0375:そして扉は閉ざされた
彼女の前には二つの扉。血塗られた修羅道へと続く、真っ赤な扉。光に溢れる日常へと続く、山吹色の扉。
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『
……ではまた六時間後。
皆さんのご武運を、心よりお祈りしていますよ。
』
脳裏に響く、忌まわしい主催者たちの言葉。
その言葉は、屋内にいた三人に、三者三様の反応をもたらした。その声は――
(若島津って人が、死んだ?!殺された?!)
一人の少年には、警戒心を。
クールな態度を崩さないまま、取り出したのはラケット。後ろ手に隠すは、3個の飛礫。
「ムニャ……て、何だこの状況ォォォォォ?!って、お姉さん誰ェェェェェ?!」
一人の少年の眠りを覚まし。
「動くな、動かなければ、楽に殺してやる」
一人の少女に、その決意を取り戻させた。
それは、刹那の出来事。一瞬にも満たぬ間が流れ、交錯。
飛び退るように、新八が後ろに下がり。
斗貴子の脚より展開された死神の鎌の一つが、新八の右腕を深く抉り取り。
越前が打ち込んだ数個の飛礫が、残り三つの死神の鎌により、空しく弾き飛ばされ。
一呼吸の間のあと、長方形の部屋の中。越前と新八は、斗貴子を中心とした点対称な位置に移動していた。
其々に向けられるのは、一対の切っ先。それは、戦乙女の装束。戦意の具現。処刑鎌、バルキリースカートのロボットアーム。
またも、静寂。それも、数瞬。
「イッッッッッッッッッッッデェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッッッッッッッッッ!!
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!」
静寂は、叫びによって破られる。と、同時に、斗貴子は全力でバルキリースカートを床に叩きつけ、反動で宙に舞う。
その姿は、まさに北欧神話のヴァルキリーのようで。
死者を迎える、死神に似た姿を一瞬だけ晒し、そのまま二人の視界から消え失せる。夢幻の如く。
「上から来るぞ!気をつけろ!!」
「まだまだだね!!」
降り注ぐ、二対の処刑鎌。荷物を上に放り投げ。転がるように、いや、実際に転がりつつも、天より降りた死の腕を躱そうとする越前。
灼熱感。脇腹が裂け、鮮血が舞う。が、かろうじて致命の一撃を避けることには成功。
放り投げた荷物は身代わりとなり、文字通り八つ裂きに。その臓物である越前の支給品や、支給食糧の焼きビーフンをブチ撒ける。
そのまま転がりつつも新八の傍に行き、斗貴子を睨みつける。瞳に宿るは、涼しげで、それでいて強靭な、意志の光。
「ねぇ、違うと思うけど、アレが姉崎サン?」
「違うよ!姉崎さんは…なんというか、もっと母性に溢れた…そう、ヒロインみたいな人だよ!!」
「じゃぁ、あれは姉崎サンじゃないんだね」
「あんな地獄のテロリストなヒロインがいるかぁぁぁぁ!!
あんなのが居たら、即打ち切りだよ!!最終回は赤丸ジャンプならぬ、革マルジャンプ行きだよ!!!」
「何言ってんの?」
「とにかく、アレは姉崎さんじゃない!地獄の偽乳特戦隊!!」
――似ている。
それが、斗貴子の感想。メガネの少年が、野球帽の少年が(何やら聞き捨てならない単語が聞こえた気がしたが)、
彼らの瞳の奥に輝く、強い意志の輝きが、あの、若い…いや、幼い錬金の戦士と。
だからだろうか、先程、メガネの少年を、野球帽の少年を殺しきれなかったのは。
未だに、自分の中には迷いがあるというのだろうか。
そんなものは、あの青年…
クリリンを殺した際に、疾うに何処かへ捨てたはずなのに。
目まぐるしく互いの位置は入れ替わり。
扉を背にした斗貴子。窓を背にした、新八と越前。
翼を広げるかのごとく、バルキリースカートを拡げると、斗貴子は身体を沈める。
狩りが、はじまる―――
―――その前に、二人の少年は、またもや、転げるように窓から飛び出した。
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走る、走る、ひたすら走る。二人は走る、ただ走る。
琵琶湖に沿って走り、走る。血の道標を道程に刻んで、それでも。それでも逃げるために。命を長引かせるために。
逃げるために。仲間に、危険を知らせるために。仲間の命を、長引かせるために。
「アンタ、ドナウ川の水底みたいな色になってるよ、目が。乾センパイの特製ドリンク飲んだ連中みたいに」
「毒性ドリンク?ハハ…ウチの姉上じゃないんだから…」
「やっぱ、少し休んだほうがよくない?」
浅くない傷を負っているのは新八。深手の上での全力疾走。
彼の右腕からは少なくない量の血が流れ、素人目にも危険なことは見て取れた。
先程の凶悪女が追ってきていないことを、それとなく確認し、
小休止。
力なく崩折れる新八を見て、かろうじて持ち出したマ○ロンと破いたTシャツで応急処置を施す。
気休めに過ぎないと分かってはいても、越前はそうせざるにはいられなかった。
「夢を…見てたんだ。姉上に会う夢を」
傷が熱を持ちつつあるのか、うわ言のように喋りだす新八。
「誰かが犠牲になって平和が戻ってくるのなら、そんなの安いものだって姉上は言ってた…」
口を挟むことなく、応急処置を続ける越前。
もはや、誰かが聞いていようと聞いていまいとどうでもいいのか、新八の言葉は止まらない。
「だから、僕は言ってやったんだ。そんな平和、僕は認めないって」
「そんなの、オレだって認めない」
もはや、声が耳に届いているのかも定かではない。自分の腹にも端切れを巻きながら、それでも、越前は言葉を紡ぐ。
「オレだって、まだやらなきゃいけないことがある。
俺が殺した子供に謝らなきゃいけない。守れなかった、竜崎のことも謝らなきゃいけない。
死んじゃった、乾センパイの分まで、青学を支えていかなきゃいけない。誰かのための犠牲になるなんて真っ平だ」
その言葉を皮切りに、新八の身体を担ぐ。体格の差は歴然。だが、それでも――
「オレのための犠牲もいらない。アンタが死ぬコトだって、認めない」
昨日、琵琶湖で会った連中、そのうち一人は警察官だと言っていた。
ならば、ただの中学生に過ぎない自分よりも怪我の対処には詳しいだろう。
「生きて、帰ろう…新八サン」
大地を踏みしめ、彼等の逃避行は続く。
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斗貴子が直に少年たちを追わなかったのには、理由がある。
少なくとも、彼女はそうだと思い込んでいる。理由があるからこそ、あの少年たちを追わなかったのだと。
理由の一つ。それは、散弾銃。
野球帽の少年に、ベッドの下に蹴りこまれたソレは非常に有用な武器だ。回収していかなければ、今後の行動に支障が出る。
理由の一つ。それは、彼女の左目に装着されたスカウター。
これさえあれば、少年たちがどれだけ逃げようと、たちどころに捕捉することが出来る。
理由の一つ。それは、少年たちがいずれも手負いであるということ。
傷を抱えたままでは、例え斗貴子がこの場で些か時間を費やしたとて、スカウターの有効範囲から逃れるは不可能。
ならば、万全を期すため。この場で散弾銃を回収し、彼等の体力が尽きたところで殺す。確実に、殺す。
(カズキ…こんな私を見て、君はいったいなんと言うのだろうな…)
完膚なきまでに堕ちた自分の思考を省みて、薄く笑う。己の顔の傷跡を、微かに擦りながら彼女の独白は続く。
(何が苦痛を与えずに、だ。結局、年端もいかない少年二人に傷を負わせ、あまつさえ好都合と考えている自分がいる。
全員を救うためと言いつつ、やっていることは他人に不幸を振りまく蛮行。まるで、ホムンクルスのような、な。
それでいて、覚悟が足りないために、あの少年たちに要らぬ苦痛を強いている…
錬金の戦士としても、人間としても、もう、私にはキミの傍にいる資格は無いな)
彼女の前には二つの扉。血塗られた修羅道へと続く、真っ赤な扉。光に溢れる日常へと続く、山吹色の扉。
彼女が選ぶは獣道。死んで死なせて、殺して殺される畜生道。彼女が閉ざすは、焦がれて焦がれた、日常へ続く蜘蛛の糸。
ロボットアームが持ち上げられる。死の先端が、彼女の頬に触れ、そのまま、斜一文字に鮮血を散らす。
少女の貌に刻まれたのは、醜い一筋の傷跡。本来の傷跡と相まって、彼女の顔には十字架のような紅が顕れる。
「これは、決別の証だ。カズキ…キミとの。望み続けた、平和な日常との。
もとより、私にそんな資格など無かった…でも!!
キミの…クリリン君の…月君の…あの少年たちの…皆の日常は、必ず取り戻す!!」
行くのは、もう、戦乙女などではない。
戦いに赴くのは…征くのは、十字架を背負った、死神が独り。
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「オイ、志村!」
――なんだ、No2じゃないか。今まで何処に行ってたんだ?
「なんだじゃねーよッ!オマエこそ、今にも死にそうじゃねーか!!」
――そうだ!No2、姉崎さんも!!あの小屋に戻っちゃ駄目だ!地獄凶悪ミニスカ殺人少女にSATSUGAIされるぞ!!
「なんだその属性の数?!…て、すっかりオマエに毒されちまったな」
――お通ちゃんの魅力は世界を超えるんだ!!ならば、寺門通ファンクラブの我々の価値観が融合していくことなど、至極当然!!
今まで何を聞いてたんだ、No2!さぁ、素お通ちゃんコールを10セット追加だ!
さぁ!L! O! V! E! お! つ! う!!はい!!
「ハハ、それだけ元気ならわざわざ来ることもなかったな」
――オイ、No2?!No2?!
「若島津だ…じゃあな、隊長。生きろよ」
――No2?
「誰がNo2だ、誰が」
――ゲゲェーッ!?No2が銀さんに!?てことは、何?これ走馬灯か何か?
「いや、悩めるオタク少年にアドバイスを…て、痛!お前、何殴ってんの?折角来てやった、皆の銀さんにヒドくない?!」
――悪・霊・退・散~~~~~~ッ!!僕はまだ死ねないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「フフフ…この銀さんを退けても、第二、第三の刺客が…」
――なんかキャラ違くないですか?て、刺客ゥゥゥゥゥゥゥ~~?!
神楽ちゃん?沖田さん?冴子さん?って、キャサリンお前はまだ死んでねぇだろぉがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
というか、お登勢さん!アンタ、年が年だけに洒落になんねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!何コレ?イジメ?!
志村新八握手会か何か?!
「新八…どれだけのヤツが、オマエに生きていて欲しいと思っているか…よく考えて、そして背負えよ」
――銀さん?カッコつけるのはいいけど、この長蛇の列をなんとかしてからいけぇぇぇぇぇぇッ!!!銀さん?!銀さん?!
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越前に背負われ、朦朧とした意識で歩くは、侍の血を継ぐ少年、志村新八。彼の瞳から、一筋の涙が流れた(心労で)。
【滋賀県~京都府 朝】
【志村新八@銀魂】
[状態]:重い疲労、全身所々に擦過傷、特に右腕が酷く、人差し指・中指・薬指が骨折、上腕部に大きな切傷
顔面にダメージ、歯数本破損、朦朧、たんこぶ多数、出血多量
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、半覚醒
2、若島津との合流(眠っていたため、若島津の死亡宣告は曖昧な認識)
3、藍染の計画を阻止。
4、まもりを守る。
5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員、重い疲労、脇腹に軽度の切傷
[装備]:線路で拾った石×1
[道具]:マキ○ン
[思考]:1、新八を死なせたくない。なんとか出来る人物を探す。
2、藍染の計画を阻止。
3、情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
4、乾の死を悼む
5、落ち着くまで、新八に若島津の死は伝えない
6、生き残って罪を償う
【滋賀県 琵琶湖畔の小屋/朝】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:肉体的・精神的に軽度の疲労、左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
顔面に新たな傷、ゲームに乗る決意、核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@DRAGON BALL
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、 ショットガン
真空の斧@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ~べ~、『衝突』@HUNTER×HUNTER、子供用の下着
[思考] 1:少年らを追跡、殺害
2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
3:友情マン、吸血鬼を警戒。
4:もう知り合いには会っても躊躇はしない。
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最終更新:2024年07月12日 18:48