「クソッ、かなり流されちまったみてーだな」
意外と快適であった亀の中から抜け出して俺は毒づく。
目の前に河口があるってことはここはG-8辺りってことか。
まぁ現在地が早々と確認できる場所に来れたのは不幸中の幸いって所か?
おかげさまでさっきまでいたエリアは大体特定できる。
流された距離から見て恐らくH-7。
で、これから俺はどうするんだ?
自分自身の心に向けた馬鹿馬鹿しい問い。
答えなんざたった一つしかねぇ。
これが現状における最優先事項だ。
あまりにも分かりきった事をわざわざ再確認する自分に怒りが湧いてくると共に、苦笑いまで浮かんできやがった。
こんな姿を
ペッシに……いや、あいつら全員に見せるわけにはいかねぇ。
一瞬で表情を平常時のものへと戻し感情を覆い隠す。
職業柄必須事項のはずなのだがうちのチームにはできない奴が数人いたりするから不思議だ。
そんな事はどうでもいいか……
で、カーズを殺すとは言ったものの現状じゃ実行する手段が全くねぇ。
亀の中で気絶してるシュトロハイムとやらの言う事を信用するならば、奴の弱点は日光か波紋。
カーズの口振りから奴とシュトロハイムが敵対してたのは事実だろうからシュトロハイムは限りなく白に近いだろう。
弱点が分かってるからとはいっても現在は戦うべきではないがな。
第一に、こちらには波紋使いとやらの存在は影も形もねぇ。
万が一俺らの仲間になったとして、そいつらに戦わせて俺は傍で見るだけになるなんざ死んでもゴメンだ。
マンモーニになってまで生き延びるよりは普通に殺られた方が遥かにマシってやつさ。
第二に、太陽が出るまではまだ時間がかかる。
老化は効かないわ、格闘でも勝ち目が薄いわとグレイトフルデッドと奴の相性はどん底に最悪ってやつだ。
正面きって戦ったとして一分持ちこたえりゃ上出来だろうよ。
だから俺が選んだ戦法は奇襲。
それも真昼間の一番太陽がドギツイ時間帯での奇襲だ。
元々俺は暗殺者。
勝利のために一々手段を選んでたんじゃ話にならねぇ。
あくまでも俺は俺の流儀で奴をぶっ殺す。
最後にして最大の理由。
それは俺がカーズの居場所を掴んでいないってことだ。
これはかなり重大な問題で、奇襲のために探し回った挙句、見つけたときには既に真夜中で何もできずに殺されましたじゃお粗末すぎる。
だから、タイムリミットは今日の日の出から日没まで。
理想は昼前に見つけることだけどな。
しかし、その問題が解決するのは時間の問題だろう。
奴と戦った地点からその近辺の建物を漁っていきゃその内見つかるはずだ。
当然奴ら弱点をカバーするために罠を張ったりもしてるんだろうけどよ、その辺は承知済み。
むしろ命を取りに行く野郎が命を懸ける覚悟をしないでどうするんだ?
大体の見当は付いている。
日本人だって言うだろ? 木を隠すためには森だってな。
恐らく奴は建物の数が多いであろう食屍鬼街に向かうはずだ。
死ぬ覚悟は出来てるかカーズ? 俺は出来ている。
こうして
プロシュートはカーズとの対面を避けて、エルメェスと離別した場所へと歩き出す。
川沿いの道を黒衣の死神が行く、上流へと向かう足取りには一片の迷いも見せずに。
柱の男という不死の存在に死を与えるために、己の誇りを蘇らせるために。
★ ☆ ★
“そこ”は辺り一面に悪臭が漂っていた。
焼けたゴムの臭いに火薬特有の臭い、……そして何かの肉が焼け焦げたような香り。
地面に飛び散ったジープの破片が激戦の名残をプロシュートへと伝えてくる。
未だに煙が燻っている様な景色の中、彼は見つけてしまった。
大破して、二度と使用できないであろう無残な姿に変わり果てたジープ。
そしてその周りに飛び散る煤にまみれた肌色の欠片。
誇り高き女性、
エルメェス・コステロの残骸を。
「こいつは……ひでぇな」
仕事で死体の山や惨劇を幾度も作ってきたプロシュートであったがここまで悲惨な死体にはそうそうお目にかかれないだろう。
人間としての原型を殆ど残していない肉片が散らばるアスファルトはそれだけでも気の弱い物くらいなら気絶させるくらいのインパクトを持つ。
しかし、命の恩人の凄惨な死体を見たとしてもプロシュートの心に動揺や悲しみは生まれてこない。
元の職業が死と隣りあわせだった上に、相手の死は周知の事実であったからだ。
彼は胸の中で肉片となったエルメェスに問いかける。
『あんたは……最後に栄光を掴む事ができたのか?』
死者にとっては全く意味の無い質問だという事は自身が理解している。
だが、彼はどうしても聞かなくてはならなかった。
仲間のために命を懸けて勝ち目の薄い戦に飛び込んでいった彼女に対して。
永遠に返事の来ないであろう質問を数回繰り返した後、プロシュートは再び口を開けた。
「カーズ……やはり、てめぇは俺の手で」
殺すと言おうとしてギリギリで食い止めた。
先程までは自分がマンモーニという事実を再確認するために使っていたのだ。
後々癖になっては困る、そう考えてプロシュートは口を閉ざす。
そのまま無言で川原へと降りて行き―――
「ザ・グレイトフルデッド」
己の半身である異形を呼び出した。
異形はその太い手で川原の表面にある砂礫を吹き飛ばす。
そして、露出した湿っている地面に腕を突き出して、土を抉り取る。
一回、二回、三回…………
グレイトフルデッドの手が削掘作業を終えた時、プロシュートの目の前には深さ一メートルほどの穴と、土の山が出来上がっていた。
腕に所々に土が付着したグレイトフルデッドを引っ込める。
すると腕に付いていた土が行き場をなくし、重力に引かれてその場に落下する。
再び川原からアスファルトの路面へと戻ったプロシュート。
右手に持った亀を目立たない場所へと隠し、エルメェスの肉片が飛び散る辺りへと歩み寄る。
そのまま、血や体液が付着するのを一切気にせずにプロシュートはエルメェスの肉片を拾い集め始めた。
ここへ辿り着いてから微塵も変わる様子を見せない彼の表情からはなんの感情も読み取れない。
ただ淡々とアスファルト上に存在する肉片を拾い集めるだけだ。
拾い、ある程度集めたら穴の中へと納める。
この単純なサイクルを何回行ったのだろうか?
プロシュートの手はとっくに血で真っ赤に染まり、脂でべたついている。
しかし、それでも彼はその作業を止めようとはしない。
そして、ついにめぼしい死体は全て拾い終わり、最後の一掴みを穴の中へと入れた。
再びグレイトフルデッドを発現させてさっきまでとは間逆の作業をさせる。
土を掴んでは穴の中へと放り投げ、掴んでは放り投げという単純な動き、
常人であったならばそれなりの労力が必要だったであろうが、スタンドであるグレイトフルデッドは疲れる様子を見せない。
こうして、掘り起こした穴はエルメェスの死体を含みながら元の姿を取り戻した。
全てを終えた後、川で血まみれとなった手を洗うプロシュート。
中々流れようとしない血液に悪戦苦闘しながらも大方を川の水に流し去った。
それをやっている間も一向にプロシュートの表情は変化を見せない。
が、急に背後からの気配を感じたとき、今以上に険しい顔となってプロシュートは振り向いた。
「貴様がカーズを倒したのか?」
所々に喜びを孕ませた驚愕の声がプロシュートの耳へと届いた。
水分の足りて無さそうな髪の毛に、深い緑に染まったナチスドイツの軍服。
機械でできた右目と胴体は大破しており、切断された右足には失った部分の代用としてテーブルか椅子の足が紐で括りつけられていた。
「てめぇかシュトロハイム……」
「あぁそうだ。まぁそんな事はどうでもいい。
俺たちが生きてるという事はカーズを倒したと考えてもいいのか?」
「いいや……ちがうな。俺たちは逃がされたんだ」
苦々しげに言葉を吐くプロシュートと、彼の隣にいるはずの人物がいないことによって
シュトロハイムは全てを悟り、重苦しい口調で聞き返した。
「エルメェス・コステロか……」
「ご名答だ」
プロシュートが短い返事を発するやいなや、シュトロハイムは川に向かって一部の隙も無い見事な敬礼をする。
そして、大きく息を吸い込み―――。
「エルメェス・コステロよ! 俺はどんな人物であろうとも勇気のあるものには敬意を払う!
カーズを相手に一歩も引かなかったその勇姿、確かに俺の胸に刻んだ!!」
悲しみと賞賛の入り乱れた表情で敬礼の姿勢を崩そうとしないシュトロハイム。
そんな彼の頭をプロシュートは――
「馬鹿かてめぇ」
思いっきりぶん殴った。
「な、何をする貴様!」
「何をじゃねぇ、こんな所で大声出しやがって。
ここは殺し合いの会場なんだぜ? 自分の居場所を伝えるような事をして何のメリットがあるってんだ!」
「ぬぅ……」
「ほら、一旦亀の中に隠れんぞ」
そう言ってプロシュートは亀の甲羅に付いた鍵の宝石に向かって足を踏み出す。
一瞬にして姿を消したプロシュートにシュトロハイムは驚きを隠せ無かったものの、彼にならって亀の中へと入り込む。
~数分後~
「そういえば、お前かなり重症じゃねぇのか? よく動けるな」
「ブゥワァカメエエエエエエエエエ!
ナチスの科学力は世界一イイイイイイイイイイイイ!
この程度で機能が停止するほどのやわな作りではないわああああああああああああ!!」
「うるせぇ! たたき出すぞこの野郎!」
【G-7川原/1日目/黎明】
【独伊二国同盟】
【プロシュート】
[時間軸]:ブチャラティに列車から引きずりだされた直後
[スタンド]:『ザ・グレイトフル・デッド』
[状態]:背中に傷・マンモーニ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3(未確認)
[思考・状況]基本行動方針:『カーズ』を倒したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.どんな手段を使ってでも自分の手でカーズを倒す。
2.日が出たら食屍鬼街へと向かう
3.暗殺チームの仲間を探す。
4.トリッシュを確保する。
5.邪魔する者は倒す。
6.シュトロハイムと情報を交換する
※亀の中にいます
【シュトロハイム】
[時間軸]:スーパーエイジャを貨物列車から奪取した直後
[能力]:ナチスの科学力
[状態]:左腕喪失、右足全壊、重機関砲大破、右目完全失明(紫外線照射装置大破)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(本人確認済み)
[思考・状況]基本行動方針:ゲームを脱出
1.ナチスの科学力は世界一イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
2.『柱の男』に警戒。
3.JOJO、リサリサ、シーザーらと合流。
4.プロシュートと情報を交換する
※亀の中にいます
※右足は亀の中にあった机の椅子を代用に使っています
運動性能は後の書き手様に任せますが、少なくとも走ったりは出来ません
※エルメェスの死体の大半は埋葬されました。墓標などは無いので、普通ならまず気付かれません
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最終更新:2008年11月30日 19:14