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瞑った目の先

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だれでも歓迎! 編集
「なんだ、殺生石まだいたんだ」
  冷たい口調、鋭い視線。
  ……どうして、そんなことを仰るのですか?
  いつもの優しい貴方は、どこへ行ってしまったのですか?
「この際はっきり言うよ。いい加減うっとうしいんだよね、君」
  ……嫌、突き放さないで。
「僕だって今まで我慢してつき合ってあげたけどさ……いっつも遠慮ないんだもん。いいかげんこっちはうんざり」
  ……嫌だ、そんなの。
  もう、冷たいのは、嫌……。
「うちだっていろいろ大変なんだから、そろそろ出て行ってもらっても……」

「嫌ぁー!!」
  月明かりの射す、暗い部屋。夜の指定席。
  わたくし、いったい……。
「……だんな様っ」
  見渡してみても、誰もいない。
  ……これは、不安?
  今まで感じたことのない、冷たい感触。
  身体が、寒い……嫌。
  一人は嫌。冷たいのも嫌。
  だんな様……貴方のお顔が見たい。貴方の温もりを感じたい。
  今の、夢の中の貴方は、本当の貴方じゃないですよね?
  お願い、それを教えて。でないと……。
  お願い……。
    ◇    ◇    ◇    ◇
  トイレに行きたいと水の夢を見るとか言うけど、うちの場合は寒いからいつも雪山の夢を見ている。
  そんな気がする。そんな気が……うぅ、寒……くない? あれ?
  顔辺りに、いつもとは違う感触。何だろう。
「んぅ……んあ?」
「だんな様……」
  女性の細い手が、僕の頬に……あぁ、殺生石が僕の枕元に座って……あれ、殺生石の目。
「ど、どうしたのっ? 何で泣いてるの?」
  寝ぼけていた僕の意識が一気に覚醒する。
  言葉通りだ。殺生石の目には、いつもは見ないほどの大量の涙が流れていたんだから。
  好きな人がこんなに泣いているなんて……たまらず身体を起こして、殺生石を抱きしめる。
「だんな様ぁ……」
「何があったか分からないけど、落ち着いて。ね?」
  小さいながらも、殺生石が声を出して泣く。
  今まで見たこともない光景だった。それにこんなに……なんというか、見ていて胸が苦しくなるような、いつもの嬉し涙じゃなくて、とにかく嫌なことがあったとか、そんな感じの。
「どこか、痛いの?」
「……こころ」
「そっか。嫌なこと、あったんだね。怖い夢でも見た?」
  殺生石が怖がる夢なんて、想像もできないけど。
「だんな、様に……捨てられちゃう」
  その口調は、いつもの凜としたものとはほど遠くて、子供のような。
「本当は、わたくしが……嫌い、って……」
「……そっか」
  殺生石は、普段は夢を見たりはしない。僕と一緒に布団の中にいるとき以外、眠らないというのだから。
  それが今日は一人で眠っていたのだろうか……。
「違う、よね……わたくしのこと、嫌い……じゃない、よね?」
「そんなこと、心のどこを探しても思ったことないよ。自信を持って言える」
  やっと、殺生石が笑顔を浮かべてくれる。
  子供のような安堵感がこもった笑顔。
「それに、殺生石を泣かせたりなんて、そんなことしたくないよ。僕は」
  殺生石の頭を撫でてあげる。
  とにかく、今は落ち着いて欲しい。
「僕は、殺生石が笑っているのが大好きだから」

  二人並んで布団の中。
「申しわけございません、あんなに取り乱してしまいまして……恥ずかしい」
  心の底から申しわけなさそうな顔をする殺生石。でも僕の腕にしっかりとしがみついている。
「仕方ないよ。悪夢って、初めて見たんでしょ?」
「はい……心の底をえぐられるような、とても怖い夢でした」
「僕もときどき怖い夢見るけど……そっか、殺生石にとってそんなに怖かったんだ」
「当たり前です。こんなに心が弱くなってしまったのに、だんな様に捨てられてしまったら……」
  殺生石の身体が、小刻みに震えるのが分かる。
  彼女はずっと、一人でも生きていけるぐらい強い心を持っているのだと思っていたけれど……。
  ……こんな僕でも、頼りにしてくれているのかな。
「だんな様……目を瞑るのが、怖いのですが」
「大丈夫だよ。暖かいところなら、悪夢なんて見ないと思うよ」
「そうでしょうか……」
  夢を怖がる殺生石の顔。
  それがとても可愛らしくて、守ってあげたいとかそんな想いがこみ上げる。
「だって、ここは殺生石の大好きな場所だよ?」
  ここは暖かい。殺生石を冷たくするようなものから、僕が守ってあげられる。
  僕だって男だ。そういう事を恋人にしてあげたいと思うのは、当たり前なんだ。
  普段はしっかりした女の子だけど、こういう弱いところだって見せて欲しい。
  そうすれば、もっと殺生石のことを好きになれるから。
「……だんな様、今日はとても男らしいですね」
「そ、そうかな」
「ふふふ。そのように照れるお顔は、わたくしの知っている……愛しいだんな様です」
  僕の胸に顔を埋める。
「こうすれば、だんな様の心も感じられます」
「……そっか」
  また、殺生石の頭を撫でる。
「おやすみ、殺生石」
「はい……おやすみなさいませ」

「ふふふ、だんな様ぁ」
  え、何だろうこれ……夢?
  それで、僕は何で縛られてるの?
「私を泣かせちゃうような夢の中のだんな様には、お返しですよぉ」
  は?  何でそうなるの……。
「痛くはしませんよ。わたくしをたくさん、満足させてもらうだけですから」
  いやいや、ちょっと待って。殺生石の夢の中のことは殺生石の夢で……。
「うふふふふ……」
  え、いや、ちょっ、まっ……。
「うわああぁぁぁっ!?」

「だんな様ったら、朝からそんな大声を出したら近所迷惑ですよ?」
「わ、分かってる……はぁ」
  結局あれは夢だったわけだけど……もしかして、殺生石と添い寝したせいで殺生石の夢が僕の夢に?
  ま、まさかね……あはは。でも殺生石ものすごーく満足そうな顔してるのは、何でだろう。
「と、ところで殺生石、昨日はどうして一人で寝たの? いつもなら僕の布団に潜り込んだときしか寝ないのに」
「あのときですか? 確かお月見をしていたら急に眠気が……あ、そういえばペリドットと一緒にいなり寿司を食べました。きっとその時のお酢が」
「……酔っぱらってたわけね」
「お恥ずかしながら……」


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