性に、オレは――賭ける。
「……探し物が、あるんだ。ちょっと、待ってて」
ぽかんとしている両津さん達へと、唇の前で人差し指を立てる。
それからジェスチャーで、『紙とペンが欲しい』ということを訴えた。
オレはこの、日本っていう世界の文化を詳しくは知らない。
そのせいで、どこに何が置いてあるのかとか、そういう事はまるで分からない。
だから、探し物は両津さん達にも協力させてもらうことにした。
最初にオレの意図に気付いてくれたらしい両津さんが、きょろきょろと辺りを見回して、隣の部屋へと向かっていった。
すぐに戻ってきた両津さんの手には、しっかりと希望通りの物が握られていた。
『オレ達の会話は、バーン達に全部聞かれているかもしれない。だから、脱出に関わる話をする時は声を出さないで』
そう書かれた文章を目の当たりにして、両津は先刻までの自らの迂闊さを思い返し、思わず肝を冷やした。
主催者達の盗聴。考えてみれば、その程度の用心は成されて当然の事である。脱出という目の前の希望に、目を取られすぎていたらしい。
……この情報を、まもりに対しても話すべきことなのかは迷った。しかし、まもりにだけ黙って他の三人に伝えることは不自然であるし、
具体的な脱出方法のきっかけになるかもしれないこの話を聞かせてやれば、彼女がこちら側へと転向する可能性もある。楽観的な考えだが。
中々緊張する一瞬だ。すう、と一つ深呼吸をして、ペンを手に取った。
『これはあの鳩が持ってきた、脱出に関する重大な情報だ』
誰かがごくり、と息を呑んだのが分かった。当然だろう。
『太公望は動物を使って、この世界におかしなところは無いのか、という事を調べていたらしい。
空を飛ぶことが出来る鳥や、地面へ潜ることが出来るモグラとか、そういう連中を使ってな。
さっきの鳩が持ってきた情報ってのは、他の鳥達からもらった話も全部まとめた物だそうだ』
我ながら実に前置きが長いが、皆一様に真剣な表情でメモを見つめている。続けて書いた。
『まず、このミニ日本の構造なんだが、海の向こうが何処までも続いているというわけではないそうだ。
ある程度のところまで進んでいくと、透明な壁に阻まれてそこから進めなかったらしい。
恐らく、この世界はドーム状をしているんだろうな』
『ってことは、その壁をブチ破ればオレ達はこの世界から出られるってことか?』
『いや、それは無理だろうな。壁を壊した先にあるのが、わしらの元の世界とは限らん。
あの主催者の間かもしれないし、何もないかもしれん』
『じゃあ、どうするんだ?』
漢字が苦手なのか、平仮名で書いた文章を差し出してきた星矢を制す。
伝えられた内容がそれだけならば、両津も希望を抱きなどしない。
本題は、ここからだ。
『これは、南の方へ向かった鳥からの情報なんだがな――』
『沖縄を、見たそうだ』
『――沖縄? 何言ってんだ両津さん、日本なんだから沖縄があるのは当たり前だろ?』
星矢がそう書く一方で、麗子は事の重大さに気が付いたようだった。即座に『本当なの?』と聞き返してきそうな顔をしている。
『その通りだ星矢。ここは日本なんだから、沖縄があって当然だ。けどな、よく思い出してみろ』
『何をだよ』
『このミニ日本の地図の中には、沖縄は存在しないんだよ』
「あ」
星矢がハッとして、驚きのあまりか短くそう漏らした。
地図には存在しなかった、当然存在するべき場所、沖縄。これこそが、動物達からの情報で得られた最大の収穫。
今思えば、地図を見た時点でどうして妙だと思わなかったのだろうか。地図にある場所を全てだと思い込むなどとは、ゲーマー失格である。
主催者達に隠蔽された島、沖縄。それがどういう意味を持つのかは、今のところは分からない。
だが、地図に載っていなかったこと、そして実際に存在したこと。この二つには、何かが隠されている筈だ。このゲームを終わらせる、鍵が。
それこそ――
『両津さん! もしかしたら、ハーデス達は沖縄にいるんじゃないか!?』
――という、考え方も出来る。
だが、いくら推測をしたところで、結局のところは沖縄まで出向かなければ何も分からない。
もしも沖縄に主催者達がいたところで、首輪を外しもしないままで挑めば、即座に自分達は首を飛ばされてあの世行きだ。何より――
『――だが、その沖縄も、透明な壁の向こう側なのだ』
――逆に言えば、だからこそ沖縄が怪しいとも考えられるんだがな。
目の前にわざわざバリアを張り巡らせ、地図にも載せず、けれど沖縄はそこにある。まるで不自然の塊だ。
それだけの事をしてまで守らなければいけない何かが、きっと沖縄には存在するのだろう。
けれど、沖縄へ辿り着くために、成さねばならないことは多い。首輪の解除、主催者打倒の人数集め、そして見えざる壁の突破。
どれもこれも、一筋縄ではいかない大仕事だ。しかし――
『――そんなもの、オレの小宇宙で打ち砕いてやる!』
勇敢な聖闘士の、少年。
『そうよ、両ちゃん。きっと行けるわ!』
責任感の強い、同僚。
『……死んでしまった
マァムや、まだ生きている
ポップ、そして参加者のみんなのために。オレもやるよ、両津さん!』
竜の騎士の、勇者。
希望は確かに、存在する。
そう、すぐ傍に。
各々が部屋へと戻っていくその時まで、姉崎まもりはペンに手を付けることさえなかった。
彼女からは、終始、何も感じ取れなかった。
「……ふああ、っと」
文章で会話するなんて慣れないことをしたせいか、気が付いたら少し眠くなっていた。
時計を見る。3時13分。四国への出発は4時からってことに決まった。つまりは残り50分程度。寝るには半端な時間だけど。
朝にちょっと寝たくらいだしな。ちょっとの間だけどいいや、おやす――
ノックが二度鳴った。
「星矢。起きてる?」
――おいおい、タイミング悪いな!
別に鍵も掛けてないんだからそのまま入ってくればいいのに、返事をしないでいると控えめなノックの音ばかりが続く。
まさか返事するまでずっと叩いてるつもりじゃないだろうな。地味にうるさい、眠れねえ。
「……起きてるよ」
「話があるんだ」
扉越しに聞こえるダイの声はやけに真剣で、眠いから後にしてくれなんて言えないような重みがあった。
訝しげになりながらもドアを開けると、廊下には両津さんと麗子さんの姿もあった。
何だよ、全員でする話ならさっきのうちにやれば……ん?
「……まもりさんは?」
「そのまもりの話だ、星矢」
まるで話が読めない。麗子さんの方を見てみると、こっちもどうして呼ばれたのか分からないっていう顔をしている。
ってことは、またダイと両津さんの話になる訳だ。今度は一体何を聞かされるっていうんだ?
「……中、入れば?」
とりあえず、その時のオレにはそう言うことしか出来なかった。
両津さんが上がり込み、その後ろに麗子さん。何故だかダイは、リビングの方へと戻っていく。
そして、部屋の中でオレは、ある意味さっきの話を上回るような衝撃を受けることになった。
「な……何だって!? まもりさんがゲームに乗ってる!?」
「嘘でしょ両ちゃん!」
「バカ! お前ら、声がデカいんだよ! 部屋にいるまもりまで響いたらどうする!!」
そういう両津さんもデカいじゃないか、とは流石に言えなかったし言う気もなかった。
部屋へ上がり込むなり自前の推理をつらつらと語り始めた両津さんの顔は、最初っから最後まで本気の目をしていたからだ。
ダイがリビングへと戻っていったのも、まもりさんは今部屋に篭もりきりだけれど、念のために荷物番に向かったためということらしい。
考えすぎだろって思うところもあった。けれど、話す内容のところどころで、オレが思っていたことと一致するところがあったのも、確かだ。
しかし――やっぱり、信じられない。
「……じゃあもしかして、キルアちゃんを殺したのも……?」
麗子さんの悲痛な問いかけに、両津さんは神妙な顔のままで答えた。
「……それは分からん。キルアの件に関しては、わしも正直自信がないんだ。
まもりはキルアの魔弾銃を知っていたんだからな。どういった形にしろ、二人が一度は出会っているのは間違いない」
「でも、キルアちゃんが人殺しなんか!」
「だったら麗子。お前はあのまもりが人殺しに見えるか?」
「それは――」
「……そういう事になるんだ。疑おうと思えば、いくらだって疑えてしまう。まもりもキルアも、どちらもな」
両津さんの言う事は理に適っていて、麗子さんも口をつぐむしかなかった。
オレの方はというと、信じたいと思う気持ちと、ありえないと思う気持ちがぶつかり合って、結局こんな言葉しか浮かばなかった。
「で……でもよ、仮にまもりさんがオレ達の命を狙っているとして、オレ達は一体どうしたらいいんだ? まもりさんを――」
――殺す、のか?
「……今はそこまで考えるな。ただ、まもりの動向には常に気を配っておくんだ。
確証も無いし、放り出すことも出来ん以上、今のわしらに出来ることといえば、そのくらいだ」
……オレもまた、何も言い返せなかった。
短針が一の音を刻む。
短針が二の音を刻む。
短針が三の音を刻む。
短針が四の音を刻む。
徒(いたずら)に流れ続ける時間の中で、姉崎まもりは、一人きりの部屋の中、ただじっと、膝を抱えている。
短針が一の音を刻む。
短針が二の音を刻む。
短針が三の音を刻む。
長針が死の音を刻む――
そうして迎えた、午前四時。一行は、四国への移動を再会した。
希望と疑念が織り交ざる中、もう命の火が消え去った、場所への歩みを。
【滋賀~京都府・三重寄り/早朝】
【リョーマ捜索隊】
共通思考1:四国に向かう(放送後の朝に到着予定)
2:仲間が死んでも泣かない
3:出来る限り別行動はとらない
4:リョーマを探す
5:ハーデスに死者全員を生き返らさせる
【両津勘吉@こち亀】
【状態】睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷
【装備】マグナムリボルバー(残弾50)
【道具】支給品一式×2(二食分の食料、水を消費)、両さんの自転車@こち亀(チェーンが外れている)
爆砕符×2@NARUTO、中期型ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER、焦げた首輪
【思考】1:姉崎まもりを警戒
2:鵺野先生が心配(四国へと向かう)
3:仲間を増やす
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
【状態】中度の疲労
【装備】サブマシンガン
【道具】食料、水を8分の1消費した支給品一式
【思考】1:まもりに僅かな不信感を抱いている
2:四国へと向かう
3:藍染の計画を阻止
4:沖縄へと向かう
5:主催者を倒す
【ダイ@ダイの大冒険】
【状態】健康
【装備】クライスト@BLACK CAT
【道具】荷物一式(2食分消費)、トランシーバー、出刃包丁
【思考】1:姉崎まもりの監視
2:四国へと向かう
3:公主を守る
4:ポップを探す
5:沖縄へと向かう
6:主催者を倒す
【星矢@聖闘士星矢】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】ペガサスの聖衣@聖闘士星矢、食料を8分の1消費した支給品一式
【思考】1:まもりがゲームに乗っている……?
2:四国へと向かう
3:弱者を助ける
4:藍染の計画の阻止
5:藍染を倒す
6:沖縄へと向かう
7:主催者を倒す
【姉崎まもり@アイシールド21】
【状態】:中度の疲労、殴打による頭痛・腹痛、右腕関節に痛み(痛みは大分引いてきている)
右肩の軽い脱臼、不退転の決意
【装備】:魔弾銃@ダイの大冒険、魔弾銃専用の弾丸(空の魔弾×7、ヒャダルコ×2、ベホイミ×1)@ダイの大冒険
【道具】:高性能時限爆弾、アノアロの杖@キン肉マン、ベアークロー(片方)@キン肉マン
装飾銃ハーディス@BLACK CAT、荷物一式×4、食料五人分(食料、水は三日分消費)
【思考】1:不明
2:両津達4人に付いていく。大量殺戮のチャンスを狙う
3:殺戮を続行。自分自身は脱出する気はない
4:セナを守るために強くなる(新たな武器を手に入れる)
5:セナ以外の全員を殺害し、最後に自害
6:セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生して貰う
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最終更新:2024年07月10日 07:39