無造作に伸ばした髪に、生気の感じられない灰色の肌。歴戦の兵である事を想起させる甲冑は、ところどころ錆び付いている。
『中世の騎士』という言葉がシックリくる。彼の名は黒騎士ブラフォード

(最初の広間で死んだ男。似てはいるが、ジョナサン・ジョースターではない……)

直接見た訳では無い。だが、ブラフォードは勇気ある青年の気配をどこかに感じ取っていた。
この場にいるとあらば、いずれどこかで相対する。向かってくるならば受けて立とう。
ブラフォードは青年の事を頭の片隅に置き、思考の海に浸る。
彼にとって、殺し合いという現実はそこまで重い物ではない。『77の輝輪』の試練もある意味では命の取り合いであったし、戦場で剣を立てる事が日常だったのだ。歴戦の騎士にとっては100人程度の戦争など『その程度』でしかない。
彼の心を揺さぶったのは、主催者のかけた言葉一つ。

「どんな望みも叶える。その言葉が真実ならば、俺は……」

ブラフォード自身に託すべき願いはない。元より天涯孤独の身。望みがあるとするならば、死力を尽くした戦いのみ。
思うは、失われた主君唯一人。
戦で全てを失ったブラフォードを包んでくれた慈愛の女神。
全てを捧げてもいい。そう思っていたのだ。
しかし、現実は残酷だ。

卑劣な老女は、女神を迷宮に叩き落とした。
黒騎士は、命を差し出した。
待っていた物は、主君の変わり果てた姿だった。

「呪ってやるッ!てめえらの子孫末代にいたるまで呪いぬいてやるゥ!」

世を恨み。人を呪いながら、死んでいった。
朽ち果てた肉体は、吸血鬼の手の平で弄ばれながらも、生前の意識を鮮明に保っていた。
主君を失い。世への復讐を誓い続けた男が抱く望みはただ一つ。

「我が主君メアリー・スチュワート!彼女を黄泉路より連れ戻し、俺は彼女の傍で剣を振るい続ける!そして理不尽極まりない女王の選定をやり直す!」

高潔な人間の魂を残していれば、その思考のおかしさに気づいた事だろう。
何の根拠もない言葉に縋り付き、誇大妄想を描く。
元より、彼の崇めた聖女は、殺戮の上に立つ我が身など望みはしない。
望みを果たしても、聖女は決して微笑んではくれないだろう。
生前の忠誠心をそのままに人の心を失った屍生人は、その矛盾に気づかない。

「この戦場にいる猛者共よ!かかってくるがいいッ!能力と能力!技と技!精神と精神!最大を尽くし!このブラフォードと闘えィィィィ!」

騎士道と復讐心の奇妙なコントラスト。朽ち果てた体を引き摺り、騎士は呪いの声を、世への恨みを掲げながら、名乗りを上げる。




ふと、主催者の言葉が蘇る。選りすぐりの品を、武器を用意していると。
背中の荷物には、重量を感じない。期待はできないと、ため息一つ。
中を見る。そこには紙切れ1枚と、用途の分からないもの。地図。
地図だけは残しておく必要があったが、他の物は不要と感じる。
100㎏相当の重りを以てしても苦としないブラフォードだが、余計な荷物はいらない。
荷物を無造作に捨てた。

放物線を描いて、荷物が飛んでいく。その内の一つでしかなかった紙切れが、地面に落ちると共に、鉄塊に化けた。
大型スレッジ・ハンマー。それが武器の名称。
紙がハンマーに変化した現実にブラフォードは目を見開くも、一瞬で鋭い眼光に戻り、ハンマーを拾う。
いたるところに手をあて、感触を確かめる。
3回程素振りを繰り返した後。片手に強く握り締める。
超重量のハンマーだが、屍生人の怪力ならば扱う事は容易。

よく手にじませたそれを、力の限り振り下ろす。

    ド グ ォ ン !

奇妙な破壊音とともに、クレーターが出来上がった。
もう一度、ハンマーをじっと見つめ、何の感慨もなく呟く。

「ふむ、剣に比べれば扱い難いが、武器としては充分か」

得物の感触を確かめ、地図とそれ以外の荷物を全て捨てる。
戦闘準備が整えられた。
ふと遠くを見つめると、巨大な鏡がそびえていた。
真一文字に引かれた赤い線は、どこか禍々しさを孕んでいる。
そう思ったブラフォードが鏡を覗き込んだのと、その中に人影を見つけたのは、それとほぼ同時だった。

「俺の姿が見えたのなら……おまえはもうおしまいだッ!」

敵の攻撃が始まった。

◆◆◆


川のほとりで立ち尽くす。
そこにあるのは間違いなくティベレ川で、イタリア人の俺いるのに違和感が無い様にも思える。
問題はそのティベレ川を挟んでエジプトの町並みが見えるって事だ。俺の知ってるイタリアと違ーぞ。


一体どうしてこうなっちまったのか。これまでの出来事を思い返す。
俺は確かフーゴの野郎のウィルスに浸食され、腕を犠牲に『鏡』から外に出た。
命からがら鏡の外に出たら、そこにはフーゴのスタンドが待ち構えていた。
パープリン野郎。紫とイカレタ奴って意味をかけてる。ちっとも笑えねーがな。
とにかく、あの殺人スタンドの腕を止めて、賭けに勝ったと思った。
そう思ったら、その拳からウィルス入りのカプセルが出てきてーーー

気がついたら、下っ端のジョルノの野郎と、知らねえ男二人の首が吹っ飛んでいた。
鏡の世界に置いてきた右腕と、グズグズに崩れるはずだった体は至って健康だ。
そういう意味ではラッキーかもしれねえが、その代わりが殺し合いだ。
運がいいんだか悪いんだかわかりゃしねえ。
人から恨まれる仕事をしちゃあいるが、それとは関係ない様に思える。
怨恨目的にしちゃあ人を集めすぎだ。
数にして100人以上。それだけの人間を逆恨みする奴なんざビビって冷蔵庫にでも隠れるのが関の山だ。

とすれば、あのカリメロ頭の言う通り、道楽という事になる。
俺の体を治したスタンド使い。拉致したスタンド使い。どうやらバックはかなり大きいみてーだな。
暗殺者の俺に殺し合いを強要するなんていい度胸だ。
御期待に添えられる様な仕事をしてやるぜ。ついでにテメーの命も頂いてやる。

取りあえずの行動として、持ち物の整理を始める。
デイパックの中に入っていた地図。
子供がおもちゃ箱とテレビの知識で作った様な滅茶苦茶な地形だった。
ローマにカイロ、東洋の町。不気味な事この上ない。
その地図によれば、俺の現在地はC-4の南って事になる。
川に潜れば、どこまでも流される。
出来れば世話になりたくねえ。

出てきたのは、食料とか時計とか、そんな物ばかり。
殺し合いだかキャンプだかわからなくなってくるな。
鉛筆は、使い様によっては凶器になり得る。
頼りない事この上ないが、俺のスタンド『マン・イン・ザ・ミラー』は力の弱いスタンドだ。無いよりマシだろう。
最後に残ったのは、折り畳まれた紙が2枚。
何かの隠し場所でもメモしてあるのか?どの道大した物は入ってなさそうだ。
大した期待もなく紙を開いたその瞬間。巨大な物量が降ってきた。

(これもスタンド能力か?いや、ここは喜ぶべきか)

眼前に、俺の全長を映せる程大きい鏡が広がっていた。
なんという幸運ッ!やはり運は俺に味方している様だ。
これで、俺の取るべき戦法は決まった。
鏡の世界に入り込み。『待ち』に徹する。
後は興味本位でバカが釣られるのを待てばいい。
それこそ、鏡を消し飛ばされない限り、俺は無敵だ。

歌でも歌いたくなる様なハイな気分を抑え、二枚目の紙を開ける。
そこには、冷たい水で濡れてる様な美しい刃物が落ちていた。
東洋の品か?工芸品の様に作り込まれたそれを、拾い上げた。その瞬間

「ヒィィィィィ 孤独だよーっ」

……刀が喋った
それ自体はスタンドで説明がつく。メローネの『ベイビィ・フェイス』みたいな、自立型スタンドだ。
それにしても喧しい。どうでもいい事に突っ込むギアッチョ並みじゃねーか?
取りあえず、地面に落としてみる。

声が聞こえなくなった。
せっかくの武装を放っておくのもアレなので、もう一度触る。


「うわあああああああああああああああああああ」

「うるせえ!次喚いたら叩き折るぞ!お前のスタンドについて全部教えろ!でなきゃやっぱり叩き折るッ!」

「うう………グスッ…うわあああああああああああああ」

止まらない。止められない。

「操ろうと思ってもなんか出来ねえしよ~ッ、なんでこんな目にあわなきゃならねんだよおおおおおお」

「うるせえって言ってんだよッ!川に沈めるぞ!」

「川は!川だけはやめてくれええええええええええええ」

「黙れえええええええええええええ」


どうして、こうなった。


◆◆◆



鏡の世界に入り、イライラと共に剣を叩き付ける事数十回。
泣き止んだこいつから、話を聞き出した。
名前は『アヌビス神』
本体は色々会ってこの場にはいない。
能力を纏めると

  • 刀身に触った相手を操る(何故かこの場ではできないみたいだが)
  • 物体をすり抜けて攻撃が出来る
  • 相手の攻撃を『覚えて』強化出来る

犬みたいな像で泣き喚く姿は、不気味としか言いようがない。
なんでも、敵スタンドに負けて川底に沈んで、ここに来たらしい。
面倒くせえが、強力なスタンドである。
鉛筆を武器にするよりは大分マシだ。
問題としては、刀と腹話術する必要がある事だが、鏡の世界ではあまり関係ないだろう。

「まあ、この『アヌビス神』がいるからには勝ったも同然だな!
何故なら絶……~~対に負けんからだあ!」

「一回負けてるじゃねえか。パワーの方はともかくとして、オツムの方はあんまりよくないみてーだな。操れなきゃただの犬か?え?」

「細かい事は気にするァァァァ!!俺に使われるだけありがたいと
うわやめて捨てないでごめんなさいいい!!!!

取りあえず、『マン・イン・ザ・ミラー』に持たせる事にする。
どの道声は聞こえてくるが、一応『当たり』に部類される物みてえだ。多少なりとも我慢はする。


意識を外の世界に傾けると、甲冑の擦れる音が聞こえる。
人だ。それも、随分と時代錯誤な格好をしていやがる。体もがっちりしている。
最も、どんな力を持っていようが、鏡の世界では無意味だがな。
鏡を見た時があいつの最後だ。

そして甲冑野郎が鏡を覗き込んだ。
うるさく吠える刀をスタンドに持たせ、俺の攻撃は始まる。
俺の近くにきたのが運のツキだ。早いとこかっ切ってやるぜ。

◆◆◆



ブラフォードが認識した次の瞬間には、既に世界は反転していた。
彼が手に携えた武器が無い事にも、その世界の異常にも素早く気づいたのも、鏡に引き込まれるという異常事態に狼狽える事が無かったからだ。歴戦の騎士は、冷静さを失わない。

気がつくと、胸に違和感を感じた。体から鉄が生まれた様な、そんな感触。
戦場で決して倒れる事のなかった彼の、屈辱的初体験。
胸から、剣が咲いていた。
背後を振り返る間もなく、ゆっくりと崩れ落ちて行く。


「あっけないと言えばあっけないが、当然か」

辻斬りというにも、あまりに味気ない一瞬。
素早く刀を引き抜く。
騎士の死体は微動だにしない。

外の世界の荷物を回収しに行こうと思ったイルーゾォは、刀が震えている事に気づく
アヌビス神は、犬の顔に冷や汗を浮かべて喋りだした

「刺した感覚がなかった!死体を刺している様なそんな感触ッ!この腐った臭い、まさか……まさか!」

アヌビス神の狼狽えように、イルーゾォの顔も青ざめる。
彼はアヌビス神の言葉を反芻する。死体。腐った臭い。
思い浮かぶのは、ゲームや映画にしかいない筈の架空の存在。
いる訳ないのだ。いてはならないのだ。
振り返ろうとするも、不吉な予感が耳に囁く。
振り返ったなら、よくない事が起きる。
恐れず、振り返る。

胸に穴が開いた死体が、ゆっくりと起き上がる。
フィルムの逆回しを思い起こさせるそれは、まさにホラー映画で。
立ち上がった『騎士』の拳が飛んでくる。
咄嗟にアヌビス神を持ったスタンドの右腕が防御も図ったが、なす術無く


「うおあああああああああーーッ!!」


反応の遅れたアヌビス神と共に、右肩の根元から吹っ飛ばれた。




「なんて事しやがるんだあああああああああああ」

鏡の男が、吠える。
苦痛に腕を抑える事も適わない。抑えるべき腕はもう無いのだから。
どこかのドラマの脱獄する囚人の様に吹き飛んだ右腕とアヌビス神を抱え、距離を取る為に走る。目の前の『化け物』から逃れる為の、必死の行動。

騎士、或いは化け物は、その様を滑稽そうに見つめる。
力を振り絞らなくても、結果は変わらなかったのだ。
腕無しの状態でも脅威の精神力を発揮したイルーゾォは、己の半身に命令する。

「『マン・イン・ザ・ミラー!』あの化け物が外に出る事を許可しろォォォーーッ!」

死にもの狂いの中で思いついたそれは、まさに起死回生の策。

「だが首から上は許可しないいいいいいいいいいいいいい」


いつの間にかブラフォードに投げつけられた鏡の破片。そこに縋り付いた彼の半身は、仕事を忠実に実行していた。
黒光りする首輪から上。まさに生首が、乱雑に地面に転がった。


◆◆◆


「俺の右腕の償いはッ!おまえのクソみたいな死で払ってもらうぜッ!」

踏む、蹴る、飛ばす。

目の前の男から、屈辱的な仕打ちを受ける。
その顔は、俺たち屍生人に勝るとも劣らない。
そんな醜悪な顔を携えながらも、殺す算段はしっかり立てている様だ。

「そこでゴミみたいにころがってろッ!サッカーボールにしてやるぜッ!」

言葉の意味はよくわからないが、生首の俺をボールに見立てようとしているらしい。




生首





その言葉に、何かが揺さぶられる。頭の中の何かが。
生前の記憶が蘇ってくる。それも末期の、最悪の記憶。



「ほーれ!あそこにゴミみたいにころがっとる奴!あれが彼女さ!」



横たえる彼女の首。その肌は生気がなくて、白くて、まるで----------




「 う お お お お お お お お お お お  」




----------今の俺の様だった----------


「エリザベスウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」


てめえらクズは皆殺しにしてやる!!

貴様如き血袋!首だけで十分だ!

伸びろ、伸び続けろ!全て喰い尽くすまで!

◆◆◆



「なっ!?」

イルーゾォは、今起こった状況を理解出来なかった。
生首から髪の毛が伸び、足に絡み、体に絡む。
その全てが肉に食い込まんとしていた。

食い込んでいった部位から、生気が失せて行く。
血が、吸われていたのだ。

(首だけなら殺せると思っていたッ!何も出来ないだろうと油断した…… このままでは、全身があの髪の毛に覆われてしまうッ!)


血が吸われ、全身の力が抜けていく。思考が保てない。
残った左腕、最後の希望。一振りの刀が吠えた。

「任せておけッ!ウシャシャシャーーッ!!!


 妖刀乱舞とでも言おうか、アヌビス神は絡み付いた髪の毛を寸断していく、
妖刀は、数秒にも満たない時間で全てを切り落とした。

明らかにイルーゾォ本人の腕ではない刀の切れ味。
強い怒りが身を焦がしがらも、怨念の化身はアヌビス神を凝視した

「成る程、あの刀が自体が一つの意思を持つ妖刀と言う訳か」

首だけの騎士は一瞬静かになる。その胸中に飛来した物は怒り。

「その様な物で俺を倒そうなどと、愚弄するにも程があるぞッ!そのおかしな人形といい、貴様自分の力で戦おという気はないのかッ!」

不意打ちの時から燻っていたその怒りは最高潮に達していた。
瞬間。首から下に感覚が戻る。
反転した世界も、全て元に戻った。

全身の血を吸われたイルーゾォが、精神の疲弊と伴ってスタンドを維持出来なくなったのだ。

(このままだと殺される……何もできないままに終わる!落ち着け、何か方法を……)

手足が冷える。思考が鈍る。血が、血が足りない。
その時思いつく。最後の、文字通り決死の策

(場所は目の前ッ!あの場所に……行きさえすれば………)

精一杯の抵抗。鏡を割って投げつける。
恥もへったくれもないその攻撃は、ブラフォードの足を一瞬止める事に成功する。
鏡の男は、大きな水しぶきをあげて川に飛び込んだ 。

◆◆◆



「なにやってたんだイルーゾォ!水の中じゃ俺を振る事ができねーだろうがッ!
それに川はやめろって言っただろッ!錆びちまうよォ~ッ!」

知るか馬鹿、刀が2~3分で錆びてたまるかと、アヌビス神の意見を完全に無視する。
俺が取った最後の手段、それは川に入る事だった。
何の映画かは忘れちまったし、自信も無いが、ゾンビは川を渡れねえってのがあった筈だ。
あの化け物と映画が合致するかもわからないが、他に手はなかった。真っ向からやっても勝ち目はない。鏡の世界に引きこもる事もできなくなった。
イチかバチかの賭けだったが、どうやら成功らしい。
野郎は追ってこねえ。

それにしても、畜生!せっかく右腕が戻ったと思ったらまたサヨナラする羽目になっちまった!
命があるだけ儲けもんだが、切断面が痛むぜ……

「イルーゾォ!」

だから気づかなかった。完全に逃げ切れたと思っていた。
油断をしていた。

「イルーゾォ!」

あの時、化け物に攻撃をしていなければ。
今更そう思っても、何もかもが遅い。

「イルーゾォーーーッ!!後ろだァァァァァァ!!!」

振り返ると、奴がいた。
『鏡の世界』に持ち込む事を許可しなかったハンマーを握りしめて。
なにか、なにか方法は----------


「URYAAAAAAAAHHHHHHHHH―――!」

水面でアヌビス神をまともに振るう事は出来なかった。
化け物の怪力は、水中の重力をもろともしなかった。

最後に感じたのは、かぼちゃが割れる様な頭蓋の感覚。
最後に見たのは、化け物の恐ろしい形相。

それを最後に、俺の意識は途切れた。

◆◆◆



「MUOHHHHHHHHHHHHHHHH―――――!!!!!!」

頭がぱっくり割られた死体を睨みつけ、黒騎士は吠えた。
どんなに狂っていても彼の中の騎士道精神は、イルーゾォの様な者が生業とする『暗殺』を決して認めない。土台、相容れぬ存在だったのだろう。

イルーゾォは、屍生人は川を渡れないという仮定の元からこの策に打って出た。
しかし、それこそが大きな間違い。
そもそも、屍生人は川を渡る事が出来る。
ましてやブラフォードは三十キロの甲冑を身につけたまま五キロの湖を泳ぎきった男。
彼にとって水中は苦手どころか、ホームグラウンドも同然だったのである。
そして、成す術も無く殺された。

誤解のない様に言っておくが、イルーゾォは決して馬鹿だった訳ではない。
彼のスタンドは鏡という媒体さえ見つければ、それこそ無敵なのだ。
最も、相手が人間だったらの話だ。
無敵と言った彼のスタンドにも弱点は存在する、それは人間並みの力しかない事。
スタンド使いならまだしも、体一つで超人的パワーを誇る屍生人には無力なのだ。
殺す為には必ず首を取らなければならない。屍生人の弱点は頭部と日光しか存在しない
だが、その頭部だけでも、人間以上のパワーを持っているとしたら、彼に勝ち目はない。
詰まる所、体のどの部位を鏡の世界に持ちこんで行動不能にしようが、動かずとも攻撃手段のある屍生人には勝ち目はないのだ。
加えて、ブラフォードは毛髪を伸縮させ展開出来るという、屍生人の中でも特異な能力を持っていた。
月並みの表現だが、相手が悪かった。例えるならイルーゾォはジャンケンのグー。ブラフォードはパー。

グーは、パーに勝てない。
武装としては頼りになるアヌビス神も、不死の者に対する経験は皆無。
可能性はあったかもしれないが、波紋や紫外線の様な明確なチョキにはなれなかった。
もう一度言おう、相手が悪かったのだ。

頭がぱっくり割れた死体から、一振りの刀が離れて行く。
ジャンケンのグーであり、チョキになれなかった男。アヌビス神だ。
刀のスタンドは、とにかく焦っていた。持ち主が死んだ事に対してではない。そんなの日常茶飯事だからだ。
問題は、自分の数秒後の未来、このままではまた、川に沈んでしまうという恐怖……というよりは現在進行形絶賛沈没中なのだが。


(また沈んじまう!こんなどこかもわからない様な所でッ!)

目の前には、イルーゾォの死体。その下手人の不死の怪物。
漆黒の瞳が、こちらを見つめた気がする。哀れな妖刀は、最後のチャンスに輝きを放つ。
(あんたは見た所剣の達人だ!誰よりも強い!そんなあんたがこの俺と組めばまさに無敵!倍率ドン!熟練剣士と妖刀の二刀流!お互い化け物同士でお似合いだろなあ頼む頼むから俺を使ってくれ~ッ!)

勿論、声は聞こえない。たまたまブラフォードの視界にアヌビス神がいただけだ。
ブラフォードは剣の前まで泳ぎ、剣を見つめる 。

(いいぞ~~ッ!もう少しだッ!さあ握れ!握ってしまえ~~ッ!)

しかし、騎士は妖刀をよしとしない。こんな物の力は頼らない。己の力のみで戦う。
結局、アヌビス神を放って、地上へと戻っていった。
その場にいるのは、一緒に沈んで行く死体と、魚達のみ。
餌になりそうな死体だって、もっと細切れにしなければ食指も動かないだろう。


(見捨てないでーッ ヒイイイイイ また孤独だよーっ)

妖刀の沈没物語は、第2章に突入した。

◆◆◆



地上に戻ったブラフォードは、腹の傷跡を気にかける事も無く。呆然と立ち尽くす。

「我が女王よ……もう暫く待たせる事になるが、必ず―――」

その顔は、どこまでも暗い。
生きる事を、考える事を放棄した屍生人は、かつての理想郷を取り戻すため、呪われた戦いに身を投じる。死体すら朽ち果てるその前に。
その先に、何が待ち受けているのだろうか。どんな未来が用意されているのだろうか。
己が望みを果たすまで、彼は止まらない。

【イルーゾォ 死亡】
【アヌビス神 沈没】

【残り 121人】



【C-4 ティベレ川付近 / 1日目・深夜】

【ブラフォード】
[種族]:屍生人(ゾンビ)
[時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
[状態]:腹部に貫通痕(戦闘には支障なし)
[装備]:大型スレッジ・ハンマー
[道具]:地図(基本支給品にあった物)
[思考・状況]:
基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
1.強者との戦いを楽しむ
2.ジョナサン・ジョースターと決着を着ける。
3.女子供といえど願いの為には殺す
4.もしタルカスもいるとすれば……助力を得られるか?

※見せしめで死んだのはジョナサンでは無いという事に気づきました。

[参考]

どこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします。

C―4のどこかに、ブラフォードの荷物が散乱しています。基本支給品のみなので、あまり意味はありません。

イルーゾォの支給品は、【アヌビス神@三部】【大女ローパーの鏡@ゴージャス☆アイリン】でした。


C-4のティベレ近辺に、イルーゾォの右腕、基本支給品、鏡の破片が散らばっています。

頭部を粉砕されたイルーゾォの死体が、ティベレ川に沈んでいます。
アヌビス神がティベレ川に沈みました。回収出来るかはどうかはわかりません。

【支給品紹介】

【大型スレッジ・ハンマー@二部】
ブラフォードに支給
ジョセフVSワムウの戦車戦で使用された。
ブラフォードはジョジョロワ1stで因縁あり


【アヌビス神@三部】
イルーゾォに支給
今回設けられた制限は2ndと同じ物です。

【大女ローパーの鏡@ゴージャス☆アイリン】
同じくイルーゾォに支給
ローパーの館にあった大きな鏡。
真ん中に口紅で線が引かれている。








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GAME START ブラフォード 061:アルトリアに花束を
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最終更新:2012年12月09日 02:13