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いい姉なんです

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 珍しい来客だった。いや、珍しいどころではない。初対面だ。
「まさか鶏冠石ちゃんがうちにくるなんてな。漬物石ならすぐ戻ってくると思うから、待っててくれ」
「ええ、お邪魔します」
 話では外れの方にあるあのでかい屋敷に住んでるって話だが……他の子たちには悪いが、一番乙女っぽい。外見は。なんだか、こんなちっぽけな民家で待たせるのが悪い気もする。
「姉様はお使いか何かで?」
「姉様?」
「ええ、貴方が契約したのは、わたくしと瑪瑙の姉様ですから」
 ……知らなかった。あの外見で、妹が二人もいたのか。だって身長はソーダちゃんとそれほど差はないし……言っては悪いが、ちびっ子だ。
「それよりも、姉様は何をしに外へ出ているのですか?」
「え、醤油が切れたとかで買いに行っただけだけど」
 その言葉に、鶏冠石ちゃんの目つきが鋭くなる。
「貴方、重たい荷物がありながら姉様だけにお使いを……」
 こ、怖い……なんだこの威圧感は。
「殿方でありながら力仕事を少女に課すとは何ごとですか、今すぐ追いかけて荷物持ちに行きなさい!!」
「え、いやまずはお茶でも……」
「お茶など自分でどうとでもなりますわ! それよりも姉様に何かあったら、貴方責任持てるのですかっ!?」
「いやいや、いつも重そうな石持ち上げてるからそんな……分かった分かった、行くから睨むな」
「私がどうかしましたか?」
「うわぁっ!?」
 いつの間にか隣に立っていた漬物石。やっぱり小さい。
「こんにちはケイちゃん。あまり怒鳴っちゃ駄目って、いつも言ってるでしょ?」
「う……申しわけございません」
 そして注意される鶏冠石ちゃん……もしかして俺はすごく珍しいものを見たのではないだろうか。

「姉様、後は私がやりますので休んでいてください」
「ダーメ。ケイちゃんはお客さんなんだから」
 二人仲良く台所に並んでお茶の準備。ちょっと変な言葉だが、姉妹水入らずって奴なのかな。
 ……少しは俺も何かしないとな。
「ほら、二人とも戻って話でもしてろ。後は俺がやっとくから」
「あら、なかなか気が利きますのね。ではお言葉に甘えて……」
「まぁ久しぶりみたいだしな。ほら、漬物石も」
「え……じゃあ、お願いします」
 漬物石の方は少々申しわけなさそうにその場を退く。
 居間に戻ると、二人並んで座りながらの談笑。最初の怖いイメージはどこへやら、鶏冠石ちゃんは楽しそうに笑顔を浮かべている。
「ホント仲がいいんだな」
 二人の前にお茶を出し、向かいに座る。
「マスターは、兄弟とかいないんですか?」
「いないぞ。だからなんだか二人が羨ましいよ」
 それを言ったら、宝石乙女は二十人以上のマンモス姉妹だが。
 ちなみに二人の言う姉妹関係というのは、作った人が同じという意味での姉妹らしい。血が繋がっている……みたいな意味なのだろうか。
「今日は瑪瑙ちゃん来られなかったけど、いつかまた三人でお出かけしたいね」
「そうですわね。その時は貴方に足にでもなってもらいましょう」
「え……いや、車ないんだけど」
「免許はあるのでしょう? 現代にはレンタカーという便利なものがあると聞いておりますが」
 うぅむ、隙がない。さすがお嬢様。
「あまりマスターに無理言っちゃ駄目だよ、ケイちゃん」
「いいっていいって。漬物石にはいつも世話になってるし。たまには俺からも何かしてやりたい」
「マスター……」
 感激してるかどうかは分からないが、顔を赤くして俯いてしまう漬物石。なんか見ているこっちも恥ずかしくなってくるような……そして鶏冠石ちゃんの視線が。
「フフフ、姉様ったら。幸福の絶頂のようですわね」
「け、ケイちゃんっ」
 やっぱりお姉さんっぽくないな、漬物石って。

「今日はよい時間を過ごせました。ありがとうございます」
 帰り際、丁寧にそんなことを言ってくれる鶏冠石ちゃん。俺自身も、素直に今日は楽しかったと思ってる。きついイメージのある……いや、実際きついけど、思い出話などを明るく話すその姿は、やっぱり女の子なんだよなぁ。
「送っていかなくていいの?」
「ええ、そこまで足を呼んでありますから……殿方の礼儀、少しは分かってきたようですわね」
「ケイちゃんっ」
 ま、まぁ……褒められた、よな。
「ふふふ。それではお二人とも、ごきげんよう」
 漬物石の怒った顔を笑顔で受け流し、一礼のあと家を出て行く鶏冠石ちゃん……やっぱり、漬物石より上手な気がする。
「もぉ……ごめんなさい、マスター」
「いいんだよ。鶏冠石ちゃんらしくて、いいじゃないか」
「そうですけどぉ……」
「全然気にしてないし、いいってば。それより天気いいな、夕焼けが綺麗だ」
「え? わぁ……」
 赤い空、真っ赤な火の玉。鶏冠石ちゃんの髪と同じ、赤い色。

    ◇    ◇    ◇    ◇

「本当は、殿方に仕えるのは反対でしたけど……」
 並んで空を見上げているであろう二人の男女。片方は大切な姉様。片方は信用できなかった男。とにかく不安だった、けれど……。
「幸せそうで……」
 二人の、常に見せてくれる笑顔。嫉妬してしまいそうだったけれど、何より幸せそうで……とても、安心した。
 ……綺麗な空。赤は、昔から好きな色。
 ……さて、呼んでおいた私の足はまだでしょうか。淑女を待たせるとはとんでもない話ですわ。あと十分で来なければ、厳罰に処すことにしましょうか……。


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