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誤解の相合い傘

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だれでも歓迎! 編集
 自宅前。
「先輩、ホントすみません」
「ううん、気にしないで」
 そう言うのは、家が近所にある大学の後輩。
 偶然駅前で雨宿りしている姿を見つけ、うちの傘を貸すためにここまで
来てもらった次第。
 でも、僕より身長の大きい彼女に傘を持ってもらっている姿は、端からは
姉妹の相合い傘にでも見えたんだろうなぁ。
「今度ちゃんとお礼しますね。それじゃあ、また明日」
「うん、気をつけてね」
 ビニール傘を差し、道路へ向かう彼女の後ろ姿を見送る。
 ……さて、晩ご飯の用意しないと。改めてドアを開けて室内へ。
「ただい……うわっ!?」
 靴を脱ぎ、自分の部屋の前を通り過ぎようとしたところで、突然そこに引きずり込まれる。
 気付けばそのままの勢いで畳の上に押し倒され、何かが僕の上に馬乗りになる。
 ……緊迫した面持ちの殺生石が、そこにいた。
「今の女は何者ですか?」
「え、いや、ただいま……」
「今の女は何者ですかっ?」
 一度目より怒気のこもった声。
「あ、あの子は、うちの大学の後輩、だけど」
「相合い傘でしたね」
「え、それは……」
「相合い傘でしたねっ」
 いつにも増して、有無を言わさぬ勢いがある殺生石。
 こんなに怖い彼女は、いつぶりに見ただろうか……。
「ご主人様ー、ご飯の準備しましょうよー」
 居間の方から聞こえる蛋白石の声。
「う、うん。ということだから殺生石、離して……」
「取り込み中です、我慢なさい!」
 僕の声を遮る、殺生石の怒号。
 さすがの蛋白石も、これには反応出来ない。
「さて、だんな様……相合い傘でしたね」
「……はい」
「わたくしは、まだ一度もだんな様と相合い傘をしたことがありませんね?」
「う、うん……」
 妙な沈黙。
 殺生石の目線に、僕の体は凍り付かされる。
 と、その沈黙を破るかのように、インターホンが鳴り響く。
「先輩いますかぁー?」
 ……あぁ、今一番来てはいけない子が来てしまった。
「……先の女狐っ。だんな様を奪いに来ましたか!」
「違うから、絶対違うから! 大体殺生石はホントに狐……いえなんでもありませんごめんなさい」
 しかし、まずい。
 僕は一応一人暮らしということになっている。
 ここで蛋白石が気を利かせて出てきたりしたら大変だ。一気に噂が広がって……。
「……だぁれ?」
 ……気を利かせたのは電気石みたいだ。
「え? 先輩……あれ?」
 玄関の向こうでとまどう後輩の姿が目に浮かぶ。
「せ、殺生石、お願いだから離して。殺生石が思ってることは一切無いから!」
「では、それを今証明してもらいましょうか」
「え、証明……って、ちょ、そこ触らないで!!」
「だんな様とわたくしの絆が偽りでないか、確かめさせていただきます」
「いやいやいや、だからってそれはちょ!」

「へぇー、先輩のお兄さんは国際結婚なんですね」
「う、うん、そうなんだよ。で、この子が兄さん達の子供で、今うちに遊びに
来てるんだよ」
 殺生石を何とか振り切り、蛋白石と一緒に僕の部屋に隠し、電気石と一緒に
居間で後輩をもてなす。
 ……ダメだ、すっごい疲れた。
「可愛い子ですね。お名前は?」
「んー……でんっ?」
「ま、マリンちゃんっていうんだ、うん」
 電気石なんて普通付ける親はいない。というわけでトルマリンからトルを引いて……
安直だなぁ。
「そっか。よろしくねー」
「ん……」
 違う名前で覚えられてるのが不満なのか、わずかにふくれっ面の電気石。
 ごめんね、後でちゃんとお詫びはするから。
「で、これ。先輩のうちの合い鍵ですよね? 傘の中に引っかかってましたよ」
「あ、あぁ、ありがとう。忘れてたよ、合い鍵傘の中に隠してたの」
「あまり不用心な隠し方はしない方がいいですよ。ましてや外に置いてある傘の中なんて……」
「う、うん。気をつけるよ。ありがとう」
 後輩から鍵を受け取る。
「……めー」
 横にいる電気石からも、注意を受ける。
「めーだよねー。それじゃあ先輩、私はこれで」
 立ち上がり、脇に置いてあった鞄を手に取る。
「う、うん。わざわざありがとね」
 玄関先まで彼女を見送る。
 ……僕の部屋から寒気がしたのは、気のせいということにしておく。
「それじゃあ先輩、また明日ー。マリンちゃんもばいばい」
「ん……ばいばい」
 電気石に手を振り、うちを出て行く。
 ……あー。
「マスター……お疲れ?」
「うん……すっごく疲れた」
「……よしよし」
 電気石の小さな手が、僕の頭を撫でる。
 疲れるのはこの後も続くんだけどね……。
「ご主人様ー、ごーはーんーっ」
「今の女っ、なぜうちに上がり込んだんですか!!」
 ……もう嫌だ。泣きたい。
「……マスター?」

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