夜更けだと言うのに、マスターと執事さんの言い争いが聞こえる……
「――なりませんっ! 国王陛下より手出し無用の通達が届いておりますっ! 当家のためにも、ここは堪えて下され」
「何を申すかっ! 長きに渡る戦を収めようと尽力なされてきた彼の行為を無駄にするつもりかっ!
いまの国王に何ができるのか? 自らの保身に走っているだけではないか。
第一、戦で死ぬのは我々のような騎士だけではないっ! 無辜の民が殺される様を城から傍観しているほど腑抜けてはおらぬわっ!
そこをどけっ!」
「いいや、通しませぬ。先代よりご当主のことを託された私が止めねば、ご当家の存続にかかわります。
貴方が咎を問われれば、ご当家のみならずご親戚様や仕える我々まで責を負わねばなりません。
どうか、どうか留まってくだされ」
「聞け。私は騎士だ。わが血筋は貴族なんだ。騎士は何をもって騎士とするか? 闘う義務を負ったものこそが、
民のために死する義務を負ったものが騎士と呼ばれるのだ。貴族は何を持って貴族とするか?
民を庇護するという重い義務を負ったものこそが貴族と呼ばれるのだ。戦火に逃げ惑う民を捨て置き、
コトが済んでからヌケヌケと権威を振りかざす者は愚者に他ならん。
どけ。我と我が血に懸けて、彼の国の戦を止めねばならん。彼こそは、新時代の盟主に相応しい男なのだ。
その命、私が救ってみせる」
「何を申すかっ! 長きに渡る戦を収めようと尽力なされてきた彼の行為を無駄にするつもりかっ!
いまの国王に何ができるのか? 自らの保身に走っているだけではないか。
第一、戦で死ぬのは我々のような騎士だけではないっ! 無辜の民が殺される様を城から傍観しているほど腑抜けてはおらぬわっ!
そこをどけっ!」
「いいや、通しませぬ。先代よりご当主のことを託された私が止めねば、ご当家の存続にかかわります。
貴方が咎を問われれば、ご当家のみならずご親戚様や仕える我々まで責を負わねばなりません。
どうか、どうか留まってくだされ」
「聞け。私は騎士だ。わが血筋は貴族なんだ。騎士は何をもって騎士とするか? 闘う義務を負ったものこそが、
民のために死する義務を負ったものが騎士と呼ばれるのだ。貴族は何を持って貴族とするか?
民を庇護するという重い義務を負ったものこそが貴族と呼ばれるのだ。戦火に逃げ惑う民を捨て置き、
コトが済んでからヌケヌケと権威を振りかざす者は愚者に他ならん。
どけ。我と我が血に懸けて、彼の国の戦を止めねばならん。彼こそは、新時代の盟主に相応しい男なのだ。
その命、私が救ってみせる」
先を行こうとするマスターに執事さんが追いすがる。状況が悪いのだろうか。いつもなら最後には折れる執事さんが必死になっている。
危険ならば、マスターには行って欲しくない。けど、自らの信念を曲げることはマスター自身が許さない。
私は……どんなことになっても、マスターを信じることしかできない……。
ああ、火の手が上がっているのは妹が嫁いだ国らしい……。まだ若い妹の身も案じられるが、マスターにもしものことがあったら……。
危険ならば、マスターには行って欲しくない。けど、自らの信念を曲げることはマスター自身が許さない。
私は……どんなことになっても、マスターを信じることしかできない……。
ああ、火の手が上がっているのは妹が嫁いだ国らしい……。まだ若い妹の身も案じられるが、マスターにもしものことがあったら……。
「どうかお聞きください。いまの国王が猜疑心の強いかたなのはご存知のはず。いまここで、背けば騎士位の剥奪、
城の閉門、蟄居。果ては暗殺までされるかもしれません。必ずや機会は訪れるはずでございます。
どうか、どうかそれまでお待ちくだされ」
「話をすりかえるなよ爺。いま行かねばならんのだ。お前は自らの身が焼かれねば、そこに迫っている危機に気が付かぬのか?
爵位や円卓の誓いが何だというのだ? 暗愚な王に仕えていくほど、私はくたびれてはいない。
この家が大事なら、ただ今を持って家督を弟に譲る。当主の命令であるっ! 今後は、弟を盛り立ててやってくれ。
私は、一介の戦士として彼の国に馳せ参じる。これ以上の問答は無用っ!
これまで世話になった。礼を言う。爺、達者でな……」
城の閉門、蟄居。果ては暗殺までされるかもしれません。必ずや機会は訪れるはずでございます。
どうか、どうかそれまでお待ちくだされ」
「話をすりかえるなよ爺。いま行かねばならんのだ。お前は自らの身が焼かれねば、そこに迫っている危機に気が付かぬのか?
爵位や円卓の誓いが何だというのだ? 暗愚な王に仕えていくほど、私はくたびれてはいない。
この家が大事なら、ただ今を持って家督を弟に譲る。当主の命令であるっ! 今後は、弟を盛り立ててやってくれ。
私は、一介の戦士として彼の国に馳せ参じる。これ以上の問答は無用っ!
これまで世話になった。礼を言う。爺、達者でな……」
執事さんの肩に手を置き。マスターが語りかける。拳を握り、震えながら涙を落とす執事さん……。
マスターは……私のことも置いていってしまうのだろうか……。
こちらに向かってマスターが歩いてくる。
マスターは……私のことも置いていってしまうのだろうか……。
こちらに向かってマスターが歩いてくる。
「……お前か……。行かせてくれ。」
「………………………………」
「泣くなよ」
「だって……ますたあ……私を……いくんだもん……」
「仕方なかろう。戦場のような危険な場所にお前を連れて行けるわけが無い」
「………………………………」
「解ってくれ」
「わかんないも……一緒に…居るって……言った…ん」
「涙目で睨むなよ……。俺が悪いことしてるみたいじゃないか……」
「………………………………」
「それに、お前はこの家に受け継がれてきた宝石乙女だろ。俺が好きにしていいもんじゃない。わかるだろ?」
「だって……わたし……」
「私?」
「マスターが好き……」
「くっ……。 爺! 弟には俺が詫びていたと伝えろ。先祖伝来の宝石乙女、貰い受ける。行くぞっ! 仕度しろっ!」
「はいっ!!!」
「………………………………」
「泣くなよ」
「だって……ますたあ……私を……いくんだもん……」
「仕方なかろう。戦場のような危険な場所にお前を連れて行けるわけが無い」
「………………………………」
「解ってくれ」
「わかんないも……一緒に…居るって……言った…ん」
「涙目で睨むなよ……。俺が悪いことしてるみたいじゃないか……」
「………………………………」
「それに、お前はこの家に受け継がれてきた宝石乙女だろ。俺が好きにしていいもんじゃない。わかるだろ?」
「だって……わたし……」
「私?」
「マスターが好き……」
「くっ……。 爺! 弟には俺が詫びていたと伝えろ。先祖伝来の宝石乙女、貰い受ける。行くぞっ! 仕度しろっ!」
「はいっ!!!」
単騎で駆けるマスターに有志が続く。
だが……駆けつけた先は火に飲み込まれ焼け落ちた廃墟があるだけだった……。
怒りと失望が交錯する……。
領主も使用人もことごとく亡き者となっていた……。
妹の生死も不明……。
男達がすすり泣く声が響く……。
ふいに、たくさんの騎馬の音が聞こえてくる。
だが……駆けつけた先は火に飲み込まれ焼け落ちた廃墟があるだけだった……。
怒りと失望が交錯する……。
領主も使用人もことごとく亡き者となっていた……。
妹の生死も不明……。
男達がすすり泣く声が響く……。
ふいに、たくさんの騎馬の音が聞こえてくる。
「王家の旗です」
「遅すぎる援軍か……体面を保つ為だけに……ご苦労なことだ。みな、すまなかった。家も身分も捨てた私についてきてくれた事に感謝する。
だが、これ以上は貴殿らに咎が及ぶことになろう。さあ、早く領地に帰られよ。いまなら、王家の目に触れる前に駆けられるだろう」
「貴公はどうなされる。よければ我が領内に匿う事もできるが……」
「私のことは心配無用。愛馬とこの剣と、彼女がいればどこにいこうと生きていける……」
「左様か……。 では、これにて失礼する。 最後に、公よ!」
「何か」
「死ぬな……。 さらばだ!」
「遅すぎる援軍か……体面を保つ為だけに……ご苦労なことだ。みな、すまなかった。家も身分も捨てた私についてきてくれた事に感謝する。
だが、これ以上は貴殿らに咎が及ぶことになろう。さあ、早く領地に帰られよ。いまなら、王家の目に触れる前に駆けられるだろう」
「貴公はどうなされる。よければ我が領内に匿う事もできるが……」
「私のことは心配無用。愛馬とこの剣と、彼女がいればどこにいこうと生きていける……」
「左様か……。 では、これにて失礼する。 最後に、公よ!」
「何か」
「死ぬな……。 さらばだ!」
次々と駆けていく騎士達。名残惜しそうに振り返り、振り返り……。
「行ってしまわれましたね……」
「ああ、俺達も行くぞ。全てを捨てたとは言え、王家の連中に捕まるわけにはいかない。残してきた弟達のこともある」
「どこへ行かれるのですか?」
「あてはないなぁ……。 どこに行きたい?」
「マスターと一緒なら、どこへでも。涅槃の果てまでもお供いたしますわ」
「そうか……そうだな。ずっと一緒だ。よし! まずは西へ向かう。沈む太陽を追いかけて行こう。お前に日の沈まぬ国を見せてやる」
「はいっ! マスターの仰せのままに!」
「ああ、俺達も行くぞ。全てを捨てたとは言え、王家の連中に捕まるわけにはいかない。残してきた弟達のこともある」
「どこへ行かれるのですか?」
「あてはないなぁ……。 どこに行きたい?」
「マスターと一緒なら、どこへでも。涅槃の果てまでもお供いたしますわ」
「そうか……そうだな。ずっと一緒だ。よし! まずは西へ向かう。沈む太陽を追いかけて行こう。お前に日の沈まぬ国を見せてやる」
「はいっ! マスターの仰せのままに!」
戦士は太陽を追いかけて駆けていった。宝石乙女と共に。
その行方を知るものはいなかった。
戦士として各地を転戦した彼は、とある村に腰を落ち着けることになる。
その傍らには、両の目の色が違う宝石乙女が侍っていたという……。
その行方を知るものはいなかった。
戦士として各地を転戦した彼は、とある村に腰を落ち着けることになる。
その傍らには、両の目の色が違う宝石乙女が侍っていたという……。