0374:崩れ落ちるジェンガのように
『任せとけってばよ!なんせ俺ってば火影になる男だからよ!』
『まだキン肉マンとランチを食べてないさ』
『四国へは……拙者が一人で向かうでござるよ』
蘇るのは、死んでいった者たちの別れの言葉。
今となっては懐かしいあの声、あの姿。
もう――二度と聞くことはない声。見ることはない姿。
Lたちがなにより生存を願った三者は皆――死んでしまった。
「……う、っ…………わぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁあぁああぁぁ!!!」
「っ、たけすぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
大阪市外にて、セナとキン肉マンの悲痛な雄叫びが反響する。
彼らはなぜ泣いているのか――放送が流れたのだ。仲間の死を知らせる、忌まわしき放送の五回目が。
「ちょ、ちょっとぉ……そんな大声出したら誰かが寄って来ちゃうじゃないのよぉ……」
「…………」
大泣きするセナとキン肉マンに対し、ミサは困惑、Lは黙りこくったまま顔を俯かせていた。
「ねぇL、あんたからもなんとか言ってやってよ。ねぇ……L? Lったら!」
「…………ミサさん。すいませんが少しご静粛にお願いします」
Lは難しい顔をしたまま、「チッ」と舌打ちしてミサの呼びかけを遮った。
(な、なによぉ~! 騒いでるのはこの二人じゃない! なのになんでミサが怒られなきゃならないのよぉ!)
Lのあんまりな対応に、ミサは心の中で不満をぶちまける。
当のLはミサなどに構っている余裕はなく、必死にこの『第五放送』について考えていた。
四国へ向かったナルト、それを捜索に行った剣心、そして志々雄に攫われたたけし。
最悪だ。死んではいけない人物が三人も死んでしまった。
(これら三人の死について……順を追って考察する必要がありますね)
その1――――うずまきナルトの死について。
ナルトは前回の第四放送で死亡を告げられた、蛭魔妖一と共に四国へ向かった。
しかし第四放送時点――二日目の午前零時の時点では、まだ生存していた。片割れのヒル魔は死んでいたのにだ。
ナルト自身の戦闘能力はヒル魔よりも高かったようなので、当然ヒル魔よりは殺される可能性も低い。これ事態はおかしなことではない。
問題は、第四、第五放送間に死んだという事実。
刀を持たぬとはいえ、相当な実力者である緋村剣心が救援に駆けつけたであろうこのタイミングに死亡……いったい何があったのか。
その2――――緋村剣心の死について。
たとえば仮にだが――実はナルトが本性を隠したステルスマーダーだったとして、
ヒル魔と二人きりになったその瞬間を狙って殺害を働いたとしたらどうだろうか。
そう考えれば、ヒル魔が死亡したタイミングについても納得がいく。
そしてその後、剣心と遭遇――本性を暴かれ、戦闘に突入。結果が相打ちだったとしたら――物事はスマートに進む。
もちろん複数のマーダーによって、連続的に攻め立てられたとも考えられる。
たとえばヒル魔を殺害したマーダーをナルトが撃退。しかし新たなマーダーが現れ、ナルトを殺害。
そのマーダーに剣心もやられてしまったのだとしたら。
これも十分あり得る可能性だ。推論なんてものはいくらでも組み立てられる。
真実を知るためには、現地に赴いての調査が必要だろう。
だがもしナルトや剣心を殺したマーダーがまだうろついているとしたら――調査は危険すぎる。
その3――――たけしの死について。
これが一番不可解だった。
そもそも、志々雄がたけしを誘拐した理由はなんなのか。
無力な七歳児を誘拐――ともなれば、普通は身代金目当ての犯行だと考えられる。
だが、現在行われているのは仮にも殺し合い。金目的でそんな面倒なことはしないだろう。
だとすれば人質か。しかし人質としても腑に落ちない。
たけしを人質にするのであれば、キン肉マンと
更木剣八が試合をしていたその時に実行すればよかったはず。
そうすれば、心優しいキン肉マンは手が出せず、試合などに拘らず楽に殺せただろう。
たけし誘拐の目的――これが不明確のままでは、死亡の理由が分からない。
たけしが自力で反抗して、志々雄が已む無く殺したというのはどうか――それほどの価値ならば、もっと早く殺しているだろう。
志々雄自身が他のマーダーに襲われ、たけしを盾にした、もしくはたけしだけ殺された――この可能性も十分にあり得る。
役目を終えたので、殺した――これが最も納得のいく答えだが、その『役目』がなんなのか分からない。
三名の死については、どれも推論の域を出ない。『情報』が不足している。やはり『調査』が必要か。
(考えなければならないのは……今後について。私としては脱出のための計画を進めたいですが……
さて、私の『仲間』たちならなんと言うか)
セナの場合――
『今すぐ四国へ行きましょう! ヒル魔さんやナルトくん、緋村さんが死んだ原因をつきとめなきゃ!』
仲間の死の原因を知りたがるかもしれない。まだそこに凶悪犯がいるとも考えずに。
Lとて真相が知りたくはあったが、そのために『同行』を使うのはあまりにも惜しい。
剣心たちには心苦しいが、ここは心を鬼にしてでも勝利のための
切り札を温存しておきたい。
正義は絶対に勝つ――今は亡きムーンフェイスに、それを立証するために。
キン肉マンの場合――
『志々雄を捜すんだぁ! たけすぃの仇を取るんだぁ~~!!』
仲間の超人の死に、あれだけ大泣きしていたキン肉マンだ。
今も
ラーメンマンとたけしを殺害した(と推測する)志々雄への怒りを滾らせていることは間違いない。
ミサについては問題ないだろう。彼女は月と自分以外のことについては、あまり感傷的にはならない。
そして考えなければいけないことはまだある。
『初心』によって飛ばされたポイントがどこかは分からないが、もし近場――関西付近なら、間違いなくLたちを追って報復にくるはず。
相手の力量が読めぬ以上、接触は避けたい。そのためには一刻も早く関西から離れたいが、キン肉マンが納得してくれるかどうか。
なにしろ志々雄真実はまだ生きている。たけし死亡の詳細を知るため、また仇を取るためにも、キン肉マンは捜索の続行を望むはずだ。
(
弥海砂の時のように、『首輪を解除した可能性がある』と言うのは無駄でしょうね……)
次の一手についても悩みものだったが、それよりなにより、悲しみにくれる二人をどうにかするのが先決だった。
さて、どうするべきか。とLが決めかねていた矢先、ミサが逸早く二人に声をかけた。
「大丈夫だって~! きっとその緋村さんやナルトくんやタケスィーくんって人たちも、月みたいに首輪の解除に成功したんだよ、うん!」
思わず、「あ、ばか……」と声を漏らしそうになった。
それでは駄目なのだ。その言葉では、今の二人――というよりもセナか――は納得してくれない。むしろやぶへびだ。
「……………………………」
セナの泣き声が徐々に収まっていき、涙ぐんだ瞳はゆっくりとミサの方を向いていく。
ミサはそのぐじゅぐじゅの顔に若干引き気味だったが、アイドルらしい満面の作り笑顔で応えて見せた。
向かい合った笑顔と泣き顔。先に口を開いたのは、セナだった。
「…………そんなわけ、ないじゃないですか」
か細い声で発せられた言葉は、一瞬の内に不穏を呼ぶ。
悲しげだった周囲の雰囲気はおどろおどろしく変化し、次第にキン肉マンも泣き止んだ。
「……放送で呼ばれた人は、みんな死んだんだ。進さんも、緋村さんの知り合いだった薫さんや斎藤さんも、
ヒル魔さんもナルトくんも緋村さんも! キン肉マンの仲間だったラーメンマンもちゃんと死んでた……
だからちゃんと名前を呼ばれた! ミサさんの彼氏だっていう月さんも……死んだから名前を呼ばれたんだよ!」
か細い声は一転して大声へと変わり、少年を激しく興奮させた。
そして……少女もまた。
「…………やだなぁ、そんなわけないじゃん。
だって月は天才なんだよ? あたしだけの王子様なんだよ? 首輪なんてチョチョイのチョイで……」
「Lさんにだって解除できないものを、そんなに早く解除できるわけないじゃないか!」
不穏な空気は更に濃度を増していく。
原因は激しい興奮状態に陥ったセナとミサ。
さっきまで泣いていたキン肉マンも二人を前に「あわわわ……」と声を漏らし、巨体を震わせていた。
「……ごっめーん、さっきの言葉やっぱり訂正するね。
緋村さんもナルトくんもタケスィーくんも、きっと誰かに殺されちゃったんだよ。
そりゃそうだよね。月みたいに頭が良くて格好いいパーフェクトな人間ならともかく、
侍とか忍者とか七歳児なんかに、首輪が解除できるわけないよねっ」
「……そうだよ。みんな、誰かに殺されたんだ……緋村さんもナルトくんもたけしくんも、もちろん月さんも!」
「は? 何言ってんの君? ミサの言ったこと聞いてなかった??
……『月は生きてる』。他の人と違って天才だから。神さまだから」
「死んだんだよ! だから放送で呼ばれたんだ!」
「死んでないよ。首輪を解除したから、主催者が死んだと勘違いしただけ」
「違う! 死んだんだ」
「だから死んでな…………」
「死んだんだ!」
二人の口論は、徐々にエスカレートしていく。
セナは過酷な現実に対し、我侭を言う子供のような視線で立ち向かった。その標的にされたのが、ミサ。
周囲を気にしていたミサ自身も、既にそんな心配は考えなくなり、ただ、感情の赴くままにセナを睨みつける。
Lとキン肉マンは――二人の気迫に圧倒され、ただ静観することしかできなかった。
「死んだんだ! 死んだんだ!! 死んだんだ!!! 放送で名前を呼ばれた人は全員、死んじゃったんだよォ!!!」
「っ……………………れっ」
セナは再び泣き出し、大いに喚いた。
声は周囲の建物に反響し、広範囲に響き渡っているだろう。近くに危険な輩がいないことを祈るのみ。
「みんな、みんな、みんな! 進さんも! 薫さんも! 斎藤さんも!」
「…………………………れ」
「ヒル魔さんも! 緋村さんも! ナルトくんも! たけしくんも! 月さんも!」
「…………………………れ」
「みんな、死ん」
「 だ ま れ ッ ッ ! ! ! 」
あまりの怒声に、電柱の上のカラスが飛び去った。
Lとキン肉マンもびっくりして腰を抜かし、尻餅をついてしまう。
その間も、ミサの怒りは収まらなかった。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙レッ!」
――ミサの心の中で『何か』が崩れ落ちる音がした。
ほとんど感情の勢いに身を任せ、ミサはセナの胸ぐらを掴む。
そして、間髪入れずに拳を振るった。
「がっ……」
セナの口から痛みを主張する声が漏れる。
が、ミサはそんなことはお構いなしに殴り続ける。
セナの頬へ。アイドルだというのに外面も気にせず、渾身のグーパンチで。
「月はねッ! その辺の人なんかとは全然違うんだから!
Lなんかよりも頭がいいし、こんなウルトラマンみたいな奴なんかよりぜんっぜんっ、強いんだから!」
殴る。拳にありったけの怒りを込めて。
「他の人と一緒にしないで! あんたの知り合いはみんな死んだかもしれないけど、月は生きてるのよ!
だって月なのよ!? ミサの旦那様になる人なんだよ!?」
ミサ自身、『月が首輪を解除した』というLの言葉を信じきれずにいた。
だからこそ、セナの言動が許せない。
せっかく自分が希望を抱いていたというのに、この少年は、あろうことかその希望をぶち壊しにしてくれた。
「月が死ぬわけないでしょッ! ふざけたこと言わないで!」
「っ痛い……痛い……」
女性であるミサの拳など、それほど痛くはない。跳ね除けようと思えば、簡単にできる。
それでもそうしなかったのは、ミサの痛みを知ってしまったからか。自分と同じ境遇にいる彼女に、セナが同情してしまったからか。
「ええいクソッ! やめんかおまえら~!!」
見かねたキン肉マンが、ついに飛び出した。
セナから無理やりミサを引き離し、羽交い絞めにする。
それでもミサの激情は収まらぬようで、身体を拘束されてなお、怒りの矛先であるセナに罵詈雑言を浴びせる。
「あんたの知り合いなんて、みんな弱い奴ばっかなんだ! そんな奴らは月にも見放されて、どこかで可哀想に死んでいくんだッ!!」
アイドルの面影もない、醜く歪んだ形相が、そこにあった。
「あんたみたいな神を侮辱する奴は、みんな死ねばいい! キラの裁きにかかって、死ねばいい!」
「お、落ち着けお嬢ちゃん!」
「月は生きてる! 生きてるったら生きてる! 生きてるんだァァァァァァ!!!」
――弥海砂は生涯最高の声量で、そう断言した。
志々雄を捜すとか、『同行』を使って四国へ行くとか、そんな場合じゃなくなってしまったL一行。
Lは大阪の『ある場所』へと歩を進め、セナとミサは一言も喋らぬままその後を付いていった。
キン肉マンは一番後方で、二人がいざこざを起こさぬよう監視する形で歩いている。
しかし参った。あの二人があそこまで激情に駆られるとは。
これでは仲間同士で信頼を得るなんて話どころではない。信頼どころか、このチームは瓦解寸前だった。
キン肉マンがいてくれたおかげで何とかセナもミサも大人しくしてくれているが、L一人ではどうなっていたことか。
悩みの種が尽きぬLはやれやれとぼやきながら、後方をチラッと振り返る。
セナは俯いたまま、暗いムードを漂わせて歩を進めている。
その歩みは弱々しく、時々小石に躓きそうになり、歩いているのがやっとという感じだった。
これはおそらく、ミサに殴られたことよりも、大事な仲間を失った悲しみのショックが原因だろう。
――L自身では、どうすることも出来ない問題だった。
対してミサはというと、アイドルとは思えない険しい表情のまま、しきりに何かを呟いている。
セナを睨みつけたりはしなかったが、決して視線を合わせようとはしない。
と、なにを思ったか、突然身を屈め、道路脇に転がっていた小石を拾った。
そしてなんということか、路地を通りがかった野良猫に投擲。
当たりこそしなかったものの、野良猫は驚いて路地裏に隠れてしまった。
その光景を目にしたLとキン肉マンは、この怒りの感情に塗れた醜いアイドルに、少なからず恐怖した。
(まずい……非常にまずい)
セナはともかく、ミサの存在はチーム内の雰囲気を悪くするばかりだった。
打開するにはやはり、ミサを宥められる程の人間――月のような人格者が必要だ。
(だが……彼はもう……)
夜神月は死んでおらず、首輪を解除し生存している――僅か5パーセントの希望。
L自身、いくら月とはいえ、そんな短期間での解除は不可能――そう考えていた。
生きていてくれれば、嬉しく思う。
キラ事件の決着もちゃんとした形で付けられるし、今のミサを任せるには月しか適任が思いつかない。
月以外に――ミサを救える人物はいないのだ。
歩くこと数分。道中ほとんど会話のなかったL一行は、目的地に到着した。
「……ここは駅?」
「そう。駅です」
会話をするのはキン肉マンとLのみ。セナとミサは依然として口を開こうとしない。
一同の目の前には、大都市大阪のものとは思えない簡素な駅舎と、果てしなく続く線路が広がっている。
第三放送でバーンが言っていた、日本列島を走っているという列車――その駅だった。
「ふむ……次の電車は上りが八時ですか……ちょうどいい時刻ですね」
「お、おいL。まさかおまえ、このまま列車に乗るとかぬかすんじゃないだろうな~」
熱心に時刻表を眺めるLに対し、キン肉マンは心配そうに尋ねる。
関西にはまだ志々雄がいるはず。それを捨て置いて他の地方に移動しようなどとなっては、たけしの仇を討つ機会がなくなってしまう。
「いや、乗りませんよ。私がここに来た理由は他にあります」
「うん……えーと……列車に乗らないんなら駅でなにするっていうんだ? 駅弁でも食べんの?」
「いいですね、駅弁。大阪でしたらカツ弁当や浪花御膳、穴子やうなぎなんかも美味しいでしょうね……
まあ主催者がそんなもん用意してくれているとは思いませんが」
「わたしは牛丼が食べたいのぉ……」
さりげなくムードが和やかになるような会話をしてみるも、後ろの二人からはなんの反応もない。
仕方がないか……とLはため息を吐き、さっさとここに来た目的を話すことにした。
「我々はここで、次に来る列車を待ちます。ただし、乗車はしません。あくまでも『待つ』だけです」
「? そんなことしてなんになるんじゃ? ひょっとして列車が見たいだけなんて言うんじゃ……」
「違いますよ。私の狙いは、『列車に乗ってやってくる乗客』との接触です」
「???」と首を傾げるキン肉マンに、Lは分かりやすさを考慮してさらに説明を進める。
「いいですか? まず、この名簿に注目してください」
Lはデイパックから支給された名簿を取り出し、キン肉マンの前に披露する。
死者の名には赤い印でチェックが記され、生存者と死亡者が分かりやすく判別できるようになっていた。
「これはあくまで、『名前』と今までに入手した『情報』を元にした推理ですが……現在生存者は41名。
その中で、日本人と思わしき名前の人物は『30人』もいます」
この人数には、キン肉マンの情報から日本を知っているというウォーズマン、
名前からは分かりにくいが日本人であるという
マミーや
ボンチューも含まれている。
「私たちを除いても『26人』……
これだけ日本の交通システムを理解している者がいれば、一人くらい列車を使おうと考える人間がいるとは思いませんか?」
「な、なるほど~~! つまりLは、列車に乗って移動してくる参加者と会うために、ここで列車を待つって言うんだな~~~
……って、なんのために?」
「さらなる『仲間』の獲得、そして『情報』の入手のためですよ」
もちろん誰も乗っていないという場合も考えられる。だが挑戦してみる価値はある。
先の放送では、主催者が「雨が降る」と言っていた。それを見越して列車での移動を考える者も少なくはないだろう。
Lは駅舎内に備え付けられたベンチに座り、興味深げに訊いてくるキン肉マンに返答する。
「まず列車に乗っている人物がゲームに抗う者であれば、そのまま我々の仲間に迎えます。
もちろんそうでない者……ゲームに乗った参加者が乗り込んでいる可能性もあるので、
その時はキン肉マン、あなたのお力をお借りします」
「おう! 任せておけ! そうだよねぇ~仲間は大いに越したことはないもんねぇ~~~」
Lの妙案にほくそ笑むキン肉マンは、チラリと後ろにいる二人を見た。
依然として自分の世界に入り込んでいるセナとミサ……二人がこんな状態であればこそ、ムードを盛り上げる仲間は必要だ。
「それに狙いはもう一つ……次にやってくる列車は、西からの上り電車です。
ともなれば、九州や中国地方……四国から乗り込んでくる者もいるはずです」
「おおっ! ということはまさかぁ……」
「……運がよければ、緋村さんが消息不明となった四国の状況を知っている者が乗車しているかもしれない」
「え、Lはそこまで考えていたというのか~~~~~っ!!!」
どっひぇ~と大袈裟に驚いてみるキン肉マンだったが、やはりセナとミサは反応を見せてくれない。
キン肉マンのオーバーリアクションが多少虚しさを残しつつも、Lは会話を進める。
「……もちろん、その四国の状況を知る者は……マーダーの可能性が高いです。
何しろナルトくんや緋村さんは、放送では『死亡』と告げられているのですから」
(!!! え、Lぅ~、そんなこと言って大丈夫なのか!?)
キン肉マンが小声でLに話しかけるも、心配したセナの反応は無いに等しいものだった。
挑発的な言葉に対してもこの態度。どうやら思ったよりも重症のようだ。
「……とりあえず、次の列車が来るまではここで待機です。みなさんも、それでいいですね?」
「は~い………………ほ、ほら、セナとお嬢ちゃんも、は~い…………」
事実上、賛成したのはキン肉マンだけだった。
セナとミサは肯定でも否定でもなく、ただ黙ったまま。
(はぁ……)
Lの口から、またため息が出た。
セナとミサのこの惨状。『同行』を使わない結果になったことは喜ばしいが、チーム内の雰囲気は最悪。
希望も逃げ出してしまいそうだった。
本当にキン肉マンが居てくれなかったらどうなっていたことか。
自分一人ではあの場面を止められず、もっと醜い争いに発展していたかもしれない。
それは……考えただけでも恐ろしい。
(願わくば、この状況を改善できるムードメーカーが欲しい……
キン肉マン一人ではさすがに酷だ。セナ君の友人という姉崎さんという女性なら、あるいはどうにかなるだろうか)
とにかく、セナとミサの関係については完全に『お手上げ状態』。
世界最高の頭脳とはいえ、人間の負の感情までもはコントロールできないようだった。
そんなLの苦労も知らず、当の二人は未だ自分の世界を創っていた。
「……………………………………………………………………………………」
セナはひたすらに無言。
その胸中ではなにを考えているのか。
剣心たちを殺した殺害者への怒りか、なにも出来なかった自分への憤慨か、まだ生きている姉崎まもりの心配か。
「月は生きてる月は生きてる月は生きてる月は生きてる月は生きてる月は」
ミサは誰にも聞こえないような小声でそればかり繰り返し、腹の底では『月は死んだ』と言ったセナに対して怒りを込み上げていた。
自分の中の絶対神を冒涜された恨み……ミサを包むドス黒い感情の矛先は、Lとキン肉マンを挟んだベンチの向こうに座る、セナに対して。
この感情が爆発しないことを、Lはただただ願った。
このアンバランスな関係は、今にも音を立てて崩れ落ちそうなほどに危うい。
これを修復するには、世界最高の頭脳の他に、別の要因がいる。
彼らはそれを、未だ見つけられずにいた。
【大阪府・駅舎内/2日目・朝】
【L@DEATHNOTE】
[状態]右肩銃創(止血済み)
[道具]ナッパの荷物一式の中身(地図など。食料無し、水ペットボトル一本)、デスノートの切れ端@DEATHNOTE
GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER、雪走@ONE PIECE
斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金
[思考] 1:大阪駅で次の上り列車(八時着)を待つ
2:列車の乗客と接触し、情報交換。仲間に相応しい人物であれば、そのまま仲間に加える
3:現在の仲間たちと信頼関係を築く
4:沖縄の存在の確認
5:ゲームの出来るだけ早い中断
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]中度の疲労、精神不安定(重症)
[道具]荷物一式
[思考]1:セナに対して殺意に近い怒り
2:月と合流する
3:夜神月の望むように行動
4:月は生きてる月は生きてる月は生きてる
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]顔面に軽傷、精神不安定(重症)
[道具]荷物一式(食料残り1/3) 、野営用具一式
[思考] 1:不明(四国へ向かいたい?)
2:無力感
3:まもりとの合流
4:これ以上誰も欠けさせない
【キン肉スグル@キン肉マン】
[状態]健康
[道具]荷物一式
[思考] 1:大阪駅で次の上り列車(八時着)を待つ
2:列車の乗客と接触し、情報交換。マーダーであれば、撃退する
3:志々雄を倒し、たけしの仇を討つ
4:セナとミサを元気付けたい
5:ウォーズ・ボンチュー・マミー・まもりを探す
6:ゴン蔵の仇を取る
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2024年07月19日 08:30