西暦2020年1月13日 19:40 隣の大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地
アメリカ人たちならばファーストベースと格好良く横文字になるべきこの基地は、昼間の騒ぎにも負けず、なんとか落成式を迎えた。
基地を囲むようにサーチライトが灯され、随所に89式戦闘装甲車や90式戦車がエンジンを止めて待機している。
「さて、それでは話して頂きましょうか、あれこれと」
「その前にこのロープを解いてくれると嬉しいわね。私こういう趣味はないの」
全ての所持品を取り上げられ、そして実弾を装填した警務隊員に囲まれる中、その女性はにこやかに答えた。
顔面を殴りつけ、減らず口が叩けるとは大したものだな貴様。
と言ってもいいが、そこまでステレオタイプな『憲兵隊』を演じる趣味はないらしい警務隊員が、こちらに目線を向けてくる。
「構わんよ」
すぐさまロープが解かれる。
痛そうに手首をさすりつつ、女性は軽く体を動かした。
「全く、こんなにきつく縛る事はないじゃないの」
「軽く縛って逃げられるよりはましなんでね。俺たちはそこまで間抜けじゃない」
答えつつも腰の拳銃を確かめる。
一応命の恩人ではあるが、襲撃してきた連中とそれほど縁が遠いわけではないらしいこの女性に、そこまで気は許せない。
「で、どこから話せばいいのかしら?」
「君の名前、どこかの組織に所属しているのならばその名前、階級や所属があるのならばそれも」
「シャーリーン・オリーブドラブ、エルフ第一氏族、人界全権大使」
なんだそりゃあ?国防色のM14?
確かに指輪だの二つの塔がどうのだのって作品に出てきそうな外見をしているが、エルフ?人界全権大使?
ちょっと待ってくれよ。
「あーそれでシャーリーンさん、確認なんだが、第一氏族ってのは、部族みたいなものかな?」
「そうよ、私たちエルフは第一から始まって、多くの氏族に分かれているわ」
「解説どうも、それで、その人界全権大使ってのは?」
「あなたたち、一体どこの未開の部族なの?」
国防色のM14さんは呆れたような表情を浮かべてこちらを見た。
どうやら、この大陸ではエルフとやらはありふれた種族らしいな。
っていうか待てよ、大使?大使閣下ってことは、それなりに偉いんじゃないか?
うん、言葉遣いは直しておこう・・・いまさらな気はするが。
「すいませんね、こう見えても一応大学は出ているんですが。
まぁそれはさておき、大使、ということは、外務省、えーと、他国との外交や折衝に当たる立場と考えていいのでしょうか?」
「そうよ、私はエルフ第一氏族の人界、つまりドワーフや人間相手の交渉を行っているわ」
「はぁ、わかりました。それで、我々のところに来た理由ですが」
「前にも言ったでしょ?よりにもよって聖なる森のそばで火を焚いた理由を聞きに来たのよ。
控えめに見ても宣戦布告、いえ、むしろ戦闘開始とも呼べる行動よ?
私の知る限りは今日初めて会ったあなた方に、そこまでされるような何かがあったのかしら?」
お、おいおい、俺たちは遮蔽物の除去と余った草を焼却しただけだぞ。
戦闘開始だと?
糞、よりにもよって俺たち専守防衛の自衛隊が、先制攻撃に近いものをしてしまったというのか?
しかも、火を焚いたのも戦闘を行ったのも俺の小隊じゃないか!!
「我々としてはそのような認識ではなかったのですが。
しかし、そうなるとまずいですね」
「ええ、確かにそうね。第一氏族については私から話しておくけど、第三氏族の連中はしつこいわよ。
あいつらときたらエルフとは思えないほど戦う事が大好きだから。
ましてや森のそばで火を焚いていたなんて、まあ“大協約”の発動はないだろうけど」
ふむ、エルフの皆さんはご他聞に漏れず火が嫌いで植物が大好きなんだな。
だがね、俺が言っている問題というのはそれじゃないんだよM14殿。
「既に今日の出来事は本国に報告済みなんです。
それでですね、どうやら私どもの上では、非戦の方法ではなく、攻撃の方法についての議論が行われているようなのです」
ウソでも脅してもなかった。
俺たちより一ヶ月未来に位置している本土では、随分と血生臭い出来事があったらしい。
転移による混乱、としか報告を受けていないが、自衛隊が国内に軍政を敷き、物流をある程度コントロールしているような状況だ。
よほどの大騒ぎがあったんだろう。
昼間の戦闘について、発砲についてではなく、相手の戦闘力についての質問しかしてこないくらいに日本は変化している。
そして攻撃の方法について云々もウソではない。
海に関しては二隻の増援が、空に関しては滑走路の完成を待って一個飛行隊が、そして陸に関しては混成戦闘団が、それぞれ増派されて来るという。
森を焼き払うには十分な戦力だ。
もちろん、我々がベトナム戦争のやり直しをする恐れなどない。
なんといってもそれが出来るだけの国力がないからな。
「呆れた、森に手を出せば“大協約”が発動するわよ」
「だいきょうやく?」
「エルフ全氏族が加盟している盟約よ。
聖なる森に火を入れる者には死を与える、それだけの盟約。
今から500年前くらいにそれで国が一つ滅んだわ」
「そいつは困りますな。まぁ、攻撃と言っても明日の朝一でいきなり、というものではありません。
お互い文明を持った種族同士、できれば話し合いだけで解決したいところですな」
「そうね、ところで今日はもう帰ってもいいかしら?氏族長に貴方たちの事を伝えないといけないから」
「ええ、入り口まで送りましょう」
彼女を森のそばまで送り、そして自分を呼びに来た警務隊員に連れられて本部へと移動する。
そこでは先ほどの会話を元に会議を開いていたらしい戦闘団長たちが待っていた。
「三尉、まずは相手の情報から検討しよう。君たちの会話は申し訳ないが録音させてもらった。
会話での感触を元に攻勢までの行動方針を決定する、座りたまえ」
「はっ、失礼いたします」
会議はすぐさま始まった。
こちらの聞きたい事は、実は先ほどの会話でほぼ聞いていた。
アメリカ人たちならばファーストベースと格好良く横文字になるべきこの基地は、昼間の騒ぎにも負けず、なんとか落成式を迎えた。
基地を囲むようにサーチライトが灯され、随所に89式戦闘装甲車や90式戦車がエンジンを止めて待機している。
「さて、それでは話して頂きましょうか、あれこれと」
「その前にこのロープを解いてくれると嬉しいわね。私こういう趣味はないの」
全ての所持品を取り上げられ、そして実弾を装填した警務隊員に囲まれる中、その女性はにこやかに答えた。
顔面を殴りつけ、減らず口が叩けるとは大したものだな貴様。
と言ってもいいが、そこまでステレオタイプな『憲兵隊』を演じる趣味はないらしい警務隊員が、こちらに目線を向けてくる。
「構わんよ」
すぐさまロープが解かれる。
痛そうに手首をさすりつつ、女性は軽く体を動かした。
「全く、こんなにきつく縛る事はないじゃないの」
「軽く縛って逃げられるよりはましなんでね。俺たちはそこまで間抜けじゃない」
答えつつも腰の拳銃を確かめる。
一応命の恩人ではあるが、襲撃してきた連中とそれほど縁が遠いわけではないらしいこの女性に、そこまで気は許せない。
「で、どこから話せばいいのかしら?」
「君の名前、どこかの組織に所属しているのならばその名前、階級や所属があるのならばそれも」
「シャーリーン・オリーブドラブ、エルフ第一氏族、人界全権大使」
なんだそりゃあ?国防色のM14?
確かに指輪だの二つの塔がどうのだのって作品に出てきそうな外見をしているが、エルフ?人界全権大使?
ちょっと待ってくれよ。
「あーそれでシャーリーンさん、確認なんだが、第一氏族ってのは、部族みたいなものかな?」
「そうよ、私たちエルフは第一から始まって、多くの氏族に分かれているわ」
「解説どうも、それで、その人界全権大使ってのは?」
「あなたたち、一体どこの未開の部族なの?」
国防色のM14さんは呆れたような表情を浮かべてこちらを見た。
どうやら、この大陸ではエルフとやらはありふれた種族らしいな。
っていうか待てよ、大使?大使閣下ってことは、それなりに偉いんじゃないか?
うん、言葉遣いは直しておこう・・・いまさらな気はするが。
「すいませんね、こう見えても一応大学は出ているんですが。
まぁそれはさておき、大使、ということは、外務省、えーと、他国との外交や折衝に当たる立場と考えていいのでしょうか?」
「そうよ、私はエルフ第一氏族の人界、つまりドワーフや人間相手の交渉を行っているわ」
「はぁ、わかりました。それで、我々のところに来た理由ですが」
「前にも言ったでしょ?よりにもよって聖なる森のそばで火を焚いた理由を聞きに来たのよ。
控えめに見ても宣戦布告、いえ、むしろ戦闘開始とも呼べる行動よ?
私の知る限りは今日初めて会ったあなた方に、そこまでされるような何かがあったのかしら?」
お、おいおい、俺たちは遮蔽物の除去と余った草を焼却しただけだぞ。
戦闘開始だと?
糞、よりにもよって俺たち専守防衛の自衛隊が、先制攻撃に近いものをしてしまったというのか?
しかも、火を焚いたのも戦闘を行ったのも俺の小隊じゃないか!!
「我々としてはそのような認識ではなかったのですが。
しかし、そうなるとまずいですね」
「ええ、確かにそうね。第一氏族については私から話しておくけど、第三氏族の連中はしつこいわよ。
あいつらときたらエルフとは思えないほど戦う事が大好きだから。
ましてや森のそばで火を焚いていたなんて、まあ“大協約”の発動はないだろうけど」
ふむ、エルフの皆さんはご他聞に漏れず火が嫌いで植物が大好きなんだな。
だがね、俺が言っている問題というのはそれじゃないんだよM14殿。
「既に今日の出来事は本国に報告済みなんです。
それでですね、どうやら私どもの上では、非戦の方法ではなく、攻撃の方法についての議論が行われているようなのです」
ウソでも脅してもなかった。
俺たちより一ヶ月未来に位置している本土では、随分と血生臭い出来事があったらしい。
転移による混乱、としか報告を受けていないが、自衛隊が国内に軍政を敷き、物流をある程度コントロールしているような状況だ。
よほどの大騒ぎがあったんだろう。
昼間の戦闘について、発砲についてではなく、相手の戦闘力についての質問しかしてこないくらいに日本は変化している。
そして攻撃の方法について云々もウソではない。
海に関しては二隻の増援が、空に関しては滑走路の完成を待って一個飛行隊が、そして陸に関しては混成戦闘団が、それぞれ増派されて来るという。
森を焼き払うには十分な戦力だ。
もちろん、我々がベトナム戦争のやり直しをする恐れなどない。
なんといってもそれが出来るだけの国力がないからな。
「呆れた、森に手を出せば“大協約”が発動するわよ」
「だいきょうやく?」
「エルフ全氏族が加盟している盟約よ。
聖なる森に火を入れる者には死を与える、それだけの盟約。
今から500年前くらいにそれで国が一つ滅んだわ」
「そいつは困りますな。まぁ、攻撃と言っても明日の朝一でいきなり、というものではありません。
お互い文明を持った種族同士、できれば話し合いだけで解決したいところですな」
「そうね、ところで今日はもう帰ってもいいかしら?氏族長に貴方たちの事を伝えないといけないから」
「ええ、入り口まで送りましょう」
彼女を森のそばまで送り、そして自分を呼びに来た警務隊員に連れられて本部へと移動する。
そこでは先ほどの会話を元に会議を開いていたらしい戦闘団長たちが待っていた。
「三尉、まずは相手の情報から検討しよう。君たちの会話は申し訳ないが録音させてもらった。
会話での感触を元に攻勢までの行動方針を決定する、座りたまえ」
「はっ、失礼いたします」
会議はすぐさま始まった。
こちらの聞きたい事は、実は先ほどの会話でほぼ聞いていた。