「ママ……ママ……うっ…うう……ああぁ……」

道端を点々と灯す街灯の真下、空条徐倫は泣き崩れていた。
その場にしゃがみ、うずくまる彼女の目には涙があふれ出て、止まらなかった。
時折出る嗚咽も今の彼女には止められなかった。

「せっかく……あの「水族館」から脱出したのに……あいつとも会えたのに……」

徐倫はただ、泣くしかできなかった。もはやそれ以上のことはできない状態だった。
長い間機会を待ち、ようやく脱出できた水族館。これからという時に突然巻き込まれた殺しあい。
そこで見たものは変わり果てた姿をした自分の母であった。
何故、自分の母があのような目に遭わなければいけなかったのか。何故自分の母が殺されてしまったのか。
うす暗く照らす街灯の下で徐倫は独り、すすり泣いていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆



(まったく、なんだってんだよ一体……殺しあいをしろとか訳わかんねーよ)

町の舗装された道路を一人……いや、一匹の犬が歩いている。

(ここはエジプトか……にしても雰囲気が違うような……)

白黒の犬が怪訝そうな顔をして辺りをきょろきょろ見回す。

(ホント勘弁してほしいぜ、俺は何の争い事もない平和な一生を送りたいのによぉ……次から次へとトラブル三昧だ)

イギーは不機嫌そうな顔をする。ニューヨークで自由気ままな生活を送ってきたイギーにとって
いきなりエジプトに連れてこられた時、今にも逃げ出したくて仕方がなかった。
そして、今回で人に連れてこられたのは2回目。イギーがうんざりしているのも無理はなかった。


「ママ……ママ……うっ…うう……ああぁ……」

(ん!?あれは……?)

街路を歩いていたイギーは女性のすすり泣く声が聞こえたのを耳にした。
聞こえたほうを見ると、お団子を髪の毛にくっつけたような頭をした女性がうずくまって泣いていた。

(あいつは確か……あの舞台でおフクロを殺されちまったコだっけか……?)

イギーは一瞬、近づいてみようと考えたが、すぐに首を横に振り、その考えを捨て去った。

(やめとけ、関わったらどうなるか分からないぞ、また厄介に継ぐ、厄介事が待ってるに違いない。ここは退散するかな)

イギーはすすり泣く徐倫に背を向け、この場から去ろうと試みた

「そこに誰かいるの……?」

(げっ……!)

徐倫は顔をあげ、気配のした方を見ると、街灯の下に一匹の犬がこちらに背を向け、今にも走り出してしまいそうだった。

「待って、お願い!行かないで!」

(くっ……!)

徐倫は悲痛な叫びがイギーに届き、イギーは走り出そうとした足の速度を緩める

(くそっ……仕方がねぇ。ちょっとだけそばによってやるだけだからな……見捨てるのをやめたわけじゃねぇぞ)

立ち止まったイギーは踵を返し、ゆっくりと徐倫のもとへ近づく。
近づいてきたイギーを徐倫はまじまじと見つめる。

「凛々しい顔つきね……こっちおいで、ワンちゃん」

(ワ……ワンちゃん!?)

妙に一般的な名前で呼ばれたイギーは唖然としながらも彼女のもとへ近づく。
すると、徐倫はイギーを手でつかみあげると胸の中で思いっきり抱きしめた

(う、うわっ!?いきなり何しやがる!!)

突然の徐倫の行動にイギーは思わずもがく

「ごめんね、しばらくこのままでいさせて……」

(嫌だ嫌だ、離せ!離せ!俺はこんなペットみたいなことされるのは大嫌いなんだ!)

必死に抵抗するイギーだが、振りほどくのが無理なのがわかり次第に抵抗するのをやめた。
それだけではない、今イギーの顔は徐倫の持つ、『山』と『山』の間の谷間の中にいるのだったッ!
そのふたつの『山』の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間は
まさに女性的神秘の小宇宙!!

(あれ?なんだろこの気持ち、なんだか!なんだか!すっごく楽しい事をしてる気がするけど
 犬だからわからないッ……ケハハハハハハハハ)

徐倫はイギーを数分間抱きしめた。小さなぬくもりを感じた。
よく見ると首に自分のと同じような首輪がしてあるのが分かった。
こんな犬まで殺しあいに参加されられているなんて……
徐倫はあの舞台の上でニヤニヤした東洋人の顔を思い浮かべる。
彼女の中で何かがふつふつと湧きあがってきた。

「ありがとう、お前のおかげで少し元気がわいてきた……」

徐倫は抱きしめていたイギーをゆっくり下ろす。ようやく解放されたイギーは即座に徐倫から距離をとる。

(いや、別にそんな……大したことは……してない……したかもしれないけど)

イギーは徐倫に真っ赤な顔を見せつけまいとしてそっぽを向けた。

「あたしはもうくじけない、アラキを倒してママの仇をとる!お前のような小さな犠牲者、あたしのような者をこれ以上出さないッ!」
徐倫は立ち上がり、暗闇が支配する夜空を見る。それはどこかにいるアラキへの対決の意志の表れであった。

(また厄介な事に首を突っ込んじまったなぁ~……まぁでも……犬好きのやつを放っていくわけにはいかねぇよなあ~……)
イギーは前足で顔を掻きながらメンドくさそうにしていた。
しかし、


二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めた。一人は泥を見た。一人は星を見た。

再び石造りの海に閉じ込められた彼女が見るのはどちらであろうか。


【F-7 町の道路/一日目・深夜】
【空条徐倫】
【時間軸】:「水族館」脱獄後
【状態】 :健康
【装備】 :なし
【道具】 :不明支給品(1~3)、基本支給品
【思考・状況】
1.これ以上自分のような境遇の人を決して出さない
2.打倒アラキ!
3.あいつ(空条承太郎)、他の協力者を捜す。
【備考】
徐倫はイギーの名前を把握してません

【イギー】
【時間軸】:エジプト到着後、ペット・ショップ戦前
【状態】 :健康、ほんのちょっぴりのドキドキな気持ち
【装備】 :なし
【道具】 :不明支給品(1~3)、基本支給品
【思考・状況】
1.また厄介な事に首突っ込んじまったなぁ…まぁいっか
2.徐倫と行動を共にする


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イギー 59:わらしべ長者
00:OP~終焉の胎動~ 空条徐倫 59:わらしべ長者

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最終更新:2009年06月25日 00:43