柔らかな月明かり。暖かな談笑。三つの笑顔。彼女たちは他愛のないことで笑いあう。
そのひとときが永遠に続くことを信じて疑わず。それが崩れる日がそう遠くないことも知らず。
そのひとときが永遠に続くことを信じて疑わず。それが崩れる日がそう遠くないことも知らず。
月長石が話を振り、アメジストが膨らませ、ホープが慎ましやかな意見を言い、それをネタに月長石が話題を振ってゆく。そうやって三人の談笑は進んでいく。
それはありふれた日常。それはいつも通りの光景。
けれど今宵ばかりは少し違っていた。元より言葉数の多い方ではないホープが、平生以上に寡黙で、放心しているようにも見えた。
「……どうしたの、ホープ?」
不思議そうに月長石が尋ねた。
「あ……すみません、少し月に見惚れていたんです」
「月?」
ホープの視線をたどった二人は、確かに月が出ているのを見つけた。けれどそれは一般に美しいとされる満月や三日月ではなく、その中間……下弦の月だった。
「下弦の月が……どうかしたのかい?」
「えぇ、少し」
そう言うと、ホープは静かに席を立った。
「すみません……少し、外を歩いてきます。もう少し近くで、月を見たいですから」
「……あぁ、分かった」
「いってらっしゃい」
二人は歩いていく後姿に声を掛けた。
それはありふれた日常。それはいつも通りの光景。
けれど今宵ばかりは少し違っていた。元より言葉数の多い方ではないホープが、平生以上に寡黙で、放心しているようにも見えた。
「……どうしたの、ホープ?」
不思議そうに月長石が尋ねた。
「あ……すみません、少し月に見惚れていたんです」
「月?」
ホープの視線をたどった二人は、確かに月が出ているのを見つけた。けれどそれは一般に美しいとされる満月や三日月ではなく、その中間……下弦の月だった。
「下弦の月が……どうかしたのかい?」
「えぇ、少し」
そう言うと、ホープは静かに席を立った。
「すみません……少し、外を歩いてきます。もう少し近くで、月を見たいですから」
「……あぁ、分かった」
「いってらっしゃい」
二人は歩いていく後姿に声を掛けた。
『あれからどれくらい経ったのでしょうか。マスターを失ったあの日から……あの日の夜も、今日と同じ下弦の月でした。
もう、どれほどの時間が経ったのか見当もつきません。けれど、今でも忘れてはいません』
ホープは静謐な森の中で、遥か彼方の月を見上げる。その向こうに、懐かしい顔を見るように。
『あの時、私はとてつもない絶望に打ちひしがれました。けれど、私はアメジストと出会えた』
それで得たのは、光る強さ。失くしたのは、かげる弱さ。しかし……。
『強く、高く背伸びしたよ……お月様。けど決して届きはしない。月には兎か蟹か、何がいるかは知らないけれど、それらに会うことはできません。
私に羽根はない。羽根があったならば、月にも行けるでしょうか……。
……私は、幸せになりすぎました。あれほどの絶望を知りながら、再びここまでの幸福を感じられるようになるとは、正直思っていませんでした。
けれど、このままではいけないような気がしてしまうのです。私は……呪われた、咎人だから。
私の意思の及ばぬところではあったとしても、私はマスターを……多くの人を殺めました。そんな私が、こんな幸福でいいのでしょうか。
ねぇ、お月様……私は……私は……』
もう、どれほどの時間が経ったのか見当もつきません。けれど、今でも忘れてはいません』
ホープは静謐な森の中で、遥か彼方の月を見上げる。その向こうに、懐かしい顔を見るように。
『あの時、私はとてつもない絶望に打ちひしがれました。けれど、私はアメジストと出会えた』
それで得たのは、光る強さ。失くしたのは、かげる弱さ。しかし……。
『強く、高く背伸びしたよ……お月様。けど決して届きはしない。月には兎か蟹か、何がいるかは知らないけれど、それらに会うことはできません。
私に羽根はない。羽根があったならば、月にも行けるでしょうか……。
……私は、幸せになりすぎました。あれほどの絶望を知りながら、再びここまでの幸福を感じられるようになるとは、正直思っていませんでした。
けれど、このままではいけないような気がしてしまうのです。私は……呪われた、咎人だから。
私の意思の及ばぬところではあったとしても、私はマスターを……多くの人を殺めました。そんな私が、こんな幸福でいいのでしょうか。
ねぇ、お月様……私は……私は……』
「ホープ」
突然呼ばれ、ホープは驚き振り返った。そこには凛と、アメジストが立っていた。
「なにやら考えている風だったから様子を見に来たが……っ!」
アメジストが言い終わらないうちに、ホープは泣き出した。アメジストはホープの近くに駆けつけ、肩を掴み自分の目を見させる。
「どうしたんだ」
「……したら」
「え?」
「私は、どうしたら、いい、のでしょう……アメジスト……」
その声は極端に震え、しゃくり上げながらだったので非常に聞きづらいものだった。
「どうしたらいい……というのは?」
「私は……幸せに、なりすぎ、ました。あんな、ことをして、おきながら、私は幸せ、なんです……元凶である、私が!」
「幸せになりすぎてなんかいない!」
ホープは再び驚き、身をすくませた。アメジストは自分の言葉に驚くと同時に、ひどく冷めていった。
「確かに君の過去は咎であるかもしれない。けれど、それの贖罪はもうすんでいるはずだ」
アメジストは、まるで自分に言い聞かせるかのように言った。
「でも……でも!」
「ホープ、君は優しい。優し過ぎる。もう……いや、ただ忘れさえしなければ、それでいいんだ」
言い終わるや否や、ホープはアメジストの胸に顔をうずめ、盛大に泣き出した。アメジストはそれを、両腕でやさしく包んだ。そして、一人物思う。
(まさか、これほど深く根ざしているとは……ね)
突然呼ばれ、ホープは驚き振り返った。そこには凛と、アメジストが立っていた。
「なにやら考えている風だったから様子を見に来たが……っ!」
アメジストが言い終わらないうちに、ホープは泣き出した。アメジストはホープの近くに駆けつけ、肩を掴み自分の目を見させる。
「どうしたんだ」
「……したら」
「え?」
「私は、どうしたら、いい、のでしょう……アメジスト……」
その声は極端に震え、しゃくり上げながらだったので非常に聞きづらいものだった。
「どうしたらいい……というのは?」
「私は……幸せに、なりすぎ、ました。あんな、ことをして、おきながら、私は幸せ、なんです……元凶である、私が!」
「幸せになりすぎてなんかいない!」
ホープは再び驚き、身をすくませた。アメジストは自分の言葉に驚くと同時に、ひどく冷めていった。
「確かに君の過去は咎であるかもしれない。けれど、それの贖罪はもうすんでいるはずだ」
アメジストは、まるで自分に言い聞かせるかのように言った。
「でも……でも!」
「ホープ、君は優しい。優し過ぎる。もう……いや、ただ忘れさえしなければ、それでいいんだ」
言い終わるや否や、ホープはアメジストの胸に顔をうずめ、盛大に泣き出した。アメジストはそれを、両腕でやさしく包んだ。そして、一人物思う。
(まさか、これほど深く根ざしているとは……ね)
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