殺生石が、窓の前でくつろいでいる。
夏の終わりが近い日差しは幾分柔らかくなっているようで、それが殺生石にはとても心地いいものなのだろう。
主「殺生石、お茶いる?」
殺「主様……いえ、だんな様もご一緒なら」
今日は二人きり。この前のようにまたこうして二人でお茶を飲む事になった。
殺生石には熱い緑茶。僕は冷たい麦茶。お茶請けには一口サイズのいなり寿司。
何もかも前と一緒。代わり映えしないお茶の風景……いや、こうして夏の終わりを感じながらお茶をするのは、初めてだったかな。
主「いい天気だねぇ」
殺「はい。お洗濯にはちょうど良い日和です」
窓から見える小さな空に、雲が流れる。心なしか遠く感じる雲。
殺「だんな様はおいくつですか?」
唐突に投げかけられる質問。そう言えばもうすぐ誕生日だったんだな、僕。
主「21。あと少しで誕生日だから、22歳になるよ」
数字にしてみてよく分かる。僕は殺生石の生きた年数の1割も生きていないのだと。
前に話していた……彼女は生きているうちで幸せを感じた事がなかったと。今こうしているわずかな時間が、一番幸せだと。
殺「誕生日、それはおめでたい事ですね。わたくしも誠意を尽くしてお祝いします」
主「ありがと。きっと蛋白石達も祝ってくれるね……殺生石?」
何故かこちらの顔を微笑みながら見つめてくる。
その顔が幼いのに母親みたいに優しくて……そして何故か悲しい。
殺「20年以上、だんな様は四季の移り変わりを肌で感じてきたのですね」
主「ん……まぁ、外歩いてたりしたら自然と、ね」
殺「そうですよね……わたくしは、四季の移り変わりがこんなにも美しいものだとは知りませんでした」
二人でお茶をすすっているとき、殺生石はよく自分の身の上を話してくれる。
それは、時に楽しかったり、時に悲しかったり……いや、悲しい事の方が多かったと思う。
栄光と没落を繰り返す文明の中を駆け抜け、石になって今まで過ごしていた彼女。きっと僕が想像するよりずっと
大変な思いをして、そして四季の事など考える暇もなく生きてきたのだろう。
殺「……せっかくゆっくり出来ると思ったのに、石の肌では何も感じられませんでした。春の陽気も、冬の寒風も」
主「……殺生石は、石の姿の時間が長かったの?」
殺「さぁ、どうでしょう。自分で齢を数えるのはやめましたから」
主「そっか……でも良かったね、これからは退屈せずに済みそうだし」
今はこうして動いていられる。夏のうだるような暑さだって、みんなで経験したんだから。
でも、何故か殺生石の顔が悲しい。笑っているはずなのに。
殺「わたくしは、もっとだんな様のことを感じていたい」
主「……」
殺「人の寿命は長くて100年。わたくしがだんな様の温もりを感じていられるのは、あと60年」
……そうだよね、殺生石はきっとこれからも生きていくんだ。それは連れ添いのいない一人旅みたいで。
でも彼女は笑顔。本当は泣きたいほど悲しいんじゃないのか……そんな事を思ってしまう。
殺生石って、すごく強いんだな。
殺「流れゆく時に思いを馳せたのは……これが初めてです。きっと季節の移り変わりの素晴らしさを知ってしまったからなのでしょうね」
時間なんて止まってしまえばいいのに……僕ならこう言ってしまうかも知れない。
でも彼女は、それを素晴らしいと感じている……なんだか僕の方が泣いてしまいそうだ。
殺「だんな様」
主「ん?」
熱くなりそうな目頭に気付かれないように、笑顔を向ける。
その時の殺生石の顔もやっぱり笑顔。
殺「わたくし、もう一度齢を数えてみようと思うのですが」
主「え……?」
年齢を数えるって言ったって、もう自分でも覚えていないのに……。
殺「もう一度、一から数え直してみたいのです……だんな様の誕生日と、同じ日に」
主「僕と?」
殺「はい。だんな様が22歳になられたその日、私も1歳になるんです」
主「……じゃあ、殺生石は僕と同じ誕生日ってことなんだ」
殺「はい。そうすれば近々祝って頂けますし、齢を数えるのもとても分かりやすいです……とても、大切な日ですから」
大切な日……か。
誕生日なんて一人暮らしを始めてから意識していなかったけど、時間を素晴らしいと言う彼女にとってその言葉は、何よりも心のこもった言葉に聞こえた。
……再び自分の時を見つめ始めた殺生石。夏の終わりに始まる、新しい時間。
彼女は、僕より年下の女の子になった……って事なのかな。
殺「……兄様」
主「ぶっ! げほっ、げほっ!!」
殺「ふふふ」
新しい時間が始まろうと、油断ならない殺生石に変わりないってことか。
まったく……この先思い遣られちゃうよ。
夏の終わりが近い日差しは幾分柔らかくなっているようで、それが殺生石にはとても心地いいものなのだろう。
主「殺生石、お茶いる?」
殺「主様……いえ、だんな様もご一緒なら」
今日は二人きり。この前のようにまたこうして二人でお茶を飲む事になった。
殺生石には熱い緑茶。僕は冷たい麦茶。お茶請けには一口サイズのいなり寿司。
何もかも前と一緒。代わり映えしないお茶の風景……いや、こうして夏の終わりを感じながらお茶をするのは、初めてだったかな。
主「いい天気だねぇ」
殺「はい。お洗濯にはちょうど良い日和です」
窓から見える小さな空に、雲が流れる。心なしか遠く感じる雲。
殺「だんな様はおいくつですか?」
唐突に投げかけられる質問。そう言えばもうすぐ誕生日だったんだな、僕。
主「21。あと少しで誕生日だから、22歳になるよ」
数字にしてみてよく分かる。僕は殺生石の生きた年数の1割も生きていないのだと。
前に話していた……彼女は生きているうちで幸せを感じた事がなかったと。今こうしているわずかな時間が、一番幸せだと。
殺「誕生日、それはおめでたい事ですね。わたくしも誠意を尽くしてお祝いします」
主「ありがと。きっと蛋白石達も祝ってくれるね……殺生石?」
何故かこちらの顔を微笑みながら見つめてくる。
その顔が幼いのに母親みたいに優しくて……そして何故か悲しい。
殺「20年以上、だんな様は四季の移り変わりを肌で感じてきたのですね」
主「ん……まぁ、外歩いてたりしたら自然と、ね」
殺「そうですよね……わたくしは、四季の移り変わりがこんなにも美しいものだとは知りませんでした」
二人でお茶をすすっているとき、殺生石はよく自分の身の上を話してくれる。
それは、時に楽しかったり、時に悲しかったり……いや、悲しい事の方が多かったと思う。
栄光と没落を繰り返す文明の中を駆け抜け、石になって今まで過ごしていた彼女。きっと僕が想像するよりずっと
大変な思いをして、そして四季の事など考える暇もなく生きてきたのだろう。
殺「……せっかくゆっくり出来ると思ったのに、石の肌では何も感じられませんでした。春の陽気も、冬の寒風も」
主「……殺生石は、石の姿の時間が長かったの?」
殺「さぁ、どうでしょう。自分で齢を数えるのはやめましたから」
主「そっか……でも良かったね、これからは退屈せずに済みそうだし」
今はこうして動いていられる。夏のうだるような暑さだって、みんなで経験したんだから。
でも、何故か殺生石の顔が悲しい。笑っているはずなのに。
殺「わたくしは、もっとだんな様のことを感じていたい」
主「……」
殺「人の寿命は長くて100年。わたくしがだんな様の温もりを感じていられるのは、あと60年」
……そうだよね、殺生石はきっとこれからも生きていくんだ。それは連れ添いのいない一人旅みたいで。
でも彼女は笑顔。本当は泣きたいほど悲しいんじゃないのか……そんな事を思ってしまう。
殺生石って、すごく強いんだな。
殺「流れゆく時に思いを馳せたのは……これが初めてです。きっと季節の移り変わりの素晴らしさを知ってしまったからなのでしょうね」
時間なんて止まってしまえばいいのに……僕ならこう言ってしまうかも知れない。
でも彼女は、それを素晴らしいと感じている……なんだか僕の方が泣いてしまいそうだ。
殺「だんな様」
主「ん?」
熱くなりそうな目頭に気付かれないように、笑顔を向ける。
その時の殺生石の顔もやっぱり笑顔。
殺「わたくし、もう一度齢を数えてみようと思うのですが」
主「え……?」
年齢を数えるって言ったって、もう自分でも覚えていないのに……。
殺「もう一度、一から数え直してみたいのです……だんな様の誕生日と、同じ日に」
主「僕と?」
殺「はい。だんな様が22歳になられたその日、私も1歳になるんです」
主「……じゃあ、殺生石は僕と同じ誕生日ってことなんだ」
殺「はい。そうすれば近々祝って頂けますし、齢を数えるのもとても分かりやすいです……とても、大切な日ですから」
大切な日……か。
誕生日なんて一人暮らしを始めてから意識していなかったけど、時間を素晴らしいと言う彼女にとってその言葉は、何よりも心のこもった言葉に聞こえた。
……再び自分の時を見つめ始めた殺生石。夏の終わりに始まる、新しい時間。
彼女は、僕より年下の女の子になった……って事なのかな。
殺「……兄様」
主「ぶっ! げほっ、げほっ!!」
殺「ふふふ」
新しい時間が始まろうと、油断ならない殺生石に変わりないってことか。
まったく……この先思い遣られちゃうよ。