久しぶりに天気も良かったし、久々に街で買い物をした帰りのこと。
「あーっ。もぉなんなのよぉー」
さっきまでの青空はどこへやら。今は灰色の空が、大粒の雨をざんざんと降らせている。
傘なんて持ってなかったあたしは、もうどうしようもない。
ずぶ濡れになりながら帰路を急ぎ、途中見つけたコンビニの軒下に駆け込んだところだ。
水を吸ったドレスが重い。手に持った紙袋は、店員がビニールをかけてくれたおかげで無事だった。
それにしても……何という憎らしい天気。これはいつかあたしの力で仕返しを……。
「あ……」
と、あたしが復讐心を燃やしていたところに、聞き覚えのある声が耳に入る。横からだ。
誰だろう……声のした方に顔を向けると、そこには全身を雨に晒すレッドベリルの姿。
ずぶ濡れなのはあたしも同じ。だけど、あっちはそれを気にする様子もなく、
どこか暗い面持ちを浮かべている。
「ちょっと、そんなところに立ってたら風邪引くわよぉ?」
「別に……あたし達風邪引かないもん」
「あぁ、そういう問題じゃなくてさぁ。ほら、見ているだけで寒気がするのよ」
とりあえず適当に話をしてみるが、レッドベリルがこちらに来る様子はない。
「置石姉さんには、関係ないじゃん」
そしてそっぽを向けたと思えば、もう何というか相変わらずの反応。
悲しいねぇ、嫌われてるっていうのはぁー。
「確かに関係ないわねぇ。だけど見てたらくしゃみしそうだから、こっち来なさいよ」
再び雨に濡れながら、レッドベリルの側に寄って手を取る。
抵抗されるかと思ったけど、意外にも素直にあたしへ従う。
「ふぅ……で、あんた何かあったわけ?」
とりあえず隣に立たせるも、このままでは気まずい。
試しに話を持ちかけてみるが……。
「別に」
うつむき、こっちの顔を見ようとしないレッドベリル。まぁ、こんな様子なら何があったか、
大抵想像付くけどさ。
「相変わらずの返事をありがと。で、何が原因で喧嘩したのよ?」
「っ、べべ、別に喧嘩なんてしてないっ!」
「年長者をなめるなー。アンタの顔見れば、大体想像付くわよ。
どうせあのマスターとつまんない事で喧嘩して、飛び出してきたんでしょう」
完全に図星みたいだ。一度は反論してこちらに顔を向けたレッドベリルが、
渋々視線を地面に落とした。
ホント、強がる割にはわっかりやすい相手よねぇ。
「あたしは悪くないもん」
「喧嘩するってことは、誰だってそう思うモンでしょ?」
「悪いのは絶対マスターなんだから」
「これもまた、典型的な喧嘩の理由ー」
「……話ふっかけて、聞く気ないでしょ」
機嫌を損ねて、もう口は聞かないと言わんばかりにそっぽを向くレッドベリル。
「なによぉ。あたしだって年長者として、年下の話を聞くぐらいの耳はあるって」
「信用できない」
ありゃま、これはまたあっさり切られたなぁ。
ここまでばっさりやられると、さすがにこちらも意地になってしまうじゃないか。
「じゃあ信用できないかどうか、詳しい話聞かせてみなさいよ。この置石お姉様が、
ばっちり解決してやるわよ」
「あーっ。もぉなんなのよぉー」
さっきまでの青空はどこへやら。今は灰色の空が、大粒の雨をざんざんと降らせている。
傘なんて持ってなかったあたしは、もうどうしようもない。
ずぶ濡れになりながら帰路を急ぎ、途中見つけたコンビニの軒下に駆け込んだところだ。
水を吸ったドレスが重い。手に持った紙袋は、店員がビニールをかけてくれたおかげで無事だった。
それにしても……何という憎らしい天気。これはいつかあたしの力で仕返しを……。
「あ……」
と、あたしが復讐心を燃やしていたところに、聞き覚えのある声が耳に入る。横からだ。
誰だろう……声のした方に顔を向けると、そこには全身を雨に晒すレッドベリルの姿。
ずぶ濡れなのはあたしも同じ。だけど、あっちはそれを気にする様子もなく、
どこか暗い面持ちを浮かべている。
「ちょっと、そんなところに立ってたら風邪引くわよぉ?」
「別に……あたし達風邪引かないもん」
「あぁ、そういう問題じゃなくてさぁ。ほら、見ているだけで寒気がするのよ」
とりあえず適当に話をしてみるが、レッドベリルがこちらに来る様子はない。
「置石姉さんには、関係ないじゃん」
そしてそっぽを向けたと思えば、もう何というか相変わらずの反応。
悲しいねぇ、嫌われてるっていうのはぁー。
「確かに関係ないわねぇ。だけど見てたらくしゃみしそうだから、こっち来なさいよ」
再び雨に濡れながら、レッドベリルの側に寄って手を取る。
抵抗されるかと思ったけど、意外にも素直にあたしへ従う。
「ふぅ……で、あんた何かあったわけ?」
とりあえず隣に立たせるも、このままでは気まずい。
試しに話を持ちかけてみるが……。
「別に」
うつむき、こっちの顔を見ようとしないレッドベリル。まぁ、こんな様子なら何があったか、
大抵想像付くけどさ。
「相変わらずの返事をありがと。で、何が原因で喧嘩したのよ?」
「っ、べべ、別に喧嘩なんてしてないっ!」
「年長者をなめるなー。アンタの顔見れば、大体想像付くわよ。
どうせあのマスターとつまんない事で喧嘩して、飛び出してきたんでしょう」
完全に図星みたいだ。一度は反論してこちらに顔を向けたレッドベリルが、
渋々視線を地面に落とした。
ホント、強がる割にはわっかりやすい相手よねぇ。
「あたしは悪くないもん」
「喧嘩するってことは、誰だってそう思うモンでしょ?」
「悪いのは絶対マスターなんだから」
「これもまた、典型的な喧嘩の理由ー」
「……話ふっかけて、聞く気ないでしょ」
機嫌を損ねて、もう口は聞かないと言わんばかりにそっぽを向くレッドベリル。
「なによぉ。あたしだって年長者として、年下の話を聞くぐらいの耳はあるって」
「信用できない」
ありゃま、これはまたあっさり切られたなぁ。
ここまでばっさりやられると、さすがにこちらも意地になってしまうじゃないか。
「じゃあ信用できないかどうか、詳しい話聞かせてみなさいよ。この置石お姉様が、
ばっちり解決してやるわよ」
喧嘩の理由なんて、大抵くだらないモンなんだと思う。
「あはははっ、くっだらないわねぇー」
「くだらなくないもん!」
二人の喧嘩の理由。
それは、賞味期限が切れたことに気付かなかった生菓子を、マスターが勝手に捨てたことが原因だった。
「せっかく楽しみにしてたのに……」
「でも賞味期限切れてたらダメじゃん」
「わ、分かってるっ。でも、食べようと思ったら消えてて……マスターが勝手に食べたんだと思ったんだもん」
そこは分かっていながら、どうしても腹立ちを抑えられなかった、か。
相変わらずお子様だなぁ、この子は。まぁ、同じ経験ならあたしも昔あったけどさ。
「今日は天気が良くて、気分が良いなって思ったのに……」
曇天の空を、レッドベリルが見上げる。
雨は相変わらず止む様子を見せない。こんな天気では、どんなに頑張っても気を取り直す気になれそうもない。
かく言うあたしも、この雨には腹を立ててるわけだし。
「……ま、些細なことで喧嘩するのも、こんな息苦しい天気が続いてちゃ仕方ないかもねぇ」
「別に、天気のせいじゃ」
「いやいや、結構バカに出来ないわよ。アンタだって、天気が良かったら軽く散歩でもとか、思ったりしない?」
あたしの問いに、レッドベリルがうなずく。
「そういうモンなのよ、気分ってのは。晴れなら気分爽快、雨なら鬱憤溜まりまくり、ってね」
横目でこちらの顔を見てくるレッドベリル。
その赤くて水に濡れた髪に、手を置く。
「ま、今は仲直りするのは無理かもって事で。とりあえず雨が止むまで、ここで待ってれば?」
と、我ながら良い提案を持ちかけてみた。
「……ど、どのみち帰れないし。別に、姉さんが言うからここにいる訳じゃない」
「そういう反応は男にやってやりなさいよ。あたし全然嬉しくない」
「よっ、喜ばせるつもりなんて全然ないもん!」
相変わらずの素直になれない妹分が、白い歯剥き出しで警戒の表情を向けてくる。
「はいはい、分かってますよー。あーあ、どうしてこう妹というのはかくも扱いにくいものなのか」
「呆れた顔浮かべるなぁーっ。大体姉さんだって素直じゃないって言われてるでしょっ!」
「そうねぇー。あたし本音で喋るの苦手だからぁ。ほっほっほ」
ちょっと年上の余裕というものを見せてみたら、面白いぐらいに頬を赤く染めて怒りを浮かべるレッドベリル。
いじってて飽きない相手だ。だからこうして意地悪してみたくなるんだよなぁ。
でもまぁ、その分世話を焼いても良いかなと、思うこともあるけどさ。
「ううぅー……姉さんのバカっ! もう知らな……あ」
こちらにそっぽを向けたところで、レッドベリルがどこか間の抜けた声を上げる。
その視線は、空の上へ向いていて…・・それに釣られて、あたしも空を見上げる。
「あっ」
いつの間にか雨は止み、雲間から青空が覗き出す。
そこから差し込む太陽の光。それが、空に大きな虹を作っていた。
「おー、これはなかなか粋なモンねぇ」
「おっきい……こんなの見るの、初めてかも」
すっかりその大きな虹に見入ってしまうレッドベリル。あたしも、これにはかなり感心してしまう。
「この調子なら、家までは雨降らなさそうかなぁ……で、アンタはどうするの?」
「あたし……?」
「そ。もう雨宿りしている理由はないでしょ。帰るか喧嘩続けるか、決めなさいよ」
晴れたらご機嫌。雨なら不機嫌。
で、こんな立派な虹を見たら、おっくうな気持ちもどこかに吹っ飛んでしまう。
まぁ、あたしが単純なだけかも知れない。だけど、こんな気持ちが良い物を見ておいて、
苛立ちを引きずったままになるのも、もったいない。
「レッドベリルっ!」
と、そんなところに今度は男の声。
聞き間違えるはずがない、愚妹のマスターだ。
「あ……」
コンビニの駐車場を挟んだ歩道側。傘を片手に少し息を切らせた【レッドベリルのマスター】が、
あたし達と向かい合って立っていた。
一瞬マスターに視線を送った後、今度はあたしの顔を見つめてくるレッドベリル。
あたしは、そんな素直じゃない妹の背中を、軽く押してやることにした。
「向こうも、頭冷ますのに時間かかったのよ」
「……でも」
「でももストもないの。あんただって、どうすりゃいいのかもう分かってるでしょ?」
こんな空の下で、苛立ちを抱えたままにするのはもったいない。
そんな物はとっとと拭い去って、良い気分のまま、この虹を見ていたいと思う。
わざわざ口に出さなくても、それはこの子も分かっているだろう。
「……うん」
軽くうなずき、挨拶も無しにマスターの方へと駆け寄っていくレッドベリル。
全く、失礼な妹だ。そんな妹がマスターの前に立つと、二三言葉を交わし、互いに頭を下げる。
ずいぶんと滑稽で、ずいぶんと仲の良い様子。これぞまさしく、喧嘩するほど仲がよい、ってことか。
そして仲直りの済んだ二人が、こちらに顔を向けてくる。それに軽く手を振ってやると、
【レッドベリルのマスター】は申し訳なさそうに頭を下げ、そして二人並んでこの場を離れていった。
「ホント、世話が焼けるなぁ……っと」
そういえば、あたしももうここで雨宿りをする理由もない。
地面に置いておいた紙袋を手に取り、軒下から空の下へと再び繰り出す。
少し蒸し暑くて、地面から漂う濡れたアスファルトの匂い。
「置石」
そして、気配もなくあたしの側に立つ、双子の妹。
その手にはたたんだ傘が二つ。
「ちょっとー、もう少し存在感出して登場しなさいよ」
「善処する……それは?」
あたしの手にある紙袋に視線を移し、首をかしげる虎眼。
――今日は、久しぶりに良い天気だったから。
「あぁこれ。今日は気分が良かったから、アンタの欲しがってたアクセサリ買ってきたのよ」
気分が良ければ、あたしだってこれぐらいはするんだから。
「あはははっ、くっだらないわねぇー」
「くだらなくないもん!」
二人の喧嘩の理由。
それは、賞味期限が切れたことに気付かなかった生菓子を、マスターが勝手に捨てたことが原因だった。
「せっかく楽しみにしてたのに……」
「でも賞味期限切れてたらダメじゃん」
「わ、分かってるっ。でも、食べようと思ったら消えてて……マスターが勝手に食べたんだと思ったんだもん」
そこは分かっていながら、どうしても腹立ちを抑えられなかった、か。
相変わらずお子様だなぁ、この子は。まぁ、同じ経験ならあたしも昔あったけどさ。
「今日は天気が良くて、気分が良いなって思ったのに……」
曇天の空を、レッドベリルが見上げる。
雨は相変わらず止む様子を見せない。こんな天気では、どんなに頑張っても気を取り直す気になれそうもない。
かく言うあたしも、この雨には腹を立ててるわけだし。
「……ま、些細なことで喧嘩するのも、こんな息苦しい天気が続いてちゃ仕方ないかもねぇ」
「別に、天気のせいじゃ」
「いやいや、結構バカに出来ないわよ。アンタだって、天気が良かったら軽く散歩でもとか、思ったりしない?」
あたしの問いに、レッドベリルがうなずく。
「そういうモンなのよ、気分ってのは。晴れなら気分爽快、雨なら鬱憤溜まりまくり、ってね」
横目でこちらの顔を見てくるレッドベリル。
その赤くて水に濡れた髪に、手を置く。
「ま、今は仲直りするのは無理かもって事で。とりあえず雨が止むまで、ここで待ってれば?」
と、我ながら良い提案を持ちかけてみた。
「……ど、どのみち帰れないし。別に、姉さんが言うからここにいる訳じゃない」
「そういう反応は男にやってやりなさいよ。あたし全然嬉しくない」
「よっ、喜ばせるつもりなんて全然ないもん!」
相変わらずの素直になれない妹分が、白い歯剥き出しで警戒の表情を向けてくる。
「はいはい、分かってますよー。あーあ、どうしてこう妹というのはかくも扱いにくいものなのか」
「呆れた顔浮かべるなぁーっ。大体姉さんだって素直じゃないって言われてるでしょっ!」
「そうねぇー。あたし本音で喋るの苦手だからぁ。ほっほっほ」
ちょっと年上の余裕というものを見せてみたら、面白いぐらいに頬を赤く染めて怒りを浮かべるレッドベリル。
いじってて飽きない相手だ。だからこうして意地悪してみたくなるんだよなぁ。
でもまぁ、その分世話を焼いても良いかなと、思うこともあるけどさ。
「ううぅー……姉さんのバカっ! もう知らな……あ」
こちらにそっぽを向けたところで、レッドベリルがどこか間の抜けた声を上げる。
その視線は、空の上へ向いていて…・・それに釣られて、あたしも空を見上げる。
「あっ」
いつの間にか雨は止み、雲間から青空が覗き出す。
そこから差し込む太陽の光。それが、空に大きな虹を作っていた。
「おー、これはなかなか粋なモンねぇ」
「おっきい……こんなの見るの、初めてかも」
すっかりその大きな虹に見入ってしまうレッドベリル。あたしも、これにはかなり感心してしまう。
「この調子なら、家までは雨降らなさそうかなぁ……で、アンタはどうするの?」
「あたし……?」
「そ。もう雨宿りしている理由はないでしょ。帰るか喧嘩続けるか、決めなさいよ」
晴れたらご機嫌。雨なら不機嫌。
で、こんな立派な虹を見たら、おっくうな気持ちもどこかに吹っ飛んでしまう。
まぁ、あたしが単純なだけかも知れない。だけど、こんな気持ちが良い物を見ておいて、
苛立ちを引きずったままになるのも、もったいない。
「レッドベリルっ!」
と、そんなところに今度は男の声。
聞き間違えるはずがない、愚妹のマスターだ。
「あ……」
コンビニの駐車場を挟んだ歩道側。傘を片手に少し息を切らせた【レッドベリルのマスター】が、
あたし達と向かい合って立っていた。
一瞬マスターに視線を送った後、今度はあたしの顔を見つめてくるレッドベリル。
あたしは、そんな素直じゃない妹の背中を、軽く押してやることにした。
「向こうも、頭冷ますのに時間かかったのよ」
「……でも」
「でももストもないの。あんただって、どうすりゃいいのかもう分かってるでしょ?」
こんな空の下で、苛立ちを抱えたままにするのはもったいない。
そんな物はとっとと拭い去って、良い気分のまま、この虹を見ていたいと思う。
わざわざ口に出さなくても、それはこの子も分かっているだろう。
「……うん」
軽くうなずき、挨拶も無しにマスターの方へと駆け寄っていくレッドベリル。
全く、失礼な妹だ。そんな妹がマスターの前に立つと、二三言葉を交わし、互いに頭を下げる。
ずいぶんと滑稽で、ずいぶんと仲の良い様子。これぞまさしく、喧嘩するほど仲がよい、ってことか。
そして仲直りの済んだ二人が、こちらに顔を向けてくる。それに軽く手を振ってやると、
【レッドベリルのマスター】は申し訳なさそうに頭を下げ、そして二人並んでこの場を離れていった。
「ホント、世話が焼けるなぁ……っと」
そういえば、あたしももうここで雨宿りをする理由もない。
地面に置いておいた紙袋を手に取り、軒下から空の下へと再び繰り出す。
少し蒸し暑くて、地面から漂う濡れたアスファルトの匂い。
「置石」
そして、気配もなくあたしの側に立つ、双子の妹。
その手にはたたんだ傘が二つ。
「ちょっとー、もう少し存在感出して登場しなさいよ」
「善処する……それは?」
あたしの手にある紙袋に視線を移し、首をかしげる虎眼。
――今日は、久しぶりに良い天気だったから。
「あぁこれ。今日は気分が良かったから、アンタの欲しがってたアクセサリ買ってきたのよ」
気分が良ければ、あたしだってこれぐらいはするんだから。