雨。鬱陶しくなるぐらい降る雨。
窓際には、カーテンのレールに吊された白い物体。
丸い頭のてるてる坊主。顔はへのへのもへじ。
……それが、逆さまにぶら下がっている。しかも2つ。
「月長石……反対だよ?」
僕が吊した覚えはない。だとしたらこれの制作者は僕の後ろで漫画を読んでる
月長石に決まっている。
「えー? それでいいのよー」
めんどくさそうな返事。
いや、てるてる坊主を逆さまに吊すのは雨を降らせるおまじないじゃ……。
「これじゃ晴れのおまじないにならないと思うんだけど」
「だからそれでいいの」
「でも空飛べないよ?」
「歩けばいいじゃないー」
まぁ、それはそうだけど。
「それより早く学校行きなさいよ。遅刻したら怒られるよー」
「わ、分かってるよ……それじゃあ行ってくるから」
「うん、行ってらっしゃーい」
鞄を手に取り、部屋を出る。
階段を下りて玄関へ。
連日の雨でわずかに湿った靴を履き、玄関脇に置かれた青い傘を取る。
いつもと同じ、梅雨の朝。祝日のない6月は、学生にとって少しおっくうだった。
窓際には、カーテンのレールに吊された白い物体。
丸い頭のてるてる坊主。顔はへのへのもへじ。
……それが、逆さまにぶら下がっている。しかも2つ。
「月長石……反対だよ?」
僕が吊した覚えはない。だとしたらこれの制作者は僕の後ろで漫画を読んでる
月長石に決まっている。
「えー? それでいいのよー」
めんどくさそうな返事。
いや、てるてる坊主を逆さまに吊すのは雨を降らせるおまじないじゃ……。
「これじゃ晴れのおまじないにならないと思うんだけど」
「だからそれでいいの」
「でも空飛べないよ?」
「歩けばいいじゃないー」
まぁ、それはそうだけど。
「それより早く学校行きなさいよ。遅刻したら怒られるよー」
「わ、分かってるよ……それじゃあ行ってくるから」
「うん、行ってらっしゃーい」
鞄を手に取り、部屋を出る。
階段を下りて玄関へ。
連日の雨でわずかに湿った靴を履き、玄関脇に置かれた青い傘を取る。
いつもと同じ、梅雨の朝。祝日のない6月は、学生にとって少しおっくうだった。
◆
何事もなく授業も終わり、放課後。
「はぁ……」
学校の玄関前、止んでいる訳のない雨にため息をつく。
隣にいた友人も、すでに帰路に就いている。
――確かに、傘は持ってきたはずなのに。
傘立ての中に、見慣れた青い傘は無かった。
誰かが間違えて持って行ってしまったのか。それともイタズラか。
イタズラだとしたら酷い話だ。この中を傘無しで帰れというのは。
「おーい」
頭上から、聞き慣れた声がする。月長石だ。
彼女が使うには少々大きめの傘を差しながら、浮遊した状態で僕の目の前に現れる。
「なぁに暗い顔してんのよ?」
「いや、ちょっと……ってぇ、ダメだよ空飛んだらっ。人に見られたら大変だよ!」
「だってマントが地面に付いたら濡れるじゃん。それに誰もいないから平気よ」
「そ、それは……でも予想外の事態とかそういうのも」
「あー、男がいちいち細かいこと気にしないのー。先に帰っちゃうよ?」
きびすを返し、校門へ向かおうとする月長石。
「えっ、いやそれはちょっと……あの、その」
このままだと帰れない。
少し恥ずかしいけれど、僕は月長石を呼び止める。
「んー、何よ?」
振り返った月長石の顔に、わずかな笑みが浮かんでいたのは気のせいだろうか。
「はぁ……」
学校の玄関前、止んでいる訳のない雨にため息をつく。
隣にいた友人も、すでに帰路に就いている。
――確かに、傘は持ってきたはずなのに。
傘立ての中に、見慣れた青い傘は無かった。
誰かが間違えて持って行ってしまったのか。それともイタズラか。
イタズラだとしたら酷い話だ。この中を傘無しで帰れというのは。
「おーい」
頭上から、聞き慣れた声がする。月長石だ。
彼女が使うには少々大きめの傘を差しながら、浮遊した状態で僕の目の前に現れる。
「なぁに暗い顔してんのよ?」
「いや、ちょっと……ってぇ、ダメだよ空飛んだらっ。人に見られたら大変だよ!」
「だってマントが地面に付いたら濡れるじゃん。それに誰もいないから平気よ」
「そ、それは……でも予想外の事態とかそういうのも」
「あー、男がいちいち細かいこと気にしないのー。先に帰っちゃうよ?」
きびすを返し、校門へ向かおうとする月長石。
「えっ、いやそれはちょっと……あの、その」
このままだと帰れない。
少し恥ずかしいけれど、僕は月長石を呼び止める。
「んー、何よ?」
振り返った月長石の顔に、わずかな笑みが浮かんでいたのは気のせいだろうか。
「まったく、酷い人間もいたものよねー」
「そうだね」
一つの傘の中に月長石と二人、並んで家路を急ぐ。
何というか、女の子と相合い傘なんて、初めての経験だった。
照れくさくて、月長石の顔をしっかり見ていることが出来ない。
「でも、もしかしたら間違えただけかも知れないし」
「……お人好しー」
「そう、かな」
「うん、絶対そう。前から言おうと思ってたし……あんたのいいところ、だけど」
雨音に消え、最後の部分は聞き取れなかった。
でも、悪口ではなさそうだから気にしない。
「それよりっ、もうちょっと詰めなさいよー。マントが濡れちゃう」
「え、これ以上はちょっと……」
「むー、じゃあもっとくっつきなさいよー」
僕の腕をつかみ、無理矢理引き寄せてくる月長石。
恥ずかしいから少しだけ距離を置いていたのに……月長石の顔が、少し近づく。
「あっ、あんたがあたしをおんぶすればいいのよ。うん、それでいこう」
と、今度は勝手に僕の背中に抱きついてくる。
更に近づく月長石の顔。
少しだけ、目をそらしてしまう。
「あー、らくちんらくちん。結構空飛ぶのも疲れるのよねー」
「そ、そう……」
背中に伝わる、月長石の感触。
並んでいるだけでも照れくさいのに……背中越しでは、僕の心音も伝わってしまいそうだ。
「それよりー、傘なくなっちゃったけど、明日から大丈夫なの?」
「え? あぁ……一応予備はあるけど、今度買いに行かないと」
「ふーん」
僕の耳元にある、月長石の顔。
彼女が少し微笑んだ気がするのは、僕の気のせいだろうか……。
「あーめあーめふーれふーれ♪」
「……あまり降って欲しくないかも」
「そうだね」
一つの傘の中に月長石と二人、並んで家路を急ぐ。
何というか、女の子と相合い傘なんて、初めての経験だった。
照れくさくて、月長石の顔をしっかり見ていることが出来ない。
「でも、もしかしたら間違えただけかも知れないし」
「……お人好しー」
「そう、かな」
「うん、絶対そう。前から言おうと思ってたし……あんたのいいところ、だけど」
雨音に消え、最後の部分は聞き取れなかった。
でも、悪口ではなさそうだから気にしない。
「それよりっ、もうちょっと詰めなさいよー。マントが濡れちゃう」
「え、これ以上はちょっと……」
「むー、じゃあもっとくっつきなさいよー」
僕の腕をつかみ、無理矢理引き寄せてくる月長石。
恥ずかしいから少しだけ距離を置いていたのに……月長石の顔が、少し近づく。
「あっ、あんたがあたしをおんぶすればいいのよ。うん、それでいこう」
と、今度は勝手に僕の背中に抱きついてくる。
更に近づく月長石の顔。
少しだけ、目をそらしてしまう。
「あー、らくちんらくちん。結構空飛ぶのも疲れるのよねー」
「そ、そう……」
背中に伝わる、月長石の感触。
並んでいるだけでも照れくさいのに……背中越しでは、僕の心音も伝わってしまいそうだ。
「それよりー、傘なくなっちゃったけど、明日から大丈夫なの?」
「え? あぁ……一応予備はあるけど、今度買いに行かないと」
「ふーん」
僕の耳元にある、月長石の顔。
彼女が少し微笑んだ気がするのは、僕の気のせいだろうか……。
「あーめあーめふーれふーれ♪」
「……あまり降って欲しくないかも」
◇
「だからてるてる坊主を逆さまにするのは……数増えてるし」
「むぅ、いいから早く学校行きなさい。細かいこと気にする男は嫌われるわよ」
「……い、行ってきます」
部屋を出て行くあいつの後ろ姿を見送る。
外はいつも通りの雨。嫌になっちゃう。
……でも、決して悪いことばかりではない。
窓の外から、玄関先を見つめる。
小さなビニール傘を差し、あいつが学校へと向かっていく。
「今日はあの傘、か。にしし」
まさに、あーめあーめふーれふーれ何とやら、ね。
さぁて、今日はどのタイミングで迎えに行こうかな。
「むぅ、いいから早く学校行きなさい。細かいこと気にする男は嫌われるわよ」
「……い、行ってきます」
部屋を出て行くあいつの後ろ姿を見送る。
外はいつも通りの雨。嫌になっちゃう。
……でも、決して悪いことばかりではない。
窓の外から、玄関先を見つめる。
小さなビニール傘を差し、あいつが学校へと向かっていく。
「今日はあの傘、か。にしし」
まさに、あーめあーめふーれふーれ何とやら、ね。
さぁて、今日はどのタイミングで迎えに行こうかな。