例えば――『地球を破壊する可能性がある怪物』がいたとして。
ある人はそれを『悪魔』だの『死神』だのと呼ぶが、
別の人たちは『エロいタコ』とか『先生』とか呼ぶ。
どちらも正しく、どちらも違う。
要するに――見る側の立場の違いなんだろうけども。
今回の話もそういうところがあるかもしれない。
そうじゃないかも知れない――これも価値観の違いだが、言い続けてもキリがないか、早速始めるとしよう。
●●●
「おい」
ぶっきらぼうな声がした方に顔を向けた僕を待っていたのは、呆れたような表情だった。
「行くぞ、今からじゃあ遅いくらいだ。サッサとしろ」
愚痴をこぼす時間も惜しいと言わんばかりに立ち上がりながら荷物をまとめる
プロシュートさんに思わず問いかける。
「プロシュートさんは……今の放送を聞いて何も感じないんですか」
「ああ」
一瞬とも言えないほどの即答ぶりに僕の不安や焦りと、ほんの少しの怒りが溢れてきた。
「なんでッ……双葉さんが無事だったことも!
主催者同士でなにかトラブルがあったことも!
そのせいで禁止エリアがわからないことも!
――プロシュートさんには関係ないって言うんですかッ!?」
一息でまくし立てた僕のもとにズカズカと歩み寄ってきたプロシュートさんが思い切り襟首を掴んできた。グイと顔が近づく。
少しだけ細められた目には色々な感情が渦巻いているようで、でも何も感情なんか無いようで、吸い込まれそうな眼差しだった。
小さくため息をついたプロシュートさんが僕の質問に質問で返してくる。
「おい。お前がやらなきゃあならねー事は一体何だ?」
「え?」
「言ってみろ」
反論を挟ませない勢いに気圧される――ことさえも許されない。掴んでいる手は緩むどころか力を増した感じがした。
「それは……このゲームを破壊して」
パァンッ!
乾いた音が僕の頬から響いた。きっと彼は全力で僕の頬をひっぱたいたのだろう。
じんじんと痛む頬をさすることも出来ず、今のでバオーに変身しなかったことに疑問を持つ間も与えず。
プロシュートさんはこう言った。
「テメェが今一番にやらなきゃあいけないのは『
ワムウと決着つけること』それだけだ。
ハッキリ言えば、主催者がどうのだの、ゲームをひっくり返すだの、ンな事ぁテメェがやらなくても構わねえんだ。
どうせどっかの正義感に溢れるバカ共が勝手にやってくれらあ」
「そんな」
パァンッ!
二度も叩かれた――父親にだって叩かれた事なんてなかったのに。
先とは逆の頬からじわじわと痛みが広がる。きっと鏡を見たら僕の顔はひどいものなんだろう。
そんな僕の顔をまっすぐ見つめるプロシュートさんの表情はなんと表現すればいいのかわからない。
でも僕のことを真剣に考えてくれる眼差しだった。
「いいか――だがいいかッ!『これ』は“おめーじゃなきゃあ出来ねーこと”なんだよ!
橋沢育朗ッ!
俺がいるからとか、千帆がいるからとかも関係ねェ!
自分で決めたんだろ!そう俺に言ったよな!クソッタレが!フラフラしてんじゃあねーッ!」
ドスのきいた声が、それこそドス(短刀)のように僕の胸に突き刺さる。
言い切ったプロシュートさんは、自分のガラじゃないことを言いすぎたと思ったのだろうか、舌打ちをしながら僕を突き飛ばしてバイクに跨る。
「……すみませんでした。僕が間違っていました。
そうです、僕はもう迷いたくありません。
ワムウと決着をつけて――僕の成長を、強さを証明してみせます。
そして、その『僕』がこのバトル・ロワイヤルを破壊してみせます」
「……行くぞ」
「はいッ」
●●●
「――行くぞ」
「はい」
即答した私の方をワムウさんは少し怪訝そうに振り返った。
「ホウ……人間の女子供のこと、戦いに行くなだの、殺しはするなだのと喚き散らすものと思ったが?」
あっ、そういう事だったのか――そうだよね、普通の女の子はそういう事言ったりするかも。
でも。
少し息を吐いて、ゆっくりと私は思いを伝える。
「そんなこと言っても聞いてもらえるとは思えませんし、かと言って私には力ずくでワムウさんを止められる事は出来ません。
それに、誰にだって『ここだけは譲れないところ』ってあると思うんです。
私にとっては“小説”だし、ワムウさんにとっては……きっと“戦うこと”でしょうから」
「……続けろ」
「えっ、あっ、はいっ。
えと――だから、確かに目の前で人がケンカ……戦ったりしてるの見るのは嫌です。
その結果で……その、死んじゃったりとか殺しちゃったりとか、そういうのも、本音では見たくもありません。止められるものなら止めたいですよ。
だけど、その人にとっては『それ』が何よりも重要なことで、それを奪ってしまったらその人がその人でなくなってしまうような、そういうことはもっと嫌なんです。
多分私だって、小説を失ってしまったら自分が何者でもなくなってしまうような錯覚、してしまうでしょうし」
……言っていてなんだか支離滅裂になってきたかも。
それでもワムウさんは静かに私の意見を聞いてくれてる。それが妙に安心する。
ちょっとだけ間を空けて、私は最後の言葉を吐ききった。
「ワムウさんにも、きっとそういうところ、あると思うんです。
だから、私がついていくことも、否定しなかったんでしょう?」
そう問いかけたところで私の話が終わったと認識したワムウさんは、フンと鼻を鳴らして前を向き直してしまった。
答えは聞けなさそうだな……照れてるのかな――そんな訳、ないか。
「俺は戦う事しか知らんし、それ以外の事は出来ん。
だが……戦っているのは俺だけではない。
俺も、あの育朗とやらも、プロシュートとやらも――俺の価値観で言えば、先の放送で死んだスティーブン・スティールという男もそうだ。
そして、勝者であろうが敗者であろうが、戦うものに、戦ったものには敬意を示す。
――お前とて例外ではない」
言い終わると同時に大股で歩き始めてしまうワムウさん。
慌ててカバンを担ぎ上げる。
さっきまで腰掛けていた石をちょっとだけ振り返り、小走りでついていく。
そうだ。私は、私達は。
これから戦いに行くんだ。
●●●
「来たか」
ワムウと千帆をきっかり自分の30メートル手前で静止させ、プロシュートが口を開く。
そして、そのプロシュートを挟むようにして、こちらもきっちり30メートル先に、橋沢育郎が立っていた。
「さて――千帆はまだそこにいろ」
「……はい」
二人の短いやりとりの間、対峙する二人の男は相手の顔から視線を逸らそうとはしない。
その様子を確認したプロシュートが再び言葉を紡ぐ。
「ハッキリ言っちまえば……この瞬間に俺らがこの場にいる理由はなくなった訳だが。
そんで怪物2匹をほっぽり出して、いずれその決着を他人あるいは本人から聞いたとして。
――そんなもん、俺には納得出来ねえ」
静かな夜の路上に、ゴクリと唾を飲み込む音がひとつ。
それが誰のものかはわからない。
「さっきの戦いは、アイツが勝ちました、こうこう、こーやって、ソイツを殺しました。
ハイそーですか……だと?フザケるんじゃあねー」
誰も口を挟まない。次の言葉を待つように。期待しているかのように。
「まったく、自分でも何言ってるかわかりゃあしねぇが――
要するに、お前らのアホくせぇ戦士としての誇りだ何だに……感化されちまったみてーだ。
だから『お前ら二人の戦い、このプロシュートが預かった』
この“決闘”が人殺しや卑怯者の行為ではなく、
――って、こんなクソッタレ殺し合いゲームの中で言うようなこっちゃあねーが――
正当なものである事を証明する。
もし乱入者だの横槍だのが入った場合、俺が責任もってそいつを叩き潰す。
(本当なら『叩き潰した』って言いたいところだぜ……ここもコイツらの影響ってか、クソッタレ)
お前らはただ全力でお互いを殺しにかかれ。
――いいな、千帆」
ワムウと育朗には問うまでもない。そして。
「はい……なんとなく、プロシュートさんならそう言うと思っていました。
だから、私も二人の戦いをしっかり、最後まで見ていたい、と、思います。
プロシュートさんが『立会人』なら、私は『見届け人』になります。
絶対に目は逸らしません。それが――私の戦いです」
そう言いながらプロシュートの隣に歩み寄ってきた千帆にもまた、問う必要はなかったようである。
ふ、と息を漏らしプロシュートはほんの少し表情を緩め、そしてまた引き締める。
「……そういう訳だ。
それじゃあ始めるか――せっかくの決闘だ、改めて名乗りでもしな。ホレ育朗」
つい、と顎で促された育朗は、少しだけ考えこみ、そして大きく一歩、前に出る。
「『バオー・橋沢育朗』です。
……“ある種の事がらは死ぬことより恐ろしい”と思います。
このゲームで多くのものを失ったこと、そして僕自身の肉体がそれです……
ですが、僕は誓います――自分に誓います。
望みは捨てません!僕は誰にも負けない生命力を持った生物なんです!
だから……見ていてください!僕の、成長を!」
言い切ると同時に額がバックリと裂ける。
変身の兆候だ――そして、恐竜の影響もプロシュートの目には確認できない。
そう、育朗は乗り超えたッ!この決闘ただの一度きりかも知れないが!それでもッ!
恐竜化する可能性とその恐怖を!そして何より脳に宿る寄生虫・バオーをッ!!
そして、空気が振動するような感覚に真っ向からぶつかるのは、膨れ上がる闘気。
「決闘の前にゴチャゴチャとものを言う趣味はない……俺とお前は、戦うことでしか解り合えない。
しかし、貴様がそこまで言うのなら、見せてもらおうではないか。全身全霊を持って貴様と戦うと約束しよう。
『風のワムウ』――いざ」
静かに、それでいて力強い口上とともに一歩踏み出すワムウ。
担いでいた荷物を放り、構えを取る。今の彼はこの戦いを甘く見ていたり、楽しんだりはしていない。
ひゅう、と二人の間を駆け抜けた小さな風はワムウの能力故か否か。それは誰にもわからなかった。
●●●
……さて。この戦いを君たちはどう見るかな。
プロシュートが言ったように『誇り高い戦士たちの決闘』なのか。
それとも。きっと
カーズあたりなら『下らぬ遊戯』とか言いそうだが――そうなのか。
あるいはどちらでもない答えを聞かせてくれるのか。
その答えはいずれ聞かせてもらうとしよう。
ノンビリと問答をしているほど、状況は待っていてはくれない。
さあ――始まるぞ。
【B-4 古代環状列石 /1日目 夜】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(13/15、予備弾薬 30/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:
基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.ワムウと育朗の戦いに立ち会い、それを見届ける
2.千帆と合流後、闘いに巻き込まれないよう離脱する……と思っていたが、このザマだ。我ながらおかしいぜ
3.自分に寄生しているこいつは何なんだ?
4.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:健康、恐竜化の兆候、覚悟完了
[装備]:ワルサーP99(04/20)
[道具]:基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
予備弾薬40発、
ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
1:ワムウと決着を付ける
2:第四放送時にカーズが待っている…本当だろうか
[備考]
- 育朗のバイクはC-3の川沿いに放置されています。古代環状列石にはプロシュートのバイクに二人乗りでやってきたようです。
- ブラフォードに接触したため恐竜化に感染しました。ただし不完全な形です。
※プロシュートによる仮説
恐竜化した身体をバオーが細胞レベルで上書きする事により完全な発症を抑えているのではないか?
- さらにバオーの力を引き出せるようになりました:自分の意志での変身ができるようになりました。
【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:身体あちこちに波紋の傷(ほぼ回復)、高揚
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺した真の主催者を殺す
0.コイツ(育朗)の成長を見せてもらおう
1.JOJOとの再戦を果たす
2.カーズ様には会いたくない。 会ってしまったら……しかしカーズ様に仇なす相手には容赦しない
[備考]
※
J・ガイルの名前以外、第2回の放送を殆ど聞いていませんでしたが、千帆と情報交換した可能性があります。
【
双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:左手指に軽傷(処置済)、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用)
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.ワムウと育郎の戦いを最後まで見届ける
2.主催者の目的・動機を考察する
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
4.
川尻しのぶに早人の最後を伝えられなかった事への後悔(少)
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作~176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話
新・戦闘潮流 までの経緯
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の倒壊に伴いD-4東部の地下道が崩落しました。他にも崩落している箇所があるかもしれません
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2016年02月18日 00:45