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12月22日のこと

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「主、冬至が近いぞ」
「冬至ぃ? そんなのいちいち意識したことないぞー」
  一人暮らしが長いと、こういうイベントなんてそんなモンだ。
「しかし主、こういうのはもう少し大切にした方がいいぞ。カボチャも食べられるし……」

「大切にするのは分かるが……って、珊瑚何か言ったか?」
「い、いや、何でもない。とにかくせめてカボチャぐらいは食べようじゃないか」
  カボチャ、ねぇ……別に食いたい気分でもないが、とりあえず冷蔵庫をのぞいて……って、あるわけないか。最近買い物もしてないし。
「マスタぁーっ、何のお話?」
  と、天河石がテレビからこちらへ興味を示す。
「カボチャだってさ」
「カボチャー? 天河石パンプキンパイ食べたいなぁ」
「お前はすぐにお菓子へ方向が向かうのな……」
「えへへー」
「パンプキン……カボチャパイ……お菓子か。よし、じゃあ今日はそれを作らないか?」
  なんだか珊瑚が目を輝かせているような……まぁいいけど。で、カボチャパイだ。俺お菓子作りなんてやったことないぞ。
「天河石、お菓子作れないよ?」
「某が教えよう。だからカボチャを買ってきてくれないか?」
「あーっ、天河石いってきまーす♪」
  なんか話が勝手に進んでる。しかも天河石、お前はお使いなんてやったことないような……。
「いってきまーすっ」
「って、準備早っ! おい天河石っ、一人で大丈夫か!?」
「だいじょーぶだよっ。マスタぁーは、お姉ちゃんと準備しててねー」
「準備っつったって……あー、行っちゃった」
  ダメだ、どう考えても俺の不安は拭えない。だいたいあいつ財布は持ったのか? パンプキンパイに必要な材料は知っているのか? ……そもそもあいつ、スーパーの場所分かってるのか?
「主、材料はここに書いておいた。陰ながらでいいから天河石を見守っていてくれ」
「お、手際がいいな。じゃあとりあえず行ってくるわ」
  やっぱりこういうとき珊瑚は頼りになるな。というわけで急遽出かける準備。あーくそ、せっかくのバイト休みが……。
「ところで珊瑚、なんでパンプキンパイの作り方なんて知ってるんだ?」
「っ……べ、別にどうだっていいだろう。早く行け!」
「わっ、な、斧振り回すな!」

「~♪」

  ずいぶんとご機嫌な天河石。足取りは軽いってやつか。そういやテレビではじめてのおつかいとかあったな。アレの取材ってこんな感じなのかな。
  でも、今回は周りの人は協力者じゃない。気のせいかもしれないが、周りの視線が痛いような……くそっ、俺だって好きでつけてるわけじゃねぇよ!
「あー、猫さんっ。こんにちはー」

  誰かの家の前で眠る猫にご挨拶。天河石ってホント猫好きだなぁ。って、なんか撫でに行ってるし……あの猫、ずいぶんとおとなしいな。天河石に撫でられてもされるがままか。
  しかし天河石、当初の目的これで忘れたりしないよな?
「あっ、カボチャー。猫さん、またねー」
  天河石を横目で軽く見て、再び目を閉じる猫。それを見届けてから、天河石は再びスーパー(だと思うが)への道を進む。
「ねっこさんねっこさん♪ ねこにゃーにゃー♪」
  即興ソングを口ずさみながらスキップ。
「余裕だな、あいつ……」
  まぁ、おろおろされるよりはずっとマシだよな。よし、追跡再開……。
「って、なんだこの猫! いきなりこっち……ちょっ、放せ! 何故くっつく!? 重い、重いっつーに!」
  天河石の呪いか何か分からんが、やたらとあの後猫に懐かれた俺。いや、引っかかれたりするよりははるかにマシだが、しかしなぁ……。
「えーとぉ、んーとぉ……あったー♪」
  は? あったって何がだ? スーパーはもう少し先の方角なのだが。 と、天河石の向かった先は……コンビニかよ!!
「それだったらパンプキンパイ買った方が早い……じゃないっ、カボチャなんてあるわけねぇだろ!」
  そんな俺の声が届くわけがない。というか届いたらまずい。とにかく天河石はコンビニ店内へ。くそっ、追跡しにくいな。しかし躊躇しているひまはない。なるべく天河石に気づかれないように店内へ。
「いらっしゃいませー」
  店員の挨拶を聞き流し、とりあえず雑誌コーナーへ。天河石は……予想通り店内をうろついている。いくら探してもカボチャなんて置いてないぞ。
「んー……すみませんっ」
「はい、何ですか?」
  店員に聞くのか。まぁ正しい対応ではあるが。
「んと、パンプキンパイ作るからぁ、カボチャ欲しいんですけどー」
「カボチャ……この店には置いてないかなぁ」
「えー、何でもあるんじゃないんですか?」
  天河石の幼い故のストレートな指摘に、店員の顔に苦笑い。とりあえずすまん……心の中で店員に謝っておく。
「カボチャならやっぱりスーパーとか八百屋さんだよ」
「八百屋さんこの辺にないって、お姉ちゃん言ってましたー」
「スーパーならこの近くにあるよ。ちょっと待って、地図書いてあげるから」
  おぉ、店員さんナイス!
「はい。すぐ近くにあるから、すぐ分かるよ」
「わぁ、ありがとーございますっ」
「どういたしまして。お使い頑張ってね」
「はーい♪」
  笑顔で店員に手を振りながら、自動ドアを抜ける天河石。そして手元の地図を確認すると、スーパーのある方へ真っ直ぐ向かっていく。さて、追跡再開か……。
「大変ですね」
「ぬおっ!」
  さっきの店員が苦笑を浮かべてこちらに話しかけてくる。気配もなしに近寄らないでくれ……。
「あの子のお目付役ですよね。先ほどからこちらを気にしていましたから」
「まぁ……」
「妹さんですか? 大変ですねぇ、あの年頃の子を持つと」
「は、はは……すみません」

  はぁ、なんか今日は疲れる……。
「おっきぃー」
  と、感嘆の声を上げている天河石。もちろん目の前にはスーパーだ。この辺でもかなり大きい店なので、もしかしたら迷うかも知れないな……。
  天河石もそれを察しているのか、どこか顔つきが険しい。
「……よぉーっし」
  そして気合いの一声と共に店内へ。スーパー入るのに気合いを入れる奴なんて初めて見たぞ。
  って、のんびりしている場合じゃない。ここだと本気で天河石を見失いかねない……愚痴っていても仕方ない。何もないことを祈りつつ、俺は天河石と間合いを取りながらスーパーへと足を運んだ。
「カボチャ……ふふ、カボチャ……ふふふ」


              ◆


「カボチャ……うぅむ、天河石も主も……遅い」

  さて、スーパー店内だ。天河石といえば、あの小さな体で体格に見合わない買い物かごを持ち、カボチャ探しに奮闘中。
  ちなみにここは洗剤売り場。野菜売り場とはえらい違いだ。
「んーとぉ……えーとぉ……あれぇ?」
  どう見てもこれは迷ってるな。まぁ、さっきと同じく店員に聞くぐらいはできるだろう。とりあえず落ち着いて見守ってみる。
「……にゃー」
  いや、そんな困った顔で笑っていてもどうしようもないだろ。
「んー……あーっ」
  と思っていたら、今度は一目散にどこかへ向かう。何かを見つけたのか……と、思いきや、天河石の向かう先には。
「お兄ちゃんっ」
「え、天河石ちゃん?」
  なんてこった、蛋白石のマスターって人じゃないか。
「こんにちはー。お兄ちゃんもお使い?」
「お使いというか、日課だよ。消耗品の買い出しにね」
「わぁ、お荷物いっぱーい」
  確かに、彼の押すカートにはかご二つに洗剤やお菓子、食材調味料その他もろもろ。うちと違って三人だからなぁ、食い扶持。金銭面よく保ってるな。
「天河石はねー、カボチャ買いに来たんだよっ」
「カボチャかぁ。そういえば今日は冬至だね」
「うんっ、パンプキンパイ作るの」
「そうなんだ。じゃあ早く買っていかないとね。あと野菜はこっちじゃなくて向こうだよ」
「はーい。あっ、お兄ちゃんも一緒にお買い物しよっ」
  ……なんか俺もう必要なさげな気がしてきた。
「うん、いいよ。じゃあ僕もカボチャ買って行こうかなぁ……でも何作ろう」
「カボチャのおしるこー♪」
「つ、作れるかなぁ……」
  と、のんびり話ながら野菜売り場へと向かう。とりあえずこれで黙っていてもカボチャは買えそうだな……あれ、何か忘れているような。
  そういうときはポケットに手を入れてみる。ヒントが入っている場合が意外とあったり……あー!!
「やべ……珊瑚のメモ」
  そうだよ、珊瑚に頼まれてカボチャ以外の材料買って来なきゃいけないんだ。しかも今ポケットに手を入れてみて分かった。俺財布持ってきていない。
  ……さぁて、どうしようか

「主、携帯電話は持っているのに何故財布を持たないのだ」
「いやぁ、悪い悪い」
  結局天河石と合流するわけにも行かず、珊瑚に財布を持ってきてもらうことに。
「この姿を天河石に見つかったらどうするのだ……せっかくのお使いが台なしだぞ」
「分かってるっつーに。だからこうしてばれないように……やべっ、天河石!」
「なぬっ」
  例の蛋白石のマスターと一緒に店外へ向かう姿。とにかく俺は珊瑚と共に自販機の陰に隠れる。人目なんて気にしていられるか。
「お兄ちゃん、今日はありがとー♪」
「どういたしまして。天河石ちゃんも、お菓子作り頑張ってね」
  のどかな会話を交わしながら、互いに別れを告げてそれぞれの帰路へ。天河石はこちらとは反対……うちの方向へ。蛋白石のマスターはこちらへ向かってくるが、結局気づかれずに素通り。
  ふぅ、とりあえず一件落着。
「はぁ……主、とりあえず残りを買って帰ろう。天河石を待たせてしまっては悪い」
「あぁ、そうだな……あー、疲れた」

「ただいまー……あれれ、鍵ー?」
「ただいま……」
「んにゅ、マスタぁー? 珊瑚お姉ちゃんも、何してるのぉ?」
「あ、あぁ、天河石に頼み忘れた物を買ってきたんだ」
  手にぶら下げたビニール袋を見せる。
「そうなんだぁ。お姉ちゃんおっちょこちょいー」
「面目ない」
「それはとにかく、とっとと作って食おう。休憩したい……」
  と、いうわけでみんなそろってエプロン姿。
「待て、何で俺まで……」
「たまにはつき合うんだ。天河石だって一緒に作りたいだろ?」
「うんっ」
「だから俺は休憩を……」
「た・ま・に・は・付・き・合・う・ん・だっ」
「……はい」
  くそっ、男って本当に弱い生き物だ。いや、珊瑚が強すぎるか。
「まずはカボチャだ。一個まるまるは使わないから、八分の一ほどに切って種を取り除く」
「はーいっ」
  と、包丁を両手で構えて……おいっ!
「天河石、その包丁の持ち方はまずいって」
「にゅ?」
「……主、頼む」

「ぐーるぐーる♪」
「主っ、手が止まっているぞ!」
「うるせーっ、さっきからこき使い……ゴメンナサイゴメンナサイオコラナイデマジデ」
  天河石は調味料を混ぜ合わせ。俺はトッピング用の生クリーム混ぜ。くそっ、珊瑚が怖くなければ俺はサボるのに……あれ?
「珊瑚っ、お前何もやってないだろ!!」
「馬鹿者! カボチャを潰しているだろっ!!」
「け、喧嘩はだめだよぉー」
  珊瑚の作るパンプキンパイは、何というかパイという名のケーキのような……パンプキンケーキとでもいうのだろうか。まぁ、性格に似合わぬ乙女チックな食べ物なのは確かだ。
「天河石、摘み食いは厳禁と言っただろう?」
「ご、ごめんなさぁーい」
  それよりも、さっきから珊瑚が怖いんだが……いや、欲望丸出しというか何というか。
「珊瑚、お前カボチャ好きなのか?」
「っ!」
  あ、図星だ……。
「そ、某は別に……それより主っ、何を怠けている!?」
「後は冷蔵庫で冷やすだけと言ったのはお前だろ!」
「飲み物の用意だ!」
「だからなんでそうも俺を……イヤマジデゴメンニラマナイデクダサイオネガイシマス」
  とりあえず分かった。珊瑚は早くパンプキンパイを食いたくて苛立っているのだと。なんだよ、お姉さんぶってるくせに変なところで子供というかなんというか。
「主、今とてつもなく失礼なことを考えていなかったか?」
「べ、別にー」
「ふむ……まぁいい。それよりも美味しそうじゃないか。ふふふふふ」
「いい匂いー♪」
  というわけで、パンプキンパイ珊瑚SP完成。テーブルを囲んで、三つの皿に一つずつ。天河石は今日特別頑張ったので少し大きめだ。
  いい匂いなのは天河石と同意見だし、何よりうまそうだ。しかし想像通りの乙女チックなパンプキンパイ。これを珊瑚が作ったと誰が思うだろうか。あのクールな珊瑚が、だ。
「それじゃあ食べよう。早く食べよう」
「そういいながらすでにフォークを刺すなよ……まぁ、いただきます」
「いっただきまーす♪」
  とりあえず一口……うむ、甘い。甘いがうまい。甘いのに慣れ始めた俺にとって、これはなかなか……。
「マスタぁー、これコーヒー?」
「ん、ああ」
  食うのに集中していて、天河石への返事も中途半端に。いや、うまいよホント。あの熱中して作っていた珊瑚の力作なだけはある。だがこうして甘いのばかり食っているとコーヒーが恋しくなる。とりあえずカップを……カップを……あれ?
「おい、俺のコーヒーカップどこに……あっ、天河石!!」
  気づいたときにはもう遅し。天河石は俺のカップに口を付け、コーヒーを一口。あーあ、俺知らね……お、顔が青ざめてきた。
「え、えへへー。コーヒーおいしいねー」
「声が震えてるぞ」
「そ、そんなこと、ないもーん」
  そういいながら、カップを退けてパイを口に含む。コーヒーには目もくれずに……というか見ないようにして。ちなみに珊瑚はこちらのことなど気にしていない。黙々とパイを食べ続けている。

「んぐっ」
「ったく、お前一気に食べすぎだって。ほら牛乳」
「んっ……ぷはー、苦しかったよぉ」
「無理してコーヒーなんて飲むからだ」
「にゅぅ……」
  まぁ、飲みたくなる気持ちは分からんでもないけど。まったく……お使いとか何とか、ホントに背伸びしたがる子供だな。人間の子供と全然変わらない。
「子供は牛乳飲んで大きくなればいいんだよ」
「天河石子供じゃないもんっ」
「はいはい。とにかく大きくなれば、これだって飲めるようになる。不味いと思っているうちは飲むな」
「むぅーっ」
  天河石がにらんでくるが気にしない。俺は甘さが広がった口をリセットするためにコーヒーを一口……。
「ぶはっ!! まず!!」
「にゃあーっ」
「な、何だこれっ、すっげーまず! つーかギャグマンガみたいにコーヒー……吹いて……しまっ……た」
  アレ? 確か俺が今向いてる方向は……。
「……主、某に何か恨みでもあるのか?」
  ……あーあ、見事に珊瑚がコーヒーまみれ。ドレス、コーヒーの染みがついちゃったな。どーしよ。
「いや、わざとじゃないぞ。あまりにもまずくてつい……ゴメンナサイ」
「カボチャまで……カボチャ、まで……これが……」
  震えながら立ち上がる珊瑚。あー、ものすごい殺気が……。
「これが謝って許せるものかあぁー!!」
「アッー!」
  さんざんだ。とにかくさんざんだ。こんなギャグマンガみたいな一日、早く終わってくれ……。
「喧嘩はだめだよぉー」
「これは喧嘩ではない、報復だ!」
「どっちでもやめてくれぇーっ」
  結論、珊瑚は意外とお子様。


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