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幸福な眠り姫

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「ただいま。今日も素敵なことがあったのよ。あのね――」
  黒髪に赤いリボンを揺らし、外から帰ってきた袴姿のまま、主の少女は私に語りかける。
  沈丁花の香りを連れて、今日あったことを私に嬉しそうに話す。
  うっすらとした眠りの帳の向こうの、優しい微笑みを覚えている。
「お母様があなたを下さってから、もうずいぶん経つけど、ずっと綺麗なままね」
  主は時折、私の綿毛のような髪を櫛で梳き、子守唄のような歌を歌ってくれた。
  まどろみの中で、私は目覚めることはなかったけど、幸福だった。

「――、雲母ちゃん!」
  声をかけられて目が覚めた。
「……こくようせき?」
「こんなところで寝ると、風邪ひいちゃいますよ」
  優しい微笑み。夢と現実が交差する。
「――」
  名を、呼びそうになる。呼ぶことはなかった名を。
「え? 何ですか?」
「……なんでもない。夢、みてた」
  黒曜石の膝に上り、胸に甘えるように抱きつく。
  他の姉妹たちと形は違っても、私は幸福だった。
「どんな夢だったんでしょう」
  そして、今も。

「せかいでいちばん、しあわせな人形の夢」


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