425:噫無情 ◆SD0DoPVSTQ
―――星矢、秋元・カトリーヌ・麗子、姉崎まもり、ケンシロウ、
ピッコロ―――
以上の5名が脱落者だ。
朱色に染まった空に七度目となる放送が響き渡った。
何度耳にしても不快感と心の隅に残る罪悪感に慣れることはない。
なるべく耳に入れたくない。そう思いながらも情報という武器を手に入れる為、拳を握りしめながら放送を聞いていた少女は、
世界が暗転したかのような錯覚に見舞われた。
身体が寒さに震え、暗闇の広がる世界で少女は膝をつく。
未だ会えず、どんな人物であったかは知らない。
しかし今となってはそんなことどうでも良かった。
彼女――
津村斗貴子が手を血に染めながらも、正気を保っていられた理由が消え去ったのだ。
クリリンという戦士から引き継ぎ、一度は説得され揺らぎそうになった『意志』。
だがそれでも心が折れなかったのは、自分が悪を背負うことで全ての人が幸せになれるかもしれないという、
彼女が信じていた未来像があったからである。
ピッコロという人物が死ぬ事によって、ドラゴンボールで全員生き返らせるという、彼女が夢見ていたハッピーエンドは脆くも崩れ去った。
自らの心を悪に染められたのも、ただ生き延びようとしている人間を殺して刃を鮮血で染めてきたのも、
全ては彼女が信じる『正義』という結末がそこにあったからだ。
『最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない』
この島で先に旅立っていった戦士長の言葉。
信じていた『正義』を貫き通せなくなった今、彼女は――彼女の信念は偽りでしかなくなってしまったのだろうか。
「私は……この後一体どうすればいい。教えてくれカズキ……」
◆ ◆ ◆
今回の放送での脱落者は5人――残り26名。
「カカロット君も桑原君も津村さんもまだ死んでないみたいだね、それにカカロット君を返り討ちにしていたルフィ君も」
残り26人。スタート時に比べると多くはないが、それでもまだ決して少なくない人数が
友情マンの頭を悩ませる。
定時放送で呼ばれる名前の数も、第七回目で一気に減ってきた。
恐らくこれ以降の放送でもどんどん脱落者数のペースは落ちてくるだろう。
「前々回からの放送以降誰にも会わなかった私は、運が良かったのかな」
昔の友人の運の良さを分けて貰えたのかな、と口の端を吊り上げて
友情マンは笑った。
ラッキーマンこと
追手内洋一を入れると、生存者26名中5名は知っている事になる。
その5人の中にでさえ、能力を制限されている今では互角以上の相手が何人もいる。
それに運良く最強の友達が手に入ったとしても、強すぎてその他の参加者を無傷で倒されては、最後に漁夫の利を狙う事は困難になる。
「そろそろ方針を変更してみるのも良いかもしれないな……っと」
前方にいる人の気配を受け取って、
友情マンは直ぐさま気配を殺した。
近くにあった木陰に音を立てないように移動し、隠れながら慎重に相手の様子を窺う。
――あれは津村さんじゃないか。
桑原を処分しようとした矢先に現れ、怪しまれながらも暫く行動を共にした少女が佇んでいた。
――放送で名前が呼ばれてなかったから生きてはいると思っていたけど、カカロット君の攻撃をまともに受けて五体満足だったとはね……
死亡確認を怠ったのは軽率だったかな、と
友情マンは呟いた。
この後取れる選択肢は三つ。
一つ目の選択肢は、見なかったことにして迂回すること。
別段メリットもデメリットもない選択肢に見えるが、この状況を利用しないでみすみす見逃すという事は、ある意味損をしているとも言える。
二つ目の選択肢は、別れた悟空の代わりに再び
津村斗貴子と合流して友達になる事。
津村斗貴子の戦闘能力は悟空に劣るものの、評価は出来るレベルであった。
この危険なゲームの中一人で行動するよりは、斗貴子と行動した方が安全であるのは間違いない。
夜神月の死体は悟空の攻撃の二次被害に遭ったかの様に偽装してきた。
自分もあの攻撃で吹き飛ばされ、今まで一人で困っていたという設定を作り上げれば疑われはしない筈である。
「だけど、それだと今までと変わらない……かな」
残った選択肢は一つ――
津村斗貴子を自らの手で殺害する事。
次第に放送で名前を呼ばれる人は減ってきている。
つまりそろそろ自分で行動しないと中々人数が減らない時期にさしかかってきたという事だ。
折角追加で一人脱落者を出せるチャンスなのだ、利用しない手はない。
それに桑原の件で怪しまれていて、一緒に行動するとなったら色々また面倒だという問題もある。
友情マンは気配を消しながら、それらの損得勘定を頭の中の算盤で弾き出した。
彼にとって友情とは、最早利用するだけの道具でしかないのか。
――悪いね、津村さん。
いつものにやけ顔のまま、
友情マンは心の中で謝罪をしながら、
津村斗貴子の背後にこっそり回り込んだ。
果たしてその謝罪は何に対する謝罪だったのであろうか……
縮まる二人の距離。殺意の腕が、斗貴子の背に迫り――――
「
友情マン……か」
少女の小さい背中に振り下ろそうとした右腕は、その声に反応してぴたりと動きを止めた。
「気配を殺そうとしても、殺気の消し方は慣れていなかったようだな。近くまで来てくれたお陰で貴様の殺気に気づけた」
「な、何を言ってるんだい津村さん。私は一人で無警戒に歩いてる君を見つけて引き留めようと……」
ばれていないと思っていたのだが相手も歴戦の戦士、気づかれていたのでは仕方ない。
まともに戦っても勝てるとは思うが、この先を考えるとこんな相手に痛手を負うのは美味しくない。
それならば取りあえず情報を交換しつつ、改めて隙を見て……
「やはり、桑原の時もそうやって殺そうとしていたのだな」
友情マンに背を向けたまま全てを見透かすかのように少女は呟いた。
指摘されてから
友情マンは気がついた。
この展開もこの言い訳も、扱いづらくなった
桑原和真を手にかけようとした時と同じなのだと。
「それも津村さんの誤解だ。私は仲間を、友達を失うのが一番恐い。
恥ずかしながら私はヒーローとは言っても凄く臆病なんだ。
悟空という人の攻撃の巻き添えを喰らって、一人きりになり、凄く……心細かったんだ」
あくまでも表情と声色は平常に保ちつつ、心の中で舌打ちをした。
あぁ、とても面倒な事になってしまった。
こうなってしまったら多少の反撃は覚悟してでも……
「私はこの先どうすればいい……貴様でも良い、教えてくれ」
予想できない問いかけに、
友情マンの殺気は再び霧散した。
教えてくれと振り向いた少女の目は戦士の其れではなく、道に迷って泣きそうな少女の其れであった。
◆ ◆ ◆
私は一体何を言ってるんだ。
相手は人を裏切り続けて生き延びてきた
友情マンなのだ。
錯乱している今でさえ、その問いかけの相手が間違っていることが自分でも理解できた。いや、本当は知っている。
ピッコロを優勝させて全員を蘇生し生還させる為とはいえ、何人もの人々を裏切り両手を鮮血で染めてきた。
同じく人々を裏切り続けて生きながらえている
友情マンだからこそ、
納得いく答えをくれるかもしれないと期待している自分がいるという事を。
ピッコロが死亡していても、自分が優勝して
ピッコロを生き返らせれば全ては問題ない。
実はその事には大分前から気がついていた。
だが、なぜそれを実行に移そうとしなかったのか。
それは敢えて最後に自分が死ぬ事によって、自分の手によって殺した人達と同じラインに立つ、せめてもの贖罪のつもりだったからである。
随分と自分勝手な贖罪である。
恐らく自分によって殺された人達は、そんな勝手な謝罪を受け取ってはくれないだろう。
そう、この贖罪は全ての悪を引き受けた自分の為の救いでもあったのだ。
彼女はその救いの代わりの精神的支えを――人を殺める免罪符を、
友情マンに期待している醜い自分の心をどこかで感じていた。
「私にはもう貴様を責める資格も何もない。貴様やホムンクルスと同じ人殺しに墜ちてしまったのだからな……」
「ですから私は誰も殺しては……それにしてもドラゴンボール、そんな物があったのですか」
あくまでしらを切り通そうとする
友情マンに、斗貴子は
クリリンの事やドラゴンボール、
ピッコロの事などを打ち明けた。
「それが本当でもし優勝して全員生き返らせる事ができたのなら、
今までこの現状から逃げてきた私でもヒーローのままでいられるのかな……ははは、なんてね」
ピッコロ――
友情マンがこの島に来てから二番目に出会い、殺されかけた『ピッコロ大魔王』と名乗っていた宇宙人の事である。
そんな何でも願いを叶えられる能力があるのだとすれば、なぜ首輪を外さなかったのであろうか。
友情マンの脳裏にとある可能性が浮かび上がったが、それを口にして
津村斗貴子をこれ以上錯乱させるのは現状得策ではないと判断し、口を噤んだ。
「全てを話し終えた上でもう一度尋ねる。私は……この後どうしたら良い」
「ははは、津村さん冗談はやめてくださいよ」
友情マンは声と表情自体は笑ってみせていたが、半歩身を引いて
津村斗貴子から一定の距離を確保した。
何かあっても咄嗟に行動に移れる間合い――すなわち臨戦態勢に。
優勝するという事は、遅かれ早かれ二人の内のどちらかは死ななければならないのだ。
「――私は、私は死んだ方が良いのだろうか」
自分自身と
友情マン、どちらが優勝に近いかと問われれば、彼女は迷わずに
友情マンと答える事が出来る。
彼の実力の程は解らないが、未だ悪にも染まりきれない自分自身より、よほど上手く立ち回れるに違いない。
信念を折られ、使い物にならなくなった私も……
自分の死を覚悟した途端に少女の目から、想いが溢れてきた。
この道を選んだのは自分自身であり、責めはしない。
ただ他の道を選んでいたら、こんな惨めに右往左往しないで済んだのかも知れない。
ケンシロウと共に、勇者と呼ばれていた少年に剣を託すという道を選んでいたら、どうなっていたのであろうか……
恐らくカズキなら、全てを護ろうとして、そして無謀にも黒幕を倒しに行こうと迷わず突っ込んでいった事だろう。
その単純さが、ほんの少し羨ましく思えた。
「――同じ死ぬなら、奴ら主催者に抵抗して死ぬのも悪くなかった……のかも知れないな」
「主催者に……ですか」
その単語によって、今まで崩れなかった
友情マンの表情が少しばかり変化した。
「そうですよ津村さん!こんなゲームを企画した首謀者にほんの些細な抵抗を試みにいきましょう。
微力ですが、私も一緒に行かせて下さい。これ位しか、今まで死んだ人達への償いは出来ませんから……
今更途中で投げ出して死んでも、今まで殺してきた人は……決して許してくれないと思います」
◆ ◆ ◆
そうか、その手があったのか!なんで今まで気がつかなかったのであろうか。
主 催 者 と 友 達 に な れ ば い い の で は な い か !
悟空がルフィに負けた事によって、この島には上には上が存在すると知った。
しかし本当の上の存在とはあの主催者三人組だったのだ。
あぁ、なんでこんな簡単な事に早く気がつかなかったのであろう。
いや、普通の参加者であるならば思いつかない、思いついたとして即座に脳内で却下されるべき内容であるだろうから仕方がない。
しかし自分は『
友情マン』なのだ。
今まで欲しいと思った友達は確実に手に入れてきた。
今回だって決して不可能ではない筈だ。
別に優勝して友達になる必要は無い。
友達になりたい時に友達になれないで何が
友情マンだ。
こちらから何かしらのアピールをして主催者と友達になればいいのだ。
まずはよく考えるのだ。
主催者自体に取り入るのはそこまで難しい事ではない。
とんでもなく強い主催者が三人もいる。
普通に考えれば、参加者が反抗する気を無くさせる為に有効な手であっただろう。
だが、逆にこの異常なまでの周到さが付け入る隙になる。
放送などを聞く限りでは、三人とも対等な立場で主催者として監視しているように聞こえた。
あれだけ我が強く、しかも各々とんでもない力を持っている主催者が三人だ。
お互いに出し抜ける機会があれば利用しようとするだろう。
そう、自分――『
友情マン』という駒が手に入れば少なからずパワーバランスが崩れるはずなのだから。
三人も主催者がいるのだ。
それとなくアピールすれば、誰かは食い付いてきてくれるに違いない。
だが、問題が一つある。
全宇宙を管理していたヒーロー神やヒーロー協会が、この人数の力の持ち主を見過ごしていたとは思えない。
ならば別次元や別宇宙から人を呼び出す能力なり、発明なりがされたと考えるのが打倒であろう。
人を呼び出す能力があったとしたら、また人を送りつける能力もセットになっててもおかしくはない。
――人を世界の枠を超えて任意に移動させる能力。
このゲームが始まる前に一堂に集まっていた参加者が、瞬時に別々の会場に転移させられた事からもその考えを裏打ちできる。
だがそう考えると、主催者と
コンタクトを取るのが問題になる。
なぜならば、当然安全面を考えて別世界にてこのゲームの進行を楽しんでると推測できるからだ。
主催者達に自分という駒をアピールしたくても、アプローチする手段が現状思い浮かばない。
――取りあえずアプローチする手段を考えるのが一番の優先事項かな。
「
友情マン、貴様も私もこんなゲームに連れてこられさえしなければ、選択肢を間違え手遅れにならなかったのだろうがな……
それも自分自身の心の弱さ故か」
――間違え?心の弱さ?残念だけど津村さん、それは貴方だけですよ。
津村斗貴子を生かす理由。
それは主催者に自分を売り込むときの手土産。
その場で殺して、主催者に反抗する気が無い事を証明してみせる手段なのである。
今の心神衰弱しきっている彼女なら心を掌握する事も容易いであろう。
自分が殺人者だと知られれば、主催者に一矢報いられない事を理解させれば、一緒に行動してもそう危険ではないだろう。
ましてや彼女の変に頑固な性格だ。
今更のこのこと、どの面を下げて他の参加者と一緒に行動できるというのだろうか。
――あぁ、主催者が友達になってくれるなら、これほど心強いものはないなぁ。
未だに
友情マンの全てを信じた訳ではない斗貴子であったが、
まさかヒーローともあったであろう者が、ここまで吐き気がする考えを抱いているとまでは見抜けていなかった。
【愛知県/夜】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:軽度疲労、右拳が深く削れている、顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッヂ@世紀末リーダー伝たけし!
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、子供用の下着
[思考]1:どうすればいいのか解らない。教えてくれカズキ……
2:友情マンは信じられないが、意見は参考にしよう。
3:どうせ死ぬなら一人主催者に反抗して死ぬのも悪くない。
4:優勝できたならピッコロを復活させよう。
5:他の人に合わせる顔がない。
6:ダイを倒す策を練る。
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:左腕を骨折、全身に軽度の打撲ダメージ
[装備]:遊戯王カード(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴)@遊戯王
(千本ナイフ、光の封札剣は24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り六日と半日分)、千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険、ミクロバンド@DRAGON BALL、ボールペン数本、青酸カリ
[思考]1:主催者と友達になろう!
2:主催者にアプローチする方法を考える。
3:斗貴子は利用して使い捨て。
4:無理そうなら参加者を全滅させる。
5:最後の一人になる。
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最終更新:2024年08月04日 12:08