マライアを撃退したシュトロハイムが、左足と義足代わりの木片で地面を蹴る。
あまりに騒音を立てすぎてしまったため、先の戦場から遠ざかっているのだ。
殺し合いに乗り気な参加者が戦闘音を聞いて駆けつければ、一たまりもないから。
しかし……――――
「まァァさかァァァ! 最初に会った
プロシュートが同盟国の者だったとはなァァァァァ!!」
こんなに大きな声を出していては、意味がないような気がしてならない。
とは言っても、生憎なことにこの場には彼にツッコミを入れる人物はいなかった。
いや、彼が右手で抱える亀の中には一人いるのだが。
「やかましい野郎だぜ……」
辟易とした表情を隠すことなく、プロシュートは亀の中で一人ごちる。
負傷と疲労のために眠りにつこうとも考えていたのだが、天井から確認できる外部の光景を見てしまえばそうもいかなかった。
この地で他人に居場所を教えるのは愚策、何度そう教えれば覚えるのだろうか。
テーブルクロスを巻いて止血した左手で金の髪を掻き揚げ、プロシュートは命を犠牲にして自分を助けた女性の姿を思い出す。
彼女もまた、何かあるごとに叫んでいた。出会ってすぐの時も、交戦中も、共闘中も、仲間を逃がした時も。
プロシュートが思い返してみれば、襲撃者――
カーズやマライアも結構声を張り上げていた。
意図せずプロシュートから嘆息が漏れ、続いて浮かんできた疑問までも飛び出す。
「もっと落ち着いた奴ァ、いねェのか」
吐き捨てられた願望じみた呟きは、しかし虚空より流れる交響曲に掻き消されてしまう。
音楽が終わったかと思えば、この殺し合いの主催者――荒木飛呂彦の声が響く。
忘れるはずもない声質に、プロシュートの整った顔が険しくなる。
喚いていたシュトロハイムも足を止めて、亀を地面へと解放してデイパックから名簿を取り出す。彼にしては珍しいことに口を閉ざしたまま。
聴く者を小馬鹿にしているとしか思えない演説の後、荒木は淡々と告げる。
二十六の死者、そして三の立ち入り禁止区域を。
◇ ◇ ◇
三度目の交響曲が終わり、再び辺りに広がるのは無音。
もう言い忘れたことはないらしく、数刻が経過しても静寂を崩す声は聞こえなかった。
ゆっくりと呼気を整えると、プロシュートは天井に頭を押し付ける。
結果、プロシュートの上半身だけが亀の外部へと飛び出す形になる。
「これからの行動について、もう一度話す」
柱の男と波紋戦士という強敵と同志の両方が倒れて呆然としているシュトロハイムに対し、プロシュートは冷静を保ったままで切り出す。
彼とて、何も喪っていないワケではない。
仲間の復讐のために見つけ出すべきトリッシュ、同じチームに所属する
ギアッチョ。
その二人の死は、プロシュートにとって決して軽いものではない。
互いに意味は違えど、彼と彼のチームにとって大きな損害である。
だが……それでも、プロシュートは嘆かない。
ギャングの世界に生きる彼には、仲間やターゲットの死など日常茶飯事であるし――何より知っている。
『死んだ以上はどうしようもない』のだ。
悔しがったり悲しんだりする暇があれば、前に進む。
『成長』するのだ。
そうじゃなきゃあ、『■■』は掴めない。
暗殺チームの一員であるプロシュートは、そのことをよく理解していた。
「あ……ああ、すまないな。少々取り乱した」
うろたえていたシュトロハイムも、眼前に出現したプロシュートを視認して平静を取り戻す。
軍人である彼もまた、一度死ねば手の取りようがないことを理解している。
だというのに狼狽していたのは、ひとえに彼が呼ばれた名のうち三つをよく知っていたからだろう。
サンタナに
ワムウにリサリサ・エリザベス・ジョースター――前の二人は後者は柱の男、残り一人は波紋の師範。
後ろ二人の戦闘を目にしたワケではないが、シュトロハイムは両者ともカーズと肩を並べるレベルと推測していた。
その二人が死んだというのだ。シュトロハイムが焦ってしまうのも、無理はない。
だが強者二人の早期退場にもかかわらず、シュトロハイムは放送の真偽を疑いはしない。
死亡を確認した
エルメェス・コステロやマライアの名が呼ばれたし、何より荒木に虚構を流す理由がない。
ゆえにシュトロハイムは放送を真実と断定し、手刀を作った右手を胸の前で水平に構える。
「お前の話じゃあ、ヤツらは太陽光――正確には紫外線に弱い。
ってことは、日の出ている間は室内に潜んでいるんだろうが……隠れられる場所があまりにも多い。
要するに、ヤツらがどこにいるか分からねェってことだ。だから結局のところ、行き先に変更は――――」
シュトロハイムからうろたえが消えた時点で、亀の外に取り出した地図に視線を動かしていたプロシュート。
だからこそ、彼はすぐ近くにいる男の動きに気付かない。
シュトロハイムは、胸の前で固定していた右手を思いっきり右斜め上空に振りかざす。
サイボーグの肉体から生み出された神速の凪ぎに、空気が斬り裂かれるような高音が生み出される。
唐突に鼓膜を刺激され、プロシュートは首を上げる。
怪訝な顔をしたプロシュートをよそに、シュトロハイムは喉を痛めつけるような絶叫。
「ジィィィィイイク・ハイル!!」
それは、柱の男打倒という志を同じくした戦士に捧げる敬礼。
「いきなり……ッ。オメー、話聞いてんのか?」
亀から上半身を出しているプロシュートとシュトロハイム、その間隔は一メートルにも満たない。
そんな距離で、大の男に全力絶叫されてみろ。
うるさい、などという生半可な物ではない。『痛い』の領域に入ってしまう。
両掌で耳を押さえようにも、プロシュートには左手首から先がない。
左耳に痺れるような感覚を抱いた状態で、片耳を塞いだプロシュートが尋ねる。
その問いかけを把握していながらも、シュトロハイムは二度目の敬礼。
「ジィィィィイイク・ハイル!!」
「…………ッ、だから――」
三度目の。
「ジィィィィイイク・ハイル!!」
「お前は…………ッ」
四度目の。
「ジィィィィイイク・ハイル!!」
「……何、を……!」
五度目の。
「ジィィィィイイク・ハイル!!」
「……して、やが…………」
結局、シュトロハイムは計十回の敬礼を行った。
七度目からプロシュートは静止を諦め、耳を押さえることだけに集中していた。
満足して視線を落としたシュトロハイムを、プロシュートは鋭く睨み付ける。その視線、さながら氷塊。
そこらのチンピラでは背筋を凍らせてしまうだろう――が、シュトロハイムは風でも浴びているかのように受け止める。
「それで、話とは何だ?」
軽く微笑みながら尋ねてくるシュトロハイムに、プロシュートはうんざりした様子で睨むのをやめる。
敬礼をやめろと言っても聞かないだろう、プロシュートはそう判断し――――
「…………次からは、敬礼する前に連絡をしろ」
「ぬう? 意味が分からんが、心得た」
安堵の溜息を漏らし、やとプロシュートはこれからの予定を話し出す。
変更はないと伝えるだけだったはずなのに、既に放送が終わってから秒針が七周はしてしまっていた。
◇ ◇ ◇
彼らの向かう場所は、依然変わりなく食屍鬼街。
亀の中にプロシュートが戻ったのを見届けて、シュトロハイムが亀を小脇に抱える。
「さァて! 向かうとするかッ」
シュトロハイムは、迷うことなく前進する。
マライア戦の後からずっと行ってきたように、まっすぐと西へと向かう。
それ以外の行動を取るのは、ありえないことなのだ。
その理由――死者数/二十六名/約四分の一。
意味すること――殺し合いに乗ったものの多さ/強靭さ/迷いのなさ。
そして予想――次に日が昇る時が来るかは不明/おそらくはない=この太陽が沈むまでがファースト/ラストチャンス。
導き出される結論――柱の男を倒すまでのリミット=日の入まで=残り約十二時間。
ゆえにシュトロハイムは直進しか選べないし、そもそも――――彼の誇りが他の選択肢を選ぼうとしない。
【G-6 路上/1日目 朝】
【独伊二国同盟】
【プロシュート】
[時間軸]:ブチャラティに列車から引きずりだされた直後
[スタンド]:『ザ・グレイトフル・デッド』
[状態]:背中に傷、左手首喪失、左肩に銃創、右足骨折、全身打撲、貧血気味、止血済み、
マンモーニ
[装備]:スタングレネード、フルフェイスヘルメット
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本行動方針:『カーズ』を倒したなら『マンモーニ』を卒業してもいいッ!
1.どんな手段を使ってでも自分の手でカーズを倒す。
2.亀の中で少し休む。
3.暗殺チームの仲間を探す。
4.邪魔する者は倒す。
[備考]:亀の中にいます。
【シュトロハイム】
[時間軸]:スーパーエイジャを貨物列車から奪取した直後
[能力]:ナチスの科学力
[状態]:左腕喪失、右足全壊、重機関砲大破、右目完全失明(紫外線照射装置大破)、左半身に軽度の打撲
[装備]:スタングレネード×2、レミントン・ダブルデリンジャー
[道具]:ココ・ジャンボ(プロシュート入り)、基本支給品
[思考・状況]基本行動方針:ゲームを脱出
1.ナチスの科学力は世界一イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
2.放送の後、食屍鬼街へ移動しカーズを倒す。
3.『柱の男』に警戒。
4.出来ればすぐにJOJO、シーザーらと合流したい。
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最終更新:2009年11月27日 01:32