波が静かに揺れる海。パンナコッタ・フーゴは独りただずんでいた
辺りに誰もいなかったことは彼にとって好都合だったのかもしれない。
彼は苦悩していた。

ヴェネティアのサン・ジョルジョ・マジョーレ教会でブチャラティたちと別れ、彼らを振り返らずに歩いていた。
だが、とたんにあたりが暗くなったかと思うと、あの大きな部屋の中でフーゴは目覚めたのであった。
そして、あの部屋で起きた出来事を目の当たりにし、訳の分からないままに海辺に飛ばされたのであった。
しかし、このような圧倒的なる展開よりも、デイバッグから取り出した名簿を見た時の方がフーゴの苦悩をより深いものにしていた。

「ブチャラティ……ミスタ……アバッキオ……ジョルノ……トリッシュ!!」

もう一生会えなかったのかもしれない。かつて分かれた仲間たちがここにいる!
普通の人だったら飛びあがってわずかな希望とするだろう。
しかし、彼は違っていた。悩ましい顔を一向に崩してはいなかった。

「でも……今更どんな顔してブチャラティたちと会えと!?」

組織を裏切ることを決意した彼らとは決別したのだ。何故なら、彼らブチャラティたちが戦っている相手は
あまりにも巨大で、あまりにも無謀すぎる相手だった。
イタリアの巨大ギャング組織、パッショーネ。身寄りのない者、ワケありな者たちがこの組織に入団し
任務をこなすことによって報酬をもらう。組織を裏切ることは生活の糧をなくす。
それだけじゃない。危険人物としていついかなる時も逃げ回れなくてはいけない。
道端を歩いている時に銃弾が直撃したり、寝室で寝ている時に突然爆弾を投げ込まれることだってありうるのだ。
特にパッショーネのボスは自分の秘密を最も守る人物だ。正体をつかもうとした者は容赦ない制裁を受けている。
組織に刃向うことなど絶対にあってはいけないのだ。さもなければ孤立の道を歩むからだ。
だから、フーゴはブチャラティの誘いにはのらなかった。組織なくては生きてはいけないからだ。
しかし、一度組織を裏切った自分をもう一度仲間としてブチャラティたちは認めてくれるのか?
今までのように接してくれるのかもしれないが、それでもフーゴは仲間と合流することをためらっていた



「僕がブチャラティに会うことは、組織に反逆することと同じことッ……!」

もはや彼らはパッショーネの構成員じゃあない。組織に仇なす敵だ。彼らと合流することは同時に
組織を裏切ることになる。そんなことは絶対にダメだ。彼にとって組織は欠かせないものなのである。
たとえ、娘を手にかけたという事実があったとしても……!

「それだけじゃない、ブチャラティたちの他にも暗殺チームの名があるぞッ!」
暗殺チームのメンバー、ギアッチョプロシュート、ペッシ、ホルマジオ、そしてリゾット。
メローネ、イルーゾォの名が無かった。しかし、暗殺チームのリーダーであるリゾットを除き、
全員死亡したはずだった。なぜこんな所に名があるのか?

「まさか……始末したんじゃあなくは仕留め損ねたッ……!?」
実際に戦ったイルーゾォを除き、フーゴ以外の他のブチャラティチームが暗殺チームの相手をし、始末した。
フーゴは彼らの死体を実際に見たわけではない。本当は死んだと見せかけて生き残っていてもおかしくない。
もしくは……

「ブチャラティたちが意図的に『逃がした』……!いや、そんなことはない……はず」
当初はボスの娘を守るのが目的のブチャラティチームと、ボスの秘密を探る暗殺チーム。お互いの目的は対立していた。
しかし、あの教会の事件でブチャラティは組織に反逆した。もしかしたら裏でブチャラティと繋がっていた……?
最初から組織を裏切る気で……?そう思ったフーゴだが、即座に首を横に振りその考えを消し去った。
それなら始めから暗殺チームと戦うことはしないし、何しろ長年付き合っているブチャラティが自分以外に隠し事などするはずがない。

「もうその考えはやめよう、もう彼らと僕とは全くの無関係なんだ」

ブチャラティたちにめばえた疑念紛らわすため、フーゴはデイバッグを再び漁ってみた。
名簿の他にも懐中電灯や食料があったが、そこに一つ大きな「何か」があった。
中から取り出すとフーゴは戦慄した。白い顔がこちらを睨んできたのだ。


「うっ……おえっ……」

よく見ると誰かの顔の型をかたどった型番のようだ。
フーゴの記憶の中で全く覚えのない顔だったが、何故か汗がいきなりスポンジからにじみ出るように湧き出て、吐き気を催した。
何か知ってはいけない者を知ってしまったかのようなそんな気がした。
フーゴは即座にそれをしまい、深呼吸で整える。どうにか食べたものが逆転せずにすんだようだ。

「ひとまず、ここから離れよう。いつ誰が襲ってくるか分からないからしな……」

フーゴは立ち上がり、砂浜を歩き始めた。
しかし、フーゴは知る由もないがこの海辺はボスの故郷をかたどった海である。
そしてその性か知らないが、ボスのデスマスクを見ただけで吐き気をもよおすほどの
悪寒にさらされたのは偶然なのであろうか。


仲間を捨て、ボスの秘密も知らずの内に入手してしまった。
フーゴにとって、彼の頼れる人物はもはやどこにも存在していない。




【サルディニア海岸・D-9/1日目 深夜】

【パンナコッタ・フーゴ】
[時間軸]:ブチャラティチームとの離別後(56巻)
[状態]:苦悩と不安、ブチャラティたちにわずかな疑い、精神的不安定
[装備]:なし
[道具]:ディアボロのデスマスク、支給品一式
[思考・状況]
1.辺りを散策して、気分を紛らわす。
2.組織の人間、ブチャラティたちとは会いたくない
3.暗殺チームが生きている……どういうことだ?

[備考]
名簿と、基本支給品、不明支給品を確認しました。地図は確認してません。


【支給品紹介】

【ディアボロのデスマスク】
アバッキオが死に際にボス・ディアボロの顔をムーディ・ブルースで顔の型をとったもの
ボスの正体を知る上で重要な手がかりである。

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パンナコッタ・フーゴ 43:苦悩する者させる者

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最終更新:2008年08月03日 04:50