砂浜に押し寄せる飛沫がパンナコッタ・フーゴの靴に湿気を与える。
しばしの黄昏、昇り行く朝日を見つめながら彼は先刻の放送を思い出していた。
B-10が禁止エリアとなった以上はここを去らなくてはならない。
正確な居場所を理解していない以上はここがB-10でないという保証はないから。
しかし、彼は暁の空を見つめ続けていた。
孤独という不安が心を締め付けるから? 知人であったトリッシュ・ウナの死を知ったから?
恐らくはその二つが混ざり合っているのだろう。

「向かうなら……西の政府公邸辺りか?」

開始時にいたのは恐らくサルディニアの海岸。
そして、1~2時間の睡眠時を除けば北へ歩いていた。
自分の歩行ペースからして恐らくここはC-10、もしくはB-10。
もちろん正確なところは完全に分かってるわけではないので、百パーセントとはいえない。
けれどもおおよそでもいいから推定しなくては動きようがないから仕方がないのだ。
西へ向かえば恐らく政府公邸には辿り着くだろう。
最悪の場合でも鉄道に当たるから自分の現在地ぐらいは分かる。
両手に広げた地図を見ながらフーゴは考えを纏めて行く先を決めた。
砂地に落としたディバッグを拾い上げ、底に付着した砂を叩き落とす。
浜辺に点々と足跡を残しながらフーゴは歩いていく。
波打ち際の傍に付けたものは早くも白波に攫われていき形を崩した。

「26人も死んだ……それにボスの娘もだ。やっぱりこの殺し合いは誰も信用できないのか?
 チームのみんなは恐らく荒木に反抗するんだろうな。
 しかし……それでも26人が死んだ。やっぱり無理なんだろうか?」

不安そうな独り言を漏らしながら歩く彼には希望の欠片が見て取れない。
ブチャラティ、アバッキオ、ミスタ、ジョルノ。そしてこの場にはいないナランチャ。
数少ない信頼できる仲間にも頼る事ができない。かといって他の人間を簡単に信頼することも出来ない。
誰とも出会いたくないと逃げ去った地図の端。
荒木は残った数少ない安心すら奪い去っていく。
張り詰めた神経は徐々に磨り減っていき、ついには彼自身を蝕むだろう。
この殺し合いの場における自分の立ち位置。
最後の二人になるまではジッとしようという方針を決めたものの立ち位置は宙吊りの様な状態だ。

「もしも、もしも誰かが首輪を解除することが出来たら僕はそいつについていくべきなのだろうか?
 優勝するつもりのヤツがわざわざリスクを犯してまで首輪を何とかしようとは思わないだろうから一応は信頼できるのか?
 しかし……荒木との戦いで勝てるという保証はない。それどころか、十中八九負けるだろうな」

思い出すのはブチャラティたちと決別した時の自分の心情。
絶対に組織に勝てるはずがない。
そう言って彼らが去っていくのを一人見送った。
後悔していないといえば嘘になる。
ずっと世話になっていた仲間達を裏切るのに何の苦痛も感じないはずがない。
しかし、自分の命をチップにすることはできなかった。
それ故に彼は苦しみ続けることとなる。

「僕はどうすれば……」

彼は仲間を求めているのには違いない。
この苦境の中で信頼することの出来る仲間を。
しかし、彼は誰も信用することが出来ない。
このジレンマの中で彼の心が安心を見つけることが果たして出来るのだろうか?



★    ☆    ★



「おおい、出してくれんか」

風の凪ぐ音しか聞こえない世界の中でこの言葉がやけにハッキリと届いた。
声から判断すれば中年……むしろ初老というべきだろう。
か細い声であったが故に正確な出所を察知する事はできなかったが、人の存在だけは感じることが出来た。
咄嗟にディバッグを地面へと落とし、半身のパープル・ヘイズを発現させて辺りを警戒する。
前方、左右、後方、上空までもチェックしてみたが人影どころか小鳥の姿すら見えない。
視覚が駄目ならばと聴覚、嗅覚を獣のように研ぎ澄まし何か異変があればすぐにでも反応できるようにする。
しかし、一度っきりしか聞こえなかった声の他に人の気配は一切しなかった。
もしや地中に潜んでいるのではないか? それとも透明な敵が近くにいるのではないか?
フーゴの疑念は晴れることなく、落ち着きのない様子で360度を見て回る。

「ここじゃ、カバンのなかにおる」

改めて聞き直せば確かに音源は落としたディバッグの中にいるようだ。
彼の脳内で真っ先に思い浮かんだのがナランチャが戦った暗殺チームの一員。
本体をも小さく出来る能力者であり、やろうと思えばディバッグに潜むことぐらいできると考える。
けれども府に落ちない点もある。
もしも中にいるのがそいつだった場合、わざわざそんな事をする必要があるのだろうか?
ディバッグに忍び込む隙さえあれば自分を殺す、もしくは拷問にかけたりするだろう。
ならば、中にいるのは友好的な人間?
それも分からない。そもそも信用されたいような人間がこんな怪しい接触をとるはずがない。
開けるべきなのだろうか?
躊躇いを隠し切れぬまま、ディバッグを放置して一人悩むフーゴ。
その間にも声は止まらずに出すことを催促してくるが一切無視。
懇願の声が怒りの色を帯びてきた頃、ようやくフーゴは開けることを決意した。
水や食料、地図に名簿とディバッグを捨てるのはあまりも失う事が多く、
だが、得体の知れないものを入れたままこの殺し合いの場を歩き回るほどの度胸はない。
屈みこみ、片膝を立てた状態でディバッグを手に取った。
何が出てきても対処できるようにパープル・ヘイズには抜き手の型を取らせ、自身の手でチャックに手を付ける。
開ける際に出てくる独特の音が仲間への郷愁を誘うが、緊張感で押さえ込みゆっくりとずらしていく。
半分ほど中身が見えたところで一息つく。
心臓の動悸が早まっていくのがハッキリと分かる。
深呼吸を2、3回して心を落ち着けた後に再びチャックに手をかけた。
噛み合った金属が互いの結合を解く度にフーゴの息は荒くなり、掌が湿気を帯びる。
完全に開ききった裂け目から見える中身は薄暗く何があるかは分からない。
地面につけた左膝を伸ばして立ち上がる、ズボンに土がついているが気にしている場合ではない。
両手でディバッグをひっくり返して中身を外へとぶちまける。
ペットボトル、携帯食料、二枚の紙に、謎の頭像・・・それしか出てこない。

「まさか……」

フーゴの視線が白い人型へと向けられた。
意図的に目を逸らしていたそれからは相変わらず禍々しい空気を作り出していた。
吐き気が込み上げる、頭痛もだ。
しかし、この像には実際に喋ってもおかしく無いのでは? と思わせる重圧が存在した。

「コイツかッ!? いや、万が一違ってもこの像を壊すことで僕にデメリットは来ない!」

叫ぶ事で無理やり心を鼓舞させながら、パープル・ヘイズの抜き手を頭像へと向ける。
拳で殴るほうがいいのだが、彼のスタンドの特性上拳で殴るのはあまり賢いとはいえない。
大きく息を吸い、意識を研ぎ澄まし、パープル・ヘイズを腕を突き出し―――――。



「ふぅ。やっと出れたわい」

一枚の写真がディバッグから舞い落ちた。

唖然とするフーゴを他所に写真、正確に言えば写真の中に映るパジャマ姿の老人はフーゴに笑みを向ける。
元々のホラーチックな雰囲気により不気味であるとしか思えないが、構わず彼はフーゴに話しかけた。

「助かった。ワシは支給品として扱われていてな。ずっとカバンの中に隠れてたんだよ。
 しかし、支給品といえどもワシには命がある、死にたくなかったからお前が安心できる人物だと判断できるまで黙ってた」

いきなり出てきた老人のあまりにも唐突すぎる発言に驚きつつ、フーゴは後ずさりをして距離を取る。
そして、ある程度の安全が保障される距離になってから老人に返事を送った。

「支給品だと? お前は一体何者なんだ? それにどうして僕が安心できる人物だと?」

矢継ぎ早に出てきた三つの質問。
老人はやれやれと言わんばかりに光る頭頂部を撫でながらフーゴに答える。

「まず、ワシの名前は鋼田一吉廣。スタンド能力は『アトム・ハート・ファーザー』写真に隠れることのみが能力でな。
 ちっぽけなスタンドだと思われるかもしれんが、死んでも写真に魂を残せるというのは我ながら感心したよ。
 これからのワシの話が信用できないと思うならば破り捨ててもらっても構わない。そうなれば流石に魂を繋ぎとめる事は出来んからな」

ここで一旦話を区切り、フーゴの同意を待つ。
弱点である写真が破られたら死ぬというのを晒すには抵抗があるが、目的の為に危ない橋を渡るのは仕方がない。
小さく縦に頷いた動作を確認した後に吉廣は話を続ける。

「ワシがお前を信用した理由は……簡単に言えば開始からずっとお前の言動を見ていたからじゃのう。
 状況から読み取ったからよく分からんところもあるが、お前は『どうすればいいか分からない』のじゃないか?」

『どうすればいいのか分からない』

この一言にフーゴは反応する。
まさにその通りだ。自分はどうすればいいのか分からない。
心の隙を突かれた彼に吉廣は追撃するように喋りかける。

「殺せばいいの、抗えばいいのか。確かにこれは難しい問題だからの。 
 ワシだって絶対に殺し合いに乗らんと信頼できる者が一人しかおらん
 カバンの中でコッソリと名簿を確認させてもらったがむしろ敵だらけじゃったよ。
 しかし、悩むってことはこちらの味方になってくれるかもしれない。だからワシはお前に姿を見せた」

殺し合いに絶対乗らない参加者。彼が最も欲していたものが身近にやってきたのを感じる。
しかし、彼の冷静な部分はこいつも噓吐きだったらどうする気だと警鐘を鳴らしていた。
疑い出せばキリがない。コイツの話を最後まで聞いて考えようではないかと決め、続きを促す。

「その、信頼できるって言うのは一体誰なんだい? それと敵って言うのが気になるから教えてくれないか?」
吉良吉影。ワシの仲間じゃ」

鋼田一吉廣などという人間は存在しない。彼の本名は吉良吉廣、彼の口から出た人物“吉良吉影”の父親だ。
肉親という直接的な間柄を言ってしまえばより警戒されるのは分かりきっている。
だから彼は吉良吉影の仲間というポジションで彼を信用させようとしているのだ。

「ワシらは日本という国で暮らしていたんだがな、とある殺人鬼に偶然目をつけられてしまったんだよ。
 スタンドを悪用して殺人、強盗、強姦、とにかくやりたい放題やっとる人間達にな。
 警察に相談しようとも暴力団に所属してるならともかく、表向きは一般人でな。
 スタンドという概念を知らん連中に説明してなんとかしてもらうのは無理だったんだ。
 そして挙句の果てにはワシは殺されてこんな体になっちまったって訳だよ」

途中に出てきた犯罪組織という説明にパッショーネとの繋がりがあるのでは? とフーゴは疑うが、後に出てきた横の繋がりはないという事に安心する。
しかし、この少ない説明では信用できるかどうかは怪しい。
男の話に興味があるのは事実である。
もし老人が真実を言っているのならば味方が一人でき、かつ危険人物たちの情報が分かる。
けれども嘘の可能性だってありえないわけではない。

「その話には興味があるな。その犯罪グループって連中の特徴を教えてくれないか?」
「そうじゃな、まずリーダー格が空条承太郎。数秒だが時を止めるスタンドを持つ上にパワーもスピードもある厄介なスタンド使いだ。
 オマケに本体の判断力もずば抜けておる。容姿はかなりの長身とコートに学生帽のような帽子、全部が白いって言うのが特徴じゃな」

時を止めるスタンド使い、あまりにも強大すぎる相手の正体を聞きフーゴは戦慄した。
不可解であり、難攻不落だと聞いたボスの能力にも張り合えるであろう力を前に自分は抵抗できるのだろうか?
間違いなく否だ。相打ちでいいのならばギリギリでいける可能性もありうる。
けれども、命を惜しむ彼の性格上その選択肢だけはありえない。深く考えようとするとここで疑問が湧いてくる。

「どうして相手の能力を知ったのにお前達は生き残れたんだ? 時を止められては逃げることすらできないじゃないか」
「だから逃げられなかったのだよ」
「逃げられなかった?」
「あぁ、逃げられなかった。何が起こってるかも分からぬまま死に……気付いたら写真の中って訳じゃ。
 時を連続で止められないという弱点にも気付いたが命と引き換じゃのう」

自嘲気味に笑う吉廣、フーゴは彼の表情に注目する。
嘘を付いているのかどうかは分からない? だが、目の前の老人は簡単に人を信用しすぎている気がする。

(いや、僕が不審すぎるだけか? ナランチャなら情報を普通に漏らしかねない気もするしな)

「そしてサブリーダーなのが東方仗助。コイツはチームの回復役で。スタンド能力は殴った物を直す。人体でも物体でもな。
 死んだからどうでもいい気がするが念には念を入れて説明しておこう。
 コイツはいつも学ランを着ていて、髪型はあれだ……カツオ。いや、マスオだったっけな?
 あっ、サザエさんだ。サザエさんそっくりな髪型。え~っと、リーゼントとか言うのかのう?」

死んだものの説明までも丁寧に進めていく吉廣をフーゴは冷静に観察する。
回復役、しかしジョルノと同様戦闘もできる可能性だって十分ありうるだろう。
しかし、所詮は死者。説明されたところでしょうがないものばかりだ。

「申し訳ないが、死者の情報には興味はない。生存者限定で話してくれないか?」
「すまんかった。じゃあ生存者だけ話しておこう。
 虹村億泰。右手で触れた物を削り取る能力者だが本体が馬鹿だから右手に気をつければ何とかなるだろう。
 パワーもスピードも近距離型としては並。本体はこれまた学ランで、ハンバーグみたいのが頭に乗っかっておる」
「右手に気をつけるか……ちなみに削り取るっていうのはどんな感じなんだ?」
「要するに右掌に触れた物が消え去るってことじゃな。しかし、そのせいでヤツは右腕で引っかくような攻撃をするから逆にかわしやすい」

掌で触られたらその時点でアウト。
厄介といえば厄介だろう。
しかし、吉廣が言っている通りならどうにでもしようがある。
むしろ拳に触れたらアウトな上にラッシュを仕掛けてくるブチャラティの方が危険だと考えた。

「後は、山岸由花子。コイツは髪の毛を操るスタンド使いでパワーは一応近距離並はあると思ったほうがいい。ちなみに髪の毛は無制限で伸びるぞ。
 格好はピンクを基調にしたセーラー服にウェーブのかかった長髪じゃな。」

髪の毛を操るスタンド使い。
どうしても近距離の自分ならどうにでもなると考えるが、首を振りその思考を捨て去る。
未知数の相手なのだから一切の油断は禁物。
油断により敗北した強力無比なスタンド使い達を彼はいままで何人も見てきた。 

「それと岸辺露伴。コイツのスタンドは厄介でビジョンを見せることで相手を本に変える上に、色々な命令を本になった体に書き込んでくる。
 ちなみに本にされたら体の自由はほぼ利かない上に、書き込まれた命令に逆らうのは不可能じゃ。
 ギザギザのヘアバンドが印象的でやたらと露出が多い服を着とる」
「なっ……!?」

触られたら負けどころか、スタンドのビジョンを見た時点で敗北が決定する。
つい最近戦った、鏡に映ればその時点でほぼ勝敗が確定するスタンド使いの存在を思い出した。
唯一の救いはコッチの方は鏡の世界へと逃げていかない点だろうか?

トニオ・トラサルディー。コイツは直接的な関わりは不明だが、連中の溜まり場になっているレストランのシェフだ。
 詳しい情報はないんだが、料理に関係するスタンドの持ち主で、常にコック帽にエプロンをしているのが特徴じゃな」

トニオ・トラサルディー。
名前からして同郷の人間であるのだろうと何気なく考える。
料理を食べなければいいだけならば対応はそう難しくないだろう。

「最後にジョセフ・ジョースター。年齢は80そこらだろうな。帽子に緑のコート、金の口髭もたくわえとる。
 スタンドはハーミット・パープル。戦闘向けじゃないだろうがイマイチ能力が分からん」

スタンド能力が分からない。
これはフーゴの心に引っ掛かりを作った。
そんな彼の心情も知らずに吉廣は話を締めくくりにかかる。

「そしてさっきの放送で死んだ広瀬康一、矢安宮重清の二名を含む九名がこの殺し合いに参加しておった」

空条承太郎以下八名の情報を聞き、顎に手を当てるフーゴ。
吉廣の話は話半分にしか聞いていない。
しかし、吉良吉影が仲間になるという可能性は捨て置ける物ではなかった。

(だが……信頼できないと言われている連中もかなりいるッ! どっちに進むかで僕の進退は大きく変わるぞ。
 行き止まりで終わりを待つ羽目になるのか? それとも明るい道を歩んでいくのか!?)

グルグルと思考は巡り、答えの出ない袋小路へと追い込まれていく、頭を下げたフーゴに吉廣は切り札を見せた。

「吉影の能力も教えておくべきだな。あいつの能力は爆弾化。触れた物を全て爆弾に変える事ができる。
 容姿としては極々普通のサラリーマンだな。唯一目立つ点といえば愛用の髑髏柄のネクタイか?」
「なっ……!?」

相方の生命線とも言えるスタンド能力を吉廣は躊躇いなくフーゴに伝えた。
目の前にいる老人の話からは真偽が全くつかめない。
仲間の持っていた汗で嘘を見破る能力が本気で欲しくなる。
流れる汗をぬぐう間すらも惜しい。

「少し……考えを纏めたいから時間をくれないか?」
「そんな、少しといわずゆっくり考えればええ」

小さく感謝の言葉を述べるフーゴ。
彼の視線が外れた瞬間、吉廣は無音で大きな悪態を吐いた。



☆   ★   ☆



“鋼田一吉廣”はほくそ笑む。
最初は様子を見ておくつもりであった。
自分のスタンド能力はギチギチの制限に晒されており、物を動かすことにすら難儀する。
今までポケットの陰に上手く隠れおおせることができたが、逆に言えばそれが精一杯だったのだ。
が、どんなに苦難しようと諦めるわけにはいかない。
愛しの“息子”を優勝させるためにコイツにはいい駒になってもらわなくてはいけないのだ。
最初に名簿を見た時はあまりにも絶望的な状況に愕然とした。
こちらの味方になってくれるスタンド使いは一名もいないのにもかかわらず、“息子”の宿敵達は十名もこの場ににいるのだ。
川尻早人は敵としてカウントするべきかどうか悩んだが、ただの小学生であるのですぐに死ぬだろうと判断。
万が一出会ったときも息子の決断に任せようと思い、あえてフーゴに名を教えなかった。
そして問題といえば目の前に佇んでいる少年である。
先刻の会話から見えてきた『組織』『裏切り』『パッショーネ』『ブチャラティという男を始末する』
これらから到達した一つの結論がパンナコッタ・フーゴは暴力団、もしくはそれに準ずる組織に所属しているという事だ。
もしもこの仮説が当たりならば承太郎との繋がりがある可能性はほぼゼロに近いと吉廣は考える。
なのでフーゴを上手いこと騙して承太郎達と激突させようとしているのである。
問題はこちらよりも圧倒的に数の多い向こうの陣営にフーゴが説得されて引き込まれてしまうことであったが、彼はついていた。
宿敵達の内三人が死んだのだ。
重ちーとやらは既に殺したはずだが、気にすることはない。
コイツの呟きを聞くと今にも不安で押しつぶれそうな様子だった。
不安は心の隙間となり、人間は自然と隙間を埋めることを望む。
ならば自分が安心で満たしてやろうではないか。
息子が信頼できる人物だと言い聞かせて安心させてやろうではないか。

「しかし、本当に用心深いガキだ!」

唇だけを動かして全身から湧き上がる苛立ちを抑える。
言いたくは無かったが息子の能力までも伝えてしまった。
シアー・ハート・アタック、そして切り札バイツァ・ダストは隠し通したものの、普段使用している能力を言ってしまったのは痛い、
たとえ信頼を引き換えにしたものであろうとも。
吐き捨てるように言い放ち、考察を続けるフーゴを見る。
まるで生がないように微動もせずに棒立ちで考えていた。
時々聞こえる小さな独り言が唯一彼の生存を吉廣に伝えてくる。
いっそ隙を突いてコイツを殺した後に他のヤツのところに行ってしまおうか?
吉廣は脳裏に過ぎった考えを一蹴する。
自分のスタンド能力はこれでもかというほど制限されているのだ。
まず第一に体の自由が思ったほど効かない。
それと第二に写真の中には大きな物を入れることはできない。
これはディバッグ内でフーゴに隠れてあれこれやっている間に気が付いたことだ。

「写った写真を支配する能力は残っておるんじゃろうか?」

カメラがあれば実証できるのかもしれないが、無いものねだりはできない。
それに今映っている写真は吉良邸のものなのでここで幾らものを動かそうとも意味がない。
あまりに無力。
喋る事ぐらいしかできない自分のあまりの無力さに吉廣は歯噛みする。

「吉影、ワシの愛する息子は無事に生き残っとるのだろうか?
 ワシはこの餓鬼を使ってお前の邪魔を影から消してやるぞ」

この後、どうすればフーゴを心底から信頼させればいいのだろうか?
承太郎や、億泰、由花子に出会えばどうすればいいのだろうか?
彼は一人で考える。

「バイツァ・ダストは無敵の能力。これだけはワシも信じておる。
 しかし、発動中に急に殺し合いに巻き込まれたからどうなっとるのか……」

心底から息子を心配する姿は美しい家族愛の表れだろう。
しかし、愛の大きさと表現法は歪んでおり、息子自体も歪んでいる。
捩じれきった“愛”はここにいる一人の少年に少なからぬ影響を与えていった―――――――



【B-9 /1日目 朝】



【パンナコッタ・フーゴ】
[時間軸]:ブチャラティチームとの離別後(56巻)
[状態]:苦悩と不安、軽い鬱状態、傷心、人間不信
[装備]:なし
[道具]:ディアボロのデスマスク、吉良吉廣の写真、支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:「近付くと攻撃する」と警告をし、無視した者とのみ戦闘する
1.僕は1人なんだ……誰も信じられない……
2.ブチャラティたちを始末する……のか?
3. 鋼田一豊大の話を信じるか、つまり『吉良吉影』を信頼するかどうか?
4.ティッツァーノチョコラータ、ディアボロは組織の人間だろう
5.4に挙げた人物とは出来るだけ敵対したくない
6.空条承太郎達に警戒
7.西へ向かい政府公邸、もしくは線路に辿り着く

[備考]
※ 結局フーゴはチョコラータの名前を聞いていません
※荒木の能力は「空間を操る(作る)」、もしくは「物体コピー」ではないかと考えました(決定打がないので、あくまで憶測)
※ 地図を確認しました
※空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、山岸由花子、岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、ジョセフ・ジョースターの能力と容姿に関する大まかな説明を聞きました
※吉良吉影の能力(爆弾化のみ)を把握しました。しかし、一つしか爆弾化できないことや接触弾、点火弾に関しては聞いていません。
 また、容姿についても髑髏のネクタイ以外には聞いていません
※吉良吉廣のことを鋼田一吉廣だと思い込んでいます


【吉良吉廣】
[時間軸]:バイツァ・ダストのループ中
[状態]:健康、思い通りにならないフーゴにイラつき
[装備]:なし
[道具]:0?
[思考・状況]
基本行動方針:吉良吉影と共に優勝する
1.待ってろよ吉影!
2.フーゴを利用して敵対している相手を消していく


※吉良吉廣には三つの制限がかかっています
  • 自由に動き回る事ができない
  • 小物しか写真の中に入れることができない
  • 写真に写っている物を支配できない
制限の程度については後続の書き手さんにお任せします

※フーゴの支給品を掠め取って写真の中に隠している可能性があります
 その場合、その支給品はある程度小さい物です

投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

66:Pipistrello(ピピストレロ) パンナコッタ・フーゴ 114:Friends Will Be Friends

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最終更新:2009年05月23日 23:37