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ホントは頼りにしてるから

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 秋の空は変わりやすく、昨日まで白い雲を浮かべていた青空も、
今日は灰色の雲から雨が降り落ちていた。
 バルコニーに出る為に、ドア状になった大きめの窓を叩く、雨粒。
その音が、ずいぶんとうるさく耳に入る。
「はぁー、極楽極楽ぅ」
 ベッドに全身を投げ出す金剛石
 雨音を押しのけ、スプリングの軋む音が、部屋に響く。
「……人の部屋でずいぶんとくつろいでますわね、貴女は」
 相変わらず、乙女としての気品に欠けるこの妹。
 私としても、何とかして矯正したいところだけど。
 大体、用事もないのにどうしてこの屋敷に来るのだろうか。
 今度改めてこの子に理由を聞いてみよう。もしも、ロクな理由でなければ
どうしてくれようか……。
 そんな事を考えていたら、部屋のドアがノックされる音が響く。
鶏冠石ー」
 ドアの向こうから、マスターの声が聞こえる。
「どうぞ」
「悪いな突然……っと、金剛石ちゃんこんにちは」
 タオルで頭を拭きながら、マスターが室内に入ってくる。その姿を確認して、
挨拶をする金剛石。
「外に出てらしたの?」
「ああ、ちょっとこれを買いにな。まったく、傘が役に立たなくて困ったよ」
 手に提げたビニール袋から、虫を凍らせる殺虫スプレーと、ティッシュ箱よりも
一回り小さな、長方形の箱を取り出す。
 様々な色で装飾された、カラフルな箱。一体何だろうか……。
「あっ、ゴキブリホイホイだー。家にゴキブリ出た……出たんですか?」
 毎度のように口調を直す金剛石を睨み……え、ゴキブリ?
「そうなんだよなぁ。ったく、困ったモンだ。という訳で鶏冠石、
一応この部屋にもこれ、置いといてくれないか?」
「……は、早く置きなさい! 邪魔にならな、いえ、私の目に付かない場所に、
早く!」
 ゴキブリ。
 あの脂ぎった、無駄に大きな昆虫。
 長い触覚、細い足、てかる外骨格。そして想像もしたくない腹部。
「あー、鶏冠石ゴキブリ苦手なんだよねー。昔眠っている時に自分の宝石箱に
ゴキブリが侵入して、それから……」
「そ、その話はやめなさい!!」
 絶対嫌。あんな物、私の周囲に近づけるなんて……。

 相変わらずベッドに座っている金剛石。
 だが、今度は私もベッドの上に座る。一人でのんびり紅茶なんて……。
「ねぇ鶏冠石ぃ、びくびくするのはいいけど、どうしてあたしにくっつくの?」
「し、仕方ないでしょう!」
 そう、仕方ない。
 どこにあの黒い悪魔が潜んでいるか。それが分からない以上、私に安息の時間はない。
 そういえば、アレは1匹見つけたら30匹はいるという。だとしたらもう、この屋敷は……。
「金剛石、私今からこの屋敷を出ます! すぐにマスターを呼んでらっしゃい!」
「いやいや、この街にいたら、どうしてもゴキブリはねぇ。まぁ、あたしも嫌いだけど」
「じゃ、じゃあっ、どうしてそんな平気でいられるのですかっ」
「えー? 気持ち悪いけど、所詮は虫だしさぁ」
 さすがは百戦錬磨の金剛石ということか。
 初めてだ、この妹がこんなに頼りがいがあるように見えて、そして
尊敬してしまうなんて。
 ……何故か、胸の鼓動が早くなる。
「まっ、ゴキブリが出ても、今日はあたしがなんとかしてあげるよー。
いつも鶏冠石には迷惑かけちゃってるから」
「金剛石……そ、そうですわ。たまには世話を焼いている姉のために、
恩返しをするものですわ」
 まさか金剛石から、こんな言葉を聞くなんて。
 私が気付かないだけで、この子もずいぶんと成長していたようだ。
「うわぁーっ!」
 ドアの向こう、下の階からの声。
 頭の上から、背筋が一気に凍り付く感覚を覚える。
「わっ、マスターさん大丈夫かな」
「む、虫けら一匹で死ぬような、ま、マスターなんて、マスター失格ですわ!」
 ダメだった。声のふるえが止まらない。
 一体下でどんな死闘が繰り広げられているのだろうか。
 飛び交うスプレーの霧。それを右往左往と回避していく悪魔。やがてマスターは……。
「こ、金剛石っ。今日は貴女、この部屋に泊まりなさい」
「えぇっ、それはちょっとぉ……」
「い、いつも来ているから、それぐらい構いませんわ! あぁ、ありがたく思いなさい!」
 このままマスターが帰らぬ人にでもなろうものなら……。
 そのときを考えれば、この子をここに置いておくことぐらい、当然の配慮。
 そう、当然なのだ。それが。姉妹なのだから、同じ部屋で寝泊まりするのも……。
「いつもと言ってることが違うよね」
「黙りなさい! たまには姉の厚意も素直に」
「わ、分かったよぉ。だからそんな怖い顔……あたたっ、あまり強く抱きつかないでぇーっ」

「いやぁ、一気に4匹も出てきてさぁ。飛び交うわ飛び交うわでもう困ったよ……鶏冠石?」
「そ、そんな話聞きたくありませんわっ」
「そりゃまぁ、そうか……あぁ、金剛石ちゃん。ご飯おかわりする?」
「はいっ、いただきます!」


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