426:逆さまの蝶 ◆SD0DoPVSTQ





人が集まるであろう『東京都』に行くべきだと主張する蝶人パピヨン。
対して、水場である琵琶湖――『滋賀県』に行くべきだと主張する大賢者ポップ
意見が分かれた両者が三人目の意見を、四つの眼で無言で促した。
三人いれば意見が真っ二つに割れても、取るべき道は多数決で決められる。
人類が争う内に見つけ出した解決法、すなわち民主主義。
――ポップさんもパピヨンさんも、まずは落ち着いてください。
ノートにそう書いて、世界一の頭脳『L』が場を収める。
――あと数分で放送です。内容によっては状況が大きく変わるときもあります。結論を出すのはその後で良いと思います。
三人目の意見は両者とは更に違う『Stay』。
だがLの意見ももっともである。
「気分転換だ」
パピヨンは冷静ではなかった事を自覚し、鼻を鳴らし喫茶店の外へと出て行った。


           ◆           ◆           ◆


――フンッ、やはり無駄な時間だったではないか。
七回目の定時放送を全て聞き終わった後、戻ってきたパピヨンがそう切り出した。
冷静でなかった事を指摘された事に対しての、せめてもの抵抗である。
――いえ、案外そうでもありませんよ。
膝を抱えながら上目遣いで爪を噛むという、すっかりおなじみのポーズでLが筆を走らせる。
――あの放送から読み取れた事が二点あります。いえ、正確に言えば今までの放送から……ですが。
――今回初めて首輪で死亡者が出たという点。
  しかもあのフリーザの野郎が驚いてたって事は、恐らく逃げ遅れとかではなく、そのルールを逆に利用されて死んだという事だな。
先程まで熱く語っていた脳味噌を切り替え、ポップは冷静に放送の裏側を読み取った。
――流石ポップさん。えぇ、まずはその点です。主催者自身が言ってるのだからまず間違いはないでしょう。
  これにより主催者が禁止区域を毎回発表するのは、参加者を殺したいわけではなく、
  本当に隠れている人を炙り出す為の手段として用いているという事が推測できます。
――そして、生きてる人間が着けてる首輪は禁止区域に入れば爆発するというルールが、はったりでもないという事も解ったというわけだな。
――その通りです。これに関しては生きてる人間を実験台にする訳にはいきませんからね。
  亡くなった方にはお悔やみを申し上げますが、貴重なデータだと思います。
今まで首輪を使った実験を色々こなしてきたが、どうしても限界があった。
それは肝心な生きてる人間のデータを取る事が出来ないという壁である。
既に死亡した参加者の首輪は機能を停止する。
機能を停止した首輪は禁止エリアに投げ入れても無反応であった。
それ以上先の事は生きてる人間を実験台にしないと、実験は進められない。
三人が三人ともその事は理解していながら、今までは中々口には出せない事実であった。
Lとポップからしてみれば倫理的にアウトなのは間違いなく、
パピヨンからしても生きてる人間が志願して人体実験に手伝ってくれる見込みは少なく、
かといって力尽くだと、目の前の偽善者二人が全力で止めてくるだろう事は容易に想像できていたからだ。


――二点目は、異世界から呼び出されたポップさんは気がつかなくても仕方ない事なのですが、
  この禁止エリア、一見ランダムのようで法則性があるのですよ。
  地図を広げて、指定エリアを塗りつぶして貰えばポップさんも解ると思います。
――えっと、確か禁止エリアは……『北海道』『宮崎県』『静岡県』『大分県』『新潟県』『高知県』『青森県』『徳島県』『長崎県』
  『岩手県』『和歌山県』『佐賀県』『千葉県』『石川県』『福井県』『秋田県』『島根県』『三重県』の18エリアだよな……
おしゃぶりを装備し、巨大な涎掛けを着こなし、かつ地図で塗り絵をしている姿にLとパピヨンは赤ん坊を想像したが、
やはり今回も口には出さずに心の中だけに留めておいた。
――そういえばウソップが言っていたな。
  海に面した地域、しかも端から徐々にエリアを絞っていって、なおかつ島を分断するような禁止エリアは選んでないって事だな。
自称大海賊のウソップが言っていた『袋小路を作る禁止エリアっていうのはやらない説』を思い出した。
実のところ、死にたくないばかりに大見得を切ったウソップの思いつきであったが、Lの見解と繋がっていった。
――その通りです。これは一点目の推測と合わせる事によって、
  分断して意図的に殺そうとかはせずに、エリアを絞り込んで接触の機会を増やし、殺し合いを推進しようという意図が読み取れます。
  近畿、中部、関東近辺を中心として、これからも端から禁止エリアになっていく事でしょう。
――しかし、その理屈から外れてる県もあるようだが。
ポップはペンで半分ほど塗りつぶした九州を指さした。
――そうです。『鹿児島県』だけ何故か禁止エリアに指定されないのです。
  ご丁寧に『鹿児島県』まで行く為の道まで丁寧に禁止エリアから外れています。
関門トンネルが通る『山口県』と『福岡県』。
そして『福岡県』から『鹿児島県』へと至る道の『熊本県』。
これらがまるでゴールへの道のりみたいに空いている。
――地図を塗り分けしたら、改めて不自然に見えませんか。
――恐らく罠か挑発だろうな。
今までLの理論を聞いていたパピヨンであったが、その結論が意味する事実に対して表情を歪ませた。
――罠と挑発どちらにせよ、私達の行動が全てばれていた上での相手の対応だと思って構わないでしょう。


「……筆談は無駄だったって事じゃないか」
体力を削るニアデスハピネスを引っ込めて、パピヨンが苦々しく口を開いた。
「いえ、視覚的にも監視されている可能性が非常に高いと解っただけでも十分でしょう。
監視されてると予め頭に入れておければ、それなりの対応だって取る事が出来ます」
別に筆談を続けていても良かったのだが、筆談が安全だという過信を全員に捨ててもらうために筆談を中止する事にした。
相手は参加者の事を調べた上で、この世界で殺し合いをさせている。
もしも監視ができるのであったら、世界一の頭脳と認めていたLが所属するこのチームを監視しないはずがない。
「この世界では不思議な力は制限されて、主催者達に太刀打ちできない仕組みになっています。
しかし私達の頭脳までは制限されてません。別に紙に頼らなくても言葉の裏に真の意図を隠せばいいのです。
隠された暗号の読み合い勝負。私はあんな主催者に負けるとは思っていません」
机の上に乱雑に散らばったメモを片付けながらLは続けた。
デスノートのルールを改竄する事ができると嘘をついたが、主催者の反応は特になかった。
恐らくデスノートの事を自分より詳しく知ってる自信があったからこそ動かなかったのだろう。
主催者の中には死者を蘇生させる事が出来る人物がいた。
そんな芸当が出来るのは神か閻魔か……
もしもそうであるならば、生死を扱うデスノートの詳細を自分より知っている筈だ。
夜神月が付き従えていた死神だって存在したのだ、何が存在してもなんら不思議ではない。
はったりが有効な相手ではなかったという事か……
「そこで話を戻します。ここいらで別々に行動しませんか。
虎穴に入らずんば虎児を得ず――私は敢えて罠か挑発かに乗って鹿児島県に行きたいと思っています」


「罠にかかってからだと遅いんだぞ!」
「世界最高の頭脳とも言われた男が、罠と知っていて飛び込むのか」
案の定ポップとパピヨンから待ったの声がかかる。
「罠だと解ってても、飛び込まないと得られない情報もあります。それに行くなら今がチャンスなのです。
ルールがある以上、今から八時間は主催者も鹿児島県を禁止エリアに追加する事はできません。
監視の目があるのに皆さんに打ち明けたのはこれが理由でもあります。
主催者は理不尽なルールを強制はしてますが、自分達もまたそのルールを守った上で行動してます」
今の所はですが、と最後にLは付け足した。
確かに大人数集められてからだと、主催者達の気が変わって鹿児島県を封鎖されるという事もありえる。
少人数だと油断している今が最後のチャンスだと主張するLの意見に二人とも納得した。
「しかしあまりにも危険じゃないか?行くとしても全員で……」
「沖縄県が存在したとして、なにも殴り込みに行こうって訳ではありません。
相手が油断している間に情報収集をしに行くというだけです。
それにポップさんとパピヨンさんの、生き残った人達を纏め情報を収集するという仕事も同じ位重要だと思います。
こちらは最悪残り八時間しかないミッションで、急がないといけません。
しかしポップさんは現在生き残られてる方々を見捨ててまで鹿児島県に来られるでしょうか」
パピヨンに偽善者と揶揄されたポップからすれば、それを言われてしまっては何も言い返せない。
「安心してくださいポップさん。あくまで情報収集しに行くだけです。
普通の参加者なら禁止エリアで囲まれる事を恐れて鹿児島県には近づかないでしょう。
実は何が起こるか解らないポップさんやパピヨンさんより安全な場所なのです」
「だけどっ……!」
言いたい事は全て理解できる。
そして全てにおいて反論できない。
だがポップとしては万が一の可能性でも、この島で出会った心の置ける知り合いであるLを死なせたくはなかったのである。
「――安心しろよ偽善者。俺が鹿児島県に向かう。お前らは偽善者らしく島を駆け回って情報と仲間でも集めてれば良い」



「あぁ、そうさせてもらうよ」
パピヨンのいつもの挑発に乗らず、ポップは素直に従った。
怪我をしているとはいえ、目の前の変人は人間ではない。
Lが無防備に罠とも思える場所に行くよりは、幾分か安心できた。
鹿児島県が禁止エリアに絶対にならないと思われる時間は残り八時間。
時間がないのは事実であり、かといって危険とも思われる滋賀県にLを向かわせる訳にもいかない。
そうなると、この選択肢が一番適切なのだ。
大賢者ポップは自分にそう言い聞かせ、不安を払拭しようとしていた。
「素直だな。素直ついでにもう一つ意見を言わせて貰うが、女々しく死者に手紙を出す様な真似は見苦しすぎて蝶・ナンセンスだ」
足と腕を大きくクロスさせるいつものポーズで、葉書を書こうと準備していたポップに言い放った。
「パピヨン!言って良い事と……いや、なんでもねぇ」
パピヨンの言いたい事も良くわかる。
つまりは貴重な葉書をここで無駄にする訳にはいかないって事なのだろう。
パピヨンも知り合いに手紙を送っていた。
しかしあれだけ自尊心の高い男が、自分の事を棚に上げて人を責めるだろうか。
自分の事をナンセンスだと認めてまで葉書の無駄遣いを窘めてるのだ。
この島での短くも濃い付き合いで、パピヨンがどういう男かは大体把握できたつもりだ。
奴は口下手で高飛車で打算的な考えをする変態だが、決して悪い奴ではない。
どうしても情で動いてしまう自分には、非情に徹する事が出来るパピヨンみたいな男も必要なのだとポップは痛感した。



「ではスペルカードを渡して貰おうか」
パピヨンは現在GIスペルカードを管理しているLに向かって手を差し出した。
そう、これは自分の役目なのである。
左胸に大穴を空けられたカズキは、核鉄によって新たな生命を手に入れる事が出来た。
しかしこの島の制限か、傷口が塞がる速度が遅すぎる。
一応周囲の細胞が活性化して大事には至ってないが、副作用として、生まれ持った数知れないほどのウイルスも同じく活性化してしまっていた。
不完全なままホムンクルスになる事を選んだ事による代償。
まさかそのツケが今更回ってくる事になろうとは……
核鉄とホムンクルスの再生能力によって、活性化したウイルスと腹に空いた大穴も関係なく暫くは生き続ける事はできるだろう。
だが確実に体力は消耗していく。
昔みたいに死に怯えつつ、誰にも認識される事なく芋虫みたいに生きるのはまっぴら御免である。
今の自分は醜い芋虫ではなく、新しく生まれ変わった蝶なのだから。


ホムンクルスになり、死なない身体を手に入れたが、その世界には自分の居場所が既に存在していなかった。
そんな自分を唯一、蝶野攻爵として認識してくれたのが武藤カズキである。
武藤カズキが死んだ今、居場所の存在しない元の世界には興味がない。
だが死者への往復葉書により、死んでもなおカズキの意識は生きているという事が解った。
あの世だろうが、天国だろうが呼び名は様々あるが、つまり死後の世界とやらが存在しているという事に間違いはない。
例え自分が落ちるのが地獄であろうとも、蝶の羽で天国まで付きまとってやる。
蝶野攻爵改めパピヨンは着実に迫ってくる自分の死期を覚悟していた。


自分なら鹿児島県に行ったとき、飛んで周囲の状況を確認できる。
それに多少なら戦闘も問題あるまい。
しかし万が一主催者の罠だった場合、自分の生きた証をこの世界にも刻む為。
カズキを殺した、このゲームの主催者をあっと言わせる為、ポップとLの二人には生きていて貰わなければいけないのだ。
その為に死者への往復葉書を無駄遣いさせる訳にいかなかった。
「――無茶だけはしないで下さい」
どこまで自分の容態を把握してるのか解らないが、
心配そうに確認するLからGIスペルカードを受け取ったパピヨンは、颯爽と喫茶店のテーブルを後にする。
結局最後まで素直になれなかった。
だがこれが自分らしいとも思える。
パピヨンは最後に振り向いて、二人にこう言い残した。
「じゃあな、偽善者」



【大阪府・駅舎隣の喫茶店/二日目・夜】


【チーム:三賢者】
[共通思考]1:首輪を実際に起爆させる、若しくは起爆させた経験を持つ人物から情報を得る。
          →Lとポップは滋賀や東京での探索
     2:主催者の居城を確定できる情報を得る。
          →パピヨンが『同行(アカンパニー)』で鹿児島まで移動
     3:首輪の本格解除。
     4:襲撃者に対する警戒、準備。

【L@DEATHNOTE】
[状態]:喧嘩傷、右肩銃創(回復済み)
[道具]:荷物一式×2(ナッパ、セナ)(片方には食料無し、食料一食分消費)
    デスノートの切れ端@DEATHNOTE、雪走@ONE PIECE、斬魄刀@BLEACH
    ショットガン(残弾不明、恐らく無か極少数)、野営用具一式
    首輪の知識@パピヨン+ポップ 、世界の知識@L+ポップ
[思考]1:ポップと滋賀や東京に仲間を集めに行く。
   2:沖縄の存在の確認。
   3:ゲームを出来るだけ早く中断。
   4:死んだ仲間のことは忘れない。

【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:喧嘩傷(MP中程度消費)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
    ウソップ作の仕込み杖 、死者への往復葉書@HUNTER×HUNTER
    ボロいスカーフ(ウソップの形見)、ゴールドフェザー 3本 シルバーフェザー 2本@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式×3(食料・水、4食分消費)、首輪@跡部、首輪@玉藻、爆破された首輪の破片@一輝
    首輪の知識@パピヨン+ポップ、世界の知識@L+ポップ
[思考]1:Lと滋賀や東京に仲間を集めに行く。
   2:ダイ・ウソップの仲間(ルフィ)との合流。
   3:死者への往復葉書は今後の主催者打倒の為に取っておこう。
   4:フレイザードを早めに倒す。
   5:死んだ仲間のことは忘れない。
   6:全部が終わったら、マァムとウソップに手紙を出す。


【パピヨン@武装錬金】
 [状態]:腹に大穴、体力消耗中、核鉄で常時ヒーリングと共に体内のウイルスも活性
 [装備]:核鉄LXX@武装錬金(火薬少量消費)、核鉄XLIV(44)@武装練金(腹の大穴内)
     ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
 [道具]:荷物一式×4(食糧3食分消費)、ベアークロー(片方)@キン肉マン
     首輪@ヒソカ、首輪@一輝、GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER
     首輪の知識@パピヨン+ポップ、世界の知識@L+ポップ
[思考]1:鹿児島県に向かい、主催者の情報を探る。
   2:この世界も元の世界も興味ないし、死んでカズキと再戦するのも有り。
   3:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す。
   4:ドラゴンボールは信用しない。
   5:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。


<既知事項>
*首輪
・つるつるしていて、継ぎ目が無い。ネジなども見られない。特殊な金属で出来ている。
・首輪内に機械構造が入っている。
・生死判別機能、盗聴機能、GPS、起爆装置有り。
・破損しただけでは爆発しない。火薬は誘爆しない特殊なものを使用。
・禁止エリアに投げ込んでも爆発しない。
・破損しても他の首輪は誘爆しない。
・呪いがかかっているかどうかは未知数。


*監視
・盗聴だけでなく、視覚的な監視も行われていると判断。その場合監視対象は少数で、その対象の決定も恣意的。
・その場合筆談も無意味な可能性は高い。
・上空からの監視の可能性は(あまり高くないが)有り。


*主催者の居城
・沖縄の可能性が現時点で最も高い。
・居城に、爆破信号の発信装置がある可能性が高い


*主催者のアクション
・緊急事態に陥らない限り、可能性は低い


時系列順で読む


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411:青空の方法 ポップ 432:愛しき世界
411:青空の方法 パピヨン 432:愛しき世界
411:青空の方法 L 432:愛しき世界

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最終更新:2024年08月02日 04:09