パチパチパチ……と、カーズの野郎が拍手をしている。
ニヤニヤ笑いを浮かべて、心底馬鹿にするように、ゆっくりと。

「人間とは不思議な行動を取る物だ。ただ、聞き捨てならない一言があったな……」

「……」

あたしは、ゆっくりとカーズから離れる。
ガソリンがない役立たずの車に手を置き、カーズとの壁にする。
車の窓から見えるカーズの顔は、奇妙に歪んでいた。

「……『今この場で奴に勝ち目があるのは自分だけ』。これは本気で言っていたのか? それとも奴らを逃がす口実か?」

「どっちでもいいだろう? グダグダ喋ってねえでさっさと来やがれッ!」

「雄雄しいな……波紋戦士はどいつもこいつも我々『柱の男』にそんな雄雄しい態度をとった……」


……会話が成立しない。
カーズの"キケン"度が如実に分かる。
だが……逃げるわけにはいかない。
徐倫のためにも。自分のプライドのためにも。

「それが原因で……早死ぬと言うのになァ!」

「来るかッ!」

カーズが、あたしと奴の間にある車をまるで介さずに突進してくる。
やはり車ごと、あたしをあの剣で斬るつもりか。

「こんな鉄っぺらで我が『輝彩滑刀の流法』の威力が僅かでも軽減されるとでも思ったかァーーッ!!!」

その言葉通り、車はまるでバターでも切るように抵抗なく真っ二つにされる。
剣はその勢いのままにあたしに迫り……止まった。

「クッ! 」

「不老不死で無敵なカーズさんはよォーーーッ! ちょいと学習能力が足りねーんじゃねーかぁぁぁぁぁぁっ!!!」

あたしの『キッス』が、既に車にシールを貼り付け、二台にしていた。
一台では到底防ぎきれない斬撃でも、二台ならなんとか止められたようだ。
あたしは不意を付かれたカーズの頭にシールを付けようと、『キッス』の左腕を伸ばす。

ドスッ

……え?

「クッ、クックックック……」

カーズが嘲笑する。

「学習はしていたぞ……そのシールを貼れば、車が二つに増えるのだろう? それでも無駄だからこそ、愚直に突進したのだ」

奴の拳が、あたしの腹を貫いていた。

「人間の勝ち誇った顔が絶望に墜ちるのは見ていて実に面白い……ワムウは嫌がるがな」

カーズは呟いて、あたしの体を投げ飛ばす。
地面に激突して、もんどりうつあたし。
いてえ。
スポーツマックスと戦った時は怒りで痛みが麻痺していたが、体に穴が開くってのはこんなにいてえのか!?
内臓が僅かにはみ出しているのが見える。

「フン!」

カーズが、二台に増えた車のうちの一台を持ち上げ、あたしに投げつける。
あたしは必死にかわすが、大して回避した意味はなかった。
車はあたしの背後に突き刺さったからだ。
逃亡を防ぐために投げたらしい。

「さてェ……おれの腕に傷を付けたのはどっちの腕だったかな……。」

カーズが舌なめずりしながらあたしに近寄ってくる。
なぶり殺すつもりか?
背中を車に付け、手探りで車を撫でまわす。
……ねぇッ! 『あっち』かッ!

「左かッ!」

カーズが剣を振り下ろす。
『キッス』の迎撃も間に合わない。
あたしの左腕が、そして『キッス』の左腕が遠くへ飛んでいく。
意識が遠のく。気分が悪い。

「ぐ……」

「おっとォ! 間違えたかなァ? 右腕だったような気も……」

カーズが再び剣を振り上げ、一瞬、奴に『隙』が生じた。
あたしは最後の賭けに出るべく、全ての力を振り絞って突進する。

「うおおおおおおおおおおおおッーーー!!!!」

「フン! 進退窮まって勝算もなく捨て身か……人間のやることはいつも同じだな」

カーズが剣を振り下ろし、あたしが『キッス』の右腕を突き出す。



「『捨て身』……? 確かにそうだ。だが。
 .......
 勝算はあるッ! 『キッス!』」

「!? 」

あたしは、『キッス』のシールを自分の体に貼りつけた。
同時にあたしの体が分裂し、片方の『あたし』が奴の足を、もう片方の『あたし』が奴の腕を止める。

「ぬうっ! 自分の体をも分裂させられるのかッ!」

「「初めて試したが……以前『指』に貼ったシールは、あたしの指を六本にした……
  ならば、当然体自身も増やせるよな……ダメージは覚悟ッ! 二枚目ッ! 」」

一つの意識で、二つの口から言葉を発するという奇妙な感覚。
それを深く感じる余裕もなく、あたしはさらに自分に『シール』を貼っていく。

「「「三枚目ッ!」」」

「「「「四枚目ッ!」」」」

三人目と四人目の『あたし』が奴の胴に組み付き、五人目の『あたし』が奴の顔面にシールを貼り付ける。
奴の頭部が二つに増殖し、二つの顔が驚愕の表情を浮かべる。

「「W……KAKAKA……ッ!」」

「「「「「賭けはあたしの勝ちだカーズッ!!」」」」」

「「……KUKAKAKAKAKAKAッ! やはりなッ! 所詮は人間の浅知恵よッ!」」

カーズの驚愕の表情が流れるように嘲笑に変わる。
同時に、奴の左腕、そして両足から、右腕に生えているのと同じ剣が露出した。
奴の顔に貼ったシールを剥がそうとしていた五人目の『あたし』の腕が切り刻まれる。

「「RYYYYYYYY!! 『賭け』はやはり貴様の負けだったなッ!バクチなど……このカーズ相手に成功すると思ったかァ!」」

カーズは五人の『あたし』を次々と切り刻む。
一つの意識に五人分のダメージが集中し、意識が飛びかける。
だが……まだ、気絶するわけにはいかないッ!

「「おっと! くたばる前に……この頭を治せ。 こんな頭ではワムウたちに会わす顔がない」」

「「「「「もう……勝った後の心配かい……」」」」」

「「勝っているから当然だろうがァ……まあいい、直感だが、貴様を殺せばこの怪異もおさまる気がする」」

カーズは全身の剣を『あたし達』に向け、抱擁するように飛びかかった。


「「「「「いいやッ! もう一度言うッ! 『賭け』はあたしの勝ちだッ! 十分に時間を稼げたからな……
    飛ばされたあたしの『キッス』の左腕がッ! 『あのシールを剥がす』時間をッ! 」」」」」

「「ヌゥ!?」」

カーズが動きを止め、あたしの左腕が飛んでいった方向を確認する。
そこには……。

「「ふ……『増やした鉄っぺら』ッ!!!」」

「「「「「車のシールを……剥がすッ!」」」」」

あたしがカーズの斬撃を止める為に増やした車のシールを、『キッス』の左腕がずり落ちるように剥がす。

増えた車のもう一台はあたしの背後。

『キッス』の能力により、当然のことながら……。

「「「「「引き寄せられるッ!!!」」」」」

「「GUHHHHHHHHHHHHH!!!! こ……これはッ!?」」

あたしとカーズを挟むように配置された二台の車が、二人……いや、六人を包むようにお互いに接近し、融合しようとする。

当然、あたし『達』とカーズは一つに戻っていく車の中に閉じ込められ、密着する。

「「貴様ッ! 最初からこれがッ!! 」」

「「「「「予定じゃ、『賭け』だけじゃなく……『勝負』にも勝つつもりだったがな……
    相討ち……か……ったく……」」」」」

ギュウギュウ詰めになった車内で、あたし『達』は胸の豊胸手術の跡から紙切れを取り出し、開く。
五枚の紙切れの内、あたしが望む物が出てきたのは一枚だけだった。

「「「「「ん……おかしいな……まあ、一本で十分か……」」」」」

「「!? 貴様ッ! それはなんだッ!? どこかで見た覚えが……」」

「「「「「『相打ち』っていっただろ……観念しな」」」」」

「「MMMMMMMMMMMMMMMM!!! こんな鉄っぺらごときッ! ブチ壊して……」」

カーズが自分を包む自動車に力を加える。
だが、あたし達を押しつぶし、完全な融合を続けようとする自動車は微動だにしない。

「「だ……脱出できんッ! このすさまじいパワー! バカなッ! このカーズがッ!」

(あばよ……FF……徐倫……)

ダイナマイトが、爆発した。
爆音が耳に届く前に、あたしは。
最後に、確かに見た。

(グ……ロリ……ア……)

「「RRRRRRYYYEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!」」


「……」

エルメェスに渡された、『キッス』の『シール』が、砂のように掻き消えていく。
この砂は、ぬけがらだ。スタンドのぬけがら。それは……命の消滅を意味する。
冷たい感触だけを残し、『シール』は消滅した。

「バカが……やはり殺られたのかよ……」

オレは『亀』の中で唾を吐く。冷静に考えれば、エルメェスは愚かだ。
自分の命を顧みず、仲間(誰かは知らないが)の復讐の援助の為に、強大な敵に挑んだ。
とびっきりの馬鹿といわざるを得ない。その結果がこれだ。ざまーねぇぜ。
... ........
だが。だが、しかし。

「これがッ! オレ達のチームの誰かだったとしてもッ! オレだったとしてもッ!
 仲間の復讐のためならッ! 仲間との栄光を掴む為ならッ! てめーオレだってそうするぜッ! 」

オレは、『マンモーニ』だ。
認めよう。
確かに結果的には、オレは『カーズ』にビビり、エルメェスに命を拾われた。
ならば、現在の俺を見て『マンモーニ』と呼ばない奴はいないだろう。
だから、この言葉を吐くことを、己に許そう。
それを実行した時、オレは再び……『マンモーニ』を脱却できるのだ。

「カーズ……オレは、てめえをッ! 殺すッ!」

俺の叫びが、亀の、ブチャラティ達のねぐらの中に、反響した。




静かだった。
その場所は、本当に静かだった。
その静寂を耳だけで受け取れば、誰もがそう思っただろう。
だが、その場所を目で見、鼻で臭えば、誰もそうは思わないだろう。
バラバラになった車の破片。
焼け焦げた人間の死体。
それが発する強烈な臭いは、暗闇の中にあってなお、まるで色が付いたように際立っている。

静寂が破れる。
車の破片が蹴り飛ばされる音によって。
その下から現れた、一糸纏わぬ、生まれたままの姿の女によって。

「……幸運だった。目の前に、あの女がいなければ……『五人』いなければ……どうなっていたか」

女は滔々と、不釣合いに低い声で呟き、全身を大きくのけぞらせた。
瞬間、爆裂するように女の体が弾け飛ぶ。
女の肉体から、一人の男が姿を現す。

「四人分の血を吸ってダメージに耐える準備をし……残った一人の体に『入った』ッ!」

姿を現した男は、究極の生命体を目指す智者。
男の現した姿は、人間を超越した、強欲な愚者。
『柱の男』筆頭、カーズ。 

「首輪は……」

カーズは『きぐるみ』にした女のつけていた首輪を拾い、歩き始める。

(何故、JOJOに消されたはずのエシディシが生きているのか……? その謎も、もはや解けた)

カーズは思考する。
先ほど殺した人間と、自分の屈辱の姿を見た人間の事など端にも残さず。

(シュトロハイムはわたしと交戦したことを覚えていなかった……まるでわたしが過去にタイムスリップしたように)

カーズは、眉を顰めて思考する。
この殺人ゲームに、一切の恐怖を見せず、悠々と歩きながら。

(アラキは……"時間"を意のままに出来るのだ。ヤツ(サンタナ)は恐らく、蘇った姿でここに来ているだろう)

時間。
それは、カーズにとって攻略したはずの概念だ。
だが、時間をこのように自在に操れるのは、想像すらしなかった。

(面白い……アラキを殺し……このカーズがその力を奪い、学習すれば……"究極の生命体"により近づくだろう……)

カーズが、邪悪な表情を上っ面に貼る。

(たとえこのようなゲームのコマにされようと……アラキの掌の上で踊らされようと……最終的に……)

勝てばよかろう、なのだとカーズが言う。
カーズが笑う。カーズが哂う。カーズが嗤う。

その姿は、『邪悪』そのものだった。

【G-7 駐車場・1日目 深夜】
【カーズ】
[時間軸]:リサリサとJOJOにワムウと自分との一騎打ちを望まれた直後
[能力]:柱の男、『輝彩滑刀の流法』
[状態]:全身に裂傷、中ダメージ、中疲労、ややハイ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、輸血パック(残量0ml)、不明支給品0~2(未確認)、首輪(エルメェスの物)
[思考・状況]基本行動方針:荒木を殺して力を奪う、スーパーエイジャを手に入れる
1.ワムウ、エシディシ、サンタナと合流する。
2.リサリサ、JOJO(ジョセフ)を殺し、スーパーエイジャを奪う。
3.とりあえず参加者の数を減らす。
4.首輪を解析する。
[備考]
※血を吸った際の回復力に制限がかけられています。

【F-9 海岸・1日目 深夜】
プロシュート
[時間軸]:ブチャラティに列車から引きずりだされた直後
[スタンド]:『ザ・グレイトフル・デッド』
[状態]:背中に傷・マンモーニ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3(未確認)
[思考・状況]基本行動方針:『カーズ』を倒したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.どんな手段を使ってでも自分の手でカーズを倒す。
2.暗殺チームの仲間を探す。
3.トリッシュを確保する。
4.邪魔する者は倒す。

[備考]
※『ココ・ジャンボ』の中にいます。
※『ザ・グレイトフル・デッド』の老化ガスの範囲、効力が制限されています。

【シュトロハイム】
[時間軸]:スーパーエイジャを貨物列車から奪取した直後
[能力]:ナチスの科学力
[状態]:左腕喪失、右足全壊、重機関砲大破、右目完全失明(紫外線照射装置大破)、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(本人確認済み)
[思考・状況]基本行動方針:ゲームを脱出
1.ナチスの科学力は世界一ィ……むにゃむにゃ……。
2.『柱の男』に警戒。
3.JOJO、リサリサ、シーザーらと合流。

[備考]
※『ココ・ジャンボ』の中にいます。

【エルメェス・コステロ死亡】
【残り78人】

[備考]
※エルメェスの支給品はトラック、ダイナマイト一本、『ココ・ジャンボ』でした。
※G-7地点に、大破したトラックが転がっています。
※G-7駐車場で起きた爆発により、周囲1マス程度に爆音が響きました。

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ルドル・フォン・シュトロハイム 76:墓標のない墓場
カーズ 55:自業自得
プロシュート 76:墓標のない墓場
エルメェス・コステロ

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最終更新:2010年03月10日 16:18