0378:Eosの涙
気が付くと、
アビゲイルは暗い道を歩いていた。
周りを見渡しても、誰もいない。何も見えない。
そして、歩く道の先には、さらに冥い、巨大な何かが蠢いていた。
あれは・・・まさか、破壊神・アンスラサクス!?
そう思った途端に、その影はみるみるとその姿を変えてゆく。
そして、気が付けば、そこには最初からそうであったかのように、破壊神・アンスラサクスの姿があった。
なぜか、その物体は、アンスラサクスそのものである、という、奇妙な確信が持てる。
そしてアビゲイルは気付いた。
これはただの夢なのだと。
あの冥い物体は、ヘルマン・ロールシャッハの示した不規則図形と同質のものだ。
そう気付けば、かの忌まわしき破壊神も、何のことは無いオブジェも同然。
私としたことが、とんだチープな夢を見るものだ、と己を嘲笑する余裕も出る。
そこで、アビゲイルはもう1つのことに気付いた。
そして、背筋が薄ら寒くなる錯覚を覚える。
私が夢を見ているということは、
私は眠ってしまっている!
* * * *
アビゲイルはハッと眼を覚まし、周りを確認した。
もう夜は明けている。時間は早朝・・・放送直前といったところか。気付かぬうちに眠ってしまっていたらしい。
昨夜は狂気の戦士・斗貴子との対峙で、これまでに蓄積していた疲労が限界を超えたようだ。
以前では考えられないことだが、魔素の薄いこの世界の影響なのかもしれない。
いつ何時敵に襲われるかもしれないこの現状で、無防備に眠ってしまうとは、不覚極まりないことだ。
しかし、だからこそここで充分な休息をとれたことは、今後を見越せば大きな意味があるだろう。
横に眼をやると、サクラは既に名簿と鉛筆を手にしている。どうやら独り眠らずに、絶えず周囲を警戒していたらしい。
流石はガラと同じ、忍者を自称するだけのことはある・・・
と、サクラが、自分が起きたことに気が付いたようだ。
「あ、おはようございますアビゲイルさん。」
「おはようございます。うら若き女性を差し置き惰眠を貪ってしまってお恥ずかしい限りです。」
「いえ、アビゲイルさんは怪我も酷かったし、私はあんまり疲れていませんでしたから、お気になさらないでください。」
「そう言っていただけると恐縮です。おかげさまで大分身体も休まりました。」
――良い朝だ、諸君。
そして、会話を続ける間もなく、放送が始まった。
今回の脱落者は不運にも自分の知るものが多く含まれていた。
うずまきナルト、乾貞治、
鵺野鳴介はサクラから聞いた名であったし、
桃白白はブルマ、
トレイン・ハートネット、イヴ、
スヴェン・ボルフィードはリンスの、それぞれのもと居た世界にいた人物だった。
特にトレイン、イヴ、スヴェンは、リンスの話では各人特殊な能力をもった実力者であったそうなので、実際に会うことができず残念だ。
その後の
フリーザの禁止エリア等の話を聞きつつ、出発の準備を始めようとする。
と、ふと気付けば、サクラの様子がおかしい。
動き出すわけでもなく、虚空を見つめ、放心しているように見える。
「サクラさん、お仲間が亡くなられた様で心中御察しします。
しかし今は心を鬼にして、一刻も早くこのゲームを終わらせる為に行動を開始致しましょう。」
「・・・」
「サクラさん?」
「あ、すいません、そうですね、早く移動できるように準備を・・・」
アビゲイルの知識では、忍者の特徴はその戦闘能力だけでなく、徹底されたその行動理念にある。
目的を達成する為には、あらゆる手段を講じる精鋭集団。
相手と一対一で戦う騎士道精神が尊ばれた時代にあって集団戦法や暗殺術を用い、仲間の犠牲があっても非情に徹して任務を遂行する。そしてその強靭な精神力は、このような極限状態を生き抜く上では、この上ない武器になり得るだろう。
これまでのサクラを観察する限り、彼女は忍者としては申し分ない能力を備えている。
軽い身のこなしや体力、応急処置の技術や冷静な思考力、そして特殊な治癒能力と、どれをとっても忍者としては充分な水準に達している。
そして、忍者である彼女にとって、今は仲間の死に悲嘆する間を惜しんで行動することこそが、求められる行動のはずだ。
鍛え上げられた忍者ならば、それに必要な精神面での鍛錬も積んでいるに違い無い。
だが、今、サクラは、明らかに仲間の死に対する動揺を隠し切れずにいる。
顔色は蒼白、筆記用具を鞄に戻すその手は微かに震えているようだ。
その手から
参加者名簿がするりと滑り落ちた。
アビゲイルの足元に舞い落ちたその名簿の、うずまきナルトの名前は、未だ消されてはいなかった。
冷酷な忍者が仲間の死にここまで心を乱される筈は無い。では、何故こうもはっきりと動揺するのか・・・
最初に思い浮かんだのが、その者が『仲間以上』の存在だったのではないか、という可能性だ。
「・・・サクラさん、失礼ですがこの ”うずまき ナルト” という方は・・・あなたの恋人か何か、大切な方だったのですか?」
「ば、馬鹿なこと言わないでください!!あんなデリカシーの欠片も無い奴、死んでせいせいしたってもんですよ!」
力いっぱいに否定するその声は、少しうわずって、震えている。
「アイツとは昔からの腐れ縁でしたけど、いっつも私達の足引っ張って、サスケ君と喧嘩ばかりして・・・」
どうやら自分の推測は外れてはいなかったようだ。そして迂闊だった。藪蛇とはまさにこのことだ。
「それより仲間の乾くんと鵺野先生が亡くなって、両津さんが心配です。両津さんと合流するためにもすぐにでも四国に向わないと・・・」
精一杯の元気を搾り出しているその様が、痛ましい。居た堪れなくなり、サクラの言葉を遮る。
「申し訳ない。失言でした。これで涙をお拭きになってください。」
「えっ?」
差し出したハンカチの意味を、サクラはすぐには理解できないようだった。
そして、今気付いた、という様子で頬を拭うサクラの眼からは、大粒の涙が無数にこぼれ落ちていた。
「あれっ、おかしいな、悲しくなんかないのに、悲しんでる暇なんか無いのに・・・」
涙を見せまいと、荷物をまとめて歩き出したサクラの肩は、背中越しに小刻みに揺れているのがわかる。
「悲しくなんか・・・ナルト・・・私・・・」
「サクラさん・・・」
声をかけようとしたが、止めた。
かける言葉が無いとはこのようなことを云うのだ。
その後、サクラとアビゲイルの2人は名古屋駅に向かった。一刻も早く四国に行き、両津と合流したいという、サクラの希望だった。
サクラは気丈に振舞ってはいるが、最初に出会ったときのような、健やかな力強さには陰りが見える。
幸いにも駅は名古屋城の近くにあった。しかし、時刻表を見ると、次に電車が来るのは9時。まだまだ時間がある。
そこで、サクラに自分の計画を伝えることにした。
「サクラさん、私から提案があるのですが・・・電車が来るまでの間に、行きたい場所があるのです。」
「えっ?確かにまだ列車が来るには早いですけど・・・一体どちらに?」
「まずはこれをご覧ください。」
言うなり、大型の懐中時計のような、レーダーを取り出す。
「私のこの
オリハルコンレーダーが、参加者に支給された『オリハルコン』という貴金属の在り処を察知できるということは、昨晩に述べたとおりです。
そしてこの名古屋の、比較的近い場所にその反応があるのです。」
「でも、その反応の場所に、オリハルコン”だけ”があるとは考えにくいんじゃないですか?
むしろ、その持ち主がいる可能性のほうが高いんじゃ・・・」
「おっしゃるとおりです。ですが、それはつまり、相手に気付かれずに相手に近づけるということになりますね。」
「まさか・・・こっちから攻撃を仕掛けるんですか?」
「いいえ。相手がどれほどの戦力を持っているか分からないまま打って出るなど、愚の骨頂です。」
「じゃあ、どうするつもりなんですか?まさか、ただ見るだけって事は・・・」
「ズバリ、その通りです。」
解せない、というサクラをさておき、アビゲイルは説明を続ける。
「このオリハルコンレーダー、それぞれの光点に番号を振り、記憶させておくことができます。
ご覧ください、今、7個の光点がありますね?このそれぞれに番号を振ります。」
そしてアビゲイルがスイッチを押す。それぞれの光点に番号が浮かぶ。
(1):アビゲイルの持つディオスクロイ
(2):サクラの持つマルス
(3):まもりの持つハーディス
(4):ダイの持つクライスト
(5):欠番
(6):斗貴子の持つダイの剣
(7):承太郎の持つシャハルの鏡
(8):承太郎の持つ双子座の聖衣
(9):ケンシロウの持つフェニックスの聖衣
(10):
ボンチューの持つ蟹座の聖衣
(11):聖矢の持つペガサスの聖衣
(注:当然、アビゲイルとサクラが見ているのは番号だけである)
「この(1)が私の持つこのトンファー、(2)がサクラさんに渡したナイフです。
そして、(6)が、昨晩お会いした斗貴子さんの持つ剣の反応になります。」
「! それって・・・」
「そう、このレーダーがあれば、オリハルコンを持つ者のおおよその動きが判るのです。」
「!!・・・すごい。」
「例えば、この(3)、(4)、(11)は、昨日は別々の場所にあったのが、今は1つにまとまって動いています。
これが意味するのは、複数の参加者が行動を共にしているか、強力なマーダーが参加者の持ち物を奪いながら行動しているかのどちらかです。
・・・おや、(11)が少し離れましたね。どうやら前者が正解のようです。
それと、昨日あった(5)の反応が無くなっているのですが・・・これは何があったのかは理解しかねます。」
サクラは感心しながら、アビゲイルの説明を聞いているようだ。
「そして、これらの情報に、反応を示すアイテムの持ち主の情報が合わされば、さらに大きな意味を持ちます。
つまり、この(6)の反応には迂闊に近づくべきではないし、逆にこの(3)、(4)、(11)には積極的にアプローチをかけるべきだと判るわけです。
まぁ、集団行動する者が脱出派だというのは、その可能性が高い、というだけで警戒は必要ですが。」
「アビゲイルさんがおっしゃることはわかりました。
つまり、近くにあるこの(9)の反応源を特定できれば、以後の危険がぐっと減らせる、というわけですね?」
「ご名答です。例えばアイテムの持ち主が変わったりするだけでも、色々と推測する材料になり得ますからね。
我々の目的は、あくまで偵察。接触や、ましてや戦闘などではありません。
そして、9時までにこの名古屋駅に戻り、列車に乗る。そして、サクラさんの希望通り、四国を目指すのです。」
「・・・わかりました。じゃあ、私もご一緒します。万が一戦闘になったら、2人のほうがいいでしょうし。」
「・・・痛み入ります。」
そして、2人でオリハルコンの反応のある地点へと向かうことになった。
しかし、アビゲイルがサクラに伝えなかった懸念事項が2つある。
まず1つは、サクラの精神状態について、である。
今のサクラは、悲しみを見せまいと気張ってはいるが、アビゲイルが判断するに、昨夜までの緊張の糸が切れてしまっている。
厳しい見方だが、とても戦闘をこなせる状態とは言えない。
そして2つ目は、列車にマーダーが乗っている可能性である。
一度に2便の列車が駅に集まり、さらに名古屋駅から列車に乗ろうとする者が自分達以外にもいるやも知れない。
そのような危険な場所に、今のサクラを無防備に招き入れるのはあまりにも危険だ。
少なくとも、列車と駅の安全を確認した上で列車に乗り込まなくてはならない。
アビゲイルの希望としては、このオリハルコン反応を示す地点に信頼に足る人物が居り、
その者と共に行動し、サクラの危険を少しでも減らすことであるが・・・
それがかなり淡い希望であることは、アビゲイルも理解している。
(私としたことが・・・なんと無力。なんと無様なことか。)
アビゲイルは人知れず無力感を噛み締めていた。
この世界に来て、3人の女性に出会った。しかし、そのうち2人は自分の目の前で絶命し、1人は悲しみに暮れている。
(こうして行動するうちに、サクラさんの気が紛れれば良いのだが、そう上手くもいくまいな・・・
女性の扱いに長けたD・Sならどうするだろうか・・・?)
だが、アビゲイルはそこでその思考を止めた。そのD・Sとて最早この世にはいないのだ。
* * * *
名古屋東部。昨夜、ケンシロウとDIO達が闘った場所から、少し離れた森の中。そこに、ケンシロウと洋一が身を隠していた。
ケンシロウは、眠りはしないものの、静かに身体を休めている。その傍らでは洋一が寝息を立てている。
北斗神拳を極めたケンシロウと違い、洋一はただの高校生である。
しかも、火傷や銃創やらと傷だらけで、ここまでほとんど休み無しだったという。
その洋一を気遣って、ケンシロウは朝まで休息することにしたのだった。
朝になれば吸血鬼のDIO達の行動も制限され、洋一を託せる人物も探しやすくなるはずだ。
ケンシロウの心は、高ぶる感情に打ち震えていた。
先ほどの放送で告げられた名が、その原因である。
西野つかさの名が告げられた時は、己の無力さ、DIO達への怒りが湧き上がった。
だが、それよりも前にあり得ない人物の名が告げられた。
――ラオウ、江田島――
「ラオウ、だと!馬鹿な!!」
世紀末覇者にして拳王、我が宿敵にして兄、ラオウ。そのラオウが自分と出会わずして果てるとは。
そして、あのラオウに謀殺や不意打ちは通用しない。
ならば、考えられることは一つ。
ラオウを屠るほどの猛者がいる、ということだ。
ラオウを倒した者とは一体誰なのか。ラオウとの決着が永遠に付かなくなった今、ケンシロウはその疑問が膨らんでゆく。
兄は、悔いることなく逝くことが出来たのだろうか。
(つかさ・・・ラオウよ・・・せめて安らかに眠れ・・・)
静かに眼を瞑るケンシロウからは、眼に見えぬ、オーラと呼べるモノが滲み出る。
怒りと、悲しみと、無念さと、そしてそれらの絡みあった複雑な感情が、凄まじいプレッシャーとなり、周囲に立ち込める。
もちろん、その被害を一番受けるのは隣で眠っている玉葱少年なのだが。
「う~ん、なんだ、この重圧は・・・俺ってついてね~~、う~ん・・・」
洋一は、折角の休息時間であったが、当然のように悪夢に魘されていた。
その具体的な夢の内容はわからなくても、推測は容易だ。
彼のなすことが、全て裏目、裏目に出る悪夢。そう、正に現実と同じ展開。
彼には、例え夢の中であったのしても、
安息の時は訪れないのだろうか。
* * * *
アビゲイルとサクラは、レーダーの力もあって、労せずケンシロウを発見することが出来た。
しかし、物陰からケンシロウの様子を窺うものの、次の行動が定まらない。
「むぅ・・・あの体つき、そしてあの形相・・・あまり平和的な方には見えませんね。」
「え、あ、そうですね・・・」
本来なら、『アンタが言うな!!』と内なるサクラが突っ込むところだが、その元気は今のサクラには無い。
「しかし、側にいる少年は寝ているだけのようです。
あの男性がマーダーならば、あの無力そうな少年を生かしておく理由が判りませんね・・・」
そのとき、ふとサクラがあることに気付いた。
「あの胸の傷・・・あの人、斗貴子さんが言っていた、ケンシロウっていう人じゃ・・・!?」
「ケンシロウ?それはどういった方なのですか?」
「いえ、斗貴子さんのお仲間で、胸に7つの傷のある、とても強い方だとしか・・・」
「ふむ、ならば尚のこと腑に落ちませんね。あの少年を殺すわけでもなく、斗貴子さんとは完全な別行動をとっている。」
アビゲイルは、ケンシロウの人物を測りかねている。彼がマーダーである可能性と、対主催者、脱出派である可能性・・・
そして、眼前の男からは、異様な、そして圧倒的な存在感が立ち込める。
彼が味方につけば心強いが、敵となるならば絶対に見つかってはならない。
「あ・・・」
そのとき、サクラが声を漏らした。
「あの人・・・泣いている・・・」
見ると、男の頬に一筋の涙の跡がついていた。
仲間の死に心を痛めているのだろうか。
「アビゲイルさん・・・私、あの人はマーダーではないと思います。話だけでもしてみませんか・・・?」
「ふむ・・・しかし、斗貴子さんの計画に乗り、不本意ながらも人を殺めてしまったことを悔いているのかもしれません。現状ではまだなんとも・・・」
「でも!あの人も誰かの死を悲しんでいるんですよ!?」
「・・・サクラさん、声が大きいですよ。」
いけない。サクラの動揺が悪いカタチで判断を鈍らせている。サクラの言い分もわかるが、ここは感情だけで動くべきではない。
しかし。
「・・・そこに居るのは誰だ?」
気付かれた。アビゲイルの心配も虚しく、判断の決定権は自分達の手から失われることになった。
* * * *
「・・・そこに居るのは誰だ?」
ケンシロウが眼を開けると、観念したように、大柄の男と、少女が物陰から姿を現した。
新たな敵か?身構えるケンシロウに、少女が話しかける。
「あなたは・・・ケンシロウさんですよね・・・?」
「どうして俺の名を知っている?」
「斗貴子さんから窺いました。あなたは・・・斗貴子さんのお仲間・・・ですよね?」
その問いに、ケンシロウの胸が疼く。
それは修羅の道へ走った、少女の名。
「ああ、仲間”だった”。だが・・・お前達も、斗貴子の仲間なのか?」
すると、少女の代わりに大男が、少女を遮るように答えた。
「いいえ。それどころか私達は昨晩彼女に襲われましてね。そんな危ない方と、あなたは”今も”お仲間なのですか!?」
「ちょっと、アビゲイルさん!?」
「・・・」
また、胸が疼く。彼女はやはり凶事に手を染めているのか。
「・・・いや、仲間ではない。」
ケンシロウは苦悶の表情を浮かべて言葉を並べる。
「だが、彼女は必ず俺の手で止めてみせる。」
だが、その答えを聞いた大男は、嬉しそうに答えた。
「ほう!なら、我々とあなたは同じ志を持った仲間、ということになりますね!」
その言葉に対して、怪訝な表情でケンシロウは返す。
「・・・どういうことだ・・・?」
「いえ、私達も元々は斗貴子さんの仲間だったのですが、彼女のやり方に賛同できず、袂を分かつことになったのです。
ですが、彼女をこのままにしておくのは危険すぎますので、共に彼女を説得する仲間を探しておりまして。
あなたも、我々と共に行きませんか?」
「・・・俺は・・・」
* * * *
アビゲイルの言葉は、ある種の博打だった。
ケンシロウがマーダーではない、ということに賭けたのだ。
そして、アビゲイルは賭けに勝った。運良く、である。
あとは、ケンシロウがアビゲイルたちと共に来てくれれば言うことは無い。
だが・・・
「俺にはまだ倒さなければならない敵が居る。斗貴子は気がかりだが、その敵を放って行くことはできない。」
「むむ・・・それは残念ですね。」
そうは上手くはいかないようだ。さらに・・・
「・・・できれば、この少年も君達と一緒に連れて行ってはくれないだろうか。俺の戦いに、彼まで巻き添えにすることは出来ない。」
逆に、少年の保護を頼まれてしまった。現状で、サクラに加えてこの少年の面倒まで見るのは少々骨が折れる。
どうしたものだろうか。アビゲイルは考える。
「ふむ・・・そうですね、ではこういうのはどうでしょうか。
私達は、列車で関西方面へ行きたいのですが、その列車にマーダーが乗っていないとも限りません。
そこで、ケンシロウさん、名古屋駅まで我々の見送りに来て頂けないでしょうか?」
「む・・・」
寡黙なケンシロウに饒舌なアビゲイルが畳み掛ける。
「勿論、列車の安全が確保されれば、この少年を連れて関西方面へ行き、サクラさんの仲間と合流致しましょう。
次の列車が駅に到着するのは9時ですのでお時間は取らせません。どうでしょうか・・・?」
ケンシロウは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「いいだろう。駅まで共に行こう。この少年を頼む。」
「これは有り難い。そうと決まれば善は急げです。彼にも説明しないといけませんね。」
アビゲイルの計画は、完全に望み通りではなかったが、それに近いものになりつつある。
こうして関西へ行き、オリハルコン反応の固まった集団に合流できれば、この世界からの脱出に大きく前進できるだろう。
どうやら運が向いてきたようだ。そうアビゲイルは考えた。
「むにゃ、う~~ん」
だが、それらを吹き飛ばす不運の源が、ここには存在する。
「・・・し!もしも~し!起きてくださ~い!!爽やかな朝ですよ~~!」
「う~ん、むにゃ、あ、おはようございま・・・・・・」
ぬ~~ん。アビゲイルの不気味な顔面が洋一の顔に肉薄していた。
「・・・ぎゃ~~~~~~~っ!!!」
夢からの目覚めと同時に、至近距離からのアビゲイルの顔面。洋一にとっては何処までが悪夢で何処からが現実かわからないだろう。
そして、彼にとっての真の悪夢は、今始まったに過ぎない。
「もういやだ~~~~~~!!」
洋一の恐怖と混乱が絶頂に達したのだろう。洋一は失禁しながらいきなり走り出した。
度重なる疲労と、無数の傷。足には銃創があり、歩くことがやっとの彼のどこに、これだけの力が残されていたのか。
「な!!」
「あっ!」
そして、その場に居る3人が止める間もなく、洋一は森の中へ消えていった。
「これは・・・参りましたね・・・」
アビゲイルが呟く。そう、これで台無しだ。
列車の到着時間が迫っている。洋一を探している時間は無い。そして・・・
「いかん・・・悪いが、今の話は無かったことにしてくれ。俺は彼を探す。君達はこのまま駅へ向かってくれ。」
そう、ケンシロウは彼のために残るだろう。そして、駅には結局2人で行かねばならない。
折角うまくいきかけた話が、これでご破談になってしまう。
「・・・駅までだけでも、ご一緒できませんか?」
アビゲイルが最後の譲歩を望む。
「・・・このあたりには昨日出会った敵がまだ居るかもしれない。彼を独りには出来ない。」
だが、やはりそれも退けられた。
「すまない。俺は行く!」
そして、ケンシロウも洋一を追って森の中へと走り去った。
後には、アビゲイルとサクラだけが残された。
「・・・仕方ありません。ケンシロウさんと出会えただけでも良しとしましょう。では、駅へ向かうとしましょうか。」
「・・・ええ。でも、ケンシロウさん一人で大丈夫でしょうか・・・」
洋一は森の中を無我夢中で走っていた。
あのままあの場所に留まってさえいれば、頼もしい保護者と共に、より安全な場所へと移動できたかも知れない。
しかし、彼の不運はそれを許さなかった。
そして、彼の不運は留まるところを知らないのだろうか。
「ハァ、ハァ、疲れた・・・ん?あんなところに家がある・・・ちょうど良かった、雨も降りそうだし・・・ラッキー」
彼の頭上には、その不運を具現化したような、黒い暗雲が立ち込めていた。
【愛知県/午前】
【アビゲイル@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
[状態]:左肩貫通創、全身・特に右半身に排撃貝の反動大、無数の裂傷(傷はサクラによって治療済み)
[装備]:雷神剣@BASTARD!! ‐暗黒の破壊神‐、ディオスクロイ@BLACK CAT
排撃貝@ONE PIECE、ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
[道具]:荷物一式×4(食料・水、十七日分、一食分消費)、首輪
ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@DRAGON BALL、超神水@DRAGON BALL、無限刃@るろうに剣心
ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)、『漂流』@HUNTER×HUNTER
[思考]:1.名古屋駅で列車に乗る。敵との遭遇を危惧。
2.サクラを護る。
3.なるべく早い内に斗貴子を止めたい。
4.レーダーを使ってアイテム回収、所有者の特定。
5.首輪の解析を進める。
6.協力者を増やす。
7.ゲームを脱出。
【春野サクラ@NARUTO】
[状態]:ナルトの死によるショック大
[装備]:マルス@BLACK CAT
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
[思考]:1.四国で両津達と合流。
2.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
3.ケンシロウ、洋一を心配。
4.ヤムチャは放っておこう。
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:健康
[装備]:マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
[道具]:荷物一式×4(五食分を消費)、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢、手裏剣×1@NARUTO
[思考]:1、洋一を探す。その後、洋一を預けられる人物を探す。
2、DIOを倒す(他人は巻き込みたくない)。
3、つかさの代わりに、綾を止める。
4、DIO討伐後、斗貴子を追い止める。
5、ラオウを倒した者を探す。
6、ダイという少年の情報を得る。
【愛知県と長野県の境・山中の廃屋/朝】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、軽度の疲労
[道具]:荷物一式×2(食料一食分消費)、護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障)@DEATHNOTE、双眼鏡
[思考]:1、どこかに逃げて隠れたい。
2、できればケンシロウに協力したい。
3、でもやっぱり死にたくない。
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最終更新:2024年07月13日 08:08