0365:ボケも貫けばつっこみになる





新ちゃん

新ちゃーん


かすかな声が聞こえる。子供をあやすような優しげな、ここにいるはずのない姉の声。
新八はごろりと固い床に寝返りをうつ。自分は夢を見ているのだ。そうでなければ、幻聴だ。
耳を傾ければ懐かしく心温かくなれる。けれど、所詮は夢。朝鳥の鳴く声が聞こえる。
意識の底で、そろそろ目覚めの時であることを知る。

固い床、薄い夏用の毛布。
無用心だからと、ベッドに寝るのはやめて部屋の隅に寝ようと言ったのは越前であったか。
新八は浅いまどろみの中でぼんやりと思い出す。
そうだね、2人だけベッドを使うのは悪いもんな。彼らが帰ってきたら休ませてあげなくちゃ。
ドアの前には、イスや机で侵入者対策のために作ったバリケードがある。
バリケードと言っても、いずれ戻って来る若島津とまもりのことを考え、
家具を寄せて作っただけの至極簡易的なものである。
まったく無防備で休むというのも、さすがに懲りていたから。

さあ、起きよう、と目を開けようとしても、全身の疲労やだるさがまだ残っており、
生温かい泥のようになって新八の意識を覆い、夢の奥に引きずり込もうとする。
相反する意識と無意識のあいだを、新八はうつらうつらと漂っていた。

ほんの少し開けておいた窓からは朝の冷気が流れ込み、毛布から露出した顔や手足を冷やしていく。
隣の越前もまた、小さなくしゃみをし、なにか形にならぬ寝言を呟いて、また元の眠り世界へ帰っていった。
前日の疲れが、まだ残っているのだ。

疲労が意識の覚醒を阻み、意識が覚醒を促す、その繰り返し。
落ち着けない居心地の悪さが新八を責める。
――――いい加減、本当に早く起きないと。
新八は鉛のように重い手足を奇妙に感じながら、これまた鉄のような重量を感じる毛布を動かした。
(ああ、昨日の疲れが取れないんだな・・・)
渾身の力、気力を振り絞って起き上がる。それだけの作業で新八は何kmも走ったかのようなだるさを感じた。
隣を見やると、越前らしき毛布の塊がある。
カタツムリのように丸くなり、石の様に眠っている。

新八は異常な体力の消耗に疑問を抱きながら、相方を起こそうと、
彼の毛布を引き剥がしにかかった。
「さあっ・・・越前くん、朝だよ。起きて!」
しかし、毛布は貝のように堅く閉ざされており、毛布の裾をいくら引っ張ろうとビクともしない。
新八は渾身の力を入れた。
「ぐぐぐんがぐぐ・・・!!!」





一方、繁みに身を隠しながら津村斗貴子は前方の小屋の様子を窺っていた。
(ここの反応は動かないな・・・やはり、眠っているのだろうか)
琵琶湖湖畔。あの小屋は観光客のための簡易宿泊所といったところか。

黒尽くめの男が消えた後のこと、斗貴子は京都方面へ向かおうとした時、
スカウターの索敵範囲にある2つの生命反応に気付いた。琵琶湖近くに2人の人間(?)がいる。
滋賀を離れる前にやらなくてはならないことができた。
人減らし。なんとも嫌な響きのある言葉だ。

気になるのはスカウターの数値だ。反応がやけに低い。
(まさか、子供か・・・いや、わかっていたことではないか)
ケンシロウの探し人、リン。ライトの仲間だったイヴ。
彼らの語りでしか知りえぬ存在だったが、いずれも年端もいかぬ、幼い少女だったと聞く。
斗貴子は歯噛みをし、思考する。
(見逃すか・・・?子供がいつまでも生きていられる環境ではない。私が殺さずとも・・・)
(他の誰かが・・・しかし、)
確かに、ここまで生き延びた人間なら躊躇なく殺す人間もいるだろう。
そういう奴等に出会えば簡単に命を奪ってくれる。とても呆気なく。吐き気のする方法で。

仮に殺されなかったとしても、暴力の捌け口や、交渉の道具、酷い目に遭わない保証はない。

まともな者に保護された場合。しかし、所詮1人2人しか助からないシステム。
裏切りの末に殺されるのは戦う力のない子供の方なのは目に見えている・・・どう考えても?どう考えても、だ。
斗貴子はショットガンを握り締めた。皮膚が破れるほど力を込めて。
(・・・・・・いま、ここで殺しておく)

朝露に湿った草の上を、斗貴子は慎重に歩いていく。
核鉄は発動させず、銃だけを持って小屋に近づいた。眠っている間に片付ければいい。
もしも、起きていたら・・・?
説明して理解してもらうか?今死ねば後で生き返らせてあげる、と。
「それは無理だ。」
斗貴子は呟く。だから彼―――クリリンはあんなにボロボロになった。
身も心も。誰にも理解されず、かつての大切な仲間すら手にかけて。

斗貴子はバルキリースカートを発動させ、小屋の窓に近づいた。
カーテンの隙間から中を覗くと、ベットの向こう側、まだ薄暗い部屋の隅に2つの毛布の塊があった。
それは斗貴子の予想より大きい物であったが、気分は晴れるはずもなく、険しい顔をしたまま。
ふと、窓が少し開いている事に気付く。無用心さに呆れながら、斗貴子は音を立てぬよう慎重に窓を開けた。
塊たちは動かない。窓際に体重を乗せ、バルキリースカートの武装を解除し部屋に侵入した。
身軽な斗貴子はたいした音も立てず床に着地し、部屋の内部を見渡した。

入り口はテーブルやベッドで封鎖されている。
急いで作ったのか、向こう側から強い力で押せば簡単に破れてしまうような出来である。子供の手ではこれが精一杯なのだろう。
斗貴子は首を振り(子供子供と、考えすぎだ)、ホイポイカプセルに入れておいたショットガンを手にする。
残弾は残り少ない。
(一瞬だ。眠っているあいだに片付ける)
斗貴子は眠っている2つの塊に銃口を向けた。




――――んが、ぐぐぐぐ、越前くん、起きて、起きてってば もう朝だよ !!
後ろから、笑い声が聞こえた。聞き覚えのある声色だが、新八は構わず、振り向かない。

新八の姉 妙が、江戸に居た頃と同じ優しい声で語りかけてくる。
『新ちゃん。どうしてこっちを向いてくれないの?』


――――いや、だって夢なんでしょ。気絶するたびに出てくるもの。いい加減、わかるってば。
『いいじゃない、夢だって。新ちゃん。人間夢を持たないと生きていけませんよ』

――――それは起きてる人だけが見れる志ある夢でしょう。この「夢」とは違います。
    ほら、越前くん。いい加減起きなさいって。
    起きてNO.2とまもりさんを探さなきゃならないんだから!
    ふんぬらばァァァ!!

    ・・・ってアレ?毛布は?越前くんは?どこいったの

『新ちゃん、そんな浮き輪みたいな軽い頭で考えたって 答えは出ないわよ』
――――浮き輪みたいな軽い頭って僕の頭!?夢でも辛辣だな、オイ。
    でも姉上、夢といえどもここは危険な戦場です。早く家に戻ってください。
    僕はもう大丈夫ですから。

『今日は新ちゃんの力になろうと思って来たの』

――――力!?申し出はありがたいですけど、姉上を巻き込みたくありません。
   (相談事があったって、いつもは自分の力で何とかしろって障子と一緒に外へ蹴飛ばすくせに!
    どっかで頭でも打っちゃったのか?頭パーンて)

『新ちゃんがいなくちゃウチの家計 火の車でしょ?
 そしたらこの人が力を貸してくれるって』

『ニコッ やあ。』
ご機嫌な妙の後ろから、涼やかな、和装の似合う好青年が現れた。

――――藍染じゃねーーかァァァ!!姉上ッ!!そいつは悪人です、すぐ離れて今すぐーー!!

『だいじょうぶよ、新ちゃん。全てこの人に任せればなにもかも上手くいくわ。
 不思議な妖術を使って新ちゃんや皆さんを脱出させてくれるんですって』

――――コロッと騙されないで下さいぃ!だいたいなんなんですか不思議な妖術って。
    あからさまに怪しいじゃないですか。深夜放送の通販番組より信じられませんよ!!
『プ』
    てめぇぇ!笑ってんじゃねェェ!!メガネかけて好感度でも上げたつもりかーー!!

『藍染さん、あんなことを言う弟を悪く思わないで下さいね』

『気にする必要はない。他ならぬ お妙さんの弟くんだからね。』
藍染は動じた様子なく笑い、妙の肩を抱き寄せた。

――――てめェェェェ!!姉上から離れろぉ!なんだ「お妙さん」て?俺は許さねーからな!
『私、この人の店で働く事にしたの』
――――なんでそーなるのォォ!?おま、馬鹿も休み休みにしとけって!
    そいつ悪人だって、さっきから口酸っぱくして言ってるだろ!まだ酸っぱくさせたいのか、お前!?

『なに、簡単な仕事さ』
藍染は優雅に微笑んだ。 

『ちょっとノーパンになってしゃぶしゃぶを作ってもらうだけだからね』
――――そんな懐かしネタどっから拾ってきたぁぁ!
    ああ、チクショーそうだよ、連載第一回からこれだったよ!
    って、駄目ですよ姉上、ホント、そんなんやったら月刊アダルトジャンプに飛ばされますって。

『無理強いするつもりはないよ。他にも仮装SM喫茶や面白ソープ茶屋とか幅広い選択肢が・・・』
――――選択も何も結局全部風俗じゃねえかぁぁ!!




荒れる新八に、妙が言う。



『だって、人の命には代えられないわ。新ちゃんもそう思うでしょ?』
――――そんな・・・だからって間違ってますよ。
    姉上が犠牲になって、それで助かっても僕は嬉しくない。
    納得も出来ません!考え直してください!

『新ちゃん。貴方だけじゃなく、いま生きてる人 みーんなが家に帰れるのよ?よく考えてみて。
 ・・・だから、これで、いいのよ。』
――――でも・・・!それじゃあ、姉上はどうなるんですか!?姉上の気持ちは!心は!?

妙は少し黙った後、菩薩のように微笑み、こう答えた。    
『平気よ、ちょっとマゾになれば』 
――――バ、バカヤロォォォォォ!    




「んぐっ・・・がぁ~~」
銃口を向けた瞬間、静寂が支配した部屋に、間抜けなイビキが轟いた。
斗貴子の目の前の毛布の塊。少年が壁に背をもたれ、座ったままコクリ、コクリと頭を揺らす。
年の頃、高校生か。詰襟ではなく、和装である。剣道でもやっているのだろうか?
殴られたのか、顔が少し腫れ、痛々しい傷痕が見えた。
それでも涎を垂らし、朝日に照らされて気持ち良さそうに眠っている。

斗貴子は標的から銃口を外している自分に気付く。

(決意はしたはずだ。なのに、なぜ、私は少年から銃口を外しているのだ?
 ・・・これ位のことで動揺してどうする)
斗貴子はフッと小さく呼吸し、ショットガンを構え直した。
と、今度は隣に眠る、もう一人の少年が大きくゴロンと寝返りをうった。
はだけた毛布の中身は予想通り子供であった。
斗貴子の想像より大きかったが、それが何の慰めになるだろうか。
年の頃、12、3。青いジャージ。デイパックの上に置いてある青い帽子も彼のものだろうか。
余計な事だ、考えまいと首を振る。
しかし斗貴子はまた自分が銃を下ろしていることに気付く。
(余計な事を考えすぎだ、殺す事だけに集中しろ)
詮索など不要。彼らがどこでどんな目に遭ってきたかなど。
自分には、いや、自分の任務には関係のないことなのだ、迷うな。

(・・・もし、ピッコロの居場所を知っているとしたら?)
そして、唐突に、疑問の芽が顔を出す。
それは、ないだろう。斗貴子はすぐに考えを打ち消す。
彼―――ピッコロが現在どこにいるかは知らないが、
あの孫悟空並の戦闘力持つ彼と仲間になれば、身の安全のため、彼からは離れないはずだ。
こんなところで2人きりで寝ているわけがない。
(ん・・・?)
斗貴子はその考えに何か引っ掛かりを感じた。

ピッコロ。ドラゴンボールを作った張本人。彼はこの計画の事を知らない。

彼を優勝させ、ドラゴンボールでゲーム自体をなかったことにしてもらうのが、
クリリンと斗貴子の狙い・・・願いだ。

『製作者ならとっくに気付いているんじゃないか?』

ドラゴンボールを知り尽くしているはずの製作者本人が気付かないなど、ありえない話だ。
彼もまた、参加者減らしに躍起になっているのだろう。そうでなければ、困る。

斗貴子は手元のショットガンと、少年らの顔を交互に見る。
(情報を聞く必要などないか。彼に出会っていたら、ここにいるはずがない、か)

願望の入り混じる推理を終え、斗貴子の銃は、また止まる。
少年らの安らかな寝息が響くこの部屋だけが、ゲームから切り離された別世界のようだ。
銃を構えた自分だけが異質、いや、滑稽にも思えてくる。

この木造の小屋は、あの寮を連想させる。任務のためと潜り込んだあの学園。
古めかしい作り。借り物のシーツに、粗末なベッド、夜も途切れない人の気配。
(・・・嘘だ、そんなに似てないじゃないか、でたらめだ)
記憶の引き出しから溢れてくる、懐かしい記憶の断片を、斗貴子は振り払う。
お前が殺そうとしてるのは何の力もない、ただの人間だぞ。そんな声が心の奥から聞こえる。

(うるさい、そんなことはわかっている。どうしようもないことなんだ。)
眠っている人間を撃つという非人道的な行為が、戦士として生きてきた斗貴子の思考を掻き乱す。

(皆が助かるにはこの方法しかないんだ。誹るなら誹れ。今更、逃げ道を走ろうなんて思わない。)


じゃあ、なぜ、あの黒尽くめを見逃した。
(強者は強者同士で潰し合えばいい)
そんな悠長なこと言ってる場合か。肝心のピッコロが死んだらどうする気だ。
お前が見逃した黒尽くめのアイツに、ピッコロが殺されたら。
(馬鹿な。ピッコロは強い。簡単に殺されるはずがない。
 そいつは、何もかも吹っ飛ばして逃げた、あの凶暴な孫悟空と互角の実力を持っているんだ、死ぬはずがない)
『強い奴が生き残るとは限らない』それはケンシロウに言った言葉だったか。
(優先順位を考えろ!ここで確実に2人消えるんだ、誰も殺さないわけにはいかないんだよ!)
ケンシロウを見逃し、アビゲイルを見逃し、黒尽くめを見逃して、か。
(連中の動向ならスカウターがある。泳がせてるだけだ!ここを終わらせたらすぐに向かう。
 監視して弱みを見つけ次第、すぐに殺す、それで問題ない。余計な事ばかり考えるな!)

弱いものは食われる。それが摂理だものな。
(違う、私は、そんなことが二度と起きないよう錬金の戦士に・・・)
じゃあ、今していることは?

      • 堂々巡りだ。もう、考えるのはやめろ。考えても仕方ないことだ。
私がこう考えてしまうのは手を汚したくないからか?馬鹿な。彼の躯の前で誓ったはずだ。
この銃を構えて、引き金を引く、それだけの動作が、何故出来ない。
戦闘の時はあれほど軽やかに、自分の思い通りに動かせていたのに。
今さらここにきて葛藤などと。
撃てないなどと、誰に言える。子供が怖いなら目を閉じて撃て!




「駄目れす。そんなこと、考えちゃ」


(・・・起きていたのか!!)
咄嗟に声の主のほうに銃口の向きを変える。
しかし、和装の少年は答えない。相変わらず涎をだらだら垂らし、目を閉じている。

(寝惚けて・・・いるのか)
少年はゆらりと顔を上げ、呂律の回らぬ喋りで唐突に語り始めた。

「駄目たらだめれす 貴女が犠牲になっれも僕は嬉しくないれす
 たとえみんな助かっても だれも嬉しくないれす 貴女が苦しんだって
 だれも喜びませんて なんれそんなこともわかんないんれすか 情けらい」




(・・・寝惚けているだけだ、)
斗貴子は相手が寝惚けているのを承知で口に出した。吐露せずにはいられないことを。

勿論、目の前にいる少年にかろうじて聞こえるだけの微かな呟きで。
「もう、これしか方法がないんだ。だから・・・許してくれ」
いつもよりずっと上擦った自分の声に、斗貴子は自分が泣きそうになっていることに気付く。
斗貴子は少年の肩を抱き、少年はくすぐったそうに斗貴子の肩にもたれかかる。
「あね、うえ」

斗貴子は少年の心臓に銃口を押し当てた。一瞬だ。頼む、苦しむなよ。

そう願った刹那、斗貴子は、少年の言動に、己の耳を疑った。




「まだパンツははいてますか~~?」
「・・・はあ!?」



少年は呆気に取られる斗貴子に構わず、幽鬼のように立ち上がった。
「・・・パンツを履いて下さいィィ!!ノーパンになって得られる平和なんか俺は認めんぞォォ!!」

言うなり少年は、   スパァーーーン!!と、斗貴子の横っ面を引っ叩いた。
少年の不可解な言動、叫びが、戦士斗貴子の思考をきっかり2秒奪い、
その瞬間、彼は神速に達する素早さで突っ込んだのである。寝ぼけた人間に攻撃されるほどやるせないものはない。
この怒りどうしてくれようか。しかし、斗貴子は冷静であった。
彼女は子供を手にかけなければならない、事の重さに苦しんでいた。
せめて眠っているあいだに済ませようと腐心していた。それが裏目に出てこの有様だ。
とにかく少年を気絶させようとショットガンを振りかざしたが、またも神速のタックル――と言ってもそもそも2人の間の距離が短いのだが――
いや、神速の抱擁が斗貴子の腕と銃身をすり抜け、少年の顔面が斗貴子の腹に吸い込まれるように激突した。
バランスを崩した斗貴子がベッドの柵に脚をとられ、少年と共にベッドシーツの上に雪崩れ込んだ。
その拍子に、標的から大きく逸れた銃の引き金を斗貴子の指が引き、天井に向かって放たれた弾丸が照明を破壊する。
音を立てて砕けた照明は粉々になり、部屋に細かなガラス片が降り注ぐ。
斗貴子は咄嗟に銃を投げ、ガラス片から少年を庇うが、
すぐ苦い顔をして自分の周りの破片を振り払い、力の入らぬ体勢のまま、少年の頭を叩く。
それでも正気に戻らぬ少年は斗貴子の腹に顔をつけたまま喚く、喚く。

「ちょ・・やめ、やめなさいっ!!こら!」
「姉上ぇ!!その男はやめてェェ!!そんなハズレクジ捨てて生きてェェ!」

そんなんに嫁いだら身も心もボロボロにされたあげく遊郭に売られちゃうんだ~、と意味不明の寝言は続く。
昔、これと似たようなことがあったような、なかったような。
怒りや懐かしさや情けなさをない交ぜにしながら、斗貴子は少年を引き剥がそうと力を入れる。
昔、寮でもこんなことあったっけ。ホムンクルスに操られた寮生が、あの時いきなり誰かに抱きつかれて自分は困ったんだ。
馬鹿馬鹿しい。今思い出すことじゃないだろ。思い出など捨ててしまえ。
そうしなきゃ、誰一人助けられないんだ。冷静になれ。慌てる場面じゃないだろ。
(こ、この子は寝ぼけてるだけだ・・・!早く、今のうちに)
バルキリースカートを発動させるのも忘れ、斗貴子は銃を探す。



「何、やってんの?アンタ、誰?」
知らぬ間にジャージ姿の少年が、斗貴子たちを見下ろしていた。
手には斗貴子の落としたショットガンが握られている。
「それを返しなさい!!」
斗貴子はそう叫ぶなり、銃を奪い返そうと、少年が腰に巻きついたまま手を伸ばした。
ジャージ少年は身軽に避け、2人は部屋が揺れるほどの衝撃で床に転げ落ちた。
うつ伏せになった斗貴子の背中から、不機嫌な少年の声がかかる。

「アンタらさあ・・・朝っぱらから、なにやってんの?」
「うるさい!!君たちこそなんだ!?朝っぱらから寝ぼけて、馬鹿か!?」

いきなり新八の絶叫で叩き起こされたと思ったら、次は発砲音、そして見知らぬ顔の女性。
越前は寝起きではっきりしない頭を振り搾って考えた。
彼女が新八の言っていた・・・
(・・・寺門通さん、かな。)
何か違う気がして昨夜の記憶をたぐる。
考えてる間にも、女性は越前を射殺しそうな瞳で睨みつけている。
(アイドルが寺門通で、男が若島津。じゃあ、この人が姉崎まもりさんか。
 なんでこんなに怒ってんだろ。寝惚けた新八さんに抱きつかれて発砲したのか。
 短気な人だね)
考えながら越前は、女性が何か言うのも構わず、ショットガンをベット下に蹴り入れた。

「アンタこそ、今までなにしてたの?若島津さんは、トイレ?眠いんだから勘弁してよ」
「うるさいい!!」
斗貴子の叫びが窓ガラスを震わせた。
それでも斗貴子の腹にしがみついた新八は力を緩めず、
たんこぶだらけになりながらも、何故かスッキリした顔でしつこく眠り続けていた。



放送まで、あとほんの少し。





【滋賀県 琵琶湖畔の小屋/早朝】

【志村新八@銀魂】
 [状態]:疲労、全身所々に擦過傷、特に右腕が酷く、人差し指・中指・薬指が骨折
     顔面にダメージ、歯数本破損、キレた、熟睡、たんこぶ多数
 [装備]:拾った棒切れ
 [道具]:荷物一式、火口の荷物(半分の食料)
      毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
 [思考]:1、半覚醒(思考:藍染のメガネを叩き割る)→熟睡
     2、若島津が戻るまで待機。朝になっても戻らないようなら探しに行く。
     3、藍染の計画を阻止。
     4、まもりを守る。
     5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
     6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。

【越前リョーマ@テニスの王子様】
 [状態]:非親衛隊員、軽く混乱
 [装備]:線路で拾った石×4  
 [道具]:荷物一式(1日分の水、食料を消費)
      サービスエリアで失敬した小物(マキ○ン、古いロープ爪きり、ペンケース、ペンライト、変なTシャツ )
      テニスラケット@テニスの王子様(亀裂が入っている)
 [思考]:1、状況を把握したい。女性に対して少し警戒。
     2、藍染の計画を阻止。
     3、情報を集めながらとりあえず地元である東京へ向かう。
     4、乾との合流。
     5、生き残って罪を償う

【津村斗貴子@武装練金】
 [状態]:肉体的・精神的に軽度の疲労、左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
     核鉄により常時ヒーリング
 [装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@DRAGON BALL
 [道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険、真空の斧@ダイの大冒険
     首さすまた@地獄先生ぬ~べ~、『衝突』@HUNTER×HUNTER、子供用の下着
 [思考] 1:少年らに困惑、怒り。自己嫌悪。
    2:参加者を減らし、ピッコロを優勝させる。
    3:友情マン、吸血鬼を警戒。
    4:もう知り合いには会いたくない。
    5:近くの5人組を警戒。

※ショットガンはベッドの下に落ちています。

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341:暴走列島~原点回帰~ 志村新八 375:そして扉は閉ざされた
341:暴走列島~原点回帰~ 越前リョーマ 375:そして扉は閉ざされた
357:ニアミスの朝 津村斗貴子 375:そして扉は閉ざされた

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最終更新:2024年07月10日 05:38