アットウィキロゴ
宝石乙女まとめwiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

宝石乙女まとめwiki

背中を押して

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 薄紫が掛かった空に溜め息を吐く。
 この時期の空は黄砂の影響で霞んでいる。
 春先だというのに、寒い。
 手を握りしめると冷え切った指先に、血潮の熱がじんと伝わった。
 「なーに青春やってんの。」
 「うわっ!?」
 背中をどんと押され、僕は前方へつんのめって、転んだ。
 まさか誰かが居るなんて思いもしかなかったし、気が付かなかった。
 「あははは、バカねー。」
 反転した視界に映る少女は、僕を指差しケラケラと笑っていた。
 「・・何するんだ。」
 服についた埃を払い、トーン低い声で疑問を投げかけた。
 「ん、なんかね。どんよりしてるのを見てたらドツきたくなっちゃって。」
 ちろりと舌を覗かせて、悪びれる様子もないようだ。
 嫌悪の乗った息を吐くと、少女に声を掛けられた。
 「ねえ。なんで落ち込んでたのよ。」
 「おまえに話す義理なんかない。」
 僕はそっぽを向いてつっけんどんに返す。
 「言ってくれないと、またドツくわよ?」
 にんまりと少女は口の端を吊り上げた。
 「迷惑な奴だな・・。」
 げんなりとして僕は呟いた。
 「ちょっと、父親と口ゲンカしたんだ――

僕の家は由緒ある職人の家だった。
父は特に昔気質の、まさに「職人」と言う言葉のイメージ通りの人物だ。
少し頑固だけどまじめで実直で・・父の背中には憧れるものがある。
そんな父は長男である僕になんとしても家業を継がせたいらしい。
だけど僕には叶えたい夢がある。なかなか父には言い出せないけど・・。

 「―ふーん・・・なるほどね。」
 以外なことに彼女は大人しく僕の話を聞いていた。
 うんうん、と意味ありげに頷いた後に、びしっと指を立てた。
 「これはあんたが悪いわね。」
 「なっ・・!」
 きっぱりと言い放つ彼女に僕は憤りを覚える。
 「そんなカッカしないでよ。あんたのお父さんだって悪いんだから。」
 「はぁ・・?」
 「だって、まだちゃんとお父さんに自分の考えを伝えてないじゃない。」
 確かに・・その通りだ。
 ただ、こんな事を言い出せば父は激昂するに決まっている。
 「お父さんは家業が嫌だからやりたくないんだ、って思ってるわよ。」
 「そう・・なのか?」
 「きっとそうよ、あんたが他に夢を持ってると知ったら、むしろ喜ぶんじゃないかしら?」
 だけど僕には勇気が出ない。
 僕の知る限り、父は最も厳格な人だ。
 いくら僕が真剣だとはいえ・・納得してくれるものか。
 「えいっ!」
 「うわっ!?」
 思考に気を取られた隙に、また突き飛ばされた。
 「また暗くなってる。」
 「・・ごめん。」
 「バカねぇ、なんで謝るのよ。突き飛ばしたのはあたしじゃない。」
 「ぷ・・あはは。」
 また彼女は軽快に笑っている。
 釣られるように僕まで笑っていた。
 「ほら、立てる?」
 彼女が手を差し出し、僕は手を受け取った。
 「ずいぶん汚しちゃったわね・。」
 僕の上着の汚れ具合を見て、彼女がそう呟く。
 「いいよ、これぐらい平気だから。」
 彼女の真似をして、生意気な笑みを浮かべてやった。
 「そうだな・・父さんに話てみるよ。」
 「お、その気になってくれましたか。」
 彼女は満足げに頷いてみせた。
 「じゃああたしも帰るわね。しっかりやんなさい。」
 彼女は僕の背を掌でぽんっと叩き、帰っていった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー