「憂さ晴らしの酒なんてのは、酒に失礼だ」
とは、無二の酒好きの知人の台詞だ。
確かにそうかもしれない。今の俺に必要なのは喉を下る液体の焼けるような熱さだけで、香りや味なんてもはや分からない。分からなくていい。
どうせこの世の中に、綺麗なものなんてないんだから。
今夜も俺は、また酩酊に身を任せて眠りに落ちる。
とは、無二の酒好きの知人の台詞だ。
確かにそうかもしれない。今の俺に必要なのは喉を下る液体の焼けるような熱さだけで、香りや味なんてもはや分からない。分からなくていい。
どうせこの世の中に、綺麗なものなんてないんだから。
今夜も俺は、また酩酊に身を任せて眠りに落ちる。
ザザ……ザザ……
単調な音。どこまでも続く真っ白な砂。規則正しく打ち寄せる水。
俺はいつの間にか、海にいた。辺りを見回してみても、人の気配はない。足を進めると、頼りない浮遊感。
(夢か?)
暑さも寒さも感じない。しばらく歩いてみたが、一向に景色が変わる様子もない。空は灰色で、砂はどこまでも白く、水は色を映していなかった。
(夢の中でくらい、綺麗なものを見てもいいだろうに)
俺は歩くこともやめ、白い砂に座り込んだ。
「――?」
波の音に、不意にノイズが混ざった。驚いて振り返ると、そこには一人の少女の姿。
「痛いの? ――?」
目を細め、心配そうに声をかけてくる。台詞の後半はノイズのようで聞き取れなかった。
「……痛くはねえよ」
「だって、痛そうなお顔してる」
少女は警戒するそぶりも見せず歩み寄り、俺の頬に手を伸ばす。
「あたしが――の痛みを、半分でももらえたらいいのに」
また、台詞に混じるノイズ。どうやらそれは俺を呼ぶ名らしい。
少女は笑顔だった。けれどそれはまるで、自分が傷を負ったかのような表情で。痛々しい笑顔に、俺は思わず少女の手を捕まえた。
「お前に痛みを分けるわけにはいかない」
見も知らぬ少女に、俺は言った。
「――が痛いと、あたしも痛いよ」
少女は俺の頭をそっとかき抱いた。
単調な音。どこまでも続く真っ白な砂。規則正しく打ち寄せる水。
俺はいつの間にか、海にいた。辺りを見回してみても、人の気配はない。足を進めると、頼りない浮遊感。
(夢か?)
暑さも寒さも感じない。しばらく歩いてみたが、一向に景色が変わる様子もない。空は灰色で、砂はどこまでも白く、水は色を映していなかった。
(夢の中でくらい、綺麗なものを見てもいいだろうに)
俺は歩くこともやめ、白い砂に座り込んだ。
「――?」
波の音に、不意にノイズが混ざった。驚いて振り返ると、そこには一人の少女の姿。
「痛いの? ――?」
目を細め、心配そうに声をかけてくる。台詞の後半はノイズのようで聞き取れなかった。
「……痛くはねえよ」
「だって、痛そうなお顔してる」
少女は警戒するそぶりも見せず歩み寄り、俺の頬に手を伸ばす。
「あたしが――の痛みを、半分でももらえたらいいのに」
また、台詞に混じるノイズ。どうやらそれは俺を呼ぶ名らしい。
少女は笑顔だった。けれどそれはまるで、自分が傷を負ったかのような表情で。痛々しい笑顔に、俺は思わず少女の手を捕まえた。
「お前に痛みを分けるわけにはいかない」
見も知らぬ少女に、俺は言った。
「――が痛いと、あたしも痛いよ」
少女は俺の頭をそっとかき抱いた。

どうやら俺は泣いていたらしい。少女のワンピースを濡らす俺の涙は、確かに熱かった。
「もうすぐ会えるよ。あたしがずっと、――の側に居てあげる」
ああ、どうやら。
この世界にはまだ、綺麗なものがあったようだ。
「もうすぐ会えるよ。あたしがずっと、――の側に居てあげる」
ああ、どうやら。
この世界にはまだ、綺麗なものがあったようだ。
目が覚めると、世界は相変わらずで、俺は独りで、淀んだ空気の狭い部屋で、アルコールの残滓に苦しめられていた。
けれど、確かに何かが変わっていた。
頭を叩き潰されるような痛みに耐えながら窓を開ける。清浄な空気が流れ込んでくる。日が昇る時刻のようだ。灰色の雲の合間に、わずかだが光が見える。
「……綺麗だな」
しばらく俺は、時間を忘れて光に見とれていた。
ふと、喉の渇きに気がついた。テーブルの上には、昨日酒と一緒に買ってきたオレンジジュース。
『もうすぐ会えるよ』
なぜか夢の中の少女を思い出した。
「コレなら、あいつでも飲めるかもな」
俺は久しぶりに笑って、オレンジジュースを一気に飲み干した。
けれど、確かに何かが変わっていた。
頭を叩き潰されるような痛みに耐えながら窓を開ける。清浄な空気が流れ込んでくる。日が昇る時刻のようだ。灰色の雲の合間に、わずかだが光が見える。
「……綺麗だな」
しばらく俺は、時間を忘れて光に見とれていた。
ふと、喉の渇きに気がついた。テーブルの上には、昨日酒と一緒に買ってきたオレンジジュース。
『もうすぐ会えるよ』
なぜか夢の中の少女を思い出した。
「コレなら、あいつでも飲めるかもな」
俺は久しぶりに笑って、オレンジジュースを一気に飲み干した。
一人ぼっちの寂しい男が、少女と出会う、ほんの少し前の夢の話。
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