自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2021年4月2日 13:00 ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  ゴルシアの街  陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地 通信室

 ここゴルシアの街は、大陸に進出した自衛隊の最西端の拠点になる。
 元々城下町としてそれなりに発展していたが、自衛隊との戦闘で領主が手勢ごと全滅。
 その後、進出してきた佐藤一等陸尉率いる部隊により占領される。
 市街地の中心部に位置する中世的な城に改修を加える事によって要塞へと変え、部隊はそこに駐屯している。
 人口は最新の記録だと七千八百人。
 主要な産業は木材加工と食料品、染物の販売、交易の拠点としての宿泊施設等のサービス業。
 特筆すべき点として、清潔を尊ぶ宗教をほぼ全住民が信仰している。
 この一帯を治めていた領主は、この地域に何代も前から続く『女性は清潔を良しとする』という考えを持った宗教団体の教祖も勤めていた。
 その教義では、女性とは生命を生み出し、男性を支え、国を富ます存在であり、一日に二回、体を清めなければならないと定めている。
 そして、清めた体を穢さないようにと汚物をまとめて処分するための場所を設け、街路への廃棄を禁じた。
 これは市街地の衛生状態を向上させると同時に、集められた汚物を土中に埋める事により、農業の振興にも役立っている。
 現地を管理している自衛隊部隊は、住民との友好的関係を築いており、これは佐藤一等陸尉率いる自衛隊関係者が善政を心がけている証拠と言えるだろう。
 実は、この友好関係に筆者も助けられている。
 私はこの大陸に渡るなり、現地の犯罪者集団に拉致監禁され、暴行を受けたのである。
 それ自体は自身の迂闊さを反省するばかりなのだが、私を救出してくれたのが、佐藤一等陸尉の部隊だったのである。
 彼らは住民から通報を受けるなり、危険を顧みず、たった一人の国民のために大部隊を率いて駆けつけたのだ。
 その事から、彼らの士気の高さと有能さを先に感じ取るあたりが、私が新聞記者という生き物であるという事実を痛感してしまう。
 コラム微粒子臨時号として、本日より五回に分けて、大陸の近況とそこで国民のために戦う自衛隊を取材する。

「なかなかいい記事を書かれる」

 本土へ送信予定の文書ファイルを検閲していた佐藤は、満足そうに呟いた。
 この記事を書いたのは、護衛も無しに一人で取材に訪れ、そして誘拐された所を佐藤たちに助けられたある女性新聞記者である。
 大陸と本土間の情報のやり取りは非常に厳しく統制されており、それはマスコミ関係者でも例外ではない。
 一見すると厳しい処置である。
 しかし、日本国に関する情報、元の世界でのさまざまな歴史、些細な技術情報、誰もが簡単に入手できるようなものであっても、この世界では金銀財宝に匹敵する。
 同時に、それらの漏洩日本国の戦略すら左右しうる重大な結果を招く恐れがあるのだ。
 そういった次第なので、救国防衛会議は渡航規制や通信インフラ建設の極限などを行い、全てを統制できる環境を整えていた。
 最初期には検閲を復活させるのかと声高に批判をする新聞社もあったが、情報漏洩に関する一切の責任を持つのであれば許可するとの自衛隊の回答に、誰もが沈黙した。
 広範囲に情報を提供できるマスコミ関係者としては、予期せぬ第三国への漏洩で自分たちが処罰される危険を否定しきれなかったのだ。

「この情報の発信を許可します。
 受け取り先は貴方の職場でしたね?」
「そうです。それでは送信します」

 ネットワークを物理的に接続し、合図をすると、記者はすぐさまメールを送信した。
 送信完了を確認すると、再びネットワークを物理的に遮断する。
 面倒かつ原始的ではあるが、これが一番効果的なのである。
 もちろん、施されている対策はこれだけではないのだが。 

「本日も取材を?」

 送信を終えるなり手早く荷物をまとめだした記者に問いかける。
 彼女はつい先日救出されたばかりなのだ。

「はい、夕方には明後日の分のコラムを書かないといけないので」
「大変な事だ。困ったことがありましたら、私の部下を呼んで下さい」

 本気で同情しつつ、彼はそう言った。
 定型文で報告書を書くだけでも苦痛を感じる彼にとって、毎日新しい記事を書いている新聞記者とは尊敬できる存在だった。
 その上、長旅の果てに拉致監禁され、暴行を受けたばかりの女性記者がそれを行うというのだからなおさらである。

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 記者は丁寧に礼を述べると、足早に通信室を退出していった。
 それを見送ると、彼は一服するために席を立とうとした。
 だが、通信機の着信音がそれを許さない。

「聞こえなかった事に」
「したらだめですよね」

 思わず呟いた彼の言葉に覆い被せる様に、二曹の指摘が突き刺さる。

「わかっているよ。でも、通信衛星経由の本土からの直通だぞ。絶対にろくな話じゃない」

 ぶつぶつと文句を言いつつも、彼は受話器を取った。
 彼の予想通り、ろくでもない話だった。

「新設中隊が私のところへ?」

 一通り話を聞き終えると、彼は無線機に向かって呆れたような声を出した。
 彼の管理するこの駐屯地は、平和な最前線という特殊な環境に位置している。
 この駐屯地からおよそ200kmほどの地点には、仮想敵国であるグレザール帝国の都市がある。
 日グ両国間は正確には交戦状態ではなく、あくまでも冷戦状態とされている。
 これは、日本がこの世界へ転移した後に食料の買出しに出かけたとある事件が原因である。
 転移直後、日本のおかれた状況は大変に厳しく、あらゆる資源が不足している状況だった。
 その中でも我慢する事が生物学的に不可能な食料について、外務省は金の延べ棒を持った買い付けチームを世界に派遣していた。
 衛星からの画像を解析して判明した国家へ派遣されたうちの一つが、吉永という女性官僚の率いられた第28食料調査団であった。
 既に各地から芳しくない報告が入る中で、彼女はさらに良くない知らせを持ち帰った。
 彼女が到着した港町を収める領主は、金の延べ棒に涎を垂らしつつ食料の売却に合意した。
 その後吉永への性的嫌がらせや、卑猥な要求なども行ったが、彼女は笑顔で何とかそれらをかわしていた。
 だが、第二次買い付けの際に現れた、中央政府の交渉人がいけなかった。
 その男は、食料で困っているのならば、全ての技術情報を受け渡す事が必要だと述べたのだ。
 本国の指示を受けつつも必死に彼女は交渉に当たったが、生殺与奪の権利を握っていると勘違いをしている帝国は、一切の妥協を受け付けなかった。
 日本国外務省としては、技術情報を受け渡す事など考えられず、結果としてグレザール帝国は将来の仮想敵国として登録されたのである。

「新設中隊であれば、このような最前線ではなく、もっと日本海側の安全な駐屯地に配備するべきでしょう?」

 佐藤は内心では無駄と思いつつも反論した。
 だが、無線機の向こうから帰ってきた回答は、彼が考える最悪な想定に沿ったものだった。

<<他の駐屯地では、近々では戦闘の予定が全くありません。
 佐藤一尉、貴方の部隊が一番近いのですよ>>
「こちらではそのような想定は無いのですが?」

 内心ではため息をつきつつも、佐藤はあえて不思議そうに尋ねた。
 元も含めて一切の国会議員が消えてしまった日本国では、統合幕僚監部率いる救国防衛会議が国家を運営していた。
 その救国防衛会議は、日本国民が不自由なく暮らせるようにするため、戦争を含むあらゆる手段を用いる覚悟を決めていた。
 それ自体は大変に喜ばしい事なのだが、そのあらゆる手段のために、佐藤率いる部隊が転戦を余儀なくされる事は全く喜ばしくなかった。
 彼は給与泥棒と罵られつつ、さしたる戦果もなしに退役する事を心の底から望んでいたのだ。

<<またまたぁ>>

 無線機の向こうで、外務省の鈴木という付き合いの長い官僚は愉快そうに笑った。

<<貴方の駐屯地の近くにある城塞都市、あれが邪魔なのは同意できるでしょう?>>
「まぁ、厄介なものである事は否定しませんけどね」

 事実であった。
 彼の駐屯地からおよそ200kmの距離にある城塞都市ダルコニアは、この大陸におけるグレザール帝国の橋頭堡であった。
 およそ一個師団が駐留しているこの城塞都市は、情報流出の経路としても非常に厄介な存在である。
 だが、だから落としてきてくださいという依頼には、素直に頷けない。

「米軍に依頼して戦略爆撃を行うのでは駄目なんですか?」

 彼は本心からそう言った。
 部下たちを危険に晒してまで城攻めを行うぐらいであれば、本気でそうしてほしいと望んだのだ。

<<空爆だけでは最終的な解決までには至らないというのは軍事的な常識だと思っていましたが?>>

 正論ではあるのだが、部下の生命に責任を持つべき立場である彼としては、ここではいそうですねと納得するわけにはいかない。
 屋内戦闘を含む白兵戦を行う場合、銃火器のメリットは非常に小さくなってしまう。

「決定事項なのですね?」

 彼は尋ねた。
 回答はわかりきっているが、それでも尋ねたい何かを内心に感じたのだ。
 彼は、過去の戦闘の中で任務の重圧に耐え切れなくなったことがある。

<<決定事項なのです。佐藤戦闘大隊は、増援部隊を加えた現有兵力をもって敵軍事拠点を制圧せよ。
 命令書は近日中に送付されます>>
「自分の名前が付いた部隊を作れると、喜ぶべきなんでしょうな」

 佐藤はため息をつきつつ言った。
 
<<悪い話ばかりではないですよ。
 戦闘は部隊到着と同時にではなく、施設科が付近まで道路を敷いてからになりますし>>
「仮にも城塞都市と呼ばれる街へ、しかも想定では一個師団が篭る拠点ですよ。
 もうその時点で十分悪い話なんですけれどもね。施設の増援はいつ頃に?」

 一通り不平不満を述べた彼は、会話を建設的な方向へ向ける事を決めた。
 公務員である以上、不満を口にする以外の反対は認められない事を彼は理解しているのだ。

<<詳細は追って命令書と共に送付されます。
 ですが、悪い話ばかりではないんですよ、本当に>>
 
 鈴木はなだめる様な口調でとっておきの情報を伝えた。

<<新設の普通科中隊と、今回の工事で参加する施設科に加え、機甲科も現存の小隊を増強して中隊規模まで拡張されます。
 これだけの戦力を率いる事ができるというのは、軍人として十分幸せな事ではないでしょうか?>>
「確かに、それはそれで十分喜ばしい事ではありますけどね。
 なんにせよ、詳細な情報の到着を待ちます」

 通信を終えると、彼は通信室から見下ろす事のできる中庭を見た。
 そこでは、彼の部下たちが今日も訓練を行っている。

「二曹、どう思う?」

 憂鬱そうな口調で尋ねる。

「佐藤大隊長殿の下で働ける事は自分の喜びであります。
 と、回答したいところなのですが、航空支援無しの城攻めは厳しいですね」
「空爆がなしということは、市街地の破壊が許可されていないという事だ。
 つまり、城門突破以外は装甲車両もなしだろうな。
 ああ嫌だ、今すぐ退役したいな」

 心の底からの言葉を彼が吐き出した直後、暗号解読器に接続されたFAXが復号化された文書を吐き出し始めた。

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