0379:雪の陣~memento mori~ (修正版)◆PN..QihBhI
<壱>
雪原の丘陵に蹲り、
大魔王はただ、秋(とき)を待っていた。
野に降る雪。
黎明の頃より滔々と積もる雪は、いつしか視界を銀に染めた。
一面の銀世界の中、野晒しの躰に、凍てつく白装束を幾重にも纏わせながら、
それでも微動だにせず、大魔王は眼を凝らし続けていた。
この躰、寒さに震える事を知らない。だが、心を焦がす焔が大魔王を駆り立てる。
抑え切れぬ憎悪。堪え切れぬ破壊の衝動。そして自由への渇望。
古の記憶が甦る。ユンザビット高地、孤独、迫害。
手に入れた永遠の若さ。されど、呪わずにはいられぬ宿命。
―――おのれ。
歯軋りをしていた。遅い、まだ来ないのか。
彼奴が来ぬせいで、余計な事まで考えてしまうのだ。
フレイザード。氷炎を纏う、異形の魔人。
暴虐を振り翳し、如何なる残虐な行為も躊躇せず、勝利の為には手段を選ばぬ。
似ている、という思いはある。己を駆り立てる声。同じ様な声を、ヤツも聴いているのか。
朗報もあった。
世直しマンが死んでいた。
しかし裏を返せば、世直しマンを倒した者が、何処かにいるという事に過ぎない。
警戒を怠ってはならぬ。そして、何よりまだ生きているのだ。“あの男”も。
想いだけが巡りゆく。
何気なく大魔王は、躰に纏わり付いた雪を毟り取り、口に含んだ。
まざまざと甦る敗北の味。苛立ちが、更に募ってゆく。
立ち上がった。
躰に堆積した雪が、音を立てて落ちてゆく。
ここの雪も、直に見納めになるだろう。何の前触れも無く、そんな予感がした。
この屈辱は、必ず雪ぐ。
<弐>
冬の嵐。
吹雪の原野を、鋭い鉈で断ち割るかの様に駆け続けた。
蹴り上げた雪が舞い上がり、冷えて強張った頬を幾度も撫でた。
踏み込む足は踝まで埋まり、踏み出す足は鉛の様に重い。
しかし、フレイザード。
目と鼻の先だった。ようやく追い着こうとしている。
世直しマンの仇、
バッファローマンの仇。伸ばせば手の届く場所にいる。
全身の血が、どうしようも無い程熱く沸き返り、皮膚から噴き出してきそうだった。
もう誰も死なせねえ。ルキアに、仲間達に降りかかる火の粉は、オレが払ってやる。
フレイザード。
ボンチューは肚の底から声を上げた。
前を走るボンチューが咆哮を上げた。
舌打ち。桑原は、吹雪の狭間から微かに覗く、フレイザードの後姿に視線を戻した。
追跡を開始し、北へ逃走するフレイザードの姿を捉えてから既に、
三十分程の時が経過していた。
駆けながら、桑原はリーゼントに張り付いた雪を乱暴に払い、
大声でボンチューを諌めた。
「おい、ボンチュー。少しは落ち着きやがれ」
「うるせえっ」
雪の強行軍。極寒のマラソンは、容赦なく二人の体力を奪った。
しかし、フレイザードとの距離は、確かに狭まっていた。
両者の距離は、凡そ50m程。しかしこの吹き荒ぶ雪の嵐と、最悪の視界。
加えて、先だっての戦いによる負傷。追い付けたとして、果たして戦いになるのか。
前方を駆けるボンチューの、鞴(ふいご)の様な呼吸が聞こえる。
限界が近い筈だ。自分より、ボンチューの方が深手を負っている筈だった。
「ぐっ、馬鹿野郎。オメーも、もう息が上がっているじゃねえか」
「オレは、オレは刺し違えてもヤツを倒す」
「ちっ、
友情マンよォ。今なら分かるぜ、てめえの気持ちが」
いつの間にか、高い崖に挟まれた谷間に入っていた。
谷の道は大きく曲がっていて、見通しは悪い。しかし駆けた。
曲がった先、フレイザードが見えた。
フレイザードはこちらを向いて、中指を突き上げていた。
その口元が歪み、甲高い笑い声が響く。
ボンチューが、声にならない声を上げた。
桑原との差が開き始めた。嫌な予感がした。
「バカ野郎、挑発に乗るな。ボンチュー」
その時、爆音が耳を劈いた。
熱風が巻き起こり、雪と土くれが視界を遮ってゆく。
桑原は爆風に叩きつけられ、意識を失った。
<参>
雪原に、噴煙が立上っていた。
フレイザードは口元を歪めた。忍び笑いが漏れてくる。
フレイザードはパンツァーファウストの次弾を装填し、再び、雪煙の中心に照準を合わせた。
全身に、檻の様に堪る疲労と、数々の負傷が、寒さに対する抵抗力を奪っていた。
その中での逃亡戦。身を隠せる様な場所は、何処にも無かった。
このままでは追いつかれる。そう確信したフレイザードはここで博打に出た。
敵を谷間に誘い込み、パンツァーファウストで狙い撃ちにしたのだ。
殺ったか。いや、まだ油断するな。フレイザードは自分を戒めた。
照準が揺らいだ。意識が朦朧としてくる。
(やめなさい、フレイザード。これ以上戦ったら、あなた本当に死ぬわよ)
そんな事は百も承知だ。
(うるせえ。博打は外れたら、痛い目を見るから面白れぇんだよ)
炎の半身が、痛みと寒さに悲鳴を上げていた。
(何て哀れな人。戦い以外に自分の存在を証明出来るものがないなんて)
同情なんて、要らねえよ。
(勝利の瞬間の快感だけが、仲間の羨望の眼差しだけが、このオレの心を満たしてくれるのさ)
そうさ、ここは戦場だ。殺し合いをする場所だ。
噴煙が晴れてきた。
雪が蒸発して、剥き出しになった土壌が見えてきた。
フレイザードは愕然とした。
ボンチューが立っていた。
その身に纏った黄金の鎧は、傷ひとつない様に見えた。
焼け爛れた顔が覗く。そうだ、爆発の衝撃は防げても、爆熱までは防げない筈だ。
しかし、それでもボンチューは生きていた。
鬼神の如き形相で、こちらに駆け始めた。
<四>
パンツァーファウスト。二弾目が飛んできた。
黒煙を垂れ流し、砲弾が迫る。回避出来る場所は無い。
「走りやがれ。ボンチュー」
声がした。桑原は無事なようだった。
この黄金聖衣が、爆発の衝撃を遮断したのだろう。
起き上がろうとする桑原を一度見て、ボンチューは駆け出した。
そうだ、回避など必要無い。ただ前へ進め。
「『落合流・首位打者剣』」
桑原が小石を拾い、霊気の剣で打ち放った。
ジャストミートされた小石は、フレイザードの放った二発目の飛弾に命中し、
遥か前方で爆発が巻き起こった。
「ボンチュー」
爆音に混じり、桑原の叫びが背中に届く。
「オレぁもう何も言わねえ。
必ず倒せよ。フレイザードを、倒してみやがれ」
フレイザードが近づいてきた。間に合う。次の弾より、この拳の方が早い。
たけしも、死んだ。イヴも、夜に出会った眼帯の男も死んだ。
だが、桑原、恩に着る。お前のお陰でここまで来れた。
力が溢れてくる。全身が焼かれた筈なのに、痛みはない。
フレイザードが、慌ててパンツァーファウストを投げ捨てた。
ボンチューは気力を振り絞った。
「ボボン・・・!!」
<五>
フレイザードも氷の剣を出した。
潰れた様なツラの方も、こちらへ駆け始めた。
そしてボンチュー。目の前に来た。揺れる肩、歪む相貌。笑ったのだと分かった。
フレイザードも肚を据えた。前へ踏み出す炎の左足が雪に埋まり、蒸気が上がる。
「チュラアアァアアァアァァァァアァァ!!!」
一撃目。フレイザードの振り下ろした氷の剣と、ボンチューの拳が激突した。
根元から、氷の剣が折られた。血と、汗と、氷の破片が飛び散って、
微かに覗く日光に反射して煌いた。
二撃目。下からの渾身の一撃に、フレイザードのガードは、弾き飛ばされた。
残された力を振り絞った。それが弾き飛ばされた。体勢も崩された。
吹雪を背に受けて、ボンチューが、見下ろしてくる。
鎧の隙間から覗く、顔や腕は焼け爛れ、握り締めた拳からは血が溢れ出ていた。
「終わりだ、フレイザード」
「クッ、ククク。寝言抜かしてんじゃねえよ、このクソガキが」
三撃目。がら空きになったフレイザードの顎に、ボンチューの拳が迫る。
この時を待っていた。勝算は薄い。だが、最後の大博打を打ってやる。
―――バーン様、このオレに勝利と栄光を。
高々と、フレイザードは両手を広げ、その技の名を叫んだ。
「『弾岩爆花…!』」
その時、ボンチューが吹き飛んだ。
まるで見えない壁にでも弾かれたかの様な吹き飛び方だった。
振り向くと、背後に
ピッコロが立っていた。
<六>
緑の悪魔が立ちはだかっていた。
吹雪が割れている。その巨躯が纏う暗黒のオーラは、
荒れ狂うブリザードなど物ともせずに、禍々しくも平然と嵐に揺蕩っていた。
それは圧倒的な威圧感だった。
戸愚呂弟、いやそれ以上の戦慄が四肢を突き抜ける。
これがピッコロか。桑原は呻いた。
自らを大魔王と称し、友情マンの友、ペドロという男を屠り、
更に、バッファローマンというボンチュー達の仲間を殺した、悪の権化。
「フレイザード、貴様はそこで見ておるがよい」
その大魔王が、仰々しく命を下せば、フレイザードが無言で後方に退く。
追えなかった。金縛りに遭った様に、ピッコロの一挙手一投足に釘付けになっていた。
徐にピッコロが右腕を後方に引いた。
桑原の脳裏に疑問が霞める。遠い。とても拳が届く距離ではない。
だが異様さを感じて身構えた刹那、ピッコロがブンと腕を振るった。
「ぐおあっ」
その瞬間、とてつもない風がぶつかってきた。
躰が浮き、吹き飛ばされそうになる。桑原は歯を食い縛り、踏ん張った。
風が止んだ。顔を上げ、桑原は驚愕する。
雪に刻まれた二本の溝。それは紛れも無い桑原の足跡。
ピッコロの素振りが生んだ風圧が、自分の躰を押しやった証だった。
「ほう、少しは腕に覚えがありそうだな」
ピッコロの声からは、余裕綽々だという響きが滲み出ていた。
力の差に絶句する桑原の脇で、ボンチューがよろめきながら立ち上がる。
「桑原、オレがこいつらを食い止める。その隙に、とっとと逃げやがれ」
「と、とぼけた事言ってんじゃねーよ、バカ」
息も絶え絶えにそう言ったボンチューを、桑原は嗜めた。
ボンチューが殺気を放ち始める。もう全てが手遅れだった。
桑原は奥歯を噛み締める。やるしかねえ。
「とくと見せてやろう。このピッコロ大魔王の凄まじさをな」
ピッコロが尊大に告げる。それが戦いの狼煙となった。
ボンチューが先陣を切って走り出し、ピッコロが悠然と身構えた。
北の大地に雪が舞う。
雪はただ降り頻る。散って逝った参加者の、墓と躯のその上に。
雪はただ降り注ぐ。東北の地に取り残されし、彼等が最後の舞台の上に。
漢・桑原、最後の戦。魂込めて戦います。ってか?
へへっ、何でかな。オレ、笑ってやがるぜ。
そうだ、あいつらは、もう東京タワーに着いたのかな。
また、あいつらに、会える時が来るのかな。
浦飯、もうすぐそっちへ行くかもしんねーけどよ。
ハデにやられてみせるぜ。胸張って会えるようにな。
桑原も駆け始めていた。
霊剣を出した。前を走るボンチューに続いてゆく。
肌を刺すのは、死の予感。それは何処か、心地良さに似ていた。
<七>
ボンチューは、ピッコロに向けた拳を、一転して地に叩き込んだ。
雪が煙幕の様に舞い上がり、ピッコロを覆い尽くす。
「ぬ」
その隙にボンチューは、一瞬でピッコロの背後に回り込んだ。
隙だらけの背中が、ボンチューの眼前に晒される。
「ボボンチュゥ!!」
「下らん真似を」
「ぐぉあっ!」
連打を叩き込もうとした刹那、ピッコロの裏拳が、ボンチューの顔面を捕らえた。
鼻血を噴出し、ボンチューが仰け反る。
「まるで話にならんな」
ピッコロが、握り締めた両手を、ハンマーの様に振り下ろす。
後頭部に鈍い衝撃が走った。
―――なんで、だよ。
ボンチューは、頭から雪の中に突っ伏した。
一瞬だった。連携も図れぬまま、ボンチューが倒された。
ピッコロの巨体が、駆ける桑原を見下ろしてくる。気圧されるな。
裂迫の気合を込めて、霊剣を切り下げた。
「ぬるいわ」
桑原は愕然とした。ピッコロが、片手で霊剣を掴み取っていた。
直後、膝蹴りが腹部を直撃し、桑原は悶絶して地に跪く。
「どうした。もう少し楽しませてみろ」
「ぐっ、伸びろ、霊剣」
刹那、雪の中を潜行させた霊剣が、ピッコロの足元から飛び出した。
必殺の間合い。雪から飛び出した霊剣が、完全に油断していたピッコロの躰を貫く。
「何ぃ?」
「残念だったな」
手応えがない。残像。振り向く前に、背中に蹴りを浴びせられ、吹っ飛んだ。
その勢いで雪の中を暫く転げ、やがて止まった。
「ふん、未熟者どもが。気を隠す術も知らないとはな」
ピッコロの声が遠い。
腹と背に、激痛が稲妻の如く走る。血の味が口に広がってきた。
―――みんな、すまねえ。こいつめっちゃ強いわ。
「さて、フレイザードよ。そちらに転がっているガキに止めを刺しておけ」
「チッ、しょうがねえな」
足音が近付いて来て、氷の手に頭が鷲掴みにされた。
全身の体温が奪われていくのを感じる。
薄れ行く意識の中で、桑原は立ち上がるボンチューの姿を見たような気がした。
<八>
助けてーっ。ゴホゴホ・・・
(中に、中に妹がいんだよ。助けてくれよ。お願いだよ、助けてくれよ)
助け、て、お兄ちゃん・・・
(何もいらない。オレは何もいらないから、神様どうかメグを救って下さい。どうかメグを)
祈り。祈りなど、何の役にも立たないと、あの時に知った。
力さえあれば、どんな状況でも打開できると信じた。
だからオレは『スーパーヒーロー』になりたかった。
だけど、今なら分かる。
オレは、ただ守りたかっただけなんだ。
―――ただ、メグを。ルキアを、仲間を。
フレイザードが桑原の躰を氷漬けにし始めた。
それを一瞥し、向き直ったピッコロは感嘆の声を上げた。
「ほう、まだ息の根が止まっておらんのか」
「あんまり、図に乗ってんじゃねーぞ、コラ」
ボンチューが立っていた。
荒い息をつき、この大魔王を睨みつけてくる。
全身から血が滴り、白い雪に朱い斑点を作ってゆく。
「見上げた根性だ。だが、どう足掻いても貴様に勝ち目はない。
逃げられもせん。死の道しか残っておらんようだぞ」
嘯きながらピッコロは掌を向けた。気を集約させる。
まあよい、この一撃で消炭にしてくれる。
「呪うなら、己の運命を呪うがいい。私の様にな」
「おあ!!!」
ボンチューが、気合と共に足元に拳を叩きつけた。
大地が揺れ、雪が舞い上がる。
「血迷ったか。何度やっても無駄だぞ」
愚かな。ピッコロは軽い失望を覚える。
気を消し去らぬ限り、このピッコロ様に不意打ちなど通用するものか。
さて、右か、左か。それとも背後か。
ピッコロは目を閉じ、ボンチューの気を探った。
しかし、見つからない。馬鹿な、いや違う。遅れてピッコロは感知する。
ボンチューの気が、遠ざかってゆく。ピッコロは瞠目して叫んだ。
「フレイザード。ヤツの狙いは貴様だ」
<九>
「何ィ?」
その時フレイザードは、氷像と化した桑原を粉砕する為に、腕を振り上げていた。
「―――フゥゥゥレイザァァァドォォォォォーーーー・・・・・・・・・!!!」
直後、ボンチューの咆哮が天を衝いた。
ボンチューが修羅の様な形相で駆けてくる。遅れてピッコロも来た。
閃光が奔った。ピッコロが指先から、光線を放ったのだ。
レーザーがボンチューの右肩に命中し、鎧の肩当てが吹き飛び、血と肉が弾けた。
しかしボンチューは倒れない。
レーザー。ボンチューの後頭部に命中した。揺らいだ。しかしボンチューは止まらない。
フレイザード。またボンチューが叫んだ。
首が竦んだ。ボンチューは絶対に死なない。そんな風にすら感じた。
ボンチューが迫る。ピッコロはもう間に合わない。フレイザードは悲鳴を上げていた。
どうしようもない状況というのが、世の中にはある。
ピッコロは、やっぱり強かったよ。
だけど桑原。せめて、お前だけは生き延びてくれ。
お前だけは生きて、ルキアを守ってくれ。
いつか仲間達と、ピッコロを倒してくれ。
巻き込んで、済まなかった。せめて、お前だけは助けてみせる。
「下がれ、フレイザード。
ならば二人まとめて、消し飛ばしてくれるわ」
怒りに震える、ピッコロの声。
氷に閉じ込められた桑原の傍から、慌ててフレイザードが逃げる。
大地が揺れ始め、熱の膨張が背中越しにも伝わってくる。
「『 爆 力 魔 破 !!!』」
その瞬間、全ての音が消えた。
ボンチューは振り返り、両手を広げ、氷像と化した桑原の前に立った。
狂い舞う雪の影が、放たれた光に呑まれ、揺らぎ、消えていった。
視界が更に白くなって、ボンチューは、目を閉じた。
<十>
少女が泣いている。
「お願いします。お兄ちゃんを、助けてください」
泣きながら少女は桑原に懇願する。
心が震えた。だが、自分には何もしてやる事が出来ない。
フレイザードに氷の中に閉じ込められ、呼吸は疎か、身じろぎ一つ取れないのだ。
「助けて下さい。どうかお兄ちゃんを、助けて下さい」
少女は桑原に縋り付いて、何度も何度も請い願う。
桑原には見えていた。ボンチューが、一人で戦っている。自分を助ける為に。
―――そうだ、桑原。てめェ、しっかりしやがれ、バカ野郎ォ。
全身に、熱いものが駆け巡り始めるのを感じた。
凍り付いた筈の四肢が震え始め、みしり、みしりと、亀裂が奔る様な音が聞こえた。
―――ここで底力出さねェでよォ、いつ出す気だこの野郎ォ。
突然、全身を締め付ける力が緩んだ。
霊剣が出ていた。氷を、剣先が刺し貫いていた。 いける、と思った。
「がぁーーーーーーーーーー!!!」
霊剣の刀身が、黄金色に輝いた。
桑原は、雄叫びと共に、輝く霊剣を一気に振り下ろした。
ばきばきと音を立てて、躰を覆う氷が割れてゆく。氷の破片が全身に降り注いできた。
氷の呪縛から解放されて、桑原は気が付いた。
空間が、切れていた。裂け目から、何処かの景色が見えた。
「『 爆 力 魔 破 !!!』」
その時、ピッコロが、巨大な気の塊を放出した。
考える暇は無かった。桑原は咄嗟にボンチューの躰を掴み、その空間の断裂に飛び込んだ。
刹那、爆発。大地が揺れ、空に黒煙が膨れ上がった。
<十壱>
野に降る雪。流れる鮮血が、雪を紅に染めていた。
死が、抱き締めてきた。ボンチューはただ、そう感じていた。
そう、オレはもう死ぬ。
だが、桑原は生き延びるだろう。それは救いだった。
あの時、桑原が切り開いた時空の裂け目のお陰で、ここまで離脱できた。
ボンチューは、仰向けになって空を見ていた。
また少し、雪が強くなったか。そうだ、もっと降れ。その冷たさが、今は心地良い。
「死ぬな、死ぬなよボンチュー」
桑原が、顔をくしゃくしゃにして、ボンチューの肩を掴んだ。
「てめーが死んだら、オレはルキアになんて言やいいんだよ」
そこを突かれると、痛い。マジで。
「なあ、桑原。一つ頼まれてくれねえか」
ボンチューは、声を絞り出した。
何だよ。と言って桑原が顔を寄せてくる。
その時、ボンチューの、黄金聖衣が輝いた。
「おおっ?」
「くっ、くくくっ。それ、お前には似合わねえな」
「う、うるせえっ」
桑原の全身に輝く、黄金色の光。
どうやら蟹座の黄金聖衣は、桑原を新しい主と認めたようだ。
これでいい。ボンチューは、また空を見た。
―――世直しマン。オレ、ヒーローになれなかったよ。
<十弐>
それは、奇跡だった。
なあ、ボンチュー、てめーにも見えるか?
あー、見えてるよ。
二人の目には、空から舞い落ちる雪と共に、ゆっくりと降りてくる少女の姿が見えていた。
仰向けに倒れるボンチューの傍らに、少女がふわりと降り立った。
少女はボンチューの顔を覗き込み、小さな手を差し出した。
見詰め合う兄と妹。少女の半透明の躰を、雪がすり抜けていく。
やがて、メグ、と搾り出す様に言ったボンチューの目から、涙が溢れ出した。それは、とめどなかった。
少女は微笑んで、泣きじゃくるボンチューの手を取った。
なあ、教えてくれよ。桑原。
ボンチューが、掠れた声で言った。
あ?
人間て、死んだらどうなるんだよ。
あ、ああ。霊界っつーのがあってな、死んだらみんなそこへ行くのさ。
そうか。なら、またいつか、おまえや、あいつらにも、会えるよな。
桑原は、自分も泣いていた事に気が付いた。
へっ、どうかな。オレはしぶてェぜ、おい。
ボンチューが薄らと笑った。
ボンチューとメグの魂が、空に帰ってゆく。
桑原は直立し、新しい姿に生まれ変わった霊剣を掲げた。
ボンチューと、メグ。二人の魂が、いつしか空の彼方に消えてしまっても、
聖衣と、霊剣は、黄金色の輝きを放ち続けていた。
―――その後、桑原はボンチューの亡骸を埋葬した。
新たに生まれた霊剣は、『次元刀』と名付ける事にした。
<終幕>
【山形県・雪原/午前】
【桑原和真@幽遊白書】
[状態]:全身各所に打撲、戦闘によるダメージ大、重度の疲労、軽度の火傷
次元刀が覚醒(まだ不安定)
[装備]:蟹座の黄金聖衣@聖闘士聖矢
[道具]:荷物一式(水・食料一日分消費)
[思考]1:悲しみ。
2:ブチャラティ達との合流。
3:ブチャラティ、翼のことが気になる。ブチャラティなら翼を護ってくれると思っている。
4:友情マン達との合流、(友情マンに対し多少の罪悪感)
5:さらにフレイザード、ピッコロを倒す仲間を集める(飛影を優先)
6:ゲームの脱出
【秋田県・雪原/午前】
【ピッコロ@DRAGON BALL】
[状態]ほぼ健康、気の消費半分ほど
[道具]荷物一式、前世の実@幽遊白書
[思考]1、不明
【フレイザード@ダイの大冒険】
[状態]疲労・負傷大、氷炎合成技術を実戦経験不足ながらも習得
核鉄による常時ヒーリング
[装備]霧露乾坤網@封神演義、火竜鏢@封神演義、核鉄LXI@武装練金
パンツァーファウスト(100mm弾×1)@DRAGON BALL
[道具]荷物一式
[思考]1: 不明
※ボンチューの遺体は埋葬しました。
※ピッコロとフレイザードは、桑原が次元刀で、戦場を離脱するところを見ていました。
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし! 死亡確認】
【残り40人】
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最終更新:2024年07月16日 09:17