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赤いリンゴ

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  普段は滅多に姿を見せないレッドベリルが、珍しく私達の家の前に立ち尽くして居ました。
  目線の先はソーダちゃん。
「どうかなさいました?」
  ソーダちゃんを見つめる彼女はとても懐かしそうな、それでいてとても淋しそうな表情をしていました。
  そして私の方を向くと一言、ああ……黒曜石か……、と呟いて去っていきました。

  それから一週間後。
  私が洗濯物を干していた時、物陰に赤い姿を見つけました。
  私は、植え込み越しに彼女に声を掛けました。
「なにか御用?」
  ソーダちゃんを目で追っていた彼女は、突然声を掛けられとても驚いていました。
「な……なんでもない……。ただ通りかかっただけ……」
  そう訴える彼女は、明らかに涙声でした。
「……ソーダちゃんに、お用事ですか?」
  半泣きになっても、ソーダちゃんを見つめていたから……。
  そして、彼女は不意に私の目を見て云いました。
「気になるの……?」
  あれこれ思案した結果、お家に上がって貰いました。
  ずっと植え込み越しにお話するのは、不憫だったから。

  窓際にティーカップが二つ。

  懐かしむ様な、哀しむ様な瞳のまま。
  彼女は自分の過去を語ってくれました。

  ……それは十年程前、レッドベリルがマスターと共に居た頃。
  ベリルのマスターは、まだ幼い少女でした。
  とても愛想が良くて、いつも可愛がってくれていました。
  今まで出会ってきた人間と過ごしたどんな時間よりも、幼い少女であるマスターに頭を撫でてもらう瞬間が一番幸せでした。
  しかし幸せも束の間、少女は事故で亡くなってしまいました。
  信号無視で走ってきた車に轢かれて、即死だったそうです。
  その少女は、よく笑うコでした。
  その少女は、よく泣くコでした。
  その少女は、よく不機嫌になって皆を困らせました。
  ……ソーダ珪灰石のような少女でした。

  そう云って、再びベリルの目線はソーダちゃんに向けられました。
  夕焼けの赤い光が、懐かしい日々を照らしていました。

「リンゴが好きなのも、マスターが好きな果物だったからなの」
  最後にそう付け加えて、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干しました。

  日も暮れた頃、私達のマスターと入れ違いにベリルは帰って行きました。
「また遊びに来るねー!」
  と、何事も無かったかのように。
  けれどそれは、彼女なりの気遣いでした。
  私達はマスターに、ベリルが来てたのかとしか聞かれなかったのですから。
  辛い事は、私だけで良いから。
  そう云っていたベリルは、哀しさを乗り越えたとても強い瞳をしていました。

「……ご飯、出来ましたよ」

  いつ訪れるか解らない『別れ』。
  それまでは、この瞬間を楽しみましょう……。

  独りブランコを漕いでいたベリルは、ふと空を見上げてとても優しい声で呟いた。
「マスター、今日は満月ですよ……」

  流れ星が、光の筋を描いて消えた。

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