エリアF-4には、大きな建物がある。
目の前を通れば、誰もが一度は気にかけるほどの高さを持つビルである。
ビルは動かない。決して動かない。ビルに与えられた権利は3つだけ。
まず『自らは何もしない』こと。次に、壊されても文句を言わない……つまり『第三者の介入を受け入れる』こと。
ビルは今日も客人がふらふらと訪れるのをひたすら待ち続ける。
総じて建物には、3つの権利がある。その最後の1つは――

◇ ◇ ◇

差し入れの鎌倉カスターを頬張りながら、ナルシソ・アナスイはふぅ、と息をもらす。
彼もまた、ビルの存在に惹かれた1人だった。
F-3はさほど大きな建物もない一般住宅街だったので、西から進出してきた者には新鮮だろう。

「どうだ、誰か見えるか? 」

アナスイは空を見上げるように顔をあげて声を放つ。
視線の先にいるのは、自分よりはるか高くで佇む相棒。
愛の求道をモットーとする我らがカウボーイ――マウンテン・ティム。ルックスもイケメンだ。
ティムの双眼鏡には、おびただしい数の傷がついたビルが写っている。
それはラング・ラングラーとマイク・Oが一戦を交えた際に生じた余波だった。
ラング・ラングラーが射出したボルト&ナットによる、窓ガラスの破片を外の地面に散布。
マイク・Oが放ったバルブ鳥&バルブ犬が破壊した、屋上付近の壁や出入り口。
百人が見れば誰一人として見落とすことはないだろう。

「人の姿はないが、何かあったのは間違いない」
「後の祭りになってなきゃいいんだがな……潜入するぞ」

ロープワークで華麗にビルの外壁を移動するティムに合図を送りながら、アナスイはビルの入り口へ突入した。
その近くで1人の女がこっそり隠れているとは、夢にも思わずに。

(……やっぱりアイツはナルシソ・アナスイッ! アメリカ全土を騒がせた人間分解野郎だッ!
 名簿を見たときはまさかと思ったが、ゾッとしたよ。冗談じゃねー……どうみても本物!
 オイオイ、まさかこの名簿に載っている名前はみんなグリーンドルフィンの囚人ってことなのかッ!?
 ウゲェェェそんなのアリかよォォォォ。あたしなんか絶対生き残れるわけねーってのッ) 

女の名前はグェス。アメリカはグリーンドルフィンストリート刑務所に服役中の女囚。
ヴァニラ・アイスの強襲から運よく逃れた彼女もまた、このF-4ビルに惹かれていた。
エリアH-5のポンペイ遺跡で引き当てた大吉――支給品、『杜王タクシー1台』を運転して。

(キャブが手に入った時は思わずはしゃいじゃったけど、これハンドル逆だし使いずれぇ。
 ……やっぱり、コイツを使うしかないのかねぇ)

グェスは、しょんぼりしながら自分に与えられた支給品に頬ずりをした。
黄金に輝く、きゅうすの様な形をした入れ物。
馴染みのある者なら、口を揃えて魔法のランプと呼びそうな代物。
説明書には『お前の願い事を3つ言え! 』としか書かれておらず、妖しさ満点。
だが自分のスタンドを最弱と認識しているグェスにはその非現実さが頼もしくもみえた。

「ん……ゲゲェー!? 」

そしてその願いはいよいよ現実味を帯び始めていた。
カタカタカタとランプを己を震わし。もうもうと煙と噴出していった。
その煙はやがて巨大な体躯を象り、魔神という名にはいささか似合わない機械的な存在を召喚した。

◇ ◇ ◇

「お前も俺のように死から蘇ったのか? ……どちらにせよ、やりきれなかっただろうな」

アナスイと二手に別れたマウンテン・ティムは、ビルの屋上にいた。
アナスイが下からビルを調べるのならば、自分は上から調べる。つまり挟み撃ちの形になる。
彼は、ラング・ラングラーの死体と鉢合わせになっていた。

(成り行きはどうであれ、絶対に有り得ないはず二度目の人生を与えられた命を……粗末にするのは許せん)

ラング・ラングラーの独特なファッションも気にかけず、ティムは黙祷を済ませる。
そして急ぎ足でラング・ラングラーの荷物をまとめると、彼は下の階へと下った。
人がここで死んでいるということは、少なからず犯人が潜んでいる可能性が極めて高いからである。

(これ以上、命を弄ぶ愚挙を野放しにはしておけない! )

マウンテン・ティムは思い出していた。
かつて自分が16歳のとき、砂漠で死にかけたあの出来事を。
調査団の1人として、アリゾナ砂漠を遠征していたマウンテン・ティムは唯一の生還者だった。
スタンド『オー! ロンサム・ミー』を受け入れる代償として、彼は生きながらえたのだ。
奇妙な運命に左右される自分に苦笑しながらも、ティムはこれまで悠然と生きてきた。
その運命を手に取るように操れる者の存在を知ったとき、彼は怒りに燃えた。
アラキのような、殺し合いのために他人を復活させる者、運命を冒涜するものを許せなかった。

「アナスイ、気をつけろッ! もうスデニ、屋上で1人殺されているッ! 」

屋上から大きな怒声をあげて、ティムは身を乗り出しながらビルの外壁をチェックする。
するとアナスイのダイバー・ダウンが何層か下の階の窓ガラスを割って合図を送り返してきた。
意外にもアナスイの反応が早かったことを疑問に思いつつ、彼はすかさず飛び降りた。
時空を超えた建物も、ところどころにロープを引っ掛ける場所があるのなら、彼にとっては渓谷を下るのと同じだ。
短い物干しロープを器用に操り、するりするりとビルの外壁を伝ってアナスイの元へ降りてゆく。

「ようティム、早かったな」
「それはこっちの台詞なんじゃあないかな。上にいる仏はグリーンドルフィンストリート刑務所の男囚ようだ」
「何ッ!? ……と。その反応を見る限り俺の仲間じゃあないんだな」

ティムの紛らわしい説明を皮肉るかのように、アナスイはニヤリと口端を吊り上げる。
だがここで笑顔を出す余裕がある、ということは少なからず安堵しているのだろう。
ここでアナスイは、ふとソファーを指差した。ティムも体を傾けてソファーを覗き込む。
黒人の男が寝息をたてて休んでいた。
2人は互いに顔を見合わせ、両手を軽く挙げると、ため息をついた。

「――で、この男は」
「顔見知りか」
「どうだったかな……どこかで会ったような気もするが。さっきからずっとここで寝ているのか? 」
「まぁそういうなティム。お前の居場所がわかったのは、この男のおかげなんだぜ」

アナスイは、懐から鉄でできた塊を取り出すす。
そのメタリックさと複雑そうな目盛り板の並びは、ティムを困惑させるのには充分だった。
この機械の名は『トランシーバー』といい、マイク・Oの支給品なのだ。
2つで1セットらしく、トランシーバー同士で通信が可能だ。
通信アンテナの有効範囲はそこそこ広いらしい。
アナスイはこのトランシーバーの片方をダイバーダウンに持たせ、屋上にいるティムの声を拾わせたのだ。

「トランシーバーってのは早い話、コードレス電話みたいなもんだからな。
 しかもバッテリーも電話より持つし、コンセントも町中にある。こいつは使えるぜ」
「……もう少し分かりやすく教えてくれ」
「このスイッチを押せばつながる。もう一度押せば切れる、それを覚えとけ」

さすがに西部時代に生きる男にメカの説明はスタンドよりも常識外だったらしい。
だがアナスイはそっけなく説明し終え、説明書につきっきりになった。
彼が目を通す項目は、注意書きだ。
分解マニアの彼には、精密機械の仕組みへの興味がとまらない。

「電池式でもいいし、充電式でもいい。リバーシブルで使用できるのはスゴクいいな。
 ……何々、“この充電器は手回し機能もあります”? あーそうか、コンセントがなくても手動充電ができ――」

『ガシャン』

「……!? ティム? 」
「窓ガラスが割られたようだ」
「おいちょっと待てッ! ダイバー・ダウンはビルの外壁に潜って周囲を見張っていたんだぞ」
「新手の『スタンド使い』か」
「わからねぇ。だが……屋上で人を殺したゲスが、まだビルにいるのかもしれない。上を頼むぜ」

アナスイはトランシーバーをティムに放り投げると、非常階段口から階段を走る。
一足飛びに降りているので、彼の靴と階段の擦れ音が快活に響く。
ちなみにトランシーバーはスイッチが入りっぱなしなので、変にいじらなければこのまま通信可能のようだ。
彼の進行方向は下。ダイバー・ダウンの回収と、犯人の逃げ道を潰すため。

(この箱の仕組みはさっぱりだが……)

同じくしてティムも階段を登りながら、アナスイのサインに頷く。
まだ映画も存在していていない1890年代の彼には、全てがあやふやだ。
だが悪の存在は彼にもわかる。
雄大に広がる牧草地では決してかぐことの無い、邪な香り。

「しかし俺にはお前を見極めるために、戦う義務がある。
 感謝してほしいな。窓ガラスを俺にだけ見えるように割ったのは、サシで話がしたいからだろう? 」

階段と階段の隙間から見える階下の様子をチラリと覗き、ティムは深く吐息を出す。
アナスイはもう一階まで降りきってしまったらしい。
ティムは、安堵していた。
仲間が余計な戦いに巻き込まれることを、彼は望んでいなかった。
だから、窓ガラスが割れた原因もアナスイには話さなかった。
彼が見たあの謎の風船は、おそらく目の前の男の仕業。

「マウンテン・ティム、大統領に反逆して始末された世界の貴様が、なぜここにいる」
「甦ったのさ。さっきのお前みたいに寝たフリをしていたわけじゃないぜ。 屋上の男を殺したのはお前か? 」
「……言うまでもない世界だ」

トランシーバーのスイッチを切ると、マウンテン・ティムはポケットにあるロープをつかんだ。
いつの間にか覚醒していた黒人風の男に、直感が囁いている。
決して目を離すな、と。



【F-4 南部ビル内部/1日目 黎明】
【チーム・愛の求道者】
【マウンテン・ティム】
[時間軸]:ブラックモアに銃を突き付けられたところ
[状態]:健康
[装備]:物干しロープ、トランシーバー(スイッチOFF)
[道具]:支給品一式×2、オレっちのコート、 ラング・ラングラーの不明支給品(0~3)
[思考・状況]
1.アナスイが戻ってくるまでマイク・Oを対処する 戦闘も考慮
2.アナスイの仲間を捜す
3.「ジョースター」、「ツェペリ」に興味
4.アラキを倒す
[備考]
1)アナスイと情報交換しました。アナスイの仲間の能力、容姿を把握しました
空条徐倫エルメェス・コステロ、F.F、ウェザー・リポート、エンポリオ・アルニーニョ
2)ラング・ラングラーの死体を屋上で確認。

【マイク・O】
[時間軸]: 13巻、大統領の寝室に向かう途中
[状態]:左足に銃撃による傷が複数。全身に軽い疲労。
[装備]: なし
[道具]:支給品一式、不明支給品は1つでした。
[思考・状況]
基本行動方針:大統領夫人(スカーレット・ヴァレンタイン)を護る。
1.ブラックモアに殺されたはずのコイツがなぜ生きている……モアめ、しくじったのか?
2.大統領夫人を命を賭けてでも護る。
3.自分の身は護るが自分から襲ったりはしない(下手な逆恨みで大統領夫人を危険に晒さない為)
4.襲ってきた相手には容赦なく反撃する。
5.大統領夫人を襲ったりしないのなら別に誰かに協力するのもやむを得ない。
6.できるだけ大統領夫人と共に脱出したいが無理そうなら大統領夫人を優勝させる為最後の二人になったら自決する覚悟。
7.どういうわけか死人ばかりだが気にしない。大統領夫人を襲うつもりなら元同僚でも容赦しない。

※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。
※ラング・ラングラーの死体は、実はマイク・Oが乗り込んでいたビルの屋上にあったようです。
※マウンテン・ティムがルーシー・スティールをかくまった謀反人であることは知っているようです。
※マイク・Oの支給品は1つでした。


【トランシーバー×2】
マイク・Oの支給品。
JOJO6部でウェザーとFFがストーンオーシャン11巻あたりで使っていたもの。
トランシーバー同士で通信可能。充電は電池か付属の手回し充電器で。
同じビル内ならば、通信に不備はない。




◇ ◇ ◇

ランプから現れた魔神は、名をカメオと言った。
カメオはスタンド使いで、目の前にいるこの魔神こそがスタンドのヴィジョンと話した。

「それじゃあ、アンタの本体はどこにいるのさ」

グェスがこう質問したくなるのは当然だった。
名簿にもカメオという名前はない。スタンドが入っていたランプは紙に包まれていた。
その不思議な紙は、カメオのスタンド能力ではない。
一体、カメオに何があったのかと考えたくはなる。

『すまない、俺はあくまで橋渡し役なんだ。俺に返答の権利はない……お前の質問に答えるのは俺ではない』
「橋渡し? なんの話さ? あんたは答えられない? 」
『――グッド・イブニング、グェスくん。ここからは僕がカメオ君のスタンドを通じて話そうじゃないか』
「え、あ、あんだだれ? どっかで……ちょっと待て! まさかッ! てめーはッ!? 」
『そう、荒木飛呂彦だよ。この殺し合いの主催者さ』
「うるせえええええ! 何が目的だあああああああ! 」
『いやね、君の願い事を3つ……叶えてあげようと思ってさッ! 』
「はああああああああ!? 」

このやり取りのわずか5分後、グェスはあっさり荒木の提案に飛びついた。
疑わしさと胡散臭さはあったものの、それ以上にグェスは助かりたかった。
突然わけのわからない世界に呼ばれて、殺し合いをさせられる危機を脱したかった。
得体の知れぬ相手に狙われるという危機から脱したかった。自分が死ぬという危機を脱したかった。

「……参加者の現在地、参加者の情報、参加者のスタンド能力などなど。とにかく情報をくれるってわけか」
『そう、ただし1回の願いで聞けるのは限度があるよ。いきなり全員の情報を教えたら不公平だし……常識的に考えてね
 ま、目安としては“参加者1人”についての“何か1つ”を教えれば“1回”ってことで』
「願いごとを増やせって願いは? 」
『もちろんだめだよ。あくまで僕が答えられる範囲の質問に限定してね。答えられるのなら答えるさ』
「それでたった3回……しかも答えられない質問もあるのかよ」
『僕は気晴らしに君たちの情報をかいつまんでいただけだからねぇ……そうガッカリしないで。
 答えられない――つまり質問の失敗はノーカウントにしてあげるから』
「それてめーに都合の悪い質問は全部無視できるじゃん。しかも嘘かもしんねーし」
『だからこそのノーカウントさ。同じ質問でも答える時と答えない時があるかもしれない。
 信じるも信じないも君しだい……ピンチになったら意外と使えるかもしれないよ。“情報”は武器になる』

アラビアン・マジックに誘われた魔人は天使か悪魔か。
グェスの強運は何をもたらすのか。

『さぁグェス、何か聞きたいことはあるかい? 』



この2人――打ち合わせッ!



【F-4アナスイ達のいる南部ビル付近/1日目/黎明】
【グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:やや混乱 タクシーの運転席に乗車中
【装備】:なし
【道具】:支給品一式
【思考・状況】
1.とにかく生き残りたい
2.ゲームに勝つ自信はない
3.徐倫には会いたくない
4. ヴァニラやばい。ヴァニラやばい。
【備考】
グェスは、エルメェスや他の刑務所関係者は顔見知り程度だと思っています。

※グェスの支給品は2つでした。


【杜王タクシー】
JOJO4部で宮本輝之輔(エニグマの少年)がエニグマの紙から出して乗っていたもの。
運転手はいない。ガソリンが残ってるので運転可能。
現在はF-4南部ビル入り口付近に停車中。

【魔法のランプ】
JOJO3部でポルナレフがこすったランプ。
こすると中からスタンドである審判(ジャッジメント)が、荒木飛呂彦と会話させてくれる。
『こすった者が』望めば情報を3つ教えてくれる(参加者1人につき3回まで?)。
目安としては“参加者1人”についての“何か1つ”を教えれば“1回”。
荒木が答えたくない質問をたずねてもノーカウント。
同じ質問でも答える時と答えない時があるかもしれない。3つ叶えたあとどうなるかは不明。
ちなみに審判(ジャッジメント)本体、カメオは荒木飛呂彦に囚われの身。



◇ ◇ ◇


「おいティム! もしもし! おーい……あのバカ、間違えてスイッチ押しやがったな」

アナスイの思惑をよそに、物語は暗転していく。
しかし寸劇の舞台袖にいたビルは動かない。決して動かない。
ビルに与えられた権利は3つだけ。
『自らは何もしない』こと、『第三者の介入を受け入れる』こと。
そして『事実を見届ける』ことしか、ビルには許されていない。
総じて建物には、3つの権利がある。

「ま、しょうがねえ。いい加減に説明した俺も悪いし。何とかなるだろう」


人には、その権利を放棄する権利がある。



【F-4南部ビル入り口周辺/1日目/黎明】
【ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:健康
[装備]:トランシーバー(スイッチON)
[道具]:支給品一式 、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡
[思考・状況]
1.さて、犯人は出てくるかね
2.仲間を捜す(徐倫は一番に優先)
3.殺しあいにのった奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない。
4.アラキを殺す

[備考]
1)マウンテン・ティムと情報交換しました
ベンジャミン・ブンブーン、ブラックモア、オエコモバのスタンド能力を把握しました
2)アラキのスタンドは死者を生き返らせる能力があると推測しています
3)鎌倉カスターは食べました
4)ティムがわざとスイッチを切って交信を遮断したことにまだ気がついていません。

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45:引力即ち、愛!! ナルシソ・アナスイ 90:DIVE&DOWN!
45:引力即ち、愛!! マウンテン・ティム 90:DIVE&DOWN!
12:ぷかぷか マイク・O 90:DIVE&DOWN!
27:教祖消滅! グェス 81:いいのかい、ホイホイついてきて?僕は参加者でもかまw(ry ①
00:OP~終焉の胎動~ 荒木飛呂彦 81:いいのかい、ホイホイついてきて?僕は参加者でもかまw(ry ①

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最終更新:2009年01月12日 21:40