「26人か………」

朝日が眩しいのか、目を細め呟く。温かく輝く光源と対照的に男の口調は冷え、どこまでも現実を見ていた。
手元の名簿をじっくりと見つめる。地図を眺め現在地を確認、今後どうするかについて頭を働かせる。
しかし表面上は冷徹を装っていても、己の中で激情を押さえ込めるほどリゾットと言う男は器用でなかった。

(短気なアイツのことだ。見境なく喧嘩をし、相手の力量を見違えたか…。
まぁ、この舞台では長生きできるような奴じゃなかったってことだろうな。)

こうなることはわかっていたと自らに言い聞かせる。理論的に考え、冷静に、客観的に分析を行う。
それでもこの悪趣味な処刑の中で大切な部下が散ったという事実はあまりに大きい。

「禁止エリア…外堀を埋め始めたか。逆に言うとそれほど中央に参加者がいないと考えるのは短絡的か…?」

涙は決して見せない。悔しさに唇を噛み締めるようなこともしない。怒りに拳を振るうような行為は野蛮だ。
果たして人を失うことを悲しくないと思える人間などいるのだろうか。
ましてやそれが親しいものなら、愛するものなら、それはどうであろう。
リゾットと言う男はそれらを全て背負っても髪の毛ひとつほど動揺を見せない。
弱みを決し見せることなくどこまでも無表情な偽りの仮面をそこに貼り付ける。
彼らが求めた『リーダー』とはそんな男なのだから。

「重ちーは…」

目を上げることなく聞こえる言葉にほんの少しだけ意識を傾ける。椅子に座り背中を丸める部下の声は微かで震えていた。
「ただのガキだったんだ………。母親を大切にして、父親を愛して、学校生活を楽しむ。
そのくせ、笑っちゃうほど頭が悪くてよォ…。この俺が言えるんだぜ?それでも楽しそうに言ってたよ。
『ペッシ、学校はおもしろいど!』ってな…。そりゃ嬉しそうにな…顔中笑い顔にして…。」
ペッシは話を続ける。
「きっと仗助もそんなアイツの友人だったんだろうな…。仲が良かったかどうか、俺にはわかんねぇけど少なくとも重ちーは信頼してたみてぇだ…。」
「………」
本来だったらリゾットはこんな話をゆっくりと聞くほどお人よしではない。
感情的になることを戒めるような一言と共にすぐにでも行動を開始するのが本来の彼だろう。
それでも話を聞いてやったのはペッシに罪の意識を吐き出させてやることで彼の中の重荷を軽くしてやりたかったからか。
或いは何処かで彼自身も心の整理の時間を必要としていたからか。

「そう…ただのガキ………ガキだったんだッ!こんな殺し合いがなければッ!」

もはや声が震えてるという言葉は適当ではなかった。涙声となったその叫びが木霊する。悲痛な叫びが辺りに響く。

「殺し合いなんて間違ってる…!なんで殺し合わなきゃいけないんだッ…!
なんで重ちーが、仗助が、ギアッチョが死ななきゃいけなかったんだよォ!どうしてッッ!」
真正面からその言葉を受け止め、その眼と視線を合わせる。悲しみと怒りが暴走したのは放送を流した男が原因か。
「お前の言うことはもっともだ。正論、これ以上ないほど否定しようがない。
しかしな、ペッシ、お前はそれが決定的な矛盾を抱えてることに気づかないのか…?」
その言葉に萎びれたように顔を落とす。目線は足を見つめるもののそれでいて言葉はやはり、力強くまっすぐだった。

「リーダーも兄貴もホルマジオも、そして俺も……暗殺チームだ。わかってるよ…殺し屋が殺すことを否定するなんて可笑しいよなァ…」
その言葉にリゾットはゆっくりと部屋を横切り窓へと近づく。外から差し込む朝日が眼に染みる。
ペッシは椅子からゆらりと立ち上がり顔を上げる。輝く意志の強さが瞳に伺える。
「だから、リーダー…」

「俺はッ!荒木をッ!ぶっ殺す!」

「俺はマンモーニだ…。覚悟を決めたはずなのに今みたいに放送ひとつで冷静さを無くしちまう、取り乱しちまう…。」

「だからッ!荒木を『ぶっ殺した』時、俺はマンモーニじゃなくなるんだ!本当の暗殺チームになるんだッ!」
高らかに響くその宣言。それは彼ら二人が知らぬことだがペッシが兄貴と慕う男が誓ったものに酷似していた。
「いい眼になったな、ペッシ…」
誉め言葉に照れた様子もなくただ俯き返答の代わりとする。然り気無く自らのデイバックに近づくリゾット。
留め具をなぞるようにもてあそび、そうして部下の成長に細めていた眼を鋭く冷たくする。

「そうだ、荒木を殺るのは俺たち、暗殺チームだ。そのためには全てをなげうってでもな…。
そして俺の考えが正しければ荒木は俺達が殺すべき『ボス』、パッショーネのボスでもある…!」
「?!」
「ペッシよ…お前にその覚悟があるか……?一人、また一人…。もしかしたら俺が、プロシュートが、ホルマジオが、倒れていっても…。
その屍を越えてでも、踏み台にしてでもお前は荒木を殺る覚悟があるのかッ…?」
躊躇いを一切見せずに、というわけにはいかなかった。
落ち着かせるような呼吸を何度か吐いた後、それでも確かにペッシは折れなかった。
「やってやる……!必ずだ、リーダー!それが俺達暗殺チーム!」

ニヤリと歪められた笑顔は何を思ってだろうか。
余裕を表すように仰々しく組まれた腕はどうしてか。
リゾットは口を開いた。皮肉な口調がそこには含まれていた。

「そうか、ならばまず俺達暗殺チーム以外の参加者全てを始末することから始めるぞ…」
「ああ…って、え…?」

歪みはますます傾きを増す。
部下を称えていた瞳は滑稽な道化を見下すようなものに姿を変えていた。
憐れみを含んだ語りは止まらない。
「俺は『ふたつ』聞いたぞ…ペッシ。何を踏み台にしてでも成し遂げる覚悟。
そして決定的な矛盾、つまり荒木を殺るためにはその重ちーや仗助とやらの知り合い全てを始末する必要がある…。
仮にもそいつらが俺達と敵対する可能性が僅かでもあるならば潰さなければならない、その覚悟をッ!」

狼狽したような顔に汗が伝う。覚悟を決めた顔はそれでも変わりなく、余裕を失いつつも腹をくくった男がそこにいた。
渇いた口の中の僅かな唾液が喉を通る。ゴクリと音を立て、自らの中に走る緊張を認めつつもペッシは腰を屈め目付きを変えた。

「そうか…それを否定するか。ならばもうお前と俺は相容れないということになるな…」

「見せつけてみろ!お前のその誰も殺しはしないという甘い考えが、荒木を殺るという覚悟が、この俺の覚悟に勝っているということを!」
「リーダー………ッ!」



反逆の牙を持った男が二人いる。かつてはパッショーネという巨大な組織に、そして今荒木飛呂彦という無限の力に対抗せんとする二人。
若く、何処までも青い狼が今、己の信念を貫かんと獣の長である誇り高き同族の狼に牙を剥く。





   ◆   



果たしてリゾットはこうなることを予想できていたのだろうか。こうなることを望んでいたのだろうか。
結果的には合流後、ペッシと情報交換のため近くの民家に入ったことは間合いを詰めることになり、彼にとって不利を招くものとなった。

しかしながらリゾットはペッシに対して大きなアドバンテージを持っていた。彼が開戦の言葉を口にしたのもそれが理由かもしれない。
スタンド使いの戦いに置いて最も優先すべきことは相手のスタンド能力が「何か」であることを知ることにある。
当然ながら暗殺チームのリーダーである彼はペッシのスタンド能力を把握し、それに適する指令を与えていた。

それに対してリゾットの能力をペッシは知らない。信頼関係云々でなく、仮に情報を引き出すようなスタンド能力者がいたらどうであろう。
拷問にも口を割らない根性の据わった彼らであってもスタンド能力の前ではその意志も意味を為さない。
ならば、との配慮からリゾットは可能な限りチーム内に置いても互いのスタンドを隠していた。中には例外もいたようだが。

「…?!どこに…いや、消えた?」

ペッシは釣竿を力強く掴む。同時に姿を消した相手、リゾットからの攻撃に備え警戒心を強める。
突然のターゲットの消失にもペッシは油断なく竿を構える。驚愕こそしたものの冷静さを失わず頭をフル回転させた。

(一番不味いのはリーダーのスタンドが近距離パワー型だった場合だ…。姿が見えないうえ、俺のスタンドじゃとてもじゃないが近距離の攻撃を防ぐようなことはできない…。
元々俺のスタンドは兄貴と組んで発揮できるタイプ。一対一で間合いも測れないようじゃ、この戦いは少々ヘビィだぜ…。)
(だがッ!逆を返せばリーダーは必ずこの間合いにいるッ!少なくとも部屋から出るような真似はしねぇ!
リーダーは殺る時をみすみす逃すような甘ちゃんじゃねぇからな。必ず仕留めに来る。なら………)

「ビーチ・ボーイ!」

自らのスタンドの名を叫び力強く振りかぶる。
先端より飛び出した釣り針は重力に従うことなく部屋を縦横無尽に駆け回る。彼の意志の下、自身の分身は部屋を覆い尽くす。
糸が緩み、張り、さながらそれが立てる音は獲物を狙い這うように動く蛇のようだった。
一秒、二秒、………。

ペッシ本人の息遣いだけが聴こえる。その息も段々と小さくなる。そして………

「見つけたッ!そこだ、ビーチ・ボーイッ!」

猛然と針が空気を裂き迫る!
僅かに空気が歪み、突然空中より血飛沫が上がった。
何処からともなく姿を露にした男は顔を痛みに歪めた。
左肩を抉った釣り針は持ち主の元に戻り、二人はにらみ会う。

「今のは…確実に殺る覚悟だった…。やはり成長したな、ペッシ。見違えるようだ。」
「………」
「だがッ!その程度ならばまだまだ俺には…、荒木には及ばない!喰らえ『メタリカ』ッ!」

油断なく構えていたはずだった。面と向かっているその状況で気を緩めるはずなどなかった。なのにペッシには彼の身に何が起きたかわからなかった。
理解不能、という文字が頭に繰り返し思い浮かぶ。

「がぶっ!…カミソリが…どうやって…、あぐあッ!」
「既に…お前を『殺る方法』は…できている………」

喉を押し広げるように出てくるカミソリ。胃袋から込み上げる有り得ない吐瀉物と不快感。
同時に呼吸器をやられ、予想外の吐血からか足元がふらつく。
意識をしっかりと取り戻した頃にはリゾットの姿は忽然と消え去っていた。

(どっ……どうなってるんだ?!姿を消すのがスタンド能力じゃないのか?
いや、透明にする能力なら…透明化したカミソリをいつの間にか口元に突っ込まれていた…。
いや有り得ないッ!そんなことが可能ならば喉をかっ切るほうがはるかに手間がかからない…!)

動揺は止まらない。戦闘中にそんな姿を晒すことがいかに愚かであるかはペッシも理解しているが余裕の無さが今は思考を止まらせない。

「ち、ちくしょう……ッ!何をやったんだァーーーッ!?いったいどこに消えたァァアーーーッ!」

やけくそ気味に放り投げられた釣り針は宙を進む。
しかし前のように獲物を捕らえることなく、部屋を横切ったそれは窓ガラスを虚しく叩き割った。
背後から諭すような声。

「はっ!!」
「言ったはずだ…。既にできている…とな。」

右肘、利き手で釣竿を握るその腕の付け根に激痛が走る。目を落とすとそこにはハサミがまさに今血管をかっ切らんと刃を開いていた。

「ち、ちくしょう…ッ!」
「お前の成長には目を見張るものがある。これから先、お前はいい暗殺者になれただろうな…。」

「とはいえ…死んでもらうッ!」

噴水のように血が吹き上がり、朱に染めていく。痛みの絶叫が響く。途切れることないその両方にペッシの精神は…。

「何………ッ?!」
「ひるむ…と思うのか………。これしきの…これしきの事でよォオオー!」

折れなかった。
脳裏に浮かぶ二人の少年達の笑顔がペッシに膝をつくことをよしとしなかった。
短気な仲間のひねくれた激励の言葉が手より竿を離すことを許さなかった。

「死んじまった三人のためにもォオー!!」
「俺は死ぬわけにはいかねェェエーーーーーッ!!」

弓のようにしならせた背中の筋肉が収縮する。竿が元に戻ろうとする弾性力と遠心力が加速を最大にした。
そうして生まれた針の早さはまさに規格外!
一直線に、肩より上が明らかになっているリゾットの心臓に針が迫る!

(必ず殺るって決めた時は「直接」だッ!今の俺は何がなんでもただ突っ切るのみッ!)

吸い込まれるように進む針。加速は止まらない。
その速さの前では回避行動も間に合わない。最期の時を風切り音が奏でる。

「俺の勝ちだ、リーダー!」

臓器を潰すような、体を抉る音は聴こえなかった。ボヨーン、という間抜けな音と鈍い石が砕ける音に紛れて勝者の声がペッシの耳に届いた。
リゾットが両手に抱えるように持っていた岩がその音源であった。広瀬康一、彼のスタンド能力を吹き込まれたリゾットの支給品。

「一手足りなかったな…。或いはお前が俺と同じ土俵に…スタンド能力を互いに知っていれば結末は変わっていたかもしれないな。」

コストパフォーマンスが悪いと彼は評したがそれは鉄分を操る彼自身の能力とは極めて相性が良かった。
それは彼のスタンドの性質上、攻撃方法を封じられないため。唯一の欠点は敏捷性を失い相手の攻撃がかわせなくなる点にある。
それも今回においては問題にならない。ただ即死を避けるだけならばペッシの針より顔か心臓を守るだけですむ。
もっとも足の一本や腕の一本は覚悟しなければならないが。

痛む右肘だけでない。全身、首も顔も膝も、そして内臓辺りからも。中から食い破ろうと蠢く何かを感じペッシはたったひとつのことだけを理解した。
死を受け入れる、なかば諦めのような悟りのような感情が芽生える中…

ペッシは己が負けたということだけを理解した。

(すまねぇ…重ちー。どうやら、俺はここまでみてぇだ………。)
走馬灯が走る中、目を瞑る。最後に脳裏に浮かぶのは彼が兄と慕った男の姿。
俺もあんな、兄貴みたいになれたかなぁ…そう思った彼の耳に…

   「合格だ、ペッシ」


沈みかけた意識をその言葉がすくう。
痛みだけじゃなく緊張と力みが全身から引いていくのがわかった。
呆然とする彼の前でリゾットは控えめながらも本心からの笑顔を微かにだけ見せた。



   ◆     


「人が悪いってレベルじゃねーぞ…。もしかしたら俺もリーダーも死んでたかもしれないんだぜ?」
「仮に死んだらそこまでだったということ。それに本物の覚悟とは本物の殺し合いでしか生まれないからな。」
「それにしたってもっとほかのやり方が…」

奇妙な光景だ。彼らの仲間が見たらその滑稽さに笑うか、或いは何があった、と疑問に思うか。
泣く子も黙る暗殺チームのリーダーを含む二人が大雑把にとは言え散らかる部屋を片づけ清掃している。非常に貴重な光景であることは間違いないだろう。
愚痴をこぼしながら戦闘の余波で砕けた机を隅に追いやる。淡々と作業をこなしながら壊れてもはや不要となった椅子を放り投げる。

「なに、この期に及んで人を殺せないようじゃ使えない、そう判断するのは軽率か…?」
「…まぁ、確かにそうかもしれねぇけど………」
「部下って言うのは頭の指示に従ってはじめて駒になる。使えない駒はここでは駒どころか足を引っ張る存在だ」

そうして粗方掃除が終わったのち、二人はようやく一息つくと中央にあいたスペースに座り本格的な情報交換を行うことにした。
放送前は参加者を警戒して移動、そして民家にたどり着いた途端放送が流れたため、二人には殆どその時間がなかったのである。

「そんなことより本題に移ろう。ペッシ、『その話』は確かなんだろうな?」
「確かも何も、俺はリーダーの言ってることのほうがよくわかんねぇよ」
「ふむ。そうなると…荒木がパッショーネのボスという考えは…いや、そうでないとは否定できない。それどころか…」

ぶつぶつと呟き続けるリゾットにペッシは沈黙を貫く。
彼がブチャラティと遭遇することが出来なかった、任務を果たせなかったとのことについて謝罪を一言いれたことが事の発端であった。
疑問符を頭の上に浮かべながらもペッシはこういう時は何も口出しをしないほうが良いということを嫌と言うほどわかっていた。
なにより頭を働かせるのは彼の役割ではない。どうせ一緒に考えても一歩通行に相手の意見を聞くことになるだけになるのだ。
それ故にペッシはリゾットが考えをまとめるのを待つことにした。
大分時間がたった頃にようやく呟きが止む。どうやらリゾットの中で考えが固まったようだ。



「…もう一度確認するぞ?お前がこの殺し合いに呼び出されたのは『ブチャラティ達と遭遇する前』で合ってるんだな?」
「…?それ以外に何があるんだ?リーダーだって兄貴と俺のタイムスケジュールぐらい把握してるでしょ?」
「そうだな…ならば、質問を変えよう。例えばブチャラティ達に遭遇したが気づかなかった、いつの間にかすれ違った、或いは目的地に移動中に睡眠をとったということもないか?」
「???…何が何だか俺にはさっぱり………。」

ぽかんと狐に抓まれたような表情をするペッシに対し、リゾットはすくっと立ち上がると苛立ちからか、円を描くようにその場を歩き出す。
腕を組み目付きを鋭くするとリゾットは再び口を開いた。

「正直な話をしよう。まず最初にこの話は嘘偽りない、まったくの事実だということをお前に知っておいて欲しい。それがわかったら話を続けよう。」
目をやると無言で頷くペッシがいた。
「俺の手元には『ペッシ』とプロシュートはブチャラティと交戦、二人とも始末されたとの情報が届いた。
情報源はメローネ、さらにその情報を中継したギアッチョより直接聞いた情報だ。信憑性は高いと見ていいだろ。」
「…?ちょっと、リーダー…」
「更に言うとそのギアッチョもサンタ・ルチア駅で始末されたらしい。その後ブチャラティたちの足取りを数時間失ったが、その間に奴らは裏切りを決意。
トリッシュと共にヴェネツィアを脱出、サルディニア島に向かっていた。」
「………」
「ボスの親衛隊も動き出したらしいが詳細は不明。交戦はしたものの誰一人欠けることなく奴らはたどり着いたらしい。
サルディニアに向かった理由はわからないが裏切りから推測できることはボスについての情報収集って所だろう。
俺はその情報をキャッチ、即座に飛行機を手配し自らの足でサルディニアに向かっていたところでこの舞台に引っ張り出された。
以上が俺の話だ。おっと、その顔を見ると色々お前も言いたいことがあるようだがまずは俺の考えを言わせてくれ」

ペッシの納得のいかない顔からして反論なり、何かを予期したのだろう。
リゾットはその口より言葉が零れ落ちる前に手を上げてそれを制する。そして再び自らの口を開く。

「当初、俺はこれが俺たち暗殺チーム、そしてブチャラティ達に対する『悪趣味な処刑』だと思った。
その中でお前達死んだとされた暗殺チームはこの処刑のために幽閉されたと考えていた。しかしながら、だ。
お前の話を聞く限りこれはありえない。捕まった様子もない、覚えもない。
なにより以後の記憶が一切ないというのは不自然すぎる。スタンド能力?いやいや、記憶を消すのはメリットがない。

ならばほかになにがある?死んだお前を生き返らせた…これも不自然な点が数多く残る。
何故その必要がある?処刑ならば捕まえて済ませれば良いだけだ。生き返らせる手間と理由がわからない。
それに殺されたときの記憶がないのも不自然だ。
同時に人を生き返らせることがいかに不可能か、それは殺しのプロの俺たちが一番わかっている。
どんなスタンド能力だろうと死んだ人間は取り戻せない。これは動かしようのない真理だ。

付け加えると娘であるトリッシュを参加させる理由もわからない。あれだけ安全を、俺たちより守ろうとしていたその娘だぞ?
よってまず第一に荒木=パッショーネのボスと言う可能性はほぼないと見て良いだろう。

それでは本題だ。俺とお前の間にある決定的な違いはどうすれば説明できる?
記憶操作説、死者蘇生説…。キモとなるのは俺とお前の間に『時差』があるということ。つまり時間だ…。
これはすなわち荒木のスタンドの恐ろしさを認めることにもなるが俺の仮説が正しければ荒木は…

   俺たちを別の世界、俗に言う並行世界からそれぞれ連れて来たに違いないッ!!」

「な、なんだってーーーーーーーー!!」

「時間操作、と言うのも考えた。しかしそれではタイムパラドックスが発生する。
例えばお前がいた世界、ブチャラティと遭遇する前の世界。荒木がお前を連れだ出した時点で世界は枝分かれするだろう。
プロシュートのことだ、お前が消えたらすぐにでも俺に連絡を取る。そうしたらこの『俺』が体験した、お前から見て未来を、『俺』は体験しないだろう。
もしかしたらペッシが消えたことを聞いた俺は撤退を命じるかもしれない。もしかしたらギアッチョを向かわせるかもしれない。もしかしたら俺自身が向かうかもしれない。
つまりお前がいた世界をAとすると『ペッシとプロシュートが敗北し、それを報告したメローネ、ギアッチョも死んだ世界B』より俺は招かれたわけだ。
そうしてプロシュートはきっと違う世界C、ホルマジオはD…。そんな感じで荒木はありとあらゆる世界より俺たちを呼び寄せたわけだ。」

突然の莫大な情報の波に、聡明な男の脳と比べるといささか単純な構造を誇っている彼の脳が悲鳴を上げる。
漫画やアニメで表現するならば今頃プスプスという音と共に湯気が彼の頭より漂っているだろう。
落ち着かせるように水を一口含む。冷静に自分なりに噛み砕くと、彼は頷きを持って理解を示した。
男は説明を再開した。

「その根本的なスタンド能力を説明すると人間ワープというのが最も的確だろう。
見せしめの女が死んだときを覚えてるか?あの場で女を浮かせていたが、あれは“空中のある地点に延々ワープさせている”とも取れなくはない。
そして今回の俺の仮説、これもワープで説明できるだろう。ただ恐るべきは精密機動性、そしてなにより射程距離にあるだろう。なんせ並行世界までその効力を広げているんだからな。
そして80人以上の参加者を同時に連れてくるスタンドパワー…。仮にスピードまで優れていた日には一対一では無敵を誇るスタンドであろうな…」

唖然とするペッシを尻目にリゾットはデイバッグよりメモと筆記具を取り出す。
促すように顎で示すともたつきながらもペッシはこれに従う。指揮棒かのようにボールペンを彼の鼻先で上下に振りリゾットは力説する。

「これら俺の仮説はメモをしといたほうが良いだろう。奴らと合流したときに同じ話をしなくてすむし、何か思いつくたびに書き加えれるしな。」
そういい終わると今しがた語った仮説を加えようとサラサラと紙面の上を黒線が走る。持ち主の性格を現すかのような正確で細い線が文字を作りだした。


[主催者:荒木飛呂彦について]
  • 荒木のスタンド→人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
        →精密機動性・射程距離 ともに計り知れない


「………」
「さて、ペッシ。話は変わるが何故俺たちは今殺し合いをしている?」
「…?なぜってそれは荒木がそうするよう俺たちに強制させてるからじゃないんですか?」
「まぁ、そうだな。ではなにがその強制力を持っている?」
「…首輪、ですか」

ニヤリと笑みを浮かべる。リゾットは皮肉気味に自らにかかった首輪を突っつく。
思えば暗殺チームの時にもボスより、そして今は荒木に。いつだってこのリゾットと言う男には首輪が架けられている。
それを思って彼はすこし自嘲的な気分になった。

「そうだ…首輪だ。残念ながら俺にこれを解析できるような技術力はない。ほかの仲間も同様だろ。
しかしながら、だ。まず大前提として『この首輪は外せるのか?』という疑問について考えたい」

「冷静に考えれば首輪は『外せない』ようにできているのが当然だろう。これを外されたら荒木の言う殺し合いは成立しないのだからな。
では更に疑問を重ねよう。『荒木はなぜ殺し合いを開いた?』」
「………???」
「殺し、または処刑。言い方はいろいろあるだろうが『死ぬ』ことが目標や理由ならこの首輪を外せないだろうな。だが、もしも『死ぬまでの過程や方法』が目的ならばどうだ?」」
「う~ん…リーダー、俺にはよくわかんねぇよォ………」
「娯楽目的、それもあるだろうな。それにしては規模がでかすぎるとも思える。しかしそうなると奴一人で俺たちを管理するのは………」
呟きながら綴る。独り言のかたちに近くなったことに気づき、部下を見つめるが彼はもはやお手上げといった感じであった。
苦笑いを浮かべながら、自分と同じように書くことを示す。


[主催者:荒木飛呂彦について]
  • 荒木のスタンド→人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
        →精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
  • 開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 

※荒木に協力者がいる可能性有り


「まぁ、こんな所か。」
「…リーダー、それで今から何処に向かう?」
「そうだな、そこらも含めてこれからの方針についても話そうか」
立ち上がっていたリゾットもペッシの傍に座る。今しがた取ったメモを置くと地図を広げ、参加者名簿を手に取った。
「俺たち暗殺チームの基本方針は『首輪を外すこと』だ。これを基本に行動していく。そのためにすべきことを言うぞ。
まずひとつに首輪を解析できる施設の確保。そして首輪を解析・分解できる参加者との接触、チームへの勧誘。
そしてこの二つのために暗殺チームの仲間との合流及び協力者の確保。この三つが最優先行動だ。」

コツコツと指が音を奏でる。
フローリングの床を刻むリズムに合わせてペッシが目を下ろすとリゾットの指は地図をなぞり、参加者名簿をなぞっていた。地図は南西辺りを、名簿は自分達の名前がある辺りを。

「よってそのためにここ、ナチス研究所を拠点として確保。これが第一行動方針。
そして人が少なすぎると言うのが今の現状…。信頼できるお前らがベストだが、俺を含めもはや四人しかいない。
首輪を解除できる奴を、仮にそいつが信頼できるようであるならチームに引き込む。仲間意識を持てば裏切りは容易にはできないだろうからな。
また俺たちと組むことが如何に有用か、それを思い知らせてやれる自身も俺にはある。
第二行動方針として暗殺チームの拡大。具体的には人数が多くなったら拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する気だがな。
他の施設についても時間があるようなら回りたいところだ。
そして最後に荒木飛呂彦についての情報収集。やはり奴の狙いがわからないようでは脱出も難しい。もっとも奴ほどの男がなにか残すとは思えないがな。」

ペッシは要領よくリゾットの指示を叩き込む。指示がわかりません、ですむ会社が何処にあるというのか。
理解は出来なくて良い。ただ自分が何を成すべきか、自分の仕事はなにか。それをはっきりとさせておかなければならない。
己を駒と評したリーダーのためにも自分が足を引っ張るわけには行かないのだから。

「そうと決まれば、行こう、リーダー!」
「急ぐな、ペッシ。移動中は物音を立てるな。それと会話もなしだ。とにかくナチス研究所へ慎重に向かうぞ………」

玄関のドアが軋む音が響く。男達は青空が広がる下へと向かって歩き出した。
明るい太陽が照らす中、首もとにぶら下がる拘束具がきらりと輝く。
それはさながら男たちが目指す栄光への煌きと一緒で。
花火のように一瞬で命を散らすかもしれない。陽炎のように霞み、消えていくかもしれない。
それでも彼らは誓う。 “俺たちは必ず勝つ” と。

黄金の精神、それは確かに彼らの中で輝きを放っていた。






【F-3 南部 町/1日目 朝】
【暗殺チーム(現在メンバー募集中)】
【リゾット・ネエロ】
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:頭巾の玉の一つに傷、左肩に裂傷有り
[装備]:フーゴのフォーク
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする
1.ナチス研究所に向かい、拠点として確保する
2.首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む
3.暗殺チームの仲間と合流
4.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断、皆殺しにする
5.荒木に関する情報を集める
6.他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味(優先順位はナチス、次点でG-1の倉庫)
[備考]
※F・Fのスタンドを自分と同じ磁力操作だと思いこんでいます
※F・Fの知るホワイトスネイクとケンゾーの情報を聞きましたが、徐倫の名前以外F・Fの仲間の情報は聞いてません
※リゾット、及びペッシのメモには以下のことが書かれています。

[主催者:荒木飛呂彦について]
  • 荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
         → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
  • 開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 

※荒木に協力者がいる可能性有り


【ペッシ】
[時間軸]:ブチャラティたちと遭遇前
[状態]:頭、腹にダメージ(小)、喉・右肘に裂傷、強い悲しみと硬い決意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(数不明)
    重ちーが爆殺された100円玉
[思考・状況] 基本行動方針:『荒木』をぶっ殺したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.リゾットに従いナチス研究所に向かう。
2.誰も殺させない。殺しの罪を被るなら暗殺チームの自分が被る。
3.チームの仲間(特に兄貴)と合流する
4.ブチャラティたちを殺す?或いは協力するべきなのか?信頼できるのか?
[備考]
※100円玉が爆弾化しているかは不明。とりあえずは爆発しないようです。


【暗殺チーム全体の行動方針】
基本行動方針:首輪を解除する
1.首輪解除のためナチス研究所を拠点として確保する。
2.首輪を分析・解除できる参加者を暗殺チームに引き込む。
3.1・2のために協力者を集める。
4.荒木飛呂彦について情報収集
5.人数が多くなれば拠点待機組、資材確保組、参加者討伐組と別れて行動する



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77:ほんのすこしの話 ペッシ 115:Whatever she brings we……
77:ほんのすこしの話 リゾット・ネエロ 115:Whatever she brings we……

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最終更新:2009年05月25日 00:16