目が覚めていたのか、眠っていたのか、それすら分からない。
気が付くと、薄暗いホールかどこかの中で、あたしは長椅子に座っていた。
数メートル前方の舞台にはスポットライトが当たっていて、見たことの無い俳優が1人、にやにや笑いながら演技をしている。
* * *
「これから君達に、殺し合いをしてもらうよ」
「ゲームの殺し合いだよ。ゲームってのは
ルールが必要だよね。
まずはその首輪! それは犬っころの首輪と違って、爆発物なんだ。大きな衝撃を与えたり無理に取り外そうとすると、爆発する。
そして、僕が指定する"禁止エリア"に止まっても爆発。
あと何だったかな……。……そうそう、ゲーム開始から24時間、つまり丸1日経ってもの間に誰も死亡しなくても爆発するんだ」
「……ふふっ、厄介だろう? でもね、勝者――つまり、たった1人の生き残りの首輪は外してあげよう。
そして、元の世界に帰してもあげよう。
ちょいと邪魔者を蹴散らすだけで、勝利の美酒と、自由を手に入れられる。面白そうだとは思わないかい?」
「ああ、もちろん素手で殺し合えだなんて馬鹿なこと言わないよ。
君たちには、このデイパックを一人一つずつあげよう。
このの中には――食料や飲料水、地図、
参加者名簿などが入ってる――ふふ、何人か“名簿”という言葉に反応したね。
会えるといいねえ、仲良しのお友達に…」
「その他には、僕がテキト~に選んだ素敵な支給品が入っている。
クリスマスのプレゼント交換みたいな感じでさ、誰にどれが渡るかは分からない。
中身をどう使おうと君たちの勝手だけど、上手に使って僕を楽しませてくれよな」
* * *
まだ頭がぼんやりしていて、舞台のお芝居に集中はできない。
そもそも、お芝居なんて見に来たかしら?
あたしは混乱しつつも、記憶の糸を必死に手繰り寄せた。
確か、あの人と一緒にニューヨークに行ったのよね。なのに誰も迎えに来ないから、あの人が痺れを切らせて、みんなを探すことになったはず。
そしたら、雨の中で誰かの葬儀をやっていて……。
――気が付いたらここにいた。
って、それじゃあ辻褄が合わないわッ!
あ、分かった。JOJOの仕業ね。あの人のイタズラよ、そうに決まってる。
イタズラっ子みたいな顔をして、オロオロしているあたしの顔を、笑いながら見ているんだわ、
きっと……。
「君たちは、"これは夢だ"と思っている。そうだろう? だが、これは現実だ。
嘘だと思うなら、頬でも尻でもつねってごらんよ」
独白だけの劇って珍しいわね、と思いながら、辺りを見渡してJOJOの姿を探す。
客席は薄暗くて、他の観客の顔までは見えない。JOJOったら、飲み物でも買いに行っているのかしら……。
その時、あたしの隣に誰か座っているのに気付いた。
「JOJO……?」
小声で名前を呼ぶと、その人があたしを見た。JOJOの瞳と輪郭が煌めいて見えて、あたしは心の底から安堵した。
文句の1つでも言って笑って許してあげようと思った矢先に向こうが口を開いた。
「あんた誰?」
……違う。JOJOじゃない。だってその人を良く見ると、あたしと同い年くらいの女の子だったんだもの。
「確かにあたしはJOJOだけど……なんでその事知ってるの?」
エッ、これがJOJOですってェ!? あ~ん! JOJOが女の子になった!
ショックを受けたあたしを大して気にした様子も無く、彼女は身を乗り出した。
「ねえ、あたしの名前を知ってるってことは、あたしをここに呼んだのはあんた?」
* * *
「フ~ゥ、やれやれ」
男は、わざとらしく溜め息を声に出し、あたし達――あたしと、あたしをJOJOと呼んだ見知らぬ隣の女を見た。
「女性ってのはお喋りだねェ~。キャンディーでも舐めるかい? 口全体に味が広がるキャンディーだよ」
男と目が合い、あたしは思わず目を逸らせた。気まずかった訳でも、むっとした訳でもない。
"キャンディー"。
本来は甘いお菓子を指す言葉のはずなのに、何か嫌な予感がした。
全身の血管が逆立つのを感じる……。寒くも無いのに、あたしは剥き出しの腕をさすった。
じっとりとかいた手の汗が、肌に張り付く。
「特に君と、あともう1人には効果絶大なんじゃあないかな。――もっとも、もう1人は元々無口なんだけどさ」
男がそう言うと、舞台の端に、1人の女の人が現れた。
――悪い予感が、最悪の状態で当たった――
* * *
「ママ……!」
JOJOが小さく、しゃくり上げるような悲鳴を上げた。その尋常じゃない様子に、あたしは、つられて舞台を見る。
少し前屈みになり、自分の胸を抱きかかえるようにして女性が立っていた。
ひどく怯え、この距離でさえ、彼女の恐怖とパニックを感じ取ることが出来る。
「そうだよ。君の大事な大事なママだ。……ほうら、黙らざるを得なくなっただろう?」
JOJOを真っ直ぐ見据え、俳優が言った。
――俳優じゃない。悪魔のような笑みを湛えているこの男は、普通の人間じゃない。
女の人に向き直り、男は静かに、鳥肌が立つくらいに優しい声音で囁いた。
「子どもが粗相したらさァ、誰が責任取るんだろうね?」
彼女は、鷹に睨まれた野兎のように、がたがたと震えながら後ずさった。
JOJOが呟いているのが聞こえる。
――お願いお願い、やめて、神様……。
男が手を掲げると、女の人の体がゆっくりと浮き上がった。彼女は甲高い声で叫び、暴れたけれど、真っ直ぐ天井へと昇っていく。
「見せてあげなよ。子どもにさァ…」
「ママあああああああああああ!!!!」
* * *
隣でJOJOが顔を覆って泣き崩れた。
男は、さも楽しそうに笑いながら呟く。
「愛してその人を得ることは最上である……
愛してその人を失うことは、その次によい」
あたしがJOJOに声を掛けるよりも早く男が振り返り、気取った仕草で頭を下げると、
再び周囲の景色が一変した――
※
スージーQはゲームのルールを殆んど聞いていませんでした
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最終更新:2008年10月06日 20:43